知識・Tips 2023年01月23日

小さな建築「室外機の家」を鑑賞する。

街を歩いていると、たくさんの室外機を目にすることができる。それらを見て感じるのは、「室外機って、愛されてるなあ」ということだ。もとは画一的な工業製品だけど、いろんなデコレーションが施され、持ち主の色に染められていることが多い。

まわりの風景と同化するように、落ち着いた色の囲いを付けられた室外機。温度が高くなりすぎないように、日よけが付けられた室外機、などなど。

そんな「こだわり」を感じる室外機のある風景を集めてみた。眺めていると、きっと室外機が今まで以上に愛おしく感じるはずだ。

室外機は邪魔者なのか?

特に繁華街では、店の数に比例して室外機も密集している。

これを見て「圧巻の光景!」と興奮する人もいれば、「汚い!」と嫌悪感を示す人もいるだろう。

室外機(エアコン)は家電だが、ほかの多くの家電と違うのは、「屋外に設置する必要がある」という点である。なので先の写真のように、否が応でも通行人の目に触れる。

それが時に、周辺の景観を乱すことにもつながるため、なんとかして隠そうとしている光景がよく見られる。

問題。室外機はどこにあるでしょうか?

正解は、犬矢来(いぬやらい。京都の町家でよく見られる、軒下の防護柵)の中でした。

これを発見したとき、その見事な隠しっぷりに感動してしまった。排気ができるよう、犬矢来にはちゃんと隙間が空いていて、景観と機能性が両立している。かなり考えられた設置方法である。

同じく京都の例。こちらは木造建築のトーンに合うよう、木の柵を作って室外機を隠している。

こういうのを見ると、「室外機って、やっぱり邪魔者なんじゃないか!(だから隠すんだ)」って思うかもしれない。でも私はそう思わない。逆に、「愛されてるなあ」と感じてしまうのだ。

室外機にピッタリ合うように作られた、木の外装。言ってみれば一張羅だ。

ミニ庭園風にアレンジされた室外機。風景との調和を考えてハンドメイドされた、この室外機のためだけの小屋である。

木枠とすだれを組み合わせた、涼しげな装い。丸く切り取られた部分に匠の技を感じる。

持ち主にとっては、室外機を隠すことが出発点だったかもしれない。でもここまで手間をかけて、室外機のために尽くしている様子を見ると、その根底にあるのはやはり「愛」だなと思うのだ。

たとえばペットに対しては、犬小屋を作ったり、冬は寒かろうと服を作ったりする。そんな感情に似た無意識の愛が、無機物である室外機にも生じているのでは、と考えている。いろんな室外機を見ていると、それを強く感じずにはいられないのである。

室外機のための小さな家

このような、室外機のために作られた、室外機のためだけの小さな建築、これを「室外機の家」と呼ぶことにしたい。いろんな「家」を鑑賞することで、室外機に対する愛を感じられるだけでなく、趣向を凝らした市井(しせい)の建築に唸ることもできる。街はさながら、室外機の住宅展示場なのである。

ここからは、いろんな室外機の家を愛でていこう。

一番多く見られるのが、景観に合わせて囲いを付ける「囲い型」。一本だけ斜めに掛けられた木に、こだわりを感じる。

こちらの囲いは、互い違いに並べられたデザイン。手前にあるオリーブ色の自転車と共に、店頭の雰囲気づくりに一役買っている。

ここの室外機も、めちゃくちゃオシャレ! ビンテージバイクとの相性も抜群。室外機が存在することがアクセントとなり、一枚の絵のようになっている。

木で作られた囲いに絡まる、たくさんのツタ。まるで、室外機がギリースーツを着ているようだ。

ギリースーツつながりだと、こちらの室外機もすごい。囲いはないものの、見事に風景と調和している。ミリタリー室外機だ。

室外機だけでなく、配管に対する愛もあった。竹筒によって風景と調和する配管。こういう配管カバー、普通に売ってたら買ってしまいそう。

振り向くと、そこに室外機がいた。妖怪のように佇んでいる。

こういう素朴な囲い型もよい。簡単に作ってあるように見えて、かなり手慣れた方の工作とみた。

屋根の傾斜に合わせて作り込まれている囲い。その様子があまりに自然で、ステルス度は高め。

そして、見つけた中で一番ステルス度が高かったのがこちら。室外機が2台あるんだけど、どこにあるか分かるだろうか。偶然なのか、扉のスリットともマッチしていて素晴らしい。

どの室外機の家にも、作った方の想いが感じられて、「邪魔だから隠した」という一言では片付けられないこだわりや情熱が感じられる。「室外機、めっちゃ愛されてるなあ」という、私の気持ちが分かっていただけただろうか。

防御力が高めの、室外機の家

ここまでは、主に「景観との調和」を目的にした家を見てきた。でも家を建てる理由は他にもある。次は「防御」のために作られたと思しき家を見ていきたい。

防御のための家とは、こういうやつのことだ。景観との調和以上に、外敵からの防御に重点が置かれている。もはや装甲である。

鉄仮面を被せられた室外機。家に住むというよりは、幽閉されている?

こんなピッタリな入れ物はないだろうから、これも鉄板と網を使って手作りした家と思われる。手間のかけ方がすごい。

家というより、檻と言った方がしっくりくるものも。

こちらは完全に要塞と化している。室外機に近づくものには、容赦ない鉄槌が下される。

DIY感が高めの家も多い。メタルラックのフレームを組んで、そこにネットを貼り付けたもの。耐衝撃というより、耐生物(猫など)という感じか。

家の軒先に馴染む室外機。植木が置けるうえに防御力も高める、一石二鳥のナイスDIYである。

左がフェンシングで、右が剣道の防具みたいになっている。色が白と黒なのも、コンビ感が強い。

防御力が高く攻撃を当てるのに苦労するが、右側の守備が弱いのでそこを叩くと倒せるタイプのボスっぽい。

前面にただフェンスを置いただけのように見えるが、よく見るとちゃんと後部で固定されている。このためにわざわざ作ったタイプの、手間暇かけた工作物である。

室外機は路上に置かれるという性質上、車が衝突したり、最悪は窃盗のリスクもある。私も実際、ボコボコになった室外機を見たことがあるので、このように防御力を高めるのは有効だろう。

持ち主によって、いろんな防御が施された室外機。期せずして、無個性だった室外機に個性が生まれている。車やバイクをカスタムする感覚に近いかもしれない。ただ、それとは違って既製品のオプションパーツなんてほとんどないので、大多数が自作(DIY)であるというのが特徴的だ。

次は、よりDIY色が強い家々を紹介したい。

素朴な家に惹かれる

室外機の家を鑑賞するということは、それを作った方の個性を鑑賞することでもある。素朴な家を見つけると、室外機への愛を感じると同時に、作った方の人柄も垣間みた気がして、ほっこりしてしまうのだ。

室外機のために、わざわざテントの屋根を付けている。しかも、形がかわいい! 午後のティータイムのような、優雅な雰囲気があって好き。

一方こちらは、トタンで作った簡素な屋根。年代物の室外機にも合っているし、機能美が感じられて良い。

二人でひとつの、相合い傘状態。長年連れ添った老夫婦のようだ。

笠地蔵に出てきそうな朴訥とした笠。夜中に室外機が恩返しに来そう。

乱雑ではあるものの、暑さから室外機を守ってやろうという優しさは感じる。

素朴ながら、家族の一員として扱われ、大事にされている様子が伝わってくる。

小さめの室外機のために作られた、小ぶりな家。無邪気に遊んでいる子どもみたいな印象を受ける。

手前の木と相まって、ログハウスを彷彿とさせる木組みの家。

家を支える三本の足! 崖の上に建っている家って、こんな感じだよなぁ。あと空中で一回転している配管もダイナミック。

最後は北海道で見つけた、冬ごもり室外機。雪に埋もれないようにする配慮だろう。側面に、道具を引っかける取っ手が付いているのも素敵。

ふと自分を省みたとき、ここまで室外機を愛せるだろうか? と思った。家の室外機は、設置工事をしてもらって以来、屋外に放置しっぱなしで特に様子を伺ったりもしていない。

街にあふれる室外機の家を見るにつれ、なんだか自分の室外機への無関心っぷりが気になってきた。家を作るまでは行かないにしろ、たまには本体を拭いて掃除してあげよう……。

借家住まいの室外機たち

最後は番外編。室外機のために作られた家ではないものの、結果的に家みたいになっている風景を集めてみた。いわば「借家」である。ヤドカリみたいに、いろんなところを住処にしている室外機の様子をご覧あれ。

お店のテントの裏に潜む室外機。通気のためにテントが犠牲になって(そして何のお店か分からなくなって)いるが、これでいいのか? かなり室外機本位な状況である。

こちらも同じく、テントの裏に潜む室外機。ほどよいフィット感で、居心地は良さそうだ。

テントの形状からすると、室外機ありきで作られている? 借家じゃなくて、立派な専用住宅かもしれない。

捕らわれの姫と、それを助けようとする勇者。物語性を感じる。

ついに、人間の家の中にまで侵入してきた室外機。もとい、室内機と言うべきか。

私たちが家でぬくぬくと過ごしている間も、過酷な屋外でせっせとがんばっているヤツがいる。その名は室外機。室外でがんばる、縁の下の力持ちである。

こうしていろんな室外機を観察していると、思いのほかたくさんの人が、室外機に対して愛情を注いでいることが見てとれた。これからも人類の良き相棒として、ともに歩んでいきたい。改めて、そう強く感じたのであった。


斎藤 公輔:1983年徳島県生まれ。大阪在住。散歩が趣味の組込エンジニア。エアコンの配管や室外機のある風景など、普段着の街を見るのが好き。「デイリーポータルZ」などで記事を執筆中。


 

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