ものづくり 2025年06月12日

やってみたら意外と直る。ダメもとから始める「物を直す」暮らし

 僕は半分趣味、半分仕事という感じで電子工作を15年くらいやっています。
 
15年もやってるというとすごいガジェットとかロボットとか作れそうな感じがしますが……正直ぜんぜんです。電気工学をちゃんと勉強したことがなく、見よう見まねでやっているからです。作っているのはこんなのです。
 しゃべるプリン。
 歩くビッグマックセット。
 動くヴォイニッチ手稿。
※1912年にイタリアで発見された未解読文書


工学的にはすごくない技術をなんとかやりくりして、いろんな作品を作っています。そういうノウハウだけは身につけました。いま工学を学んでいる/これから学ぼうと思っている若い人たちは絶対にマネしてはいけない生き方なので注意してください。
 
さて、今日は工作の話じゃないんです。修理の話です。
工作っていう趣味はおもしろくて、こんなふうに実用性のないものばっかり作っていても、そこで得たものは生活の役に立つんですよ。機械いじりや素材加工のスキルがつき、壊れたものを直せるようになるんです。
 
この記事では「ものづくりLoversのためのメディア」であるCEMEDINE STYLEの番外編として、ものづくりの副産物、修理Loverの生活をご紹介できればと思います。修理することの楽しさや便利さを感じていただけると幸いです。

接触不良を直す

有線イヤフォンってすぐ調子悪くなりませんか。急に片耳だけ鳴らなくなって、線の根元を曲げたりすると一瞬直って…みたいなアレ。
 
あれはだいたいが接触不良で、原因がわかってるだけに直しやすいです。

寝るときにYouTubeの音だけ聴きながら寝ています。それ用の100均イヤフォン。
開けてみると…
2本の線のうち、1本がもげていました。(もう1本はフタを外すときにもげました…!)
はんだづけしなおして…
フタをして、修理完了。

接触不良ははんだづけだけで直りますし、壊れた箇所がどこかもわかりやすいです。修理ビギナーにおすすめの修理です。
 
ただ、意外とフタを開ける工程(殻割り)が難関だったりするんですよね。ツメで止まってるところは開けるときにツメごと割れがちですし。今回もペンチで無理やり開けちゃったので元に戻すことができず、最後はスーパーXで止めました。やはりいざという時に頼りになるのはスーパーXです。
 
ほかに、接触不良が起きがちなのはリモコンのボタン。
家のエアコンのリモコンですが、ボタンの利きが悪くなってきました。開けてみましょう。
 本を開くようにパカッと左右に開いたところです。左側がボタンの裏面、右が基板。
 
左右を見比べてみると、左のボタン(黒いゴム)と対応する位置に、右の基板上にも黒いパッドがあるのがわかりますよね?せっかくなので、ここでリモコンのボタンの仕組みを軽く説明しましょう。
 基板上のパッドにわかりやすく色を塗りました。この青い部分と赤い部分が電気的につながると、リモコンは反応します。ふだんは間に電気を通さない部分(黄色)があるのでつながっていません。
 
でもボタンを押すと…
 
ボタンの裏のゴムがこうやって押し付けられますよね。実はこのゴムは電気を通すので、押し付けることによって赤と青が電気的につながり、リモコンが反応するんです。
 
で、リモコンのボタンが利かなくなった場合、この導電ゴムが劣化して電気を通しにくくなっていることが多いんです。なので……
表面だけでも電気が通るように、両面テープなどでアルミホイルをくっつけてやると直ります。
 
夏場にエアコンがつけられなくなるときついですよね。
代わりのリモコンを買うにしてもメーカー修理に出すにしても配送や修理期間を待つ必要がありますが、こうやって待たずにすぐに直せるのは自分で修理することのメリットです。

掃除すると直る

なんか調子が悪いなーと思ったら、とりあえず元に戻せそうな範囲で分解してみます。そうするとよくあるのが、めっちゃホコリが溜まってるパターン。
 
以前、パソコン本体内蔵のSDカードリーダーが、なぜか書き込み禁止になってしまう現象が起きたんです。

 これ。
 
SDカードって書き込みロックのツメがついてるじゃないですか。あれはもちろん開けてます。開けてるのに書き込みできないんです。どうにも不便だったので、分解してカードリーダーの中身を見てみます。
ワオ。矢印のところにすっごいホコリが溜まってるのわかります?
これをピンセットでむしって、カメラ用のブロワーで掃除しました。
 きれいになりました。そうすると、無事に書き込みができるようになったんです。不思議ですね…!?
 
実は、あのホコリがたまっていた場所が、ちょうど書き込み禁止ロックのツメが当たる部分だったんです。そのせいでロックしていないのに誤検出が起きて、ロック扱いになっていたというわけ。内部がきれいになったうえに原因もわかってスッキリです。
 
こうやって毎回必ずしも理由が明確にわかるわけではないですが、「掃除したらなぜか直る」はけっこうよくあります。
 
もう一例を挙げると、全然汚れが落ちなくなった食洗器の庫内をきれいに掃除してみたら、見事に洗浄力が復活したこともありました。買い換えたら数十万円になっていたであろう機器です。自分で修理すればゼロ円!いままで電子工作の趣味に費やしたお金がドカっとキャッシュバックされた気分でした。

分解したらなぜか直る

さらに、一回分解することで「掃除すらしてないのになぜか直る」パターンもよくあります。これはマジで理由がわからないのですが、もしかしたら一度開けることで隠れた接触不良が解消されたりするのかもしれません。
 

家のモニタに設置しているWebカメラは、一度映らなくなってしまったのですが、分解したらなぜか直りました。理由?わかりません。そういうこともあります。
ちょっと切れちゃってて申し訳ないですが、熱帯魚用のライトです。一日の点灯時間をタイマーで設定できる便利なやつ。
通販で購入したのですが、最初は初期不良で点かなかったんですよ。でも一回分解したら点くようになりました。理由はわかりませんが……。
 
ちなみに余談なのですが、このライトはその後アームなしに改造しまして……
こんな感じで水槽の中だけを照らせるようになりました。
 
こうやって手をかけていくことによって、買ったものがどんどん「自分のもの」になっていくのも、修理の醍醐味です。盆栽みたいですね。

メカを直す

 原因不明のパターンばかり紹介してしまい、記事の説得力がどんどん落ちてませんか!?
次はちゃんと理解して直した事例です。
 
電気的な修理だけじゃなくて、メカ的・機械的な機構を修理することもできるんです。
 
例えば、中国の通販サイトで買ったおもちゃ。これ、すっごいので一回見てもらえますか。

ゼンマイ仕掛けなんですけど、途中で変形するんですよ。すごすぎる。
なんですけど、ある日、子供が「おとうさん壊れた」って持ってきたんですね。ためしに動かしてみます。
あっ、これは全然だめだ。壊れました。でも壊れたということは、分解していいということです。どうやってあんな変形機構を実装しているのか、ワクワクしますね!
 
というわけで中身を見てみます。
なんかすごい複雑な形になっていました。機構を詳しく説明すると記事が無限に長くなってしまうのですごくざっくり書きますが、複数枚の板で構成されたボディにギアボックスが噛み合い、あのダイナミックな動きを作り出していました。すごい。
 
修理は直ること自体もメリットなのですが、修理をとおして物の構造に触れられることにも、大きな満足感があるんですよね。
 
ちなみに今回の故障の原因ですが、動きを解析したことにより判明しました。
左の方に針金がピロって出てるのが見えるかと思います。バネの一部なんです。本来はその右上にあるツメのような部品がそのばねにかぶさっている必要があるのですが、それが外れてました。パチンとはめ直して、修理完了です。

やってみよう、部品交換

もうちょっと大がかりなものも。家電です。

電子レンジなんですけど、扉がしっかり閉まらなくなっちゃったんですよ。閉じても半開き。しかも扉にセンサーがついていてしっかり閉じないと温めができないようになっており……つまり電子レンジが使えないんです。困る~~。
 
とはいえさすがにこの修理は難しかろうと思い、しばらく扉をマスキングテープで無理やり閉めて使っていました。なのですがある日ネットで検索してみたところ、同メーカーの別機種の修理事例が載ってたんです!
これはいけるかも、ということで参考にしつつ直してみることにしました。
専用部品が必要だったのでネットで取り寄せ……
ケースから出した電子レンジの中身です。赤丸部分に取り寄せたものと同じローラーが入っており、その摩耗によって動作不良が起きていました。
 
これ、交換はそこそこ大変だったのですが、先人の記録があることによってうまく修理ができました。
 
修理にあたって僕は「とりあえずばらす」方式を取りがちですが、こういった手ごわそうなものは「まずは検索」方式が妥当だと思います。最近はYouTubeに修理動画がアップされていることも多くなってきました。
 
※注意:電子レンジやブラウン管テレビなど、家電の中には高電圧部品を含むものがあります。そういった製品の分解は危険なので、十分な知識がないうちは避けてください。(今回は扉部分の修理のみで、電子レンジの機能にはアクセスしないため、十分な安全対策の上で実施しました。)
 
電子レンジを自分で直すのはちょっと特殊な事例かもしれませんが、スマホの交換用バッテリーやゲーム機のコントローラーの修理などは、DIY用のパーツがネット上にたくさん流通しています。そういうものを使ってDIYで部品交換してみるのも楽しいものです。
 
ただ、スマホやゲーム機など高価な機器は失敗した時のリスクも大きいです。そのスリルも含めて楽しんでいくのが修理Loverの生きざま……。

エポキシ接着剤はいいぞ

イヤフォン修理のところでスーパーXについて触れましたが、それとは別に、最近初めて使ったセメダイン製品があるんです。これが修理用にいい感じだったので、ご紹介したいと思います。

ハイスーパー5。いわゆるエポキシ系接着剤ってやつです。2つの剤を混ぜることによって固まります。
これがしっかり硬く固まる上に、肉厚に盛れるので、強度を出しやすいんですよ。
 
まず見てほしいのが、これ。
 
ゲーム機のコントローラーのボタンです。人差し指で押す、いわゆるR2ボタンですね。矢印部分の突起が本当はもっと長いのですが、折れてしまったようです。接着剤で直そうにも、折れた先のかけらはどこかに行ってしまいました。さてどうしたらよいか……。
ハイスーパー5で爪楊枝を接着しました。
しっかり硬化したら、丁度いい長さに切って……
いい感じに収まりました…!
 
この修理からまだ1週間ほどしか経っていませんが、子供がそこそこ酷使してもしっかり耐えているようです。
 
こういう樹脂部品が欲しい場合は「3Dプリンタでできるぞ」と思ってしまいがちですが、この形状をモデリングして出力して……ってやってると一苦労です。家にある物と接着剤でサクッと直せるのは良いですよね。
 
最後にもう一例。
これはもう電気製品でもなんでもないのですが、プラスチック製のハンガーです。子供が引っ張って服を取るので、力がかかって折れちゃったんです。
何度か修理を試みたのですが、通常使用でも負荷のかかる箇所のため、そのたびに外れてしまっていました。そこでハイスーパー5のおでましです。
2剤を混ぜて貼り付け、固まるまでマスキングテープで固定。
この時点では断面だけを貼りつけていたのですが、そういえばセメダインの方にこの接着剤を紹介してもらったときに「添え木をするといいですよ」と言われたのを思い出し……
 
細く切ったプラ板を添え木にして、再度補強しました。まだ慣れないので接着剤盛り盛りで不格好になってしまいました。メーカーのサイトにこれを作例として載せて大丈夫ですかね、セメダインさん!?
 
いっぽうで、強度的には外れることはなく十分なものになっているようです。ハイスーパー5、かなりいいぞ…!

どうせ捨てるなら直してみよう

 修理をすると物のしくみがよくわかるし、エコだし、出費も減ってお得。しかしそれ以上に、「物が本当に自分のものになる」感じが楽しいんです。なるほどと思った方は、ぜひやってみてほしいです。
 
もちろんなんでも直せるわけじゃないです。自分の技術で直せるものだけ。分解したもののうち、実際に修理できるのって1/3もないくらいです。
ただ、直せるかどうかって一回分解してみないとわからないんですよね。イヤフォンだったら絶対直せるけど、スマホは無理、みたいな話じゃないんです。物の種類よりも壊れ方の方が重要。だからまずは一回分解します。
 
注意点としては、分解すると元に戻せない可能性もあるし、メーカー修理の対象外になります。なので基本的に修理の対象は
 
・直らなかったら捨てる(買い換える)つもりのもの
 
です。ダメもとの精神でチャレンジするのがいいでしょう。気も楽ですし。
 
逆に下記のようなものは分解しない方がいいです。
 
・壊れていない機能だけでもそのまま使おうと思っているもの
・メーカー修理に出そうと思っているもの
・危険な部品を含むもの
 
なのですが、一番目に限っては「完全に復元できる範囲で分解してみる」という分解チキンレースをするのも独特のスリルがあって良いです。
 
この「独特のスリルがある」、実はもう一つの修理の魅力かもしれません。慣れてくるとだんだん気持ちよくなってくるんですよね。「この部品外しちゃうともう直せなくなるかも」「ここ開けると割れるかも」「もっと壊れるかも」とのせめぎあいが。
 
みなさんも修理の世界で手に嫌な汗を握ってみませんか?

ライター:石川大樹

「技術力の低い人 限定ロボコン(通称:ヘボコン)」主催者、雑な電子工作作家。共著書に初心者向け電子工作本「雑に作る」(共著、オライリー・ジャパン)。

本業は編集者・ライター。よみものサイト「デイリーポータルZ」などで編集を担当。趣味はワールドミュージック収集です。

個人ブログ:https://nomolk.hatenablog.com/

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