知識・Tips 2023年04月17日

【物撮りTikToker ゆーいちさん】光や小道具の力を借りて、アイテムの世界観をふくらませていく

日用品やコスメ、飲食物といったアイテムの撮影を指す専門用語「物撮り(ぶつどり)」。フォトグラファーのゆーいちさんは、2022年3月からTikTokにて、そんな物撮り動画を公開している。身近なアイテムがときにはかっこよく、ときにはオシャレに撮られてゆく様子が楽しめる動画で、ファンも増えてきているところだ。写真をはじめた経緯やアイテムの魅力を引き出す撮り方を聞いた。
(取材・文 菅原さくら/物撮り写真提供 ゆーいち)

SNSでアウトプットすれば、面白いポートフォリオに

さまざまなアイテムの写真を撮り、その工程をTikTokに公開しているゆーいちさん。彼はまだ、カメラマンになって2年にも満たないという。大学を卒業してからのファーストキャリアは、プロレスの興業を扱う会社。そこで臨場感ある試合写真などにふれるうち、カメラへの興味が徐々にふくらみ、写真を学ぼうと撮影スタジオに転職した。

「最初は、人物を撮影するつもりだったんです。でも、入ったスタジオが6:4くらいの割合で物撮りに力を入れていて。カメラマンになるまで詳しく知らなかった世界でしたが、さまざまな現場に携わるにつれ、物撮りの面白さにのめりこんでいきました。
しかも人物の撮影では、被写体とのコミュニケーションがとても大切なんですよね。だけど、僕はカメラを持つとそっちに集中してしまうし、場を盛り上げるようなおしゃべりがあんまり得意ではないんです(笑)。その点、物撮りは黙って集中しほうだい。手をかければかけるほど仕上がりも変わるし、光の入れ方や背景の組み合わせなど、自分のスキルとセンスを組み合わせてとことんこだわれます」

とはいえ、アシスタントだけしていても、カメラマンとしての実力はそう簡単に上がらない。「職場で学んだことを家で練習してはいたものの、アウトプットの機会が圧倒的に足りなかった」と、ゆーいちさんは言う。そこで、少しでもバッターボックスに立つ機会を増やすべく、スキルアップのために始めたのがTikTok。スタジオに就職してから、まだ半年しか経っていないときのことだ。

「前職では、広報としてTikTokの運用を担当したこともありました。そのときも未経験だったけれど、セミナーなどにたくさん通って、目立つ動画の撮影や編集のテクニックを勉強したんです。TikTokで物撮り動画を投稿するなら、そうした前職の経験も活かせるはず。それに、いずれ独立するためにはスタジオの仕事と並行して、自分の地盤をつくっておかないといけません。TikTokなら、ちょっと面白いポートフォリオがつくれると考えました」

まずは、海外のフォトグラファーなどがアップしている物撮り写真や動画を見て、自分なりに再現してみるところから。少しずつアイテムを変えて、自分らしく発信していこうと考えた。

インスピレーションを受けたら、まず手を動かしてみる

投稿動画が5件を超えたころから、ゆーいちさんの元には物撮りのリクエストが届くようになった。「ハンドクリームを撮って」「日焼け止めがいい!」「缶コーヒーを使ってください」など、コメント欄ではフォロワーのさまざまな声がとびかう。そのなかから面白そうなアイテムを選んで撮影するのが、近ごろの流れだ。

「いただくリクエストを見たとき、完成イメージがぱっと浮かぶものと浮かばないものがあるんですよね。自分がとても得意だなと思っているのは、缶とコスメ。形がしっかりあって固いもののほうが撮りやすいし、勤務中にスタジオでもよく扱うため、引き出しが多いんだと思います。それに、TikTokの撮影は自宅でしているから、洋服みたいに大きなものを撮るスペースもないんです(笑)」

もちろん、あえてイメージが浮かばないものにチャレンジすることもある。空き缶を撮ったときは、中身が入っていたらできない撮り方にしようと考えつつ、細かい構成がなかなか思いつかない。金属のキューブを使ってみたかったこともあり、ひとまずそれを触りながら組み立てていくうちに、なんとか形になった。

@yuichi_cam_ @k.noa.0323に返信 空き缶を撮ってみました!! #缶コーヒー #物撮り #ココロオドルほうで ? ココロ、オドルほうで。 - meiyo

「そんなふうに『この小道具を使いたい』『こういうセットを組んでみたい』から生まれた写真もたくさんあります。たとえばレッドブルは、ライトを使ってインパクトある背景を作ってみたかったんです。でも、背景が強いなら、それに負けない被写体を選ばないといけない。パワフルな印象のレッドブルならいい効果を生むだろうと思って、こうなりました」

@yuichi_cam_ @チロルチョコ??に返信 レッドブル撮ってみました!!???#レッドブル #RedBull ? Chu,Tayousei. - ano

TikTokを始めてから、ゆーいちさんはホームセンターや100均に立ち寄る機会が増えた。アイテムの世界観を作り込むために、小道具は大いに役立つ。木の枝にブロック、色紙、造花、石、布……使ってみたい小道具は増えるばかりで、なかなか撮影が追いつかないという。

光や動きにこだわって、写真をいきいきと見せる

そして、ゆーいちさんがアイテムの魅力を引き出すために最も心を砕いているのは、ライティングだ。

「写真は平面で見るものですが、だからこそ、のっぺりした印象になってしまうのはもったいないと思っています。アイテムがちゃんと立体的に見えるように、陰影を際立たせたり、ちょうどいいバランスで光を入れたりしてあげなくてはいけません。難しいのは、ジュエリー系。とくに丸みを帯びている宝石は反射が多くて、周りが写ってしまうことも気になるし、光の入れどころも悩むんです。光っていない写真と光っている写真を別々に撮って、あとから組み合わせることもあります。

それから、地味だけどとても大切なのは、アイテムがゆがまないように撮ることです。俯瞰で撮影するとき、カメラがしっかり真下を向いていないと、写真は簡単にゆがんでしまうんですね。あとからレタッチでなんとかなる部分もあるけれど、基本的には現場できちんと正対をとってセッティングするようにしています」

ゆーいちさんの物撮りは、動きを感じさせる写真も多い。とろりと溶けたチョコレート、跳ね上がる水しぶき、キンキンに冷えた缶がまとう冷気の煙。いずれも、ゆーいちさんが手作業でつくり、写真で切り取った「人工の動き」だ。

「動きがある場面をちゃんと見せることは、TikTokの基本です。たとえばオレオの写真では、いびつに重ねたオレオの上から、牛乳をかけています。じつは海外の写真で、もっとバシャバシャに牛乳をかけているものがあって……でも僕は自宅で撮っているから、そんなに激しくかけたらあとが大変じゃないですか(笑)。そこで気持ち控えめにかけていったら、それが逆にちょうどいい塩梅に仕上がりました」

@yuichi_cam_ @あに返信 オレオを撮ってみました!!??#オレオ #OREO ? ぱ ぴ ぷ ぺ POP!(ミルクで乾杯~サビ ver.) - Appare!

雫のように接着剤が垂れる、その一瞬を狙う

今回、セメダイン社の「スーパーXゴールド」をゆーいちさんに撮影してもらった。

「最初に商品を見たとき、このチューブから透明な液が一滴垂れていたらかっこいいと思いました。そこで、まずは黒バックできりりと引き締めながら、商品全体を撮っていきます。チューブの角の部分にエッジを効かせるために、上から強めの光を当て、下からレフ版で反射させて。それだけだとチューブのおしり側が背景に溶け込んでしまうから、おしり側にもライトをひとつ用意して、立体感を出しました」

おしり側に足す最適なライトを見極めるため、硬い光と柔らかい光を当て比べてみる。右側の柔らかい光のほうが、チューブの質感がよく出せていると感じ、採用した。

本体カットを押さえたら、次に出し口部分の撮影だ。接着剤を垂らしているカットと垂らしていないカットを撮り、あとで2枚を組み合わせる。接着剤が意外とやわらかく、垂らし具合には少々苦労したという。雫のように美しく見えるよう、絶妙な量を押し出して自然と垂れるのを待つ。


「接着剤というアイテムは、日常でいろんなものを直したり、くっつけたりしてくれるもの。だからあまり仰々しくならないよう、だけど頼れる感じを演出してみました。完全に真っ黒な背景だと動きが足りないので、最後にパソコンで光の素材をくわえています」

仕上がった写真を見て、セメダイン担当者が一言。「うちの子がショースターみたい……」――ゆーいちさんに、ポテンシャルを存分に引き出された結果だ。

物撮りフォトグラファーとしての腕を、磨いていく

ゆーいちさんに、アイテムの魅力が一番引き出せている状態は、どんな状態か? と尋ねてみた。

「アイテムのイメージと光や背景、小道具などが調和していて、なにも違和感がない状態だと思います。いろんな手がくわえてあっても、最初に目がいくのはメインのアイテム、という写真が好きですね」と、微笑む。

TikTokでさまざまなアイテムを撮ってきたことで、本業のスタジオカメラマンにもいい影響が出ている。クライアントのオーダーに対して、どのように撮ればそのイメージになるのか、なんとなくでも方法がわかるそうだ。すべての工程がスムーズに進み、思いどおりの写真が撮れる頻度も少しずつ増えてきた。

「これからは『物撮りフォトグラファー』として地位を確立できるよう、さらにがんばっていくつもりです。そのためにもTikTokは大切なツール。今年は本業と同じくらい力を入れてフォロワーさんを増やし、年末のTikTok Awards Japan入賞なども狙っていければと思っています。その先で目指すのは、大きな広告の撮影などもできるフォトグラファー。自分がイメージした写真を、いつも完璧に撮れるようになっていけたらうれしいですね」


ライター:菅原さくら
フリーランスのライター/編集者/雑誌「走るひと」チーフなど。1987年の早生まれ。北海道出身の滋賀県育ち。早稲田大学教育学部国語国文学科卒。
インタビューが得意で、生き方・パートナーシップ・表現・ジェンダーなどに興味があります。メディア、広告、採用などお仕事のジャンルはさまざま。
6歳3歳の兄弟育児中。高校生のときからずっと聴いているのはBUMP OF CHICKENです。
https://www.sugawara-sakura.com/

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