知識・Tips 2022年02月24日

接着剤の基礎知識|SDSを活用して化学物質を適切に取り扱おう

SDSを知っていますか

SDSとは「安全データシート」(Safety Data Sheet)の略で、事業者が発行する化学物質の危険有害性情報を記載した文書です。化学物質及び化学物質を含んだ製品を労働環境において使用する際、または他の事業者に譲渡・提供する際に作成し、交付します。
つまり事業者が化学品を適切に管理することに役立てるための文書です。

例えば化学物質及び化学物質を含んだ製品を船で輸送する際には、SDSの提示を求められます。

輸送船の座礁や転覆などにより化学物質が海洋に流出してしまった場合、環境にどんな影響を与えるのか、輸送会社は事前にそれを知っておかなくてはならないためです。

このように化学物質及び化学物質を含んだ製品に起因する予見可能なリスクをサプライチェーンのすべての関係者に周知し、人の健康および環境に対する災害・事故を未然に防止することが最大の目的です。

日本のSDSはあくまで事業者が対象となっており、一般の消費者用製品には適用されないため、日常生活で目にする機会はあまりないかもしれません。ですが、労働環境や製品製造工程において化学物質を扱っている場合、その危険性や適切な管理方法を知ることができるのがSDSです。

なお、一般の消費者用製品ついては家庭用品規制法など別の法律によって規制されています。

国連GHS勧告とは

かつては化学品の危険有害性について基準が統一されておらず、化学品の引火性を表すマークだけでも世界各国で異なるマークを使用していました。

GHSとは「化学品の分類および表示に関する世界調和システム(The Globally Harmonized System of Classification and Labelling of Chemicals)」のことで、世界的に推奨される化学物質の危険・有害性を表し、分類する方法です。

GHSは危険有害性を判定するための分類基準と、その結果を伝える手段としてラベルやSDSを用いるよう定めています。

あくまで推奨であって義務ではありませんが、各国ではGHSを元に法律を制定しています。日本においてはSDS3法(化学物質排出把握管理促進法・労働安全衛生法・毒物及び劇物取締法)が定められ、日本国内のGHS共通ルールは日本工業規格JISに策定されています。
化学品の危険有害性の分類方法については「JIS Z 7252」、SDSとラベルの作成方法については「JIS Z 7253」に定められており、項目・注意書きの文言、絵表示などはJISに準拠することが求められています。

SDSに記載されている内容とは

日本のSDSは下記の16項目から成り立っています。

SDSには、化学品に関する製造者や供給者、その化学品にはどの程度危険性や有害性が含まれているのか、そして安全に扱うためにはどうすればよいのかという情報が記されています。

ただし注意しなくてはならないのは、SDSは安全性を証明するための資料ではないということです。SDSの情報をもとに、事業者が適切な管理を行うことが大切です。

SDSの読み方

化学品の特性(成分情報)について

化学品に含まれる成分が知りたいときは、項目3の組成及び成分情報を確認します。

 

ポイントは危険有害性のある物質以外は基本的に伝達の義務がないということです。
これはSDSが人の健康および環境に対する災害や事故を未然に防ぐことを防止することが目的であるため、法律で記載が定められている物質以外は、発行者が危険と判断しなければ記載されることはありません。また企業の秘密情報保護のため、含有量も幅をもって記載されていることもあります。

CAS番号などは物質の同定の際に有力な手掛かりとなりますが、省略されていることもあるため、必要な場合は作成者に問い合わせる必要があります。

成分情報の詳細が全て記載されているわけではないということを注意しましょう。

化学品の危険性を知りたいときは項目2の危険有害性の要約を確認します。
更に詳しい情報が知りたい場合は、人体への有害性については項目11の有害性情報を、環境への有害性は項目12の環境影響情報を確認しましょう。

項目2には「物理化学的危険性」全17項目、「健康有害性」全10項目、「環境有害性」全3項目のうち、該当する項目が記載されています。
更に危険有害性を区分1から区分4にレベル分けして表示しています。区分1が最も危険性の高いレベルです。

例えば「可燃性/引火性ガス」が区分1であれば、低温でも引火する可能性があり危険であるということを表わしています。


危険有害性に区分が付与されない場合、①「分類できない」、②「分類対象外」、③「区分に該当しない」と記載されている場合がありますが、それぞれ意味が異なっています。

①「分類できない」と記されている場合、データが十分ではなく分類の判断ができないことを示しています。そのため危険性は「不明」です。
② 「分類対象外」と記されている場合、液体・固体などの状態が分類の対象にならないことを示してします。例えば対象が固体の場合、可燃性ガスのカテゴリーへは分類されません。
③「区分に該当しない」と記されている場合、十分なデータを得たうえで区分に該当しないことを示しており、危険性は「低い」と判断できます。


一方で、記載がなく空欄であることもあります。この理由としては、①データがなく分類されていない、②GHSにおける区分に該当しない、③物性からGHSの分類が不可能であるなどの理由があります。
①の場合は、対象の化学品を正しく扱うことが困難となってしまうため、SDS作成者への問い合わせを行うことが推奨されます。
②や③の場合は項目9~12に記載することが推奨されています。

項目2は端的に記されている項目ではありますが、他項目もしっかり確認することが大切です。不明な点・気になった点があるときは作成者へ問い合わせましょう。

項目2には絵表示(ピクトグラム)も記されています。
このピクトグラムはGHSに定められており、世界中で使用されているマークです。
たとえば、どくろのマークは致死量で毒性の程度が区分される生命に危険をもたらす急性毒性を表わし、呼吸器感作性や発がん性などを注意しなくてはならない場合は健康有害性のマーク、眼や皮膚に対する重大な損傷性は腐食性のマークが用いられます。
感嘆符はそれらよりも軽微の警告表示となっています。

危険有害性があり、区分が付与される場合は「注意書き」が記載されています。GHSでは注意書きの文言を参照するためのPコード(Precautionary statement)を割り当てています。
注意書きに記載された内容は、実際に化学品を取り扱う担当者に周知しましょう。

化学品の混合物には様々な成分が含まれていますが、全ての微量成分まで記載をすることは不可能です。そのためSDSでは成分ごとに考慮すべき閾値(濃度限界・カットオフ値ともいう)が設定されています。
そのため一定濃度以下の成分は成分情報に関する詳細な記載が免除されている場合があります。濃度が閾値以下で成分表示に記載がないからといって、安全であると保証されるわけではありません。
濃度が閾値以下でも危険有害性があると判断される場合にはSDSを作成し情報伝達することが推奨されています。

基本的な物理的性質は項目9の物理的及び化学的性質に関する情報に記載されています。
化学品の形状は20度の環境下において気体・液体・固体のいずれであるかを記します。気体や液体である場合は取り扱いに注意が必要です。

蒸気圧の値は高いと蒸発しやすく、低いと蒸発しにくいことを表わします。例えば水の蒸気圧は25度では23hPa、エタノールは59hPaとなり、エタノールの方が蒸発しやすいということになります。

蒸気密度が空気(=1)よりも高い場合は、低所に化学品が滞留しやすいということを表わしています。

化学品の取り扱いについて

化学品を飲み込んだり吸い込んだりしてしまった際の応急措置は、項目2の危険有害性の要約項目4の応急措置に記載されています。

化学品のばく露による疾病または障害の起こる可能性を最小限にするためには、適切な個人用保護具(PPE)を装着することが望ましいです。
どういった保護具を使用するべきかについては項目8のばく露防止及び保護措置に記載があります。

例えば手の保護具(グローブ)には塩化ビニル製やニトリル製、眼の保護具(ゴーグル)には密閉型など、取り扱い対象の性質に応じた用途・材質の保護具が記されている場合もあります。
呼吸用保護具(マスク)の着用が難しい場合などは換気で代用するなど、作業者の安全を保護することが大切です。

化学品を水道に流してもよいかというお問い合わせは多くあります。
化学品を直接下水に流して廃棄することは基本的に推奨されません。項目13の廃棄上の注意には廃棄物容器及び廃棄方法に関する事項が記されています。

各地方自治体の基準に従うといった内容が多いですが、注意事項が記されている場合はそれに従い、適切な廃棄方法を選択する必要があります。

化学品をほかの物質と混ぜてもよいかを判断するには、項目10の安定性及び反応性を確認しましょう。化学品の安定性及び反応性が記されています。条件によって有毒物質が発生する化学品もあります。項目の説明は以下の通りです。

  • 化学的反応性・・・一般的な保存条件下で安定しているかどうか
  • 危険有害反応性・・・反応または重合したことにより危険な状況になる可能性があるかどうか
  • 避けるべき条件・・・熱・圧力・衝撃など避けるべき条件について
  • 混触危険物質・・・混ぜることによって危険な状況を誘発する特定の物質について
  • 有害な分解生成物・・・予見される有害な分解生成物について

反応性に関する注意事項が記されている場合は、取り扱いに注意し注意事項に従うことが望ましいです。

 

SDSの責任とは

SDSの責任は実際に化学品を譲渡する会社が担います。SDSは基本的に製造者が作成しますが、項目1の化学品及び会社情報に記される会社名は製造者ではなく製品を供給・譲渡する会社名であることに注意が必要です。

つまりサプライチェーンの中で、各段階において記載される会社名は都度更新されます。必ずしも化学品を製造したメーカーに責任があるわけではありません。SDSに記載されている内容は必ずしも化学品の情報が全て網羅されているわけではなく、必要な情報は化学品の製造者に問い合わせる必要があります。

しかし問い合わせることができるのは基本的に安全性に関わる情報のみで、詳細な成分情報、実験結果などビジネス上の機密情報(CBI)に該当する内容については開示されないこともあります。

 

化学品の成分が日本国内の法律で規制されている場合は項目15の適用法令に記載があります。
ただし、SDSの提供が法律上必要とされるSDS3法(労働安全衛生法、化学物質排出把握管理促進法、毒物及び劇物取締法)以外の法律については割愛されている可能性があるため、化学品を使用する上で該当する法律があるかどうかについては、自分で確認することが推奨されます。

日本国内における主な化学物質管理法規制については、項目3に記されたCAS番号などを用いて各種データベースで検索することができます。

グローバル化に伴い、日本で製造された化学品を海外へ輸出することが増えています。日本国内で流通しているSDSはあくまでJISに準拠しており、輸出先の国では異なるルールが適用されている可能性があるためそのまま翻訳して使用することはできません。

GHSは2年ごとに改訂されていますが、JISは約5年ごとの改訂とタイムラグがあります。
またGHS分類区分が付与されるかどうかの閾値が異なっている、JISでは使用されていない区分があるなどの違いがあるため、輸出先国のルールに準拠したSDSを作成する必要があります。

まとめ

SDSは一度作成したら終わりではなく、すべての関係者が常に情報にアクセスができ、最新の情報で更新していくことが望ましいです。SDSの作成に関して記載内容をチェックする外部機関はなく、正しく情報を伝達するためにはJISに定められたルールを守ることが重要です。

それと同時に、関係者が正しい知識をもって情報を得、適切な管理を行うことによって、使用者が能動的にリスクアセスメントを行うことが大切です。

SDSは労働者の知る権利を守るためにあります。ぜひSDSを活用し、化学品を正しく管理しましょう。


おりも みか(ライター)
玩具メーカーに就職し、生産技術・品質業務を担当。日本国内生産、主に中国での海外生産においてプラスチック製玩具や遊戯機器の開発・製造を経験。退職後に製造業ライターとして、WEBサイトや企業オウンドメディアにて解説ページやコラムの執筆を行っている。
@jilljean0506

テクノポート株式会社
製造業・技術系企業に特化したマーケティングのノウハウと、工業・製造業に知見のある技術系ライターのネットワークで技術系企業専門のコンテンツ制作サービスを提供している。
https://writing.techport.co.jp/


関連記事

タグ一覧

もっと見る

PAGE TOP

コピーしました