知識・Tips 2024年06月14日

次世代デバイスに適した導電性接着剤「SX-ECAシリーズ」

はじめに

セメダインでは、変成シリコーン樹脂を主成分とした弾性接着剤スーパーXを主に電材部品の組み立て、固定などに展開している。弾性接着剤とは、硬化後にゴム状弾性体となる性質をもつ接着剤で、これまでの「剛」の物性を高める”硬くて強い接着剤”という考えを180°転換して、”しなやかではがれにくい「柔」の接着剤”であり、剥がれないことをコンセプトに開発した接着剤である。
 
近年、電材部品の接着においては剝がれにくく衝撃に強い弾性接着剤に様々な機能が求められ、様々な機能性接着剤がラインナップされている。本記事では、弾性接着剤に導電機能を持たせた低温湿気硬化型フレキシブル導電性接着剤SX-ECAシリーズに関して、詳しく紹介する。
 

次世代デバイスに向けた導電性接着剤に求められる性能

電子デバイス、モジュールにははんだによる接続が不可欠である。2000年以降、欧州を中心に電気・電子機器に使用されるはんだの人体への影響が懸念され、鉛フリーの接続技術が求められる中、鉛を含まない接着剤による接続が注目され、導電性接着剤の開発が進められてきた。その代表的なものはエポキシ樹脂に銀粒子を分散させた加熱硬化型の接着剤であり、電子部品の接続に広く利用されている。

さらに、近年のIoT(Internet of Things)の普及に伴い、電子デバイスは多様化し、使用環境や素材なども大きな変化が生じており、様々な性能を求められる。その中でもウェアラブルデバイスや屈曲した画面、フォルダブルスマートフォンといった柔軟なデバイスが注目されている。それらを実現するために基材は従来のプリント基板からプラスチック、紙、布など熱に弱い素材へと拡大しているが、高温加熱を要するはんだや加熱が必要なエポキシ樹脂系導電性接着剤は使用できない。また、フレキシブル基板などが適用され、配線やその接続部においても基材の動きに追従するフレキシブルさが求められている。

すなわち導電性接着剤は単なるはんだの代替ではなく、はんだでは実現できない性能を持つ材料として機能することで電子デバイスの可能性を広げる存在でもある。
また当然のことながら電気エネルギーのロスを削減するため、低抵抗な導電性接着剤が求められる。
 

低温硬化・フレキシビリティ・低抵抗を実現した導電性接着剤「SX-ECAシリーズ」

そこで、これまでの課題であった低温硬化・フレキシビリティ・低抵抗を実現した導電性接着剤SX-ECAシリーズを開発するに至った。
  • SX-ECA48:錫触媒を含まず、高粘度で硬化速度が速い。
  • SX-ECA52LL:シリンジ充填品で低粘度であり自動塗布により適している。 

SX-ECA48

低温硬化・フレキシビリティを実現したシリル末端ポリエーテル樹脂

SX-ECAシリーズのベース樹脂であるシリル末端ポリエーテル(Silyl Terminated Poly-Ether、以下STPE)は、図1に示す通り、エーテル骨格を持ち柔軟な硬化物が得られるだけでなく、加水分解性シリル基が空気中の水分と反応し室温でも硬化する特徴をもつ。そのため加熱せずに接着強度および導電特性を発現することが可能である。さらに50~80℃程度の加熱で硬化速度を飛躍的に向上させることができる。 
 

 図1.STPEの構造
 図1.STPEの構造
SX-ECAシリーズの硬化物のガラス転移温度は-60℃以下であり、幅広い温度域で優れた柔軟性を示し、フレキシブル基材へ高い追従性を持つことが他の導電性接着剤と大きく異なる点となる。
 
また、電気・電子機器はそれら構成成分中のハロゲン化合物によってマイグレーションやスズ電極腐食が起きることが知られている。一般的な導電性エポキシ樹脂系接着剤はその工程上、塩素含有量をゼロにできず、低塩素エポキシ樹脂であっても塩素含有量が100ppm以上であることが多い。一方、SX-ECAシリーズの塩素含有量は実測で10ppm以下であるため、腐食等が起きづらく優れた導電耐久性を示す。
 

工程設計の自由度が高く、省エネルギー化が可能

SX-ECAシリーズは室温硬化が可能であることから、加熱を途中で止めた場合も室温で硬化が進行する。従来の加熱硬化接着剤とは異なり、シビアな加熱時間管理を必要としない点も特徴の一つである。室温硬化は工程のエネルギー削減にも貢献する。
 
また、一般的なエポキシ加熱型接着剤は冷凍(-20℃以下)保管であり、保管コストが高いことや使いまわしにくい欠点がある。一方、SX-ECAシリーズの保管条件は冷蔵(10℃以下)であり、保管コストが低く使いやすい。
 

低抵抗を実現したSTPEに適した導電粒子配合

一般的な導電性接着剤は導電性発現のために銀粒子を含有する。図2に銀粒子の配合検討結果を示す。バインダー樹脂がエポキシ樹脂(以下、BPA)の場合、単一形状のフィラーを分散した時、体積抵抗率が小さい。一方、バインダー樹脂がSTPEの場合、異なる形状・TAP密度の粒子を配合することで体積抵抗率が低下する。
 
樹脂の硬化収縮の大小や金属粒子の樹脂に対する分散性の違いを考慮することが導電性接着剤の設計において重要なポイントである。

図2.銀粒子の配合検討結果
図2.銀粒子の配合検討結果

ノイズシールド率 99%以上

近年、デジタル回路の高密度化やそれに伴うIC電源の低電圧化、動作速度の高速化に加え、5G対応製品やIoT関連機器など従来より高周波帯のマイクロ波やミリ波を使う電子機器の開発が活発化しており、電子機器から電磁ノイズ(妨害波)が放出・受信されることを抑え、性能低下や誤作動を起こさないように設計する必要がある。SX-ECAシリーズは1M~18GHzの広い周波数域で、99%以上の高いノイズシールド特性を有する。

シールド特性
特性 SX-ECA48 SX-ECA52LL
シールド特性(dB) > 40 > 60
シールド率(%) > 99.0 > 99.9
 

各種基材に対する良好な接着性

SX-ECAシリーズを用いて一般的な電子部品の電極材と銅ランドとを貼り合わせた場合の引張せん断接着強さを図5に示す。SX-ECAシリーズは、金や銅、スズ、MAM、Niなどの金属だけでなくITOやガラスに対しても良好な接着性を有しており、接着剤としても幅広い各種基材に対して使用が可能である。

 チップ備品接着荷重(N)
基板 使用チップ SX-ECA48 SX-ECA52LL
Cu Sn(3216) 6.5 10.5
Cu Au(1608) 1.4 4.2
ITO Sn(3216) 4.8 7.0
MAM Sn(3216) 4.7 8.3
Ni Sn(3216) 3.6 5.6
ガラス Sn(3216) 6.4 9.1

SX-ECAシリーズの使用例

SX-ECAシリーズは、低温硬化性から基材への熱ダメージを緩和し、低抵抗性を有していることから印刷による配線形成、基板の補修や不具合修正、カメラモジュールやディスプレイのノズルシールなどに使用される。
 

最後に

SX-ECAシリーズの低温湿気硬化性・フレキシビリティ・低抵抗・幅広い部材へ接着性を示す特徴は、はんだやエポキシ樹脂系導電接着剤では実現できなかった製品設計を可能とする。SX-ECAシリーズが電子デバイスの可能性を広げ、面白い製品や便利な製品が生み出されることを望んでいる。
 

  • SX-ECA48 135ml

    SX-ECA48

    低温硬化が可能で、振動やヒートショックなどに対し優れた耐久性を有する導電性接着剤です。

 

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