知識・Tips 2021年04月23日

80年前のセメダインCとネットがつなげた多くの人の想い セメダインの歴史に迫る奇跡の大発見【中編】

2020年の夏から秋にかけて、ちょっとした奇跡がありました。その奇跡は、およそ80年前のものと思われるセメダインCが、石川県にある古民家で見つかるところから始まります。そこから3カ月ほどの間に、存在だけが知られ、現物も写真も残っていないとされていた製品が次々と発見されたのです。ものづくりへの情熱や、価値をわかる人にものを届けようとする想い、それらを繋ぐ優しさに包まれたネットの力。その中のどれか1つでも欠ければ、今回の奇跡は起きなかったかもしれません

セメダインの歴史の謎を解くカギになるかもしれない大発見の話の第2回。ネットの力で幻の製品が発見されます。

▼前編はこちら▼

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ネットニュースを見た方から幻の製品が寄贈される

80年前のセメダインCの発見がネットで話題になってから1カ月ほどたった9月の終わり。新たなニュースが飛び込みます。なんと、その存在自体が謎とされていた、セメダインBの現物が発見されたのです。

 

セメダインB。未開封品だが、既に固まっている。

セメダインBについては、セメダイン社内でも、現物はもちろん資料もほとんど残っていません。社史の中に1行だけ、「戦前・戦時中、Cと同時期に売られていた」と書かれているだけです。古い包装などをみると、かつてはセメダインA、B、Cの各商品があったことは確認されています。はじめに「セメダインA」があり、その後BとCが出たとなってはいますが、実はこの順番ではなかったのではなないかという説もあるぐらい。Aは、にかわを使った天然系素材の接着剤でしたが、Bについては素材についてもわかっていません。とにかく謎の存在でした。

 

セメダイン社に残るセメダインBのラベル写真

そして、さらに驚くことに、セメダインの名前の由来にもなったとされるイギリス製の接着剤「メンダイン」の実物も発見されます。セメダインは、接合材であるセメント(CEMENT)と力の単位を表すダイン(DYNE)との造成語です。これとは別に、セメダインが発売された大正時代に広く流通していたメンダインに対し、市場から「攻め(セメ)」出すという意味で、「攻め(セメ)出せ、メンダイン」からも名前がつけられています。

メンダインは、かつて販売されていたことは確かなものの、現物は今までどこからも見つかってなかったため、謎の存在でした。その現物があっさり国内から見つかったのです。

 

メンダイン。こちらも未開封だが固まっている。

発見のきっかけは、ネットで80年前のセメダインC発見のニュースを見た、福岡県に在住の向江さんからの連絡でした。通信関係のお仕事をされている向江さんは、若いころから電子機器の組み立てや木工などを趣味としていて、自作でオーディオアンプなどを作っています。その趣味の延長で、真空管を使った古いラジオを組み立ててみようとした、今から10数年前の2000年代半ば。部品を入手するため、ネットオークションに遺品整理で出品されていた、古いラジオ部品が入った箱を落札します。

 

落札した部品類の写真(向江さん提供)

向江「古い木箱に、ビッチリと部品が詰まっていました。割と上の方に2つが入っていて、セメダインBって書いてある。私も子供の頃、ご多分に漏れずプラモデル作るのが好きで、セメダインCには相当お世話になった世代です。Bということは、多分前のバージョンだろうということで、軽く考えていました。とりあえず、貴重なものかもしれないので、そのまま10数年。箱に入れて取ってあったんですが、ネットのニュースを見て、ちょっと待てよと。自分の持っているのは、確かBだったじゃないかなと思って。やっぱりそうだということで、セメダイン社へ連絡しました。」

2000年代前半ころは、SNSが始まったばかり。今のように情報が拡散するなんてことはほぼありません。時代の移り変わりとともに、埋もれていた情報が広く知られる機会が増えました。

 

数十年前の代物だが、状態は良好。

向江「入っていたラジオ部品は、日本の有名メーカーのもので、ほぼ新品の部品ばっかりでした。部品の古さからみて、前の持ち主は明治生まれの方じゃないかなと思います。その時代にラジオを趣味にしていた方だから、結構な家の方だったのかもしれません。メンダインも、輸入品だから結構な値段だったと思います。」

長い間放置されてホコリをかぶっていたものありましたが、どの部品も綺麗な状態で収められていたそうです。必要な部品があれば、ネットで注文して最短翌日には届くという現代とは異なります。大切に保管して使われていたことが想像できます。

 

向江「セメダインBもメンダインも、私が持っていても、持っているだけで、私が死んだりしたら多分捨てられる。こういうのは消耗品なので、価値は伝わらない。そうであれば、里帰りをさせてあげた方が幸せなのかと思いました。工業製品としての資料的な価値っていうのが、多分あるのではないでしょうか。」

こうして、セメダインBがメンダインと共に、里帰りを果たします。ネットでセメダインC発見のニュースが拡散していなければ、このセメダインBとメンダインは、このまま忘れられ、やがて廃棄されたかもしれません。大切に保管され、ネットにより情報が届いたことで、また日の目を見ることができたのです。

 

そして、話はまだ終わりません。さらに1か月ほどして、またしても驚くべきものが発見されます。戦前から戦後にかけて、グライダーと模型飛行機の開発と普及に尽力された人物の遺品から、瓶入りのセメダインB、Cが出てきたのです。(取材・文 馬場吉成)

後編に続く!▼

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ライター:馬場吉成

工業製造業系ライター。機械設計や特許関係の仕事を長らくやっていましたが、なぜか
今は工業や製造業関係の記事を専門とするライターに。企業紹介、製品紹介、技術解説
など、製造業企業向けのコンテンツを各種書いています。料理したり、走ったりして書
いた記事も多数あり、別人と思われることも。学生時代はプロボクサーもやっていまし
た。100kmぐらいなら自分の足で走ります。http://by-w.info/


 

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