知識・Tips 2026年10月09日

下地剤からUVレジンまで、クリエイターに「お気に入りケミカル」を語ってもらおう

クリエイターに道具の話を聞くのが好きです。いい作品を作る人は、僕が知らないような専用の工具を使っていたり、あるいは知っている工具でも思いもよらない用途に使っていたりするから。

単純にノウハウとしても参考になるうえに、作品だけを鑑賞するのとはまた別の角度から、その人の創作の世界を覗くこともできるんですよね。

そんなわけで「クリエイターのお気に入り工具を聞くインタビュー企画をしましょう!」とCEMEDINE Styleの担当さんに提案したところ、「工具もいいんですけど、ケミカルを聞くのはどうですか?」と逆提案されてしまいました。

ぐぬぬ、それめちゃくちゃ良い企画じゃん……ということで、4組のクリエイターにお話をうかがいました。
 
<お気に入りケミカルとは>
ひとくちに「ケミカル」といってもいろんな解釈がありますが、今回は「作品制作に使用する、液状・粉末・ペースト状などの化学物質」ということで定義しました。 なんとか剤(潤滑剤、研磨剤…)、なんとか料(塗料、染料…)などを幅広く含みます。

1. とりもちうずら さん

造形作家、ライター(デイリーポータルZ等)。家電や日用品の実物大ぬいぐるみ、パペットなどを制作。『化けわらじ』など相棒の妖怪達と一緒に全国を旅している。「モノを機能から解き放つ」をテーマに、ユニークで温かみのある立体作品や工作記事を多数発表。
左・化けわらじ 右:冷蔵庫のぬいぐるみ

とりもちうずらさんのお気に入りケミカル『ジェッソ』
石川

これは何ですか?

とりもち

下地剤です。絵を描くときに、下地として塗るとすごい発色が良くなるんです。美大生御用達のアイテム。

木の板に、左半分はジェッソを塗ってから絵の具で着色。右が直接、絵の具で着色。
とりもち

なんでもこれを塗るだけで全然発色が違うんです。発泡スチロールみたいな柔らかいものは表面の強度が上がる効果もあります。

石川

どんな時に使いますか?

とりもち

色を塗る前には全部、基本塗りますね。
むかし人形劇団にいたんですけど、そこでもよく使ってました。発泡スチロールで人形の顔などを作って、そのあとジェッソを塗ると、デコボコもなくなってきれいに仕上がるんです。
いくつか種類もあって、粗めのやつとか、超細かいやつがあるんですよね。質感がちょっと欲しい人は粗めのを塗ったりとか。

石川

美大生御用達とのことですが、美大時代も使ってました?(※とりもちうずらさんは美大出身、大学勤務経験もあり)

とりもち

絵画の授業で、教授にでかいのをボンって渡されるんですよ。「教室のみんなでこれ分けてね」って。
油絵も、アクリルも、なんでもいけるんですよね。日本画も。
日本画って、板に紙を貼ったところに絵を描くんですけど、板って繊維があるからそのまま紙を貼ると絵を描いたときに色がにじむらしいんです。だから板に一度ジェッソを敷いてその上に紙を貼って描くらしいです。

石川

使い方が多様!

とりもち

デッサンで使ってる人もいますよ。鉛筆で描いたあとに消しゴムで消すと汚くなっちゃうじゃないですか。だから先にジェッソを厚めに塗っておいて、後から削って白を出すっていう使い方があるんです。

とりもちさんの作業風景。発泡スチロールでざっくり形状を作ったあとに紙粘土で形を整え、その上にジェッソを塗っている。
とりもち

乾くとすごい定着するんです。以前、塗ったものを学校の床に置いて、何日かして乾いてから持ち上げたら床ごと剥がれちゃったことあります(笑)。

石川

ぬいぐるみには使います?

とりもち

布のぬいぐるみには使わないです(笑)
でも発泡スチロールとかよく使いますし、人生の中でたくさん消費してきました。



とりもちうずらさんのお気に入りセメダイン『速乾GF』

※接着剤もケミカル!ということで、お気に入りの接着剤もあわせてきいていきます。
とりもち

こっちはめちゃくちゃぬいぐるみに使ってます。私は中身に綿じゃなくてウレタンを入れることが多いので、そのウレタンをくっつけるのに。

とりもち

ウレタン専用のものもあって(UT110)、すごくいいんですけど、こっちの方がいっぱい入ってて安いので、こちらを使うことが多いです。

石川

でっかいもの作りますもんね。多い方がいい。

とりもち

実は透明の『速乾Gクリア』もあるんですけど、こっちの方がよくつく感じがして。表に出る部分だけクリアにして、中はこれを使っています。
ウレタン以外に木材とかもけっこうガッチリくっついてくれるので、基本なんでもこれでやってますね。

石川

デフォルトはこれで、透明にしたいとか、これじゃくっつかないものとかは専用の接着剤を使うと。

とりもち

そうですね。細かいところはスーパーXのちっちゃいチューブを使うとか。

石川

サイズで変える(笑)

とりもち

サイズで変えてます。大きいものを作るときはこのでかい口を使ってバーって塗って。

とりもち

これやると一瞬でなくなっちゃうんですけど(笑)、だから家にめちゃくちゃこれストックあります。これ。



色を付けるためのジェッソに、形を作るための速乾GF。いかにも造形作家らしい2点を愛用されていました。
次はその真逆、電子回路を制作されているクリエイターさんにお話をうかがいます。


2. よしだともふみ さん

アートユニット『テクノ手芸部』のメンバーとして情報技術やメカトロ、新素材といった新しいテクノロジーと手芸などの手仕事と組み合わせるなど、領域を超えたものづくりを提案、ワークショップや教材開発、講演などの活動を行う。共著『テクノ手芸』(ワークスコーポレーション)、監訳『ハンダづけをはじめよう』(オライリージャパン)など。
グラフィックデザイナー・中村至男さんと共に講師を務める、Summer Studio 2026 ワークショップ「へんてこいきものをつくろう」が現在開催中。日用品や空き箱などから、目が光る不思議ないきものを生み出す。(参加募集は終了)


よしだともふみさんのお気に入りケミカル『フラックス』&『ケミカルペースト』
よしだ

ハンダ付けは溶けたハンダの金属で部品同士をくっつけるんですけど、その時にハンダがくっつきにくい素材があるんです。そこをくっつけやすくするために塗る薬品がフラックス。ハンダ付け作業をうまくやるための薬品ですね。

石川

どういう原理なんですか?

よしだ

本来はハンダでくっつく金属でも、表面が酸化とか化学反応しちゃってると、つきにくいコンディションになるんですね。それを無効化してくれるような薬品なんです。
いろんなフラックスがあるんですよ。ステンレス用のフラックスとかだとステンレスの被膜を壊すような強いものが入ってたり。

石川

ハンダ付けの時は毎回使います?

よしだ

基本セットには入れています。使うのは僕は必要に応じてっていう感じですけど、塗った方が楽だからって最初から塗る人もいますね。フラックスの上に部品を置いて、びっちゃびちゃの状態でハンダ付けする人もいる。

石川

SNSで流れてくる海外の修理動画とかで見たことあります(笑) もうひとつのは?

よしだ

「ケミカルペースト」っていうものなんですけど、すごい名前でしょ?(笑)
カニ味噌のようなペーストです。
はんだごてって、コテ先にハンダのメッキ層を作るんだけど、ずっと使っててコテ先が汚れてきたり焦げてきたりすると、ハンダを弾くようになるんです。
そういうときに、温めたコテ先をこの中にジューってやると、きれいになる。中で膜を作ってくれるのね。

ジューッと
よしだ

で、その後いそいで金ダワシとかで綺麗にして、ハンダを溶かして馴染ませて、コーティングした状態で電源を切る。そうするとコテ先が劣化しないんですよ。直すだけじゃなくて保護の役割もあるの。

石川

メンテナンス用品なんですね。

よしだ

そう。大学でハンダ付けを教えてるんですけど、授業だと一回ハンダ付けをして、次に指示があるまでずっと電源が入りっぱなしだったりするから、加温しすぎて酸化が進んじゃうんです。そうなると買い換えるしかないんですね。
そうならないように、こういうものを使って保護していきます。



よしだともふみさんのお気に入りセメダイン『スーパーXシリーズ各種』
石川

意外と小さいの使ってますね。

よしだ

僕はちっちゃいものくっつけるだけなんで。

石川

何に使ってるんですか?

よしだ

去年の万博で某パビリオンの仕事をやってたんですけど、ちっちゃいセンサーをこれで貼り付けて、ついでに上からもモリモリって埋めて防水も兼ねる、みたいな使い方をしてました。
外に置かれる装置で、ケーブルの結線してるところとかに水が入ってきちゃうと困るんですね。それをふさぐ、シール材的な使い方。

石川

スーパーXだと肉やせ(※注:乾いたときに体積が小さくなること)しないからそういうことができますね。

よしだ

あと、振動が伝わる場所だったんで、シリコン系じゃないとダメだったんですよね。瞬間接着剤とかだとパキって割れちゃうから。ガチガチに固まらないのがいいんです。

石川

他にも肉やせしない接着剤ってありますよね?

よしだ

スーパーXはコンビニでも売ってたりするしね。
あと、僕の持論なんですけど、接着剤は絶対に安物を買っちゃダメなんですよ。接着剤と両面テープ・粘着テープ系は本当に絶対にいいものを買わなきゃダメで。
いいから一流メーカーのやつを買っておけ、っていう感じ。


「いいから一流メーカー(=セメダイン)のものを買っておけ」。セメダインの運営するサイトの記事として都合の良すぎる発言が出てしまいました。決して捏造ではないことをここに申し添えておきます。

次はもっと物理的に大きなもの。空間デザインを手掛けているクリエイターさんです。


3. 岩沢兄弟

いわさわひとし(兄・写真右)、いわさわたかし(弟・写真左)の兄弟による空間デザインユニット。「モノ・コト・ヒトのおもしろたのしい関係」を合言葉に、人や組織の活動の足場となる拠点づくりを手掛ける。瀬戸内国際芸術祭「鬼ヶ島ピカピカセンター」、千葉市美術館「キメラ遊物園」、千葉市市場町の旧料亭を活用したアートプロジェクト「アーツうなぎ(キメラ遊物店)」など。
今年6月、千葉市・亥鼻公園内に「FabCafe Chiba」がオープン。岩沢兄弟は内装設計と家具制作を担当。(公式サイト)
椅子や机はドリンクのコンテナ、ビート板、あまったアクリル板など廃材を利用したもの。


岩沢兄弟のお気に入りケミカル『アセトン』&『除光液』
たかし

なにに使ってるっけ?(笑) でも、なんかよく使うんだよな。

石川

もう無意識の領域。

たかし

作品に廃材を使うので、入ってきたらまずは一旦これで拭いてますね。汚れも落ちるし、表面が綺麗になるし。アセトンって樹脂を溶かすので逆に荒れちゃうのもありますけど、素材を選んで。

ひとし

大工さんも使ってるんですよ。揮発が早いし、油も除去できるから。何か汚れを取る時に向いてるよね。
それにプリントを落とすのにも使います。アセトンで1回拭いて、取れそうだったら、そのまま取っちゃう。

たかし

このヘルメットは自治体からもらったんですけど、自治体名が入ったまま使わないでほしいって言われて。アセトンで拭いたらきれいになりました。

ひとし

溶けちゃうのもあるんで気を付けないといけないけど。

たかし

100均で売ってるミニチュアのスナック看板があって、そこに書いてある文字をアセトンでゴシゴシするとすぐ取れるんです。で、新しいのを自分でUV印刷して使ったりしてました。

ひとし

そんなふうに色々消してたら、消すのが面白いなって思って、こういうことを始めたんですよ。

既製の瓶や花瓶などの模様を一部だけ消す作品、「Scratch (un)built」(これ自体はアセトンで消しているのではなく、表面を削っている)
たかし

近くにあるやつを使う(笑)

ひとし

除光液も要は薄いアセトンなんで、ちょっと塗ってみて影響が起きなければ本物のアセトンを使うということもありますね。

石川

除光液でハサミを拭くっていうのはよく聞きますよね。

ひとし

拭きますね。ノリがついたら拭きます。
あと、こういうののラベル剥がすのにも。ラベル剥がしだと弱いじゃないですか。

「材料についてくるラベル、思った以上に剥がれない」は工作あるあるのかなり上位に来る。


岩沢兄弟のお気に入りセメダイン『木工用』
ひとし

パッケージ見て、「逆さにできて最後まで使い切れる!!」って思って。よくできてると思います。
用途としては普通に木をくっつけるんですけど、このサイズだとワークショップの時にね、ちょうどいいんです。コンビニにもあったかな?すぐ買えるし。

たかし

足りないときに買い足してる、って感じ。

ひとし

あとはほんとに小さい、「ちょっとした補修や設置に行くだけ」みたいな現場だと、大きいボトルからこれに移し替えて持っていったりします。

石川

ポータブルケースとして優秀。

たかし

セメダインのいいところは、セメダインCの箱がかっこいいですよね。昔からある、あれはほんとにいい箱だな。あれとトンボ鉛筆の箱は「カッコいい工場の門柱とか看板」って感じがして好きです。

冒頭、いきなりの「なにに使ってるっけ?(笑) 」には笑いました。使っていることを意識すらしていない、もはや空気のようなものなのかもしれない。

最後の4組目は、すこし毛色が変わった取材先。自分の作品制作を仕事とする作家さんではなく、「みんなに作る場を提供する」側の人たちです。


4. 西千葉工作室

千葉市西千葉にある、ものづくりのためのスペースと道具とアイデアをみんなでシェアするまちの工作室です。木工・洋裁・電子工作などの道具や、デジタルファブリケーション(3Dプリンタやレーザー加工機)など、様々なものづくりの設備や場所を解放。「なんちゃって金継ぎワークショップ」「家電を直す会」「西千葉ヘボコン」など各種DIYワークショップも定期的に開催・運営しています。
ご回答いただいたのは、シニアリサーチャーの近藤さん(左)、プロジェクトマネージャーの永嶋さん(右)
この日は平日の日中でしたが、なにか制作の相談に来ているお客さんが。

西千葉工作室のお気に入りケミカル『洗浄剤など各種』&『UVレジン』
近藤

洗浄剤ですね。電子系のクリーニングは「クイックドライクリーナー」。スイッチ類などの接触が悪くなった時に、これを吹きかけてガチャガチャするとかなり復活します。「パーツクリーナー」はもともと自動車の部品を洗浄するためのもので、強力。メカ部品とかギアとかにべっとり油がついてても、これでジャーってやれば落ちます。

石川

修理したいものを持ってくる方がいらっしゃるんですか?

近藤

イベントとして「家電をなおす会」っていうのをやっているんです。お客さんが自宅から直したいものを持ってきて一緒に直します。まずはクイックドライクリーナーで接点洗浄ですね。カチカチやって「復活するかな」って。

永嶋

他には、シルクスクリーン印刷をするときに版がずれないようにスプレーのりを使うんですけど、そののりを落とすときにも使いますよ。

石川

そうなんだ!5-56は何に使うんですか?

近藤

古いおもちゃの歯車とかで、油が固くなって動きが悪くなりますよね。まず洗浄剤でシュシュッと洗浄して、それだけだと潤滑がなくなっちゃうので、最後は5-56で潤滑を復活させて仕上げます。
隣のIPA(イソプロピルアルコール)は、もっときれいにしたいとき。3Dプリンタのヒートベッド(注:出力物がくっつく台)に樹脂がくっつかなくなったときとかは、これですね。エタノールより安いんです。エタノールって酒税がかかるから。

石川

そうなんですか!知らなかった。西千葉工作室さんといえば、子供もよく来ますよね?

近藤

子供はよくタミヤのギアボックスとかを使うんですけど、ギアの油がケース部分にもついちゃうと接着剤や両面テープがつかなくなるじゃないですか。これで洗浄すると一気につくようになります。

洗浄剤とはまた別ですけど、UVレジンをこういう3Dプリンタで作ったアクセサリーの接着剤として使ってます。

夏祭り用に作ったというバッジ。左の写真の小さいパーツがLED付きの電池ボックス。これをUVレジンを使ってバッジ本体とくっつけて、右の写真のように光らせる。
近藤

光るものだから、透明度が高い方がいいじゃない。だから接着剤じゃなくてあえてレジンを使ってます。接着力は低いけど、パーツがデコボコしてるから、けっこうくっつくんです。UVライト当てれば固まるのも速いしね。



西千葉工作室のお気に入りセメダイン『ハイスーパー5』
石川

陶器用ですか?

近藤

これは「なんちゃって金継ぎ」に使ってるんです。

石川

金継ぎ!

永嶋

割れたお皿の断面の角をV字に落として、ハイスーパー5と砥粉という粉末を混ぜたもので貼り合わせるんです。そのあと継ぎ目に新うるし(塗料)を乗せて、金粉を振るとこうなります。

石川

こんな使い方ができるんですね。

永嶋

接着するときはハイスーパー5を多めに盛ってはみ出させるんです。それをメス刃カッターや紙やすりで削ってから金粉を乗せるんですけど、その削り方にも個性が出ますね。

石川

これはワークショップで実施されるんですか?

永嶋

はい。定期的に開催しています。
参加者もさまざまで、お子さんが学校の課外活動などで作った陶芸作品を、おうちの方が割っちゃって、思い出の品だからどうしても……って直しにいらっしゃったりとか。

石川

それは二重に思い出になりますね!

近藤

一度ワークショップに参加して、楽しくなってまた個人的にリピートで来てくれる方もいますよ。



西千葉工作室では、セメダイン製品の思いもよらない使い方が人気コンテンツになっていました。
こうやっていろんな人にお話をきいてみると、あらためて「あらゆる道具にまだまだ自分が知らない用途があるな!」と思い知らされますね。今までホームセンターの工具コーナーをぶらぶらするのが趣味だったのですが、今後はケミカル類のコーナーが加わり、ショッピングタイムが2倍になりそうです。


ライター:石川大樹
「技術力の低い人 限定ロボコン(通称:ヘボコン)」主催者、雑な電子工作作家。共著書に初心者向け電子工作本「雑に作る」(共著、オライリー・ジャパン)。
本業は編集者・ライター。よみものサイト「デイリーポータルZ」などで編集を担当。趣味はワールドミュージック収集です。
個人ブログ:https://nomolk.hatenablog.com/
Youtube:https://www.youtube.com/@nomolk_report
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