知識・Tips 2021年04月21日

80年前のセメダインCとネットがつなげた多くの人の想い セメダインの歴史に迫る奇跡の大発見【前編】

2020年の夏から秋にかけて、ちょっとした奇跡がありました。その奇跡は、およそ80年前のものと思われるセメダインCが、石川県にある古民家で見つかるところから始まります。そこから3カ月ほどの間に、存在だけが知られ、現物も写真も残っていないとされていた製品が次々と発見されたのです。ものづくりへの情熱や、価値をわかる人にものを届けようとする想い、それらを繋ぐ優しさに包まれたネットの力。その中のどれか1つでも欠ければ、今回の奇跡は起きなかったかもしれません。セメダインの歴史の謎を解くカギになるかもしれない大発見の話を、3回に分けてレポートしていきます。

堅苦しく始まりましたが、そんなに難しい話ではありません。物を大切にしておくと遠い未来で何かいいことがあるかもしれない、ぐらいの優しい話なので、安心してお付き合いください。

古民家から発見された80年前のセメダインC

2020年の8月初旬。Twitterにこんな写真が投稿されます。

こちらは東京在住の佐藤さんが投稿したもの。佐藤さんは、東京での仕事だけでなく、石川県の海辺の町で古民家を改装した宿泊施設も運営されています。古い物に対する興味、関心が強く、ご両親の実家が日本海側の海沿いの町だったこともあり、海に近い古民家で暮らしてみたいと昔から考えていました。そんな時、たまたまインターネットで見つけた物件を気に入り、家族の大反対はあったものの、地主の方から譲っていただいたそうです。

佐藤さんの所有する古民家

30年近く空き家となっていた古民家は、大規模な改修や清掃が必要でした。訪れるたびにおこなっていた清掃作業時に、奇跡の始まりとなる古いセメダインCを発見します。

古民家内部の様子

佐藤「仏壇脇の収納を片付けていたときです。普段使いの物がガサガサと入っている収納で、古新聞や古雑誌に紛れて、古い蚊取り線香の箱を見つけました。その中に、セメダイン C が説明書と一緒に入っていました。当初は未使用だと思ったぐらい状態は良かったのですが、よくよく見たら使った跡がありました。おそらく、当時は珍しいものだったので、買って 1 回使ってみて、使い方を忘れないように説明書と一緒に保管していた。そして、そのまま忘れ去られた。そういう感じで入っていました。」

発見されたセメダインC

セメダイン社は、1923年(大正12)の創業です。創業者の今村善次郎氏が、動物の骨などから作る「にかわ」を主成分にした接着剤「セメダインA」を製造販売したことからその歴史は始まります(「今村商店」後に「株式会社今村化学研究所」、「セメダイン株式会社」に社名変更)。セメダインの最初の接着剤は天然系の素材で作られていたのです。

セメダインAは、天然素材を使用していたため、耐水性、耐熱性が低いという弱点がありました。その弱点を克服した新たな接着剤として、日本最初の合成接着剤のセメダインCが1938年から販売されます。それから約80年以上、ほとんど成分を変えることなく、象徴的なCのロゴもそのままに作られている、ロングセラー商品なのです。

文字や言い回しに歴史を感じる説明書

古いセメダインCを見つけた佐藤さんは、ある考えが浮かんできます。

佐藤「見つけたときは、外観も良好で痛みもなく、直感で貴重なものが出てきたと思いました。貴重だとは思うものの、価値が分かる人でなければ有効活用できません。セメダイン社はものづくりをサポートする会社なので、寄贈すれば一番価値を見出してもらえるのではと考えました。古い資料としての価値以外に、例えば、長い年月で接着剤の成分がどう変質しているかを研究することができるかもしれない。ただ、本当に寄贈するべきものなのかどうなのか判断する必要がありました。」

8月の後半。佐藤さんは、Twitterでセメダイン公式アカウントに問いかけてみます。すると、セメダイン社のアカウントが返答しました。発見されたセメダインCが、説明書に書かれた「新發賣」という表記や、「¥.30 ¥.5(略」という販売価格から、約80年前の発売当初のものと判明します。このツイートには1万以上ものいいねがつき、広く拡散されました。ネットニュースにもなって、大きな話題となります。

佐藤「問いかけにはいくつか狙いがありました。まず、価値の保存ができるところに届けること。もう 1 つ、他の企業にも同様の事例があった時に、寄贈しやすい流れを作ること。価値が無いように見えるものも、価値を見出して大切にする人に届けられれば続いていきます。私も価値が無いと思われていた空き家に対して、自分が評価をして、再生して活用しています。消耗品のような、沢山あって家庭に広まっているものは、企業には残っていなくて、市場に残っているケースもあると思います。今回の件で、ネットを活用する形で、実際に寄贈できるという流れが作れたと思います。それを広く知ってもらえたのはよかったです。」

寄贈される80年前のセメダインC

佐藤さんが、価値の保存ができるところに届けたいと思うようになったのは一つのきっかけがあります。

佐藤「何度か会ったことのある人でしたが、1960年代後半に、軽自動車で世界を1周した山本つよしさんという方がいて、旅行記が本になっていたので読みました。その本に感銘を受けて、世界一周した車を譲って欲しいとお願いしたんです。僕が前代未聞の世界を二周させる軽自動車にすると。熱意と共に整備技術や自身の考えを伝えて。しかし、その車は 譲り先がなかったので、メーカーに寄贈されていました。確認をしてもらったところ、寄贈された車はメーカーの研究開発部門の倉庫にしっかり保管されていたそうです。とても素晴らしいことだなと思いました。生産者に寄贈するという、価値の保存の方法があるのだと知りました。」

こうして、セメダイン社に里帰りした80年前のセメダインC.ですが、ここからネットの力により、さらなる展開をみせます。長年、幻と言われていた製品の現物が、わずか1か月ほどで発見されました。(取材・文 馬場吉成)

中編に続く!


ライター:馬場吉成

工業製造業系ライター。機械設計や特許関係の仕事を長らくやっていましたが、なぜか
今は工業や製造業関係の記事を専門とするライターに。企業紹介、製品紹介、技術解説
など、製造業企業向けのコンテンツを各種書いています。料理したり、走ったりして書
いた記事も多数あり、別人と思われることも。学生時代はプロボクサーもやっていまし
た。100kmぐらいなら自分の足で走ります。http://by-w.info/


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