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ものづくり
2018年10月19日
株式会社ALE代表・岡島礼奈さん「人工流れ星を、有人宇宙船並みの安全性で届けます」
2001年、大学で天文学を専攻していた岡島礼奈さんは流星群を見に出かけた。シャワーのように流れ星が降ることを期待して。だが実際に見た光景は、思い描いた流星群とは異なっていた。岡島さんは考えた。「流れ星の元は塵。だったらシャワーのような流れ星を自分で作れるんじゃない?」それから約20年、モノづくり集団と確実な技術を手に入れ、自ら流れ星を降らせようとする。ALE代表・岡島礼奈さんを訪ねた。
天然の流れ星よりゆっくりー願い事を3回言える!
林
改めて、人工流れ星のプロジェクトをざっくり教えてください。
岡島
人工衛星の中に、流れ星の元となる直径1㎝ほどの金属の粒を入れて、ロケットで打ち上げます。人工衛星から流れ星の粒を放出すると、粒は地球を六分の一周ほど飛んだあと大気圏に突入します。高度80㎞ぐらいから燃え始めて60㎞で燃え尽きますが、それが流れ星として見えるんです。
林
自然の流れ星とどう違うんですか?
岡島
天然の流れ星は地球軌道の外、つまり遠くから飛んでくるので、早いんです。秒速約15㎞、早いものだと秒速100㎞ぐらいのものもあります。人工流れ星はもっとゆっくりです。
林
流れる時間はどのくらいですか?
岡島
我々の人工流れ星は5秒~10秒ぐらい流れるのではないかと。天然のものは1秒以下。「あれ、今の流れ星だよね?」ってなりますよね(笑)
林
いつも願い事を3回言えないんですよね(笑)。
岡島
我々はやはり、3回言いたいなと。
林
流れる時間を長くしたいと思えば、できるんですか?
岡島
計算でできますね。燃え尽きるまでどれくらいの秒数にするか、明るさとの兼ね合いなんです。一気にわっと流した方がやはり明るいのですが、エンジニアが試行錯誤しているところです。天然の流れ星は連続でも最大2個しか私は見たことがないですが、5個ぐらい一緒に流れるようにしようとしています。
岡島
今は色を変えようとしていて、青と緑とオレンジができています。
林
色が出るとまた華やかになるでしょうね。何を変えると色が変わるんですか?
岡島
材料です。ピンクは出したいと思っています。可愛いですよね。
林
ウェディングに使えそうです!どのくらいの時間や場所の精度で、人工流れ星をオーダーできるんですか?
岡島
人工衛星を打ち上げると、どの軌道を通るかが先まで読めます。例えば「この場所で流れ星を」と指定して頂いたら、その場所を通るのは何月何日何時何分ですと「人工流れ星の運航ダイヤ」が出ます。その中から希望の日時を選んで頂く。
林
なるほど。いつ頃の実現を目指していますか?
岡島
今年度末にJAXAのイプシロンロケットで初号機を、2019年夏に民間ロケットで2号機を打ち上げて2020年春に広島・瀬戸内で人工流れ星を降らせるイベント「SHOOTING STAR Challenge」をやろうとしています。200キロの範囲で見られるので高知から松江まで見られます。
きっかけは、しし座流星群。天文学が役に立つことを示したい
林
そもそも岡島さんが人工流れ星をやろうと思ったきっかけは?
岡島
2001年のしし座流星群です。流星群の絵ですごいのがあるじゃないですか、シャワーみたいに流れ星が降る絵。あれを想像していったんですよ。そしたらひゅーっと一つ流れて、またひゅーっと。「一体、いつシャワーになるんだろう」と(笑)。
林
シャワーではなかった?
岡島
そう。一緒に見に行った天文学科の友達と雑談で「流れ星の元は塵の小さい粒だから(人工で)できるんじゃないの」と話して。一度シャワーで流星群を見てみたいというのがエモーショナルな動機なんです。それともう一つ理由があって。
林
何ですか?
岡島
天文学科以外の大学の同級生から「宇宙のことがわかっても、生きることの役に立つの?」ってずっと言われていたんですよね。当時、大学が学校法人から独立行政法人になる時期で、大学が民間になったら一番先になくなるのが天文学科と哲学科だと。私は基礎科学を軽視したらイノベーションは起きないと思っています。流れ星のプロジェクトでも、天文学の知識を使いながらエンターテイメントができて、さらに人工流れ星を流すことで高層大気の基礎研究にも発展できる。それをモチベーションにしています。
林
人工流れ星で高層大気の何がわかるんですか?
岡島
地上数十キロの高層大気って観測手段があまりないんです。気球でも行けないし、人工衛星でも観測しにくい。実は最近、高層大気と気象が密接に絡んでいるのではないか、と言われています。人工流れ星は高層大気を流れるので、軌道や発光の様子などを調べると大気の様子がわかることが証明されています。それをやろうと。
林
大学の先生と協力しているのはそういう意味があるんですね。
岡島
研究者の中には自然の流れ星を待って、高層大気を研究する人もいるそうです。私たちの流れ星はこういう粒をこのタイミングで光らせるという物差しがでてきている。だから先生方も観測しやすい。首都大学東京の佐原宏典先生や日本大学の阿部新助先生は、理学的な意味を非常に感じて協力して下さっています。
ボンクラーズと呼ばれて-研究者を応援する側に
林
そもそも岡島さんは天文学で何を研究なさっていたんですか?
岡島
観測的宇宙論です。私、なんで天文学科に入れたか言いましたっけ?そもそも、天文学科は頭がよくないと入れないんです。東京大学は1、2年の一般教養の成績で進学先が分かれる。私は成績が悪すぎて「あー、もう留年だわ」と思っていたら天文が定員割れだった。定員割れで入ったメンバーが私を入れて3人いましたが落ちこぼれていて、その当時流行っていた漫画でおちこぼれの3人組がいて、そこから我々も「ボンクラーズ」って呼ばれてたんです(笑)。
林
ボンクラーズ(笑)。でも岡島さんは学者の枠におさまり切らない感じですもんね。
岡島
私は天文や基礎科学がすごい大事で発展するのを望んでいるけれども、自分は研究者じゃないなとはっきり気付きましたね。それ以外の道がないかと思ったときに、ビジネスで研究が発展できるようにするとか、大学の先生がもっと活躍できる場所を増やしたいと思いました。
林
卒業後はゴールドマン・サックス証券に入社。転職や起業を経て2011年にALEを立ち上げられました。そこからどうやって今に至ったのですか?
岡島
最初は細々と大学の先生方と一緒に、どういうメカニズムで光るかなと基礎の研究開発をしていました。事業になるかわからないなと思いながら。
林
事業になるかわからないけど起業したんですか?
岡島
会社設立って紙でできるじゃないですか。週に1回ALEの仕事、ほかの日は業務委託のような仕事をして、その収入をALEの研究開発費に回していました。でも当時は流れ星の明るさがあまり出なかったんです。3等星。田舎で肉眼で見えるぐらい。
林
都会では見えないってことですね。どうやって明るく?
岡島
2014年2月に人工流れ星プロジェクトについて新聞に小さく載せてもらったんです。そしたら日大の阿部先生が連絡を下さって。「多分僕だったらもっと明るく光らせられる」と。
林
すごいなぁ。営業マンみたい(笑)。
岡島
すごいノリノリで来てくださって。阿部先生の指導を受けて、一緒にやっていったら、都会でも肉眼で見えるぐらい明るくなったんです。
林
どうやったんですか?
岡島
球の作り方や素材を変えて。阿部先生のアイデアと学生の思い付きで。学生さんが身近にあったものを試しに燃やしてみたら明るかった(笑)。そのあと弊社のエンジニアも一緒にブラッシュアップしていって、今はマイナス一等星、シリウスぐらい明るく光ります。これなら事業化できるなと思って、2015年に資金調達して事業化のメンバーを募りました。
大企業で頭を張ってたメンバーが実現する、有人宇宙船並みの安全性
林
エンジニアリングチームは何人ぐらいですか?
岡島
10人弱です。プロマネは三菱電機で大型人工衛星のプロマネをやっていた有坂市大郎で、ほかは日本の大企業で物づくりをしていたメンバー。顧問にJAXAの川口淳一郎先生に参加して頂きました。
林
有坂さんと蒲池さんの役割を教えてください。
有坂
2機の衛星のプロジェクト業務の管理を行っています。プロマネです。
蒲池
僕はプロジェクトの中で一番古くて、2年前の4月に入社しました。
有坂
そもそも流れ星の放出装置なんて売ってませんよね。一から作ったのが蒲池です。
蒲池
ぼくはベースの設計をして最初の打つところを作って、後から来たベテランのメカ屋さん、電気屋さんと一緒に作り上げていきました。
林
ベテランとは?
蒲池
うちには各企業で、頭を張ってた人たちが集まってるんで。
林
頭を張ってた!すごい表現ですね(笑)
岡島
元ヤンみたい(笑)
林
ちなみに蒲池さんは前職では何を?
蒲池
プラズマの発光装置とか。研究職で頭を張ってました。(笑)
林
なぜこのプロジェクトに参加したんですか?
蒲池
面白そうだから。それだけです。
林
ALEの人工流れ星放出装置の目玉はなんですか?
蒲池
一つは、放出装置がものすごい精度で、安定して放出を続けられることです。お客さんが望む場所にしっかり流れ星を見せられる仕様になっています。人工衛星から流れ星の玉を放出してから大気圏に突入するまで地球の約六分の一周という、長い距離を飛びます。放出するときの方向や速度の誤差で、広島を狙ったのに東京で流れてしまうなど、距離がものすごくずれてしまうんです。だから精度の高い装置を開発しました。
林
なるほど、放出したときのわずかなずれが、流れ星が流れる場所の大きなずれになると。
蒲池
そうです。実際にどのくらい精度かというと、2200球放出し続けても目標速度に対する誤差が1%を超えない。サービスとして狙った場所に確実にお見せできるし、安全面でも宇宙で間違えて放出したり他のものに当たったりしない。
林
実際には400球しか搭載しないですよね。2200球も放出実験を?
蒲池
安全係数の4をかけて、真空チャンバーの中で宇宙と同じ状態を模擬してテストしています。異常なぐらい安全に配慮したシステムを組んでいます。
林
具体的にはどんなところが?
蒲池
方向や位置を計測するセンサーを10ぐらい積んであって、3つのCPUがそれぞれ条件を判断する。3つのCPUのうち一つが故障したら放出しない。ミッション終了です。
林
え、ふつうは3つあったら一つ壊れても大丈夫という考え方ですよね?
有坂
ふつうの冗長の考え方とは真逆で一つでも壊れたらそこでやめる。安全を優先して。
林
そうなんですか。この考え方は皆さんで議論して?
蒲池
JAXAとの議論の中で決まっていきました。世の中のデブリに対する意識がそれぐらい高まっているし、世界で初めての人工流れ星ミッションでなので、安全に気合を入れて。JAXAの安全審査のメンバーからは有人宇宙船並みの安全基準と言われました。
林
すごい。失礼ながらALEさんがこれほど厳しい条件でモノづくりをしているとは知りませんでした。
岡島
弊社はあまり「作ってます」というのをアピールしてこなかった。エンジニアのすごい技術力でできているところがたくさんあります。
林
有坂さんはなぜ大企業の衛星プロマネからALEに?
有坂
最初、人工流れ星と聞いた時には「まさか」と思いました。でもここに来てみたら、みんな真顔で真剣にやっている(笑)。「これはできるかもしれない、こういったものが出てこないと今後宇宙開発に発展がないのでは」と思ったんです。挑戦できることにモチベーションを感じました。
林
前職の知見は?
有坂
5トン級の大型衛星の世界と50㎏の小型衛星では勝手が違う。今までの常識を捨てないといけなくて、そのギャップに悩むところもあります。でも以前は決定に1か月かかったことが5秒で、自分の裁量でできる。責任が大きいがやりがいがあります。
みんなで空を見上げる
林
使い方としてはどんな引き合いがありますか?
岡島
シティプロモーションとかフェスですね。
林
個人がオーダーするなら、いくらぐらいでできますか?
岡島
100万円ぐらいにしたいとは思っていますが、現状では原価も出ない。そのうち民間ロケットが安くなれば可能性があるかなと。ただ、みんなが空を見上げて楽しんでくれるようなことを考えたいですね。
林
というのは?
岡島
もちろん、個人的に使ってもらうのもいいかもしれませんが、流れ星が簡単に流れすぎると面白くないし、独り占めするより200㎞圏内にいる人みんなで見ることに価値があると思っているので。
林
どんな流れ星が見えるんでしょう。
蒲池
流れ星の放出速度や角度を調整することで、鳥がV字に飛ぶように並べたり、十字架みたいに並べたりと、形は色々できます。
林
シミュレーション上で、ということですよね。実際にやってみるのは難しい。
蒲池
軌道計算です。その辺が一番面白いところで、本当にそんな形になるかも実験対象。大気抵抗で人工流れ星がどんな動きをするか、まだわからない科学がいっぱいある。それこそ発見があると思います。
林
リハーサルはしないんですか?
有坂
2020年春の「SHOOTING STAR Challenge」が人工流れ星の一番最初です。
林
え、いきなり本番ですか?いいんですか、岡島社長
岡島
はい。それがチャレンジなんで。成功するまでやり続けます。
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