知識・Tips 2020年02月27日

幻のセメダイン宣伝カーが、Twitterの力で現代に復活!

「宣伝カー」という文化をご存じでしょうか。企業や商品の宣伝をするための、オリジナルデザインの車のことです。いまでも荷台が全面広告になっているアド・トレーラーを見かけることがありますが、昭和の時代にはもっともっと独創的な宣伝カーが街を走っていたといいます。

セメダインの宣伝カー

昭和20年代、 セメダインも、そんな宣伝カーを走らせていました。屋根の上に設置された、セメダイン「C」のチューブ(をモチーフにしたスピーカー)が印象的なこの車。社史をまとめている時に写真が発見されましたが、今となっては数枚の白黒写真しか資料が残っておらず、詳しいことはよくわからないのです。

 

そんな一台の宣伝カーが、先日、Twitter上で小さなムーブメントを巻き起こしました。

きっかけはレゴジャパンさんの呼びかけから

きっかけはレゴジャパン公式アカウントの、このツイートでした。

「実在の車やコンセプトカーなど、レゴ化してほしい夢のクルマありませんか?」


そんな呼びかけに、セメダインのTwitter公式アカウントが、セメダイン号の写真のことを思い出したのです。

車種特定~カラー再現まで

セメダイン号は特徴的な形の宣伝カーですが、完全な作りおろしではなく、ベースとなる車を改造したものです。そのベースの車種が推定されました。

バリバリに改造されたこの車体から、元の車種を特定するなんて、そんなことあり得ます? いやあるんです。なぜならこのツイートをした Chill Reactor さんは、雑誌「高速有鉛デラックス」で連載を持つ、昭和レトロカーのプロだから。

もともとこの時代の宣伝カーや商用車が大好きで、資料も読み込んでいたため、素早くトヨタのシャシーと特定できました。(Chill Reactorさん)

そしてそんなプロの技が、翌朝にはまた次のプロに引き継がれました。

セメダイン社内ですら白黒写真しか存在しなかったセメダイン号が、カラーに!

この濱田さん、同じ雑誌で着色写真の連載をされている、着色のプロなのです。

白黒写真と着色ずみ写真の比較

今ではAIによる自動再現も可能となりましたが、その一歩手前で、細部の考証と若干の演出を込めながらカラー化していくのが制作上のこだわりです。(濱田さん)

 

二人のプロの技術で、いきなりビジュアルが完全復刻されてしまったセメダイン号。しかし、これはまだ序章にすぎません。

セメダイン号、走る

車種、色ときて、次に登場したのは立体でした。

うわ、本物の車ができてる…! と一瞬思いましたが、実はこれは かわちゃん さんがPC上で作成した3Dモデル。背景もそれ用の写真素材です。

 

写真で鮮明に見えない箇所(屋根の形状や、後方のポーチ?部分)がどのような形になっているか分からず、それらしくするのに時間がかかりました。 あとは、ヘッドライト部分のペイントも。横向きの写真に合わせると正面の写真に合わなくなるため、車体の丸みと模様を交互に調整して整えました。(かわちゃん さん)

 

それにしてもなんだこの完成度は。いまにも走りだしそう……と思ったあなた、勘がいいですね。

 

次、走るんです。

3Dソフト、Cinema 4Dを手掛ける MaxonJapan さんの公式アカウント。3DCGで、なんと渋谷のスクランブル交差点でセメダイン号を走らせてくれました!

 

本当はゆっくりと側面を見せるような動画にしたかったのですが、実写映像とあわせて不自然でなく、かつ交通法規も守るような映像にした結果、あのような交差点を横切るものになりました。(MaxonJapanさん)

 

交通法規まで配慮されているとは思いませんでしたが、このリアルさで暴走運転だと、ほんとの交通違反映像と勘違いされてもおかしくないですもんね。CGの完成度が生んだ配慮でした。

 

そんなわけで、1か月弱の短い期間で、渋谷の街を安全運転するまでに復刻されてしまったセメダイン号。これだけの達人たちが集結する展開は、もはやムーブメントといっても過言ではないでしょう。

 

ただ、それだけではないんです。直球の復刻以外にも、いろんなスピンアウト作品も生まれていました。

セメダイン号復刻版、スピンアウト作品たち

元はといえばレゴが発端だった今回のムーブメント。本家レゴジャパンさんを待たずして、レゴ作家の薬師山さんがレゴ化してくれました。1つめのツイートはソフトウェアによる試作、2つ目のツイートが実際のレゴ版です。

 

車のディテールや塗り分けをぜんぶ再現しようとするととても大きくなってしまうので、それっぽく見えるようにデフォルメしました。(薬師山さん)

 

続いてこんな異色の展開も

まさかのアイメイク。上まぶた、スッと目尻側に伸びる赤色はライト周辺のペイントがイメージされています。そしてなにより印象的なのが「セメダイン」のつけまつげ。なんとコピー用紙を切って製作されたとのことです。

 

マスカラを白にすることや、インカメで撮ると文字が反転することを考慮して、ロゴデータをそのまま印刷し、カッターでカット。切り絵も趣味なのですが、思いがけないところでその技術が役に立ちました。(あゆみん さん)

 

ちなみに目尻下の黒いもようは、セメダイン号の側面に描かれた手がモチーフ。とにかくディテールが細かいうえに、すべてがセメダイン号の要素なのです!

 

そして続いては

セメダイン号、タカラトミーの中の人により、いよいよトランスフォーマーに!

肩のチューブスピーカーがそのまま武器っぽくなってて最高!

 

はじめは前面と側面の写真しかなかったので、車のどこが手足になるのか、車に変形したとき足を収納する場所はあるのかなど四苦八苦しました。のちに3Dモデルやペーパークラフトがでてきて、後ろ側や別視点を参考にさせていただきました。(タカラトミーTwitterの中の人)

 

実はあゆみん さんがつけまつげにしたセメダインロゴは、3Dモデルを作った かわちゃん さんがデータ化したものでした。そしてトランスフォーマー化にあたっても、別視点の参考として先人の仕事が受け継がれています。こうやって自然にコラボレーションが生まれていったのです。

最後は雑誌の付録に

そして最後にご紹介するのが、この作品。

タカラトミーの中の人が参考にしたという、ペーパークラフトがこちら。作者は復刻のときに着色をおこなってくれた濱田さん。なお、このペーパークラフトはMaxonJapanさんによる映像化へのアンサーとしても…

 

特撮映像に使用されていました。これは可愛い。

 

 

そしてみなさん、思い出してください。この濱田さん、雑誌で連載をお持ちでしたよね。雑誌とペーパークラフト、どちらも紙で、とっても相性がいいような…。

ババーン!

雑誌「高速有鉛デラックス」2020年2月号では、表紙にこのセメダイン号が登場。そして付録には

ズバーン!

キャー!!(歓声)

ペーパークラフトまで付属!Twitter上でムーブメントを起こしたセメダイン号が、ついに現実世界にとびだし、雑誌付録として一般販売されるに至りました。

 

※ペーパークラフトは期間限定でこちらからDLいただけます。お早めに!(5月31日迄

※掲載誌 はこちらでお買い求めいただけます。

※ちなみにペーパークラフトを作るのに最もおすすめの接着剤は、「木工用速乾」です。

現代によみがえるコミュニケーション

最初にセメダイン号の写真を投稿してから、雑誌発売までわずか2か月。怒涛のコラボレーションでした。

 

さて、最後に、もういちどこの写真を見てみてください。

 

img_car_001.jpg

セメダイン号の最後部に注目してください。実はこの部分は人が立てるミニステージになっていまして、ここでセメダインの商品説明や実演販売を行っていたそうです。

 

日本中いろんな町へ出かけては、現地の人々に商品説明や実演販売をする。そういったスタイルでたくさんの人々とコミュニケーションしてきたセメダイン号。

 

いっぽうで今回のセメダイン号ムーブメント。セメダイン号の写った写真が、そしてそこから生まれた作品たちがリツイートでたくさんの人のもとに届くようすは、セメダイン号が日本中を走り回った当時の姿に重なるところがないでしょうか。

 

改めて正面からもその雄姿を

また、今回参加してくれたクリエイターのみなさんに「なぜやろうと思ったのか」とたずねてみると、「車のカッコよさに刺激されて」「工作好きとしての、セメダインとその車への親近感」「ちょうどいい題材での自分の腕試し」「みんなが集まっているこのムーブメントに参加したい!」など、それぞれの形でセメダイン号に創作意欲を刺激されていたことがわかりました。またそこに自然にコラボレーションが生まれていったことも、先に書いたとおりです。

さかのぼって昭和20年代当時、当時はまだ接着剤が一般的でなかったといいます。そんな時代にセメダイン号で行われた実演販売は、多くの人の創作意欲を刺激したことでしょう。

 

そう考えると、今回のムーブメントを通してよみがえったのは、セメダイン号の姿や映像だけではありません。セメダインという一企業と全国の人々とのコミュニケーション、そしてクリエイターの味方であるその存在感までもが、時を超えて現代に復活したのではないか、といえるのではないでしょうか 。(文・石川大樹)

 

img_car_007.jpg


 

関連記事

PAGE TOP

コピーしました