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知識・Tips
2024年03月31日
これからの自動車のアルミニウム化〜日本アルミニウム協会が示すビジョン(軽金属学会事務局長 櫻井健夫氏)【後編】
環境への負荷を減らそうと自動車のアルミニウム化が進められてきました(詳細は、前編「専門家に聞く自動車のアルミニウム化〜技術開発」参照)。その結果、車体は軽くなり電気自動車や燃料電池自動車の航続距離は伸びました。「これまでは、車体の軽量化が目的となっていましたが、これからは『真の意味での環境負荷低減』について考えなければならない」と話すのは、軽金属学会事務局長の櫻井健夫さん。神戸製鋼所で30年以上にわたり自動車用のアルミニウム開発と事業戦略に携わってきました。日本アルミニウム協会の自動車アルミ化委員会の元委員長でもある櫻井さんに、同協会が打ち出す「アルミニウム VISION 2050」の話を交えながら、これからの自動車のアルミニウム化についてお話を伺いました。
取材・執筆:サイテック・コミュニケーションズ 大石かおり(ライター)
本当に脱炭素化してる?−Tank to WheelとWell to Wheel
—自動車を軽くするためにアルミニウム化が進められてきたというお話を伺いました。
アルミニウム化によって車体は軽くなり、電気自動車や燃料電池自動車の航続距離の向上が期待されます。また、これらの自動車はガソリンを燃焼させないため、二酸化炭素を排出しない「ゼロエミッションカー」となります。このとき考えているのは、「Tank to Wheel(自動車の燃料タンクから車輪を動かし、移動して目的地に到着するまで)」つまり自動車のエネルギーのみです。しかし、それでは真の意味で脱炭素化しているとは言えません(図1)。
真に脱炭素化を達成するには、電気自動車に使う電気がどのようなエネルギーを使って発電しているのかまで考慮しなければなりません。再生可能エネルギーや原子力発電の電気を使うのなら脱炭素化していると言えますが、火力発電では、結局、電気をつくる段階で二酸化炭素を排出しています。この考え方が「Well to Wheel」です。日本の場合は、まだ、天然ガスや石炭を燃料とした火力発電の割合が高いので、電気自動車にしたからといって、真の意味で脱炭素化にはならないと考えられます。
アルミニウム製造工程まで考慮した脱炭素化
—アルミニウムは製造時に電気を大量に使うという話もありますが・・・
確かにアルミニウムは製造時に大量の電気を使います。しかし、それだけに、いったん製錬したアルミニウムを何度も繰り返し利用するリサイクル技術が早くから発達してきました。例えば、飲料缶はリサイクル工程に乗れば、ほぼ100%飲料缶に再生できます。2022年には、すでに70.9%と非常に高いリサイクル率を達成しています。(参考:http://www.alumi-can.or.jp/publics/index/98/)
飲料缶の胴は3000系合金(Al-Mn)で、蓋の部分は、強度と成形性、耐食性に優れた5000系合金(Al-Mg)でつくられています(写真1)。蓋と本体を分けずに融かしても飲料缶の胴の材料としてリサイクルできます。これは、缶胴部分は飲料缶用に開発された3000系でリサイクルしても問題ない合金成分になっているから成り立っています。飲料缶から飲料缶へという理想的なリサイクル工程ができているのです。
—自動車用のアルミニウムもリサイクルできるのですか。リサイクルされてはいますが、問題を抱えています。自動車のエンジンブロック、トランスミッションケース、ホイールなどではアルミニウム合金を融かして型に入れて成形した「鋳物」が使われていますが、パネルや構造部材では圧力をかけて延ばしたり引っ張ったりして成形した「展伸材」が使われています。ホイールなどのアルミニウム合金鋳物はリサイクルできていますが、自動車パネル部品などに使用されているアルミニウム合金展伸材は、接合などで利用されている鉄部品が混入しただけでも弊害となるため、要求特性を満足するためにはどうしても新地金を使用して製造しなければなりません。自動車用部品になってからのリサイクルはほとんどできていないのです。一部のアルミニウム合金展伸材は再利用された鋳物部品となっています。つまり「カスケードリサイクル」されています。
—では、どのようなリサイクルを目指しているのでしょうか。
アルミニウム合金展伸材をアルミニウム合金展伸材にリサイクルしたいわけです。それには、自動車に6000系合金と5000系合金を混在させないことが重要です。5000系合金には4.5%程度のMgが入っています。一方で、6000系合金に含まれるSiやMgの量は1.0%程度です。両者が混ざってしまうと、6000系の組成に調整するために大量に新しいアルミニウム地金を加えなくてはなりません。それでは、アルミニウム製造時の電気使用量の削減効果が低くなってしまいます。
—では、どのようなリサイクルを目指しているのでしょうか。
アルミニウム合金展伸材をアルミニウム合金展伸材にリサイクルしたいわけです。それには、自動車に6000系合金と5000系合金を混在させないことが重要です。5000系合金には4.5%程度のMgが入っています。一方で、6000系合金に含まれるSiやMgの量は1.0%程度です。両者が混ざってしまうと、6000系の組成に調整するために大量に新しいアルミニウム地金を加えなくてはなりません。それでは、アルミニウム製造時の電気使用量の削減効果が低くなってしまいます。
リサイクル性まで考慮して、自動車では6000系合金のみを使用するユニアロイ化が理想的です。
—なぜ5000系合金のみではなく、6000系合金のみにするのでしょうか。
6000系は前述の通り、添加元素であるMgとSiの量がそれぞれ1.0%程度と添加量が少ないことから、圧延などの製造工程時に必要なエネルギーが少ないというのも6000系が選ばれる一因です。また、成形性の良さが5000系の特長でしたが、6000系でもシミュレーションを活用して金型の形状を最適化するなどの技術が進み、成形性が向上しています。
—リサイクル性を上げるためにどのような工夫が必要なのでしょうか。
リサイクル材になった段階で、多少の不純物が混ざっていても、高品質のアルミニウム展伸材にリサイクルできるような技術開発が進んでいます。一方で、リサイクルによって金属組織が変わり接合性が変わってくる可能性があるため、接着に注目が集まっています。
—なぜ5000系合金のみではなく、6000系合金のみにするのでしょうか。
6000系は前述の通り、添加元素であるMgとSiの量がそれぞれ1.0%程度と添加量が少ないことから、圧延などの製造工程時に必要なエネルギーが少ないというのも6000系が選ばれる一因です。また、成形性の良さが5000系の特長でしたが、6000系でもシミュレーションを活用して金型の形状を最適化するなどの技術が進み、成形性が向上しています。
—リサイクル性を上げるためにどのような工夫が必要なのでしょうか。
リサイクル材になった段階で、多少の不純物が混ざっていても、高品質のアルミニウム展伸材にリサイクルできるような技術開発が進んでいます。一方で、リサイクルによって金属組織が変わり接合性が変わってくる可能性があるため、接着に注目が集まっています。
また、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクト「アルミニウム素材高度資源循環システム構築事業」では、リサイクルされるアルミニウム合金の中から高品質なものを選別する技術や、不純物を除去できる溶解工程などの開発が進められています。
—アルミニウムをリサイクルするとどのくらい環境負荷を低減できるのですか。アルミニウムの新地金を1キログラム製錬すると、温室効果ガスの発生量は二酸化炭素相当で11.1キログラムです。リサイクル地金なら0.45キログラムですから、95%以上の温室効果ガス削減効果が見込めます。この数字からもアルミニウムのリサイクルの重要性をわかっていただけると思います。
自動車用アルミニウムの将来展望−日本アルミニウム協会「アルミニウム VISION 2050」
—今後、アルミニウムの環境負荷低減はどの程度進むとお考えですか。
日本アルミニウム協会は2020年9月に「アルミニウム VISION 2050」を策定しました。その中で、アルミニウム製造時の省エネや、使用後のリサイクルを徹底して、2050年までにアルミニウム製造工程の二酸化炭素排出量を2017年比の78%削減を目標にしています。
先ほどお話しした、アルミニウム合金展伸材の循環使用率も、2020年は10%ですが、2030年に30%、2050年には50%を目指しています。
—自動車のアルミニウム化についてはどのようにお考えですか。
—自動車のアルミニウム化についてはどのようにお考えですか。
「アルミニウム VISION 2050」では、日本のアルミニウム需要の試算も発表しています(図2) 。それによると、輸送用機械分野でのアルミニウム需要は2050年に向けてまだ伸びるとされています。2021年の輸送用機械のアルミニウム需要では、95%以上が自動車用でした。2050年に向けた輸送用機械の需要の伸びも自動車のアルミニウム化によるところが大きいでしょう。
これから技術開発が必要ですが、2050年のカーボンニュートラルには自動車のアルミニウム化も大いに貢献できると考えています。
これから技術開発が必要ですが、2050年のカーボンニュートラルには自動車のアルミニウム化も大いに貢献できると考えています。
取材・執筆:サイテック・コミュニケーションズ 大石かおり(ライター)
写真撮影:盛 孝大
サイテック・コミュニケーションズ:
サイテック・コミュニケーションズ:
日本科学未来館開設時の展示制作に関わったメンバー4名によって設立。以来、新しいメンバーを加えながら、科学研究や技術開発の情報を、「オモシロイ!」「スゴイ!」と感じられる形にして世界中にお届けしたい、という思いで活動しています。
https://scitechcom.jp/
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