知識・Tips 2025年03月28日

安藤さんと趣味~プラモデルとDJにあこがれています~

 安藤です。デイリーポータルZやセメダインスタイルをはじめ、いろいろなサイトで記事を書く仕事をしています。
この記事を書いている安藤です。
今の仕事の前には研究職やお店の経営、カメラマンやダンサーなど、いろいろな職や趣味を、興味にまかせて転々としてきました。
 
この流浪の人生についていまさら反省しているわけでもないのですが、逆に一つのことを長く続けてその道を極めている人には、やはり憧れというか畏敬の念を抱いてしまうんですよね。

趣味の先輩に聞きました

今回は、僕が何度かトライしては挫折してきた「プラモデル」と「DJ」という二つの趣味について、どちらも長年打ちこんで自分のものにしてきた「かーやん」こと川添智宏さんに話を聞きました。
 
趣味を長く続けていくためには、なにかコツみたいなものってあるんでしょうか。

プラモデルとDJを趣味として極めている先輩の「かーやん」に聞きました。
ーーかーやん、今回はよろしくお願いします。本来なら川添さんと呼ぶべきところなのかもしれないけれど、ぼくを含めて周りのみんなが使っている愛称「かーやん」で今日は統一させてください。
 
かーやん「もちろん!こちらこそよろしくお願いします!安藤くんとはあれだね、お互いの写真展に顔出したりイベントで会ったり、なんやかんやでちょくちょく関わってるよね。」
僕の写真展に来てくれたかーやん。
ーーそうなんですよね。そんなに頻繁に会ってるわけではないのに、ぼくとしては一方的に、かーやんがDJとして配信してる音源を聴いたり、完成したプラモデルの写真をSNSでシェアしてるのを見たりとかしてるからか、勝手に身近に感じてます。
かーやんが作った作品。
すごい細かいところまで作りこまれています。
かーやん「SNS時代のおもしろさだよね。でも今日はリアルで会えてうれしいですよ。我が家まで来てくれてありがとう。」
 
ーー急におじゃましちゃってすみません。今日はですね、かーやんにプラモデルとかDJとか、僕には続けられなかった趣味を極めている先輩として、ご意見を伺いたくてやってきたわけなんです。
 
かーやん「そんなことないでしょう。安藤くんの方こそいろいろやってるから、逆に聞きたいくらいですよ。」
 
ーーぼくは本当にいろんなことが長続きしないんですよ。子どもの頃に作ってたプラモデルも、途中で放り投げちゃうくらい集中力がなくて。DJもいちおう機材を買ってみたんだけど、今ではCDプレイヤーとしてしか使ってないんです。飽きっぽいというか、上手くなるまでがまんできないというか、そもそも器用じゃないのかも。

プラモデルに器用さは必要ない?

かーやん「いろんなことに興味があるのはいいことですよ。でも、それで言うとプラモデルって別に器用さは必要ないと思うよ。あれはもう説明書通りに進めて行けば誰でもパッケージと同じものができるようになってるんだから。」

かーやんが作ったという戦車の数々を愛でながら。
そう言われればそうかもしれないのだけれど、僕が子どもの頃に作っていたプラモデルと、かーやんの作った戦車たちとではレベルがだいぶ違うと思うのだ。そして僕はかーやんみたいなプラモデル作りがしたかった。
 
ーー改めてものすごい精密だし完成度高いですね。そして持ってみると思いのほかずっしりしている。これはいいものだなー。
1/35スケールのモデルと1/48スケールのモデル。
かーやん「そうなの。この1/48のスケールのモデルは中に重りが入ってるんだよね。やっぱり完成したときにずっしりくる方がうれしいじゃない。昔は下部だけダイキャストでできてたりもしたんだよ。」
 
ーー作って遊ぶというより飾って楽しむ、ということなんですかね。
 
かーやん「昔はプラモデルっていったらもっと子ども向けだったんだと思うんだ。この1/35っていう大き目のモデルはタミヤが最初に作ったんだけど、電池とモーターが入れられて、作った後に走らせて遊べるようにできてたの。それがすごく完成度が高かったから、今では1/35スケールが戦車のプラモデルの標準スケールになってるんだけどね。」
 
子ども向けだったプラモデルが大型化したことで完成度が高くなっていき、やがて大人の趣味として精巧に作られるようになっていったのだ。
 
かーやん「タミヤのモデルはプラモデル好きの間でよく言われる『バチピタ』なんですよ。つまりバッチリピッタリ組み上がる、金型の精度がいいんだよね。」
 
プラモデルについて語るかーやんの楽しそうな様子を見ると自分でも作りたくなってくるのだけれど、完成した戦車を見ると、とうてい自分はここまでの技術も根気も持ち合わせていないなと思わされる。
 
僕とかーやんとの差はどこにあるのか、さらに話を聞いた。
とうてい真似のできないレベルなんです。
コーラの箱など、同梱のパーツではないのだけれど、同じスケールのものであれば自由に組み合わせられるのだとか。
ーーかーやんはずっとプラモデルは戦車が専門なんですか。
 
かーやん「ぼくらの世代は子どもの頃にガンプラのブームがあったから、当時は当たり前のようにハマってガンプラを作ってたよ。でもそのあとは実はプラモデルからは長い間離れてたの。再開したのが5年くらい前。コロナでDJイベントができなくなって、部屋の中でできる趣味がなにかないかって探してた時に(そういえば!)ってプラモデルを思い出したんだよね」
 
ーーそれから5年でここまで作ったんだ!
かーやんは、一台仕上げるのに二週間ほどかけているのだという。それでも凝っていた時期には月に三台ほど作っていたのだとか。
かーやん「そうだね、ずいぶん作ったよね。でも最初から戦車を作ろうとしたわけじゃなくて、再開して最初に作ったのはこのワーゲンかな。これは子どもの頃にも作ったことがあって、当時はもちろん技術もお金もないから超てきとうだったわけ。それを今の、大人の技術と経験と、財力とをつぎ込んだらどこまで作れるかなって思って、作ったのがきっかけになったね。」
かーやんにプラモデル熱を再燃させたというワーゲン。
ーーそれから徐々に難しい戦車へとのめり込んでいったわけですね。塗装とかの技術はどこで学んだの?
 
かーやん「技術はほとんど独学ですよ。youtubeでプラモデルのチャンネルを見たりして。プラモデルは作れば作るほど上手くなるからさ、あとはもう場数だね。」
 
僕が子どもの頃はyoutubeなんてなかったので、本屋さんでプラモデルの雑誌なんかを立ち読みして作り方を真似ていたのを思い出す。それでもまったく上手くできなかったのだけれど。
公道で走るためにと、キットにはなかったウインカーを自作したという。こういうこだわりがリアリティにつながるのだ。
ーーなるほど。かーやんに言われると一瞬(できるかも)って思っちゃうんだけど、いま説明書を見たら、やっぱりこれは上級者向けですよ。
説明書がものすごく細かい。これは上級者向けでしょう!
細かい部分に「穴を開けます」なんてさらっと指示がされていても、僕には無理です。
かーやん「確かに、効率よく作るにはある程度の慣れというか読み解く力も必要かもしれないね。読み解く力でいうと、タミヤのプラモデルにはだいたい組み立て説明書の他にモデルになった戦車の説明書が入っていて、これはタミヤが独自に調査してまとめられているんだけど、こういうのを読むと作る時のモチベーションが上がるし、そう考えるとやっぱりある程度大人の趣味なのかもしれないな。」
それぞれの戦車について、かなり詳しく調べられた資料がついてくるのだとか。学ぶ楽しさに気づくのって、わりと大人になってからですよね。
ーーかーやんはきっちり塗装して仕上げてるから、プラモデルなんだけど本物の戦車を見てるみたいな錯覚を起こすんですよね。こういうのってエアブラシを使ったりとか、設備が必要なんじゃないの?かーやんはどこで作ってるんですか?
ひとつひとつに個性があって、細部まで本当によくできているんです。
かーやん「ベッドの上で寝転がりながら作ってるよ!うちにはエアブラシの設備がないから、スプレーで塗ってからトップコートを吹いて、最後にウェザリング(汚し加工)で仕上げてる。スプレーも場所がないから玄関でやってるよ。ないものを工夫でなんとかするのが好きなのかもしれないね。」
完成したら塗料とトップコートを玄関の外で吹いてから(スプレー類は玄関横に常備されていました)
ウェザリング(汚し)加工で仕上げているのだとか。
ーートップコートというのは仕上げに吹き付ける艶出しみたいなもの?
 
かーやん「艶出しのトップコートもあるけど、戦車の場合はむしろ艶消しを吹くことの方が多いかな。ただ組んだだけのプラモデルでも、このトップコートを吹いてあげるだけで見違えるから、おすすめですよ。」
 
ーーそういう話を聞きたかったんですよ!技術のない僕らにとっては、トップコート吹いただけで見違えるぞ、となればやってみたくなりますから。
そこから先のこだわりが果てしなさそうなんですけどね。

接着剤のはなし

かーやん「せっかくセメダインスタイルの取材なんだから接着剤の話もしようか。基本的にプラモデル用の接着剤って昔から変わらずこういうやつだよね。」

蓋にハケがついてるやつですね。
かーやん「こういうプラモデル用の接着剤っていうのは溶剤が入ってるから、プラスチック同士を溶かして貼りつけてるわけ。瞬間接着剤だと接着成分だけで貼ってるから、すぐに着くけど力を加えると取れちゃうってのはそういう違いなの。」
 
最近のプラモデルは接着剤を使わないタイプのものも増えているというが、やはりかーやんくらいの完成度まで作り込むには接着剤は不可欠なのだろう(セメダインにも赤い蓋の三角瓶のプラモデル用接着剤がありますよね)。
 
かーやん「そんな中、このセメダインBBXってやつは超便利。これはプラモデル専用ではないんだけど、付箋みたいに貼って剥がせるタイプの接着剤なの。これをたとえばプラモデルの足の底にちょっと塗って乾かすでしょ、そうすると土台の上に自由に立たせることができるんだ。」
 
セメダインBBXはプラモデル専用ではないんだけど、かなり便利なのだとか。
 かーやん「こういう接着剤はこれまでなかったよね。これがあるとさ、たとえば飛行機のキャノピー(操縦席を覆うガラス)をこのBBXで止めておけば、開けたい時に開けて中を見ることができるでしょう。戦車でもロボットでも、せっかく中まで精巧に仕上げても接着しちゃうと見えないから残念だったんだよね。」
足の先にほんの少し塗って
自由に土台に立たせることができます。
キャノピーを開けたり閉めたりすることも可能に。
確かに、組んでしまうと隠れてしまうけど、見えないところまでちゃんと仕上げられています。

趣味に大切なのはバランス

ーーかーやんのもう一つの趣味、DJについても聞かせてください。プラモデルとどこかで通じてる点とかってあるんですか?
 
かーやん「プラモデルは完全に自己満足の世界なんだよね。今はSNSなんかで作品を見せ合ったりもするけど、基本的にどこで完成とするかは自分の判断だし、自分の好きなように作ったらいいと思ってる。DJは逆で、自己満足だけではいけないと思うの。聞かせるお客さんの反応をみて、満足して、喜んで帰ってもらいたいし、それがモチベーションになってるんだと思う。つまりプラモデルとDJは正反対の趣味だと思うんだよね。」

かーやん「考えてみたらプラモデルとDJとは真逆なんだよね」
方向性として真逆の趣味を二つ掛け持ちすることで、かーやんは自分の中でバランスをとっていたのだ。
 
言われてみれば僕の趣味で長続きしているものはマラソンと写真なのだけれど、マラソンは自分と向き合う内向きの趣味で、写真は人に見せて喜んでもらう外向きの趣味といえる。ここに一つのバランスが成り立っているのかもしれない。
 
ーーかーやんがDJをはじめたきっかけはなんだったんですか?
 
かーやん「DJはもう形からですね。ピチカートファイブの小西康陽さんに憧れて、自分もああいうDJになりたいと思って始めたんです。だからそれまでは音楽の知識もレコードの数も、ほとんど初心者と変わらなかったよ。そこからやればやるほど面白くなっていって、気が付いたら続いちゃってる感じかな。」
レコードは80年代、90年代等、ジャンルに分けられているので、箱ごと持って行けばそのままDJプレイをすることができるのだとか。
かけたいレコードを瞬時に探し出す技術もDJならでは。そういう意味では整理整頓力もDJのスキルの一つなのかも。
ーーDJの技術というか、音楽のセンスみたいなものはどうやって磨いてきたんですか?
 
かーやん「たとえばさ、「みずいろの雨」って曲があるじゃない。これにうまくつなげられる曲がないかなってずっと探してたの。たまたま街で聞いたユーミンがハマりそうだなって気が付いて、実際家に帰ってつないでみたらばっちりハマったんだよね。そうなると面白いよね。これを誰かに聞いてもらいたいってなる。これの繰り返しかな。」
まさかこの二曲がDJプレイでつながるとは思わないだろう。
かーやん「あとは曲の構成とかを知っておかないとうまくつなげなかったりするから、そういう聴き方は常にしてるかな。それからアーティストのバックグラウンドとか、いらない知識も一緒に仕入れておいて、配信するときとかにはそういう話も入れたりしてる。聴いてる人に楽しんでもらいたいし、興味を持ってもらいたいからね。」
かーやんが今注目しているのは「音頭」。盆踊りなんかで流れる「音頭」である。テンポとか曲の出だしに特徴があるからどこまででもつなげられるのだとか(実際いろいろつなげて流してもらいました。最高に面白かった)。

好きなことを見つけるところから趣味が始まる

かくいう僕もDJに憧れて機材を買ったことがあるのだけれど、けっきょく続かなかった経験がある。考えてみると僕には、かーやんが言うような「人に聴かせて喜ばせたい」という目的意識がなかったように思う。
 
かーやん「思うに、安藤くんはみんなからは器用だと思われてるよね。」
 
ーーその節はありますね。でも実はそうでもなくて、興味とか好奇心は無限にあるんだけど、基本的に器用な方ではないと思うんですよね。
 
かーやん「そこのギャップというか、ある程度まで技術を身につけるまでの時間が嫌なのかな。でもそれは悪いことじゃなくて、どんどん好きなことをやっていく中で、うちこめそうなものが見つかったら自然と続くもんですよ。趣味なんだからそれでいいと思うんだよな。」
 

楽しそうに言うかーやんを見てるともう一回挑戦したくなるんですよね。
ーー好きなことなら自然と続けられちゃうってわけですね。
 
かーやん「そうそう。吉野家で牛丼食べたら美味い!って思うじゃん。一回美味かったからもういいや、ってならないでしょう。何度食べてもやっぱり美味いし、また食べたくなる。好きな物ってそういうものだと思うんだよ。」
 
「趣味を持ちたい!」から始めるんじゃなくて、好きな物に出会って「ハマる」ことから始めると、いつのまにかそれが趣味になっていく。本当に楽しそうにプラモデルやDJについて語るかーやんを見ていると、うらやましくなるのと同時に、やりたいと思ってたけどやってなかったことをいくつも思い出すのでした。
かーやんありがとう!

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