✕ 閉じる
家庭用
2022年01月13日
日本のハンドボールは両面テープによって支えられている! 宮﨑大輔選手に話を聞く

ハンドボールというものがある。ヨーロッパで生まれたスポーツで、オリンピック競技にもなっており、日本にもプロリーグが存在する。その名の通り、ボールを手で扱い、走る、飛ぶ、投げるという3つの要素が揃った迫力あるスポーツだ。
このハンドボールに欠かせないものがある。それが「両面テープ」だ。他のスポーツを見ても、必須アイテムに「両面テープ」というものはないだろう。では、どのように両面テープはハンドボールに使われているのだろうか。
ハンドボールと両面テープ
日本には「日本ハンドボールリーグ(JHL)」というハンドボールのトップリーグがあり、下部には「チャレンジ・ディビジョン」も存在する。ドイツ、デンマーク、ハンガリーではハンドボールが国技になっていることからもわかるように、ヨーロッパで盛んなスポーツだ。

ハンドボールです!
日本のトップリーグである「JHL」や、海外のハンドボールでは、ボールをより握れるように「松脂」が使われる。ハンドボール界では松脂を使うのは常識であり、ボールに松脂が付くと転がっていたボールが止まるほどの粘着性を持つ。

これがハンドボールのボールです!
ただし日本ではすべてのハンドボール選手が松脂を使うわけではない。松脂を使うと体育館が汚れるなどの問題があり、ハンドボール専用の体育館以外では「両面テープ」が使われている。日本のハンドボール界では常識ではあるが、世界的には珍しい日本だけの文化となる。
ハンドボールを知らない人が、この話を聞くと驚く。しかもその両面テープは、専門的ものではなく、一般の、たとえばカーペット用などの両面テープを使うそうなのでさらに驚くことになる。では、どのように使うのか、どのような両面テープがいいのか、宮﨑大輔監督兼選手に話を聞いた。

宮﨑大輔監督兼選手
日本では全員使う
宮﨑大輔監督兼選手は、2019年に大崎電気を退団し、2021年からはチャレンジ・ディビジョンに属する「アースフレンズ」で監督兼選手として活躍している。日本代表としても世界と戦い、一時期はスペインのリーグでも活躍した、ハンドボール界の英雄だ。


大分県出身で、明野北小学校に通っていました。そこで姉がハンドボールをやっていて、それを見ていたら、すごく簡単そうなスポーツだなと思ったんですよ。当時ドッジボールが得意だったんで。それでうちのお姉ちゃんたちも全国とかに出るレベルで。担当の先生がすごいんですよ、赴任したところを3年以内に全国優勝させるんです。3年目でうちのお姉ちゃんたちも全国優勝したんですよ。これはやってみたいなと思って。優勝したら市民栄誉賞をもらったりするんで!
いい先生との巡り合わせでハンドボールを始めたそうだ。野球も少しやっていたけれど、グランドに石が多くて転がってきた球がイレギュラーで跳ねたりして、2回顔面に当たってやめたそうだ。

中学1年生の時にハンドボールを一度やめたんです。当時スラムダンクが流行っていて、バスケットに惹かれたんですよ、モテるだろう、と。ちょっと桜木っぽいことをすればね、モテるんですよ!
モテたいという中学生男子としては至極真っ当な理由で、ハンドボールをやめたけれど、ハンドボールの友達や先生が家を訪れ、また先生が職員会議で頭を下げ、他の部活に入部できないようにして、ハンドボールに戻ったそうだ。

バスケをこの間やったんですけど、センスは0でしたね。めっちゃ下手でした。バスケをやらなくてよかったです。先生のおかげです。
その後、大分国際情報高等学校に進学する。大分国際情報高等学校はハンドボールの全国的な強豪だ。宮﨑選手は高校2年時と3年時にインターハイで得点王に輝いている。

大分国際情報高等学校は日本一厳しいと思います。以前は学校が有刺鉄線で囲まれていましたからね。刑務所かと思いましたよ!

ハンドボールのこの飛びがカッコいい!

そのあと日体大に進学して、途中で休学して、2年間スペインに行って、また日体大に戻りました。ただインカレっていう一番大きな大会があるんですけど、海外のレベルと、日本代表のレベル、大学のレベルにはあきらかに差があって。大学のレベルは簡単なんですよ。スペインに行った2年間を無駄にするなと思ったので、そこからプロになり15年です
2019年に日体大に3年生として再入学して、今は卒業している。また先にも書いたように、2021年からはアースフレンズで監督兼選手として活躍している。子供の頃からハンドボールで活躍しているが、体がハンドボール向きかというとそうでもないそうだ。

手が小さいんです!

右が宮﨑選手の手で手前がハンドボールやってない人の手
ボールをしっかり握れる方が球のスピードは速くなり、コントロールもよくなる。そのためには手が大きい方が有利とされる。そんな不利を埋めるのが「両面テープ」となる。

完全に素手じゃないとダメだよ、となるとハンドボールを引退します!

両面テープを指に巻いて使います!
ハンドボールの両面テープ

プロとか日本リーグ「JHL」が両面テープを使うことはないです。松脂です。世界の基準が松脂しかないので。時々国体予選では両面テープを使ったりします。松脂は体育館が汚れるので、日本ではハンドボールの専用体育館などでしか松脂を使うことはできません
手の大きさなどは関係なく、ハンドボールでは松脂を使う。しかし、専用の体育館でしか使えないのだ。

両面テープを使うのは日本だけです。起源を調べていたんですけど、僕が小学生、中学生の頃に、使うようになったと思います。なぜかというと、ハンドボールが野外競技から室内競技に変わったからです。約25年前くらいですかね。誰が始めたのか、そしてこれがなぜ全国に広がったのかは研究した人がいないので、わからないんです。

ハンドボールのシュート

野外の時は僕らも松脂を使っていました。でも体育館では使えないので両面テープを使うようになりました。日本ではハンドボールをやっている人で知らない人はいないと思いますよ
それだけ当たり前に使うものだから、専用の両面テープはないのだろうか。

ないわけではないですが、アースフレンズではセメダインのカーペット用のものを使っています。ただセメダインと認識したのが去年から。チームで用意してもらうので。ただ神谷のように昔から認識してセメダインのものを使っている選手もいます!

アースフレンズの神谷選手

中学でハンドボールを初めて、そこからセメダイン一筋なので13年になります
13年もセメダインの両面テープを定期的に買い続けるのはもはや業者さんだ。なぜセメダインの両面テープにたどり着いたのだろうか。

スポーツ用品店やカーペット屋さんを巡って、一番粘着力があって、自分の指の感触がいいのが、セメダインのものでした。練習や試合が進むと粘着力がなくなって、特に親指や小指に巻いたテープが剥がれたり、厚みがなくなったりするのですが、一番粘着力が残るのがセメダイン。一試合は確実に残ります。
ハンドボールをやるためにカーペット屋を巡るというのが、たぶん他のスポーツではないことではないだろうか。しかし、そこで出会ってしまったのだ、セメダインの両面テープに。粘着力が強く、さらに持続するそうだ。

ボールが落ちない!

両面テープというものが絶対的にないといけないんですよ! 小学生、中学生、高校生、大学生には。俺が小学校の時に使っていたやつは粘着力が続かないやつで、両面テープが剥がれて、下に巻いているテーピングが出てくるんですよ。日体大でもそういうことがあって。セメダインはくっつきます! 粘着力も持続します!
両面テープの巻き方にもいろいろな方法があり、選手により異なる。テーピングを巻いて、その上に両面テープを巻くというのは同じだけれど、その巻き方に好みが出るのだ。


僕は太くないとダメなんですよ。でも、これを小さく使う人もいます

僕は細く切って行って使います。指の感覚がいいので。巻くのに5分くらいかかります

僕はもうブワーッと巻いて両面テープを1枚なので、2分くらい。なので粘着力が落ちたらすぐに変えられるんですよね。試合では前半と後半で巻き替えています

僕は巻き替えずに一試合通して使います

宮﨑選手の巻き方

神谷選手の巻き方

トレーナーバッグにはコールドスプレーが入っているんですね。怪我した時に使う。本当か嘘かわからないんですけど、あれを粘着力のなくなった両面テープに吹きかけると、粘着力が戻るという都市伝説があったんですよ。ハンドボールの都市伝説です。高校の時やりました! 粘着力が復活するんですよ、そういう気がするんですよ! 酔い止めと言われて風邪薬渡されても酔わないと一緒かもしれないですけどね
都市伝説が生まれるくらい、両面テープはハンドボール界に馴染んでいると言える。

カッコいいよね!
ハンドボールは楽しい
日本のハンドボールでは両面テープが、かなり重要ということがわかった。松脂が使えない体育館では、両面テープなきハンドボールは考えられないのだ。練習を見ていると、球が両面テープから離れる時のパリッという音が響いていた。

それぞれの選手が、

両面テープを準備している

もしサッカーを見に行って12000円のチケットで、0対0だったらどうします? せっかくならゴールシーンを見たいと思ったりもしませんか? 大丈夫、ハンドボールはそれはないんで。0対0を僕は見たことないです
点数がバンバン入るというと変だけれど、ゴールシーンを必ず見ることができるのがハンドボール。また先に書いたように、「走る、飛ぶ、投げる」の3つがハンドボールでは強調されるので、見ていて面白い。迫力を感じるのだ。

迫力しかない!
ヨーロッパで両面テープを使わないのは、専門の体育館が多く松脂を使用できるためだろう。サッカーやバスケットボール同様に、ヨーロッパではハンドボールの中継も普通にテレビで放送されている。それほどに面白いスポーツなのだ。

大学時代に僕はFCバルセロナのジュニアチームにいたんですよ。バルサの1部にサッカーがあるので、サッカー選手がハンドボールの試合を見にくるんですよ。リバウドが見にきたり、スペインではハンドボールは有名です
オリンピックを見ていると本当に面白いスポーツだと感じた。ルールは若干複雑なので、宮﨑選手もまずはざっくり見るといいですよ、と言っていた。やがて「走る、飛ぶ、投げる」の虜になるはずだ。あとセメダインの両面テープの虜に。

若い選手は両面(りょうめん)って言うんですよ、上の選手はリャンメンって言います。僕はリャンメン世代ですが、両面って言います!

アースフレンズを応援します!
両面テープの未来
ハンドボールにおける両面テープの大切さについて話を聞いた。宮﨑選手は大学で専用の両面テープを作る研究もなさっていたそうだ。セメダインから専用の両面テープを発売して欲しいとも言っていた。逆にこれだけ長い歴史のあるスポーツで、専門のものがあまりなく、セメダインのカーペット用を使うというのが面白い。それは両面テープの可能性の高さでもある。カーペットの固定など自宅でも使えて、スポーツでも使える。もしかするとまだ我々が知らない使い方もあるかもしれない。両面テープと書いて「夢(ドリーム)」と読んでもいいかもしれない。(取材・文 地主恵介)

ライター:地主恵亮(じぬし けいすけ)
1985年福岡県生まれ。2009年より人気Webサイト「デイリーポータルZ」にて執筆を開始。2014年より東京農業大学非常勤講師。著書に「妄想彼女(鉄人社)」、「ひとりぼっちを全力で楽しむ(すばる舎)」がある。(全く釣れない)釣りを得意とする。
関連記事
タグ一覧