知識・Tips 2022年02月16日

接着剤の基礎知識|接着剤と化学物質

なにか、モノとモノをくっつけたいとき、壊れてしまったものを直したいとき、あなたならどうしますか?ちょっとしたものならば、手軽に接着剤でくっつけてしまおう、と思うのではないでしょうか。
また製品の製造を検討しているとき、釘やねじを使えない部品や部位を接合する際にも接着剤は欠かせません。

今や接着剤は私たちの生活に欠かせないものとなっています。
ではその接着剤はどのようにして、モノとモノを接着しているのでしょうか。

 

その秘密は接着剤に含まれている化学物質の性質にあります。
では、その化学物質は人間の健康や環境にとって悪い影響はないのでしょうか。

接着剤の化学物質について、考えてみましょう。

接着剤ってどんなもの?

接着剤と聞くと、家庭や学校でよく使用されるのりや瞬間接着剤などを思い浮かべますが、実際は私たちの身の回りでは気が付かないところで多くの接着剤が使用されています。

例えば建築や家具に使用される合板やベニヤ板は、板と板を接着剤で貼り合わせてできていますし、部屋の壁紙やタイルは接着剤で貼り付けられています。
パソコンや電化製品の中に入っているプリント配線板や液晶テレビのディスプレイにも接着剤は使用されています。

グラフの通り、接着剤の用途としてはおよそ半分が建築関係です。その他、自動車や電気製品にも多くの接着剤が使用されています。接着剤の消費量はその大半が産業用で、家庭で使用される接着剤はほんの一部分です。

文字通り、私たちの生活は接着剤に囲まれているのです。

接着剤はなぜくっつくのか?

接着剤が、モノとモノを接着するメカニズムには多様な要因があり、一言で説明することはできません。接着は実にさまざまな要因によって成り立っている非常に複雑な界面現象であると言えます。そのなかで代表的なものにアンカー効果と呼ばれるものがあります。

ここでは溶剤型接着剤(後で詳述します)を例に説明します。被着体の表面にある小さな穴や谷間に液状の接着剤が入り込み、接着剤に含まれる溶剤が蒸発することで樹脂が固まります。一見平滑に見える金属やプラスチックでも表面にはマクロまたはミクロな凹凸があり、固まった樹脂が表面の凸凹に引っかかることで、モノとモノを接着するのです。

船が停泊するときに使用される錨(アンカー)に似ていることから、アンカー効果(投錨効果)と呼ばれます。

接着剤を被着体に均一に塗るためには、接着剤は液状でなくてはなりません。また被着体の表面ではじかれず、濡れ広がることが必要です。
そして被着体同士を結合するためには固まらなくてはなりません。

接着に必要なこの要素を効果的に行うために、接着剤は溶剤と樹脂を用いています。
現代で使用されている接着剤のほとんどは、こうした化学物質によって成り立っているのです。

接着剤はなにからできている?

現代で使用されている接着剤はほとんどが化学的に合成されて作られる合成系接着剤です。
接着剤の種類には様々な分類方法がありますが、大まかにいうと下記があります。

  • 水を溶剤として使う水性接着剤(エマルション型接着剤)
  • トルエンやキシレンなどを溶剤として使用する有機溶剤型接着剤
  • ウレタン樹脂やエポキシ樹脂を用いた無溶剤型接着剤

接着剤に含まれる成分はタイプや商品によっても様々ですが、溶剤型接着剤では大きく分けて溶剤・樹脂・添加剤です。

溶剤は樹脂や添加剤を溶かして塗りやすくする目的で使用されています。
家庭でよく使用される木工用接着剤は水性接着剤で、溶剤として水を用いており、その割合はおよそ50%です。

 

溶剤系と呼ばれる接着剤は溶剤がおよそ50~70%を占め、これには多くの化学物質が含まれています。トルエン、キシレン、酢酸エチルなどが溶剤として使用されていますが、これらは有機溶剤と呼ばれる化学物質です。
有機溶剤の多くは可燃性のため作業の際は火気に注意が必要です。また人体や環境への影響があるおそれもあります。

続いて多いのが樹脂です。
これは30%ほどを占めており、硬化することでモノとモノを結びつける役割を持っています。
含まれている化学物質としては、酢酸ビニル樹脂、合成ゴム、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ホルムアルデヒドなどです。

残る添加剤は、接着剤を柔らかくして塗りやすくする可塑剤や老化防止剤など、接着剤の性能を高める役割があります。
他にも、接着剤に色を付ける顔料など様々な化学物質が含まれています。

接着剤の安全性への関心の高まり

1990年代、シックハウス症候群が大きな社会問題となりました。
新築住宅や改修の際に、居住者や建設作業員への皮膚や目などの粘膜への刺激や頭痛、倦怠感などの健康被害が発生したのです。

その原因とされているのが、建材や家具に使用されている接着剤や塗料に含まれるVOCとホルムアルデヒドです。

接着剤に含まれる溶剤は、蒸発して環境中に放出されます。この溶剤のうち蒸発し大気中において気体状となる有機化合物をVOC(Volatile Organic Compounds:揮発性有機化合物)と呼びます。

VOCは接着剤に使用されるものだけでも約200種類もあり、大気汚染や光化学スモッグの原因の一つとされています。
VOCの中でも特に、トルエン・キシレン・エチルベンゼン・スチレンの4つについては特に身体や環境への影響が大きいとして、日本接着剤工業会では2008年に4VOC基準(自主管理規定)を定めました。これにより厳しい基準を満たした接着剤関連商品は「JAIA 4VOC基準適合」の表示を行っています。

ホルムアルデヒドは接着剤の硬化剤などの用途として使用されてきました。ホルムアルデヒドは発がん性も指摘されている化学物質です。

2003年に改正された建築基準法ではホルムアルデヒド放散等級を表示することを求めており、住宅の換気量に応じて使用可能面積が制限されています。
「F★★★★」マークのFはホルムアルデヒドを表し、「★」の数によって放散量を示しています。「F★★★★」から「F★★」まで3段階に分けられ、★の数が多いほど放散量が少なく、広範囲に使用が可能であることを示しています。この基準よりも放散量の多い製品は内装仕上げでの使用が禁止されています。

このような法的な規制の面だけでなく、各業界やメーカーは自主的な管理基準を設け、代替材料への切り替えを行うなどして対策をとっています。

 

安全性は自分で確認しよう

こうした社会情勢もあり、現在では溶剤系接着剤やホルムアルデヒド型接着剤の生産量は減少傾向にあります。
その代わりに人体や環境に影響の少ない無溶剤型接着剤が増えており、安全性への意識が高まっています。

ですが接着剤の安全性は、これらの表示を確認するだけで果たして十分なのでしょうか。
インターネットからは様々な情報が得られますが、何を信用すべきなのか、自分が使用したい接着剤に当てはまるのかどうかは自分で判断しなければなりません。
建築業や製造業で用いられる接着剤は使用量も多く、環境や作業者の健康への配慮も求められます。

そういった際に確認できるのが、事業者が発行するSDS(Safety Data Sheet:安全データシート)です。


次回は化学品を取り扱う事業者には欠かせないSDSの読み方についてお教えしましょう。


おりも みか(ライター)
玩具メーカーに就職し、生産技術・品質業務を担当。日本国内生産、主に中国での海外生産においてプラスチック製玩具や遊戯機器の開発・製造を経験。退職後に製造業ライターとして、WEBサイトや企業オウンドメディアにて解説ページやコラムの執筆を行っている。
@jilljean0506

テクノポート株式会社
製造業・技術系企業に特化したマーケティングのノウハウと、工業・製造業に知見のある技術系ライターのネットワークで技術系企業専門のコンテンツ制作サービスを提供している。
https://writing.techport.co.jp/


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