知識・Tips 2026年10月30日

「個人の感想です」浅生鴨×林雄司

CEMEDINE Style編集部があるセメダイン株式会社は、「モノとモノ、コトとコト、ヒトとヒトをくっつけて、テクノロジーの進歩や豊かな社会の実現につなげる。」をビジョンに掲げています。
これまでCEMEDINE Styleでは、主に「モノ」や「コト」にまつわるストーリーをお届けしてきましたが、今回、新たに「ヒトとヒトをくっつける」企画がスタートします。
デイリーポータルZのウェブマスター・林雄司さんが、会いたい人に声をかけて語り合う、対談企画です。
第一回のゲストは、浅生鴨さん。
このお二人がくっつくと、一体どんな化学反応(話)が生まれるのでしょうか────
CEMEDINE Style編集部からバトンを受け取りました。デイリーポータルZウェブマスターの林です。
対談企画の第1回目は小説家の浅生鴨さんにお願いしました。同じ歳で、何の仕事をしているのか分からないところも共通しています。そんな浅生さんとつながってみます。 
浅生鴨(あそう・かも)
作家。一九七一年、神戸出身。たいていのことは苦手。いろいろ書いたりつくったり。近刊に『浅生鴨短篇小説集 五グラムの用心棒』(左右社)、『選ばない仕事選び』(筑摩書房)。座右の銘は「棚からぼた餅」。


対談のテーマは「個人の感想です」にしました。良いテーマでしょ。

ミステリーは人が死にすぎる

浅生: 個人の感想なんですけど、ミステリーって、人死ぬなと思って。必ずわりと早いところで死ぬじゃないですか。場合によってはもう死んだところから始まる。
だけど普通に生活してるなかで、「うわ、なんじゃこれ」ってミステリーっていっぱいあるわけですよ。さっきまでここにあったはずの赤ペンがどこにあるかわからなくて、どこ探しても見つからないとか。おかしいなと思っていたら、出先で、入れた覚えのないカバンから出てくるみたいな。
こんなに死なないミステリーがあるのに、なんで小説のミステリーは死ぬのばっかりなんだろう。

林: 最後に働いてた会社が、部長職は全員「林」だったんですよ。ただの偶然で。
 
浅生: そういう死なないミステリーがいっぱいあるのに、書店で見るミステリーって、ほぼ死んでるんですよ。 
 
林: あとミステリーに出てくる人って、人の死を簡単に受け入れますよね。もし私だったら落ち込んで、いったん帰って寝てしまうかも。
 
浅生: 探偵が事件を捜査してる最中に第2の殺人が起きたら、「やっちまった!」って思うじゃないですか。自分がパッと解決してれば終わったはずなのに、自分のせいで2人目も起きちゃって、場合によっては3人目も起きちゃったりする。普通、落ち込んで辞退しますよね。
でも抜け抜けとずっといるじゃないですか。「起きてしまったか」とか言うんですよ。

林: このままだと危ないって思ったら、安全なところに避難させるとかするはず。
 
浅生: 物理的に避難させますよね、そういうこともせずに。ミステリーって不思議なジャンルだなと思って。
 
林: 僕もね、人が死ぬの嫌だなと思ってました。だって嫌じゃないですか。
 
浅生: スターウォーズでデススターが爆発したときにいたたまれないわけですよ。あそこにどんだけ人がいるんだと思って。
 
浅生: ミステリー作家ってどうやって人を殺すか、どうやったらバレないかって完全犯罪を一生懸命考えてるわけじゃないですか。こんなに人の殺し方を考える職業ってないんじゃないか。
 
林: ずっと「これ使えるな」とか思ってるんですよね。
 
浅生: このお洒落な店でも、あそこで殺したらバレないとか、あの道具を使えばこうやって殺せるとか、きっと考えるんですよ。すごい職業ですよね。
 
林: このお店だったらどうでしょうか。
 
浅生: 僕らが思いつくようなレベルだと、探偵はもう見抜いちゃうからダメなんです。湯気で殺すみたいなこととか。
 
林: 湯気で。わかんないけど、ありそうですよね。
 
浅生: 証拠が残らない、凶器は存在しない。

伏線が苦手

林: ミステリーって、探偵が急にひらめいちゃいけないらしいです。ヒントになるものを見て「そういえば」って、ひらめくためにも理由がいるらしくって。
 
浅生: 僕、伏線が苦手なので基本回収しない。人生に伏線なんかないと思ってて。
 
林: こういう時に、喫茶店でずっと見てる人がいてもたいていは何でもない。
 
浅生: チラチラこっちを見てなんかメモをしてる人がいるとして、一体なんだろうと思ったら、別に何もなかったっていう。
 
林: さっき僕らが店員さんに写真撮ってくださいって言ったのも、あれも伏線っぽいですね。この店で事件が起きた時に、「そういえば写真を撮ってる人がいましたよ」って言われる。

 店員さんにとってもらった写真
浅生: 確かに、「いちばん高いのにしようかな」って言ったのも。
(浅生さんがオーダーするときにそう言った)
 
林: 全部が伏線です。鴨さんが「この人が払います」と言ったのも。
(経費になるから林が払った)
 
浅生: 最初、外にいたのに、犬がいるからっていう理由で奥に来たじゃないですか。
 
林: 「犬嫌い」という伏線。
 
浅生: 全てが伏線ですよ。壁にメモをピンで貼ってますよ。
 
林: 海外ドラマって紐で繋げますね。写真、犬嫌い、コーヒー代払う、とか。
 
浅生: あれは何してんすかね。あの線で何がわかるのか、わかんない。
 
林: ホワイトボードに書くんじゃなくて。
 
浅生: 繋がってるっていうのを紐で表しているんでしょうけど、別に紐付けなくてもわかるじゃん、そんなの。
 
林: やってみるとわかるのかな。関ヶ原の戦いをあれで整理したらわかるのかな。
 
浅生: あんなぐちゃぐちゃに貼りまくって線引くんだったら、1回清書してまとめた方がいいと思うんですよね、時系列とかで。
 
林: そうですね、Excelに入れた方がいいと思う。
 
浅生: そんなわけでね、ミステリーに関しては、人が死にすぎる。
 
林: 映画やドラマとかで、いい人が出てくると、あ、死ぬな、ってわかっちゃいますもんね。
 
浅生: アメリカの刑事もので「明日で俺、引退なんだ」って刑事さんが言って、娘のために買ったものとかあったりしたら。 

林: 死なないで娘にそれをあげる、っていうドラマが見たい。
 
浅生: 死亡フラグがめっちゃ立ってるのにそうならないっていうのが見たいです。例えばどこかにみんなで閉じ込められて、みんなが止めるのに「俺が先に行ってやる」って行っちゃう。
 
林: すごいチャラいやつが。
 
浅生: 行くと死ぬじゃないですか。そいつがうまく脱出できたらいいなと思う。
 
林: そいつが「このキノコ食えるぜ」って、明らかに毒キノコっぽいのを。
 
浅生: 食ったらうまいね、元気出ちゃう、そういうことでいい。
 
林: それハッピーでいいですね。そのチャラいやつはチャラい彼女連れてるんでしょうね。
 
浅生: 普通ならその感じの悪い2人は真っ先にやられるわけですよ。タイトルの前に殺されたり、怪物に食われたり、とにかく死ぬんですけど、そいつらが最後まで生き残ってるといい。
映画やドラマは、こういうパターンはこういうキャラでこうなる、っていうのがある程度決まっちゃってるのを、全部無視してほしい。
 
林: そうですね、刺さってる剣をうかつに抜いてみたり。
 
浅生: 押しちゃダメそうなボタンを押してみる。そしたらお金がバーッと出てきたりして、儲かる。
 
林: でっかい恐竜の尻尾を踏んで、感謝される。 

浅生: 今までセオリーになっちゃってるものを崩していく。たぶん見てる側は腹立つんでしょうけど。
 
林: 怪我して血が出てるのに海に入ろうなんて言って、海に入っても、サメが来ない。海水がよかったみたいで治っちゃう。
 
浅生: 逆に、なんにもない普通の人が歩いてて、全然ストーリーと関係ないところでいきなりつまずいて倒れて死んじゃう、みたいなのは、
 
林: それは現実ですよね。現実はそういうことがあります。
 
浅生: みんな「事故にあったのには過失があったんじゃないか」って思いたいけど、ないんですよ。
 
林: ミステリーって不条理がないですね。脱出ゲームが流行ってるけど、あれが分からなくて。ここにある数字を足すと鍵が開くって前提でつまずいてしまう。
 
浅生: 脱出ゲームに来る人たちは。何かうまくやると脱出できると思ってるんですよ。でも現実には閉じ込められたら脱出できないんですよ。多くは。
 
林: 非常呼び出しボタンを押すしかない。
 
浅生: 脱出ゲームを作るとしたら、ほんとに集めて閉じ込めて、脱出できない、ヒントもない、っていうのを作りたい。
 
林: ただ困ってる。 

寝てるだけの24

林: パニック映画って最後、全部が終わって、パトカーがやってきて、主人公たちが毛布にくるまってほっとして終わります。あれも不思議ですよね。
 
浅生: 考えてみたら次から次へともうダメかっていう状況を切り抜けて、最後もでかいのがあって、それもなんとか切り抜けて終わって、毛布にくるまれて。みんな見てる側も、よかったって思うじゃないですか。でも事件が起きなかったらもっといいところにいるんですよ。
 
林: 仲間も失ったりして
 
浅生: よかったよかったってなるのおかしいですよ。よくないです、あれは。
 
林: 新幹線大爆破しない。
 
浅生: 本来なら、じゃあ出張行ってくるよって言って出張行って、翌々日に「ただいま」って帰ってくる。「ありがとうお父さん」みたいな。そういう2時間映画が理想なわけですよ。
 
林: 何も起きない24みたいなね。
 
浅生: 6時間ぐらい寝てますよ。最後の方、6話分はずっと寝てる。
 
林: 新幹線から富士山を撮ろうとして撮れなかったぐらいですよね、山場としては。
 
浅生: 1話1時間で24本ビデオをリリースするとして、6話か7話はずっと暗い部屋で寝てるだけですからね。がばっと起きて、何事かと思ったらトイレ行ってくる、それだな。 

ミステリー的に読まないで

浅生: いま映画でもテレビドラマでもSNSでみんな「考察」するじゃないですか。伏線をこう拾ってって、これはきっとこうじゃないかとか。その伏線が見事に回収された、みたいな。
 
林: 流行ってますね。
 
浅生: あらゆるものをミステリー的に読んじゃってる。これはミステリー的に読まれると困るな、みたいなのもあるわけで。
 
林: 雑学もその流れに近い気がします。ここは東急の土地だからこうなってる、とか。
 
浅生: 深読みするのがかっこいい、みたいなのがある。「考察」っていうのがどうも苦手で。
 
林: 三宅香帆さんも批判してましたよ。
 
浅生: 彼女は考察の何がダメって言ってるんですか。
 
林: 批評と考察を対象的に書いてました。考察には正解があって、著者の考えを汲まなきゃいけない。批評は受け手のもので、自由に広げられるって書いてあった気がします。
 
浅生: 考察が多分だめなのは、正解があると思ってるから。
 
林: ドラマ見て「これはこう思う」みたいな勝手な解釈でよかったのが、作者がそう言ってないから不正解みたいに言われちゃう。面白ければいいのに。

浅生: 勝手に話をそらしちゃえばいいのに。作者はそんなこと考えてないですから。無意識でやってることだから。勝手に好きに読み取ってもらえばいいのに。「きっと正解はこれに違いない」って。
 

電車の路線名の雑さ

浅生: もうひとつ個人の感想で、電車の路線のネーミングがちょっと雑じゃないかと思ってて。
東横線って、東京と横浜だから東横じゃないですか。地名の頭の文字を使っている。京王線は東京の京と八王子の王です。埼京線は埼玉の埼と、東京の京。なんで地名を使う文字を揃えないのか。
東京と千葉だったら……
 
林: 東千線でいいですね。
 
浅生: でも京葉線。なんで後ろになったのか。
 
林: ははは、そういえばおかしいですね。
路線名の規則性のなさ 
浅生: 埼京線は本来は東埼か京玉になるべきなのに、埼京になっちゃう。このネーミングのデタラメさがルールとしてわからない。別につじつまが合ってる必要ないんだけど、なんでこんな適当につけちゃったんだろうっていうのはね、前々から気になってはいるんですよね。
 
林: 電車のネーミングの雑さで言うと、東西線かな。雑ですよね、東西線、南北線。
 
浅生: 東西があったから、南北作っちゃったんですよね。
 
林: そんなこと言ったら西武も小田急も東西を結んでるので東西線ですよ。
 
浅生: たぶん日本中に東西線いっぱいありますよ。
 
浅生: 日本各地の電車の路線の付け方が、2点間をつなぐ方式とたまたまそこ通ってるやろ方式がある。有楽町通ってるから有楽町線だろうけど、どことどこ繋いでるかわかんないわけですよ。
 
林: 有楽町線って、有楽町から池袋に繋いでるから、池有線とかでもいいですか。

商売の才能がない

浅生: 昔、クラウドファンディングで、1人乗りの飛行機にそこそこのお金払ったんです。軽自動車ぐらいの大きさで、どこからでも飛べるっていう。最初の頃、アップデート情報で「ロゴマークデザインやり直しました」って来て。
 
林: やばいやばい、そのアップデート情報。
 
浅生: その次に、「スタッフ全員で被るキャップを作りました」っていう情報が来て、開発スタートから1周年記念パーティーの様子です、っていう動画が来て。いつまでたっても飛行機が来なくて、ずっとそういう遊んでる様子だけを見せつけられて、そのうち消えました。
 
林: 僕もコロナ禍初期に、顔全面覆うマスクをクラウドファンディングで申し込んだけど届かなかった。そしたら出資者がコメント欄に英語で悪口を書き始めて。お前は犬の糞かとか、英語の悪口の勉強になりました。
でも浅生さん、今クラウドファンディングやってますよね。
 
浅生: 達成はしてないです。
対談したときは達成していなかったが、その後、目標額を達成 
林: ちゃんと詳細が書いてありましたけど、最終的には赤字ですって書いてあってびっくりした。
 
浅生: あれ、自分でも不思議だったんですよね。計算したら赤字だった。普通は先にコストを計算して作る部数で割り算して値段を決めるじゃないですか。人件費、倉庫代、材料費、全部かかる費用を計算して。
 
林: 先に値段決めちゃったんですか。
 
浅生: フルカラーで3800円にしようと思って。
 
林: 何ページでしたっけ。
 
浅生: 216ページ。
 
林: 安くないですか。
 
浅生: 他の出版社で出してるその手のやつ見たら、5,000円から6,000円超えてて。失敗したと思ってんだけど、もう3,800円で始めちゃったからいいやと思って。普通に書店でおろしても大赤字ですからね。わからないぐらい商売の才能ないんですよ。 
わからないぐらい商売の才能がない 
林: クラウドファンディング、僕も申し込みました。
 
浅生: ありがとうございます。
 
林: 直接言うとすごい恩着せがましいですね。
 
浅生: 別に達成しなくても、どっちにしてもやるんで、そんなには困んないんですけど。
 
林: 誰か有名人がこれ面白いです、って言ってくれれば。ミセスグリーンアップルとか。
 
浅生: 聞き覚えがある。
 
林: ミセスって略するらしいです。
 
浅生: 昔の女性誌にありましたね、カタカナでミセスって。
 
林: ミセスって言ったらそっちですよね。
 
浅生: じゃあ、ミセスグリーンアップルに1冊送ろうかな。「ミセスグリーンアップルが読んだ」だと相手次第ですけど、送ったと言えば。怒られるかな。でも事実ですから。
 
林: 見本を送りましたって書けばいいんじゃないですか。 

働かないでお金だけほしい

浅生: 高校の部活の同窓会みたいなのに行ったら、同級生がみんなちゃんと働いてるんですよ。
 
林: 働いてる人は働いてますよね。
 
浅生: すごいですよね。
 
林: むかし東京ミッドタウンで展示したときに、朝6時ぐらいから準備してたら、ミッドタウンのビルに入ってる会社の人が7時ぐらいにどんどん出社してくるんです。すごいですね、今のエリートは朝こんな時間に来るんだ、と。 

浅生: すごいなぁ。僕は働かなくても振り込んでくれればOKです。もっと仕事くださいとか頑張りますとか、もう全然余計なこと言わないし、有給何日欲しいとかそんなこと一切言わないんで。
 
林: でも、働かない。
 
浅生: 出社したら迷惑だと思う。
 
林: みんなすごく働いて、働かない人に文句言ったりするじゃないですか。でもあれって、別に経営者じゃないから、そんなポジションになったつもりにならなくていいのにね。
 
浅生: そうなんですよね。サボってる人をみんなで目の敵にして、あいつサボってるって言ったり。みんなでサボればいいじゃん。
 
林: 人は熟練して上手くなるじゃないですか。それで効率よくなっちゃうんですよ。効率が良いって経営者には都合が良い。
 
浅生: 経営者からは生産性は高くなるんですけど、僕らの生産性は下がるんです。同じ給料で1時間の間に1個やるのと2個やるのだったら、1個でいい。
 
林: 2個やっちゃうと、1個分はそのまま資本家の利益。
 
浅生: それを頑張って3個やろうとするわけ。1個でいい。なんなら半分でもいいです。1個に2時間かかりました、すいません、みたいな。
 
林: 熟練しない戦略 
撮れてるかどうか確認している 

たいていのものには理由がない

浅生: 今、ビッグバンドやってるんです。昔ちょっと好きだったバンドがいて、その人が初心者ばっかり集めてビッグバンド始めていて。楽器が足りないとネットに書いてたから、テナーサックスを持ってったんですよ。そしたら「じゃあよろしく」って言われて自分がやることになって。
やってることデタラメだし、僕もそんなにできないから適当なんですけど、面白いからやってる。綺麗に完璧に何かやるんじゃなくて、ぐちゃぐちゃだけどなんか楽しい、そっちを優先させたい。
 
林: 「面白いから」しか理由がない。
 
浅生: 考察しようがない。だって面白いもん、っていう。
 
林: 面白いかなって思うのは、理由としてそれ以上割り切れないですよね。
 
浅生: きっちりみんなが納得できる理由みたいな、辻褄が合うようなことって、そんなにないんですよね。
 
林: デイリーポータルZの企画もだいたい面白いかなって思ったからですよね。
 
浅生: 大抵のものには、そんな明確な理由はない。
 
林: なにかあるのは後付けで。
 
浅生: でもそれを理由に当てはめて、「あの人たちはあそこで写真を撮ってた」みたいに無理やりはめていくのは、多分ミステリーなんで。 

どっちでもいい

浅生: AIについても思ってることがあって。これからはAIだっていう人たちと、AIはよくない、AIなんかに頼ってたら人間ダメになるみたいな人たちがいて、なんか極端すぎるなと思って。
 
林: ありますね。
 
浅生: 例えば、洗濯バサミだったら、あらゆる洗濯物がなんでもできる派と「洗濯バサミはやっぱダメだ」派に分かれないじゃないですか。所詮道具なのに、神様のように崇めるか、なんか敵のようにけなすっていう、その両極端になりますよね。
 
林: インターネットは曖昧、中間がいない感じですよね
 
浅生: イエスかノーかですよね、常に。
 
林: 野球も政治も全部、なんか極端ですね。
 
浅生: どっちかに正解がある、こっちが正しくてあっちが間違ってるっていう、常にそういう。
 
林: あれ好きなやつはバカ、みたいな。
 
浅生: あれをいいって言ってるやつはわかってないみたいな。でも、わかってて好きかもしれないよ、みたいなことが全然考慮されない。人がいいものが好きとは限らないっていう。
常に正しいもの、良いもの、正解、合理的を選ぶべきだ、みたいになりがちだけど、別に俺、合理的じゃなくてもいいんだよね、っていう人もいるし。
スーパーとか家電量販店でも、1円でも安ければ言ってくださいみたいな。でも、僕、別に1円高くてもいいよっていう人はいるんですよ。いちいちあそこの店の値段を調べて、1円あっちの方が高いとか調べるぐらいだったら、10円100円の差でも別に構わんよっていう人はいるんだけど。
 
林: ははは、近いところで買う。
 
浅生: 両極端な人たちは、その存在を認めてくれないんですよね。100円高くても別に気にしないっていう。
 
林: 今、楽しいだけのものを売るときに「ストレスから解放されます」とか「気分転換」とか役割をつけようとする。そんなこと言わなくても楽しいものを受け入れるのは自然なのに、そこにまで理由を作んなきゃいけないのかと思うと暗くなりますね。
 
浅生: なんでも理由が必要になっちゃってる。それこそ伏線回収ですよね。全部に訳があって「ここにこれがあるのはそういうこと」っていう。
 
林: 楽しいものを味わうために仕方なく働いてるのに、楽しいもののほうに理由をつけなきゃいけない。「無駄も大事だよね」とか言われるけど、労働の方が無駄なのでは。仕方なくやってるから。
 
浅生: いま呼吸してるのは、酸素を取り入れて、この体の隅々の細胞に酸素を行き渡らせるためなんですよって言わないといけないみたいな。「めんどくせえ」ってなりかねない。
物事にそんなに理由はないんだよっていう。世の中は不条理だし、偶然だし、たまたまそうなってるだけなのに、そこに因果関係とか理由を求めちゃうと疲れるよっていう。受け入れるのが楽ですよ。
 
林: 食品サンプルが並んでるメニューの前を通ったら触りますからね。意味もなく。
 
浅生: 正解を求めるのはそうですね。理由とか言ってちゃダメですよ。 
どっちでもいい! 

世の中に理由なんてない

浅生: みんな、なんか世の中に理由があると思いすぎ。理由があるのはミステリーの中だけですよ。
 
林: さっきの、電車の路線の名前の話じゃないけど、
 
浅生: 適当ですから。そうなったっていうことの積み重ねでしかないので。
 
林: 青物横丁駅って最初は青物横町駅だったらしいです。でもむかしの京急のサイトに「丁」になった時期が分からないって書いてありました。駅名がいつ変わったかわからない。そんな雑な時代があった。
 
浅生: 雑な方がいいですよ。人の名前も雑になるといいですよ。「木村って何してんの」「あいつね、山崎だったんだよ」「え、いつから」「わかんないけど、なんかいつの間にか山崎になってたよ」とか。 

林: 上司に吉川(よしかわ)って人がいて、その吉川さんの一族はみんな吉川(きっかわ)だけど、おじいさんが吉川(よしかわ)にしたって言ってて。「そんなのあんのか」って。
 
浅生: できるんだ。
 
林: わかんないですね、昔って。
 
浅生: もっと雑に生きたい
 
林: 10年ぐらいで、そうならないかな。
 
浅生: そしたらきっと、赤ペンがなくなったっていうだけでミステリー1冊書いて、それが売れるかも。
 
林: 「赤ペンがなくなった」って比喩だと思うんですよね。本当になくなった話だとびっくりするでしょうね。
 
浅生: 「ダメな犬はいない」っていう本があって、いいタイトルじゃないですか。おしゃれな装丁で、「ダメな犬はいない」って、なんかマイライフアズアドッグみたいな映画の、ちょっとそういう切ないお話かなと思って買って、うち帰って読んだら、犬の飼い方の本でした。
首輪の選び方から書いてある、ほんとにしつけの本だった。要するに、どんな犬もちゃんとしつければ覚えますよ、っていう本だったんですよ。タイトルの良さにね、完全に騙されて、小説だと思って。さすがにあれは読み終わるのに2か月ぐらいかかったな。
 
林: 読んだんですか。
 
浅生: ちょっとずつしか読めなくて。
ちょっとずつしか読めなくて 
林: 犬飼ってないのに。
 
浅生: 飼ってない。タイトル負けしました。でも、赤いペンがなくなったっていうのは、それぐらい、みんな騙せますよね、
 
林: いつ人が死ぬんだろうって思ってたら、ペンが出てきてよかった!で終わる。
 
浅生: でもみんなで探し回る。ドタバタにはできそう。
 
林: そうですね。
 
浅生: 最後見つかるんだけど、いざ書いたらインクが切れてて、っていうちょっと寂しい終わり方でもいい。
 
林: 探してる途中で人が死ぬんだけど、関係がなかったりして。
 
浅生: 探してることとは関係なく人が死ぬ。お母さんが急に「そういえば何丁目の吉田さんとこのおじいさん亡くなったんだって」「そうなの」「大変だね」みたいなぐらいで、
 
林: 伏線になっていない。
理由のないポーズ 

対談を終えて

今回掲載している写真は、対談した翌日にあらためて撮ったものです。
対談した日にも写真を撮ったのですが、カメラにSDカードが入っていませんでした。入れ忘れたうえに、気づかずに撮ってました。
浅生さんにへんなポーズをしてもらい、SDカードの入ってないカメラでシャッターを切りながら「そのポーズいいですね~」などと言ってました。純粋におかしなポーズをさせていただけでした。
 
その状況も対談の趣旨「理由なんてない」に合っていると思ったのですが、やっぱり対談に写真が欲しいので翌日もういちど撮らせてもらいました。
私はまだ世間体に囚われています。 



林雄司:デイリーポータルZ編集長。ウェブサイト、書籍、イベントなどコンテンツ制作を行っています。
代表作は「ペリーがパワポで提案書を持ってきたら(ウェブ)」「顔が大きくなる箱(工作)」「死ぬかと思った(書籍)」「地味ハロウィン(イベント)」など。
好きな接着剤はセメダインD。

デイリーポータルZ
https://dailyportalz.jp/

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