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ものづくり
2023年03月27日
実はネオンは〝絶滅危惧種〟 アオイネオン荻野さんに聞く、文化や技術を残すために必要なこととは
当たり前だと思っていた景色が実は変わっていた——筆者にとって「ネオン」は、そういうものになっていました。
昔ながらのネオン看板は取り外され、扱いやすいLEDに。今までネオンだと思っていたら実はネオンに似せたLEDだった……というパターンも街中で多く見かけます。
そんな減少傾向にあるネオンサイン。実は、若者世代を中心に「かわいい」「エモい」とじわじわ人気が出ているそうです。
そんな、ネオンブームの火付け役のひとりが、ネオンサインや広告看板の会社であるアオイネオン株式会社さんです。
アオイネオンさんはSNSでも日々ネオンについての情報を発信されており、工房自体は静岡ですが、東京・大田区にも東京本社があります。
今回は大田区でものづくりをする会社さんに話を聞くシリーズとして、アオイネオンさんにネオンや、広告看板についてお話をうかがいます。
まずは東京本社にて工場見学をさせていただきました。池上にある東京本社では、ネオンの工房はありませんが、職人さんたちが広告看板製作の真っ最中でした。
メインは看板製作なので、看板の材料とともに接着剤も目にしました。
あっ……奥に展示の会期を終えたネオンがしまわれている……。
こちらは、東京タワーで2022年12月18日~2023年1月22日の期間行われていた『大ネオン展 from CYBER NEON CITY』で展示されていたネオン。
これ、実際に見に行ったんですけど本当にすごかったんです。ネオンってだいたい自分よりもはるか高いところに設置されているじゃないですか。でも、こちらの展示では至近距離でネオンが見られるんです。
近くで見ると放電で「ジー…」と鳴る音や、隅っこでネオンガスが青く光る時のゆらめき、内側にひそかに見える水滴を確認出来て想像以上にいいものなんですよね。ネオンってこんなに素敵なんだ……。
例えるならば、焚火や熱帯魚の泳ぐ水槽をボーっと眺めている時みたいな感じ。これはLEDには出せない味だ~……。
工場見学ではネオンのエケチェン(赤ちゃん)も見せていただきました。ネオンの赤ちゃんたちはこうしてばらばらに、ふわふわに包まれて搬入しているんですね! あらやだかわいい。
そしてネオンを見ると同時にLEDの作業の簡単さに驚いたりもしました。そりゃ増えていくわけだよね……。
こうして広告看板の作業風景とネオンを見せていただき、アオイネオン事業企画部の荻野隆さんにお話をうかがいました。
現在はLEDが主流。実は絶滅危惧種のネオン
——まずはアオイネオンさんはどんな会社なのか教えてください。
荻野 街のランドマークとなるような大型のネオン看板やネオンを得意とする会社です。屋外のネオンサイン、看板をデザインから設計、製作施工までしています。有名なところだと渋谷の109とか六本木ヒルズの1番てっぺんのMのマークとか、銀座の数寄屋橋の屋上の不二家の広告とか……。
——アオイネオンさんの広告、普段から目にしているんですね……!
荻野 大型のものになると、建物と同じように構造計算をして確認申請といった各種許可が必要になります。本当に、渋谷のど真ん中でビルに足場をかけてレッカーで大きな看板を釣り上げて取り付けを行う、みたいな建設業ド真ん中のお仕事です。なので一級建築士事務所としても登録してるんですね。
——広告看板の会社でありながら、一級建築士事務所でもあるんですね。
荻野 かつては渋谷の109とか銀座数寄屋橋の不二家とか、全部ネオンでした。それが六本木ヒルズをやった頃から徐々にLEDが看板の業界の中に入り込んできて。
その頃はLEDも全然種類がなく、ネオンでやるかLEDでやるか話し合いをしたぐらいなんですよ。でもそこから徐々にLEDに置き変わりはじめた。僕らも「アオイネオン」と名乗りつつ、今98%はLEDの看板を作っています。ネオンは残りの2%くらいですね。
——名前にもネオンと入っているし、ネオンの会社なのかなと思ってたんですがそうじゃないんですね。ネオンの仕事って今そんなに少ないんですか!?
荻野 毎年右肩下がりに減っていて、今ネオンは看板としての需要がほぼないんですよ。職人さんの数も激減していて、今日本で現役でネオンを作ってる人は50人くらいです。うちの会社も1人だけ。
——職人さんひとりだけなんですか!?
荻野 バブルの頃は4人ぐらい職人さんがいて、ずっとネオンを作り続けるという状況だったんですけど、それが一気にLEDに置き換わっていって需要がなくなって、職人さんの数も減っちゃったんです。今から7、8年位前にはネオンの仕事0みたいな時もありました。
そもそも、看板業界って新しいもの好きなんです。新しい技術はどんどん取り込んでいかないと広告主に飽きられちゃう……そんな気持ちがあるので。
——ネオン、危機的状況にあるんじゃないですか!
荻野 実は社名からネオンを取ろうという話もありました。
「全日本ネオン協会」という業界団体がありましたが、現在「日本サイン協会」に名前が変わっています。そういう時代の流れもあり「アオイネオン」もネオンを取っちゃうなんて囁かれ……なんとか取られずに済みましたが。
——危ないところでしたね……。なんでその状況から今こうやって展示を行ったりと、ネオンが注目を集めることができたのでしょうか。
LEDの時代にネオンが注目を集められた理由
荻野 業界全体や社内の空気として今は「もうLEDの時代だし、ネオンなんかいまさらどうする?」みたいな感じだったんです。そして僕もその多数派だった。
ただ、自分の父親も弊社に勤めていて子どもの頃からネオンを見ていて、ネオンに対しての憧れはずっとありました。そして2015年頃の話なんですけど、東京からお客さんがお見えになった時に、工場見学でネオンを作るところを見てもらいました。
荻野 その時はネオンを積極的に見せようとしたわけではなく、他に見せるものがなかったから作る工程を見てもらった感じです。でも、すごく喜んでくれて。
——おお……!
荻野 作業風景を見学された元プロ野球選手の方からも「子どもの頃にこれを見ていたらネオン職人になってた」なんてコメントも頂きました。もう嬉しくて。そこから、近所の小学生に工場見学してもらったりとか人にネオンを積極的に見せるようにしました。そんなことをいろいろやっていって、会社のCSRの一環でもいろんな復興支援のイベントや、町内のクリスマスイベントなどでネオンを絡めていったんです。
荻野 そういうことをやっていたら、ミュージックビデオにネオンを使いたいという依頼がありました。弊社のCSRの活動を見て下さり、「どうせなら良いことをしている会社に頼みたい」と声をかけていただいたのです。その辺りからエンターテイメントの世界にも少しずつ縁ができてきました。
——地道な活動がだんだん身を結んでいったんですね。
荻野 CSRという活動は、直接利益に結びつかないし、むしろ会社のお金を使ってしまうと思われがちなので、なかなか社内でも自分で使える自由なリソースってないんですよね。
そんな中でネオンは当時、職人さんもほとんど仕事がないし、社内でも見向きもされない状態だったから。それなら自分がそれを使ってもいいよねと思って、ネオンを積極的に推し始めたんです(笑)。
——そういう経緯だったんですね! でもそこからネオンの露出が増えてネオンの魅力にハマる人が増えているわけなので、荻野さんがすごい。
文化や技術を若い世代に知ってもらう・見てもらう
荻野 ネオンがご縁で知り合った方々に助けられています。やっぱり未来にネオンそのものや作る技術を残していきたいと思ったら、子どもや10代位の若い方にいかに知ってもらうか、「好き」と思ってもらえるか。
あとは中小企業って地域から人を雇用して、その地域で商売していくので、そういうすごいものを作る人がいることを、地域の人に知ってもらうことも大事ですね。助けられているといえば、サイバーアーティストの“サイバーおかん”の存在は外せません。
荻野
第1回目の大ネオン展を静岡の松坂屋さんでやったんですけども、その時は400万円くらい予算オーバーして、まあまあ怒られました(笑)
でもここで辞めたら400万円無駄になるからと会社を説得して、翌年は東京タワーで大ネオン展を開催させていただきました。東京でより多くの出会いがあり、新たなビジネスチャンスに繋がったので内心ホッとしています。
荻野 都内有名企業で大規模なオフィスアートを施工させていただきました。デザインを担当してくれたサイバーおかん独自の世界感がお客様に大好評でした。ネオンアートの新しい可能性や発展性を発見させてもらえるのもネオンでつながるご縁のおかげですね。
——ネオンがつないだ縁に助けられているんですね! 最後に、荻野さんの思うネオンの魅力についても教えてください。
荻野 うーん、ないですねぇ(笑)
——ないんですか!?
荻野 自分の意見ではなく、人から教えていただいた受け売りの言葉になっちゃうんですよね。最初の工場見学で見てもらった時から、ネオンの魅力は人から教えてもらいました。だからもともと自分で感じてた魅力というと、ないんじゃないでしょうか。
悲しいことに、会社の中にいると気がつけないんですよね。だから答えは会社の中にはないんです。社内にいるとみんな同じような考え方になっていくので、そこから新しいものって生まれにくい。だから積極的に外の人と交流しないとイノベーションは起きないし、新しいものは生まれないんです。
令和にネオンの魅力を再発見した
ネオンがそこまでLEDに置き換わっていたなんて、実は絶滅の危機に瀕していたなんて……知らないことばかりでした。
LEDはデザインデータ通りに同じように仕上がるし、軽くて扱いやすいなど優れている点が多いのは確かですが、ネオンに興味を持ってからはLEDに物足りなさを感じるようになってしまいました。
どうかネオンの文化が絶えることなく、LEDとネオンがそれぞれ適切な場所で共存していってほしい……こう願わずにいられませんでした。
ライター:井口エリ
オタク気味のサブカルフリーライター。実は宝石鑑定士の資格を持っている。
神社や御朱印が好きで、神社の繁忙期に非常勤巫女をしていたことも。
現在はWEB媒体を中心に様々なジャンルで記事執筆中。取材協力:アオイネオン株式会社
URL:https://www.aoineon.com/
アオイネオン 東京本社
住所:東京都大田区池上3-6-16
電話: 03-3754-2111(代)
静岡本社
住所:静岡市葵区新伝馬1-3-43(ネオン工房)
電話: 054-204-0900(代)
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