ものづくり 2021年06月01日

「見て、驚いて、装着して、楽しんでくれればいい」 一粒ずつ作る小豆アートで、奇想天外なアズラー誕生

和菓子をモチーフにした作品を制作する現代美術家の境貴雄さん。特に小豆を顔に付けてひげに見立てたファッション「アズラーは、世界中に拡散され、すでに5000人近くの人が「アズラー」となった。いったい「アズラー」とは何なのか。なぜ小豆なのか。どうやって制作をしているのか。境さんに話を伺った。(取材・文 宗像陽子 / 撮影 金田邦男)

【プロフィール】

境貴雄(さかい たかお)

東京都渋谷区出身 1978年生まれ 現代美術家

アズラー(AZURER) ディレクター

https://takaosakai.tumblr.com/

和菓子の高尚なイメージをキッチュな笑いにかえる

「なんだこれは」。それが境さんの作品を見た多くの人の第一印象だろう。境さんのホームページでは、ニョキニョキと四方に伸びたひげをつけている境さんを見ることができる。顎についている得体のしれないものは、ひげのようだが、ブツブツとして、赤黒くて、とんがっていたり、いくつにも分かれていたりして、とてつもないフォルムをしているので異様な感じさえする。が、不思議とカラッと明るい雰囲気があるのは、小豆のひげをつけてポーズをとるのが境さんだけではないからかもしれない。赤ちゃんからおじいちゃんまで小豆らしきひげをつけて、喜々として実に楽しそうにしているではないか。

このほかにも、どら焼きのタワー、落雁やお饅頭の集合体や被り物など、ユニークな作品群に驚かされる。

落雁・お饅頭などで作られた通称「甘いマスクマン」。
作品のテーマは和菓子のヒーロー

ある昼下がり、小豆色のパンツとアズラーのシャツを着こなしてセメダイン本社に現れた境さんは、人懐こい笑顔で気さくに取材に応じてくれた。

境さんが和菓子や小豆の作品を初めて作ったのは、東京芸大のデザイン科に在学中のこと。2003年の京都での研修旅行で「伝統とデザイン」という課題を出されたときに、「和菓子」とテーマを決めたことがきっかけだった。その時からひたすら研鑽を重ねてきたのだから一朝一夕にできたものではない。

モチーフに和菓子を選んだ当初から、高尚なイメージにするつもりはなかった。もともとキッチュでひねくれた作風だった境さんは、この時も和菓子に笑いの要素やちょっぴり俗悪なものを取り入れると面白いのではないかと考えて、制作。饅頭やら串団子やら小豆やらを本物らしく、ただし少し笑えるような作品に仕上げた。

境さんの2009年の作品(疾走!和菓子シリーズ)
ミニカーになっており、走らせることができる

その後、和菓子について色々調べるうちに、昔の人たちが小豆に疫病退散健康祈願をこめていたことや、小豆の赤という色が、日本では魔よけの意味があることを知る。和菓子が、どこか洋菓子とは違う空気感で存在しているんだなというのが腑に落ちたという。

一粒だけ見てもなにやらわからない抽象的な形なのに、それが密集して艶が入った瞬間に小豆だと認識できることにも洋菓子にはない面白さを感じた。饅頭も、一口かじって中のあんこが見えると「ああ、饅頭だ」とわかる。団子も一つだけではただの丸っこい形だが、3つ並んで串を刺すと串団子になる。抽象的な形がいろいろと組み合わされることで具象化してしまう不思議さも、創作意欲が刺激された。

小豆のひげ「アズラー」の誕生

さまざまな作品を作る中で、小豆のひげが誕生した。装着して写真も撮ってみた。

「僕は昔からちょっと目立ちたがり屋のところもあって。全然目立たない性格なんですけれど」と照れ臭そうに笑う境さんだ。

モデルさんとやり取りをしながら作っていく「アズラー」の楽しさ

つぶつぶしたひげは、少々不気味だが、近づいてよくよく見るとふっくらと甘く煮あがった小豆そっくりで、いかにも美味しそうだ。聞けば、当初は、セルフポートレートをポートフォリオ用に何枚か撮ろうかなという軽い気持ちだったそう。ところが、遊び心でブログでモデルさんを募集したところ、全く知らない人から「つけてみたい」と応募があり、撮影しているうちにどんどん広まったという。

撮影となると、モデルさんとのコミュニケーションが必要になり、それ自体が面白くなってきた。公園で、イベント会場で、スタジオで、自宅で、おじいちゃんが、赤ちゃんが、若者が、有名人が、さらに海を越えて、人種を超えて、あらゆる人が、アズラーになった。現在アズラーは5000人ほどまでに増えているという。

セメダインの社員もアズラーの仲間入り

ポートレート撮影・レタッチもすべて境さんが行う

ロンドンブーツ1号2号の田村淳は、小豆のひげを装着した後「小豆で出来たヒゲ 小豆アートが衝撃過ぎた! アートに触れる事は、考え方を豊かにしてくれるね♪(´ε` )」とコメントを残している。(田村淳インスタグラムより)

さらに発展したのが「小豆の生活」という作品だ。

これは、希望者の私物を預かり、そこに小豆を乗せていくという作品。当然、クライアントの話を聞き取り、イメージを膨らませ、制作するというプロセスになる。「ずっと大切にしていたカメラが壊れたので」「行けなかった展覧会のチケットに残った後悔の念を忘れないために」「落ち込んでいるときにひいたおみくじの大吉をずっと取っておきたくて」。様々な私物がストーリーと共に境さんの元を訪れてくる。ストーリーを聞いたうえで、小豆をどう乗せていくか、話し合い、考えて制作する。

境さんはもともとデザイン科出身だ。デザイナーを志望していたのは、クライアントの希望を聞き取り、作品を仕上げるというのが自分に合っていたからではないかと境さんは感じている。現在はデザイナーではないが、人とコミュニケーションをとりながら、相手の希望を聞きながら新しい作品を作っていくのが、とても楽しいのだという。

作品をかぶってもらって撮影したり、アズラーのモデルさんとしゃべったり、そこが一番楽しいので、それをやるためのコミュニケーションツールを地道に作るという感じです

ひたすら黙々と。一粒ずつ紙粘土を丸め、色をつけ、艶を出す

さて、どのように、これらのユニークな作品は作られているのだろうか。見た目の派手さにくらべると、その制作過程は、境さんの言う通りいたって地味であった。

まずは黒い紙粘土を一粒ずつ指先で丸めて、小豆本体をひたすら作っていく作業だ。パフォーマーの顔から、いきなり職人の顔となる境さんは「いやあ、苦痛ですよ」と笑う。

時間をかけて丸めて乾燥させた紙粘土の粒は、たくさんできたようでもほんの一握りのあんこにしかならない。大きなひげを仕上げるには、実に手間もヒマもかかっているのだ。

乾燥したら色付けである。丸めた紙粘土を一粒ずつ串に刺し、ブラックとクリムソンのアクリル絵具を小皿に出して、少しずつ混色して筆で一粒ずつ塗っていく。

手作業のいいところは、微妙に形も色も変えられること。少しずつ混色する割合を変えながら一粒ずつ塗っているので、黒ずんだり赤みが強くなったり、一粒ずつ色が違ってきます

え?一粒ずつですか。思わず聞き返す。

型をとって、一気に作り、一気に塗装をするという手もあるだろう。しかし効率が悪いことを大事にしたいと境さんは考えている。ひとつひとつ積み重ねていきながら、ここはどうしようか、こっちのほうがいいのか。小豆が密集している感じはどうすればより本物に近いだろうかと作りながら考えられるからだ。

制作過程は苦痛だけれど、ポイントポイントでうれしい瞬間はあります。全部艶で埋まったときは、うれしいですね

アズラーのひげの土台となるプラスチック製のマスクの表面に小豆をつけ、先端を丸くした串で、「スーパーX」をチューブから搾りとって小豆の表面に塗ってコーティングしていく。このとき、「スーパーX」は接着だけではなく、艶出しという役目を負っている。

接着剤「スーパーX」。アズラー制作に欠かせないそうだ

とろりと甘く煮あがったような小豆の表面の艶を出すために、当初はアクリル絵具の艶出しを使っていたが、ある時、「スーパーX」がより透明度の高いことに気づき、使い始めた。

『スーパーX』でコーティングすると、小豆と小豆の隙間がなくなり、本当に煮た後のとろりとしたあんこの感じになったんです。それはたぶん2005年だと思いますが、そこからはずっと当たり前のように使っています

ふっくらと甘く煮あがった小豆の艶は「スーパーX」によるもの

透明度が高くて、とろりとした触感を出せる。このほか、「スーパーX」の高い弾性もありがたいと境さんは言う。顔に装着する「アズラー」は、その人の顔の形になるべくフィットさせたいからだ。流し込んでカチカチに固める透明な商品もあるが、重量が出てしまい、顔にもフィットしづらいため、アズラーには不向きだという。

接着剤に弾性があるので、
老若男女さまざまな顔にフィットする

さらに、「スーパーX」はシンナーを使っていないため、においがなく作品を傷めない。作品によっては、発泡スチロールを使うことも多いので、シンナーの入った接着剤では溶けてしまう。

同じひげを何年も使っていてマンネリ化してきたと思ったら、部分的に削って形を変えてマイナーチェンジしたりするんです。隙間を埋める小豆が補強材になり、そこにスーパーXでさらに固める(笑)。そんな使い方もできるので、スーパーXは絶妙な使いやすさです

いつの日か「アズラー」の映画や小説を共に作りたい

コロナ禍で、今は大規模なイベントや海外渡航での「アズラー」の撮影はできなくなっている。それでも撮ってほしいという人に関しては、今まで以上に丁寧にコミュニケーションをとって、喜んでもらいたいと境さんは考えている。またコロナ禍で、今までの自分のやり方や今後の展開をじっくりと考える時間ができたのはよかったと思っている。

そんな境さんには、密かな野望がある。

『アズラー』というコンテンツを様々な媒体で展開していったら面白いと思うんです。『アズラー』を題材にした、舞台、映画、小説などができないか。自分ひとりでは作れないアート以外の分野でコラボレーションさせてくれる人がいれば大いに協力をし、いっしょに作ってみたいですね

自分にできることは、とにかく黙々と淡々と作り続けて、活動を継続することだ。境さんはその日を夢見て、今日も一粒ずつ紙粘土を丸め、色を塗り、とろりと艶を出し、ひたすら小豆の作品を作り続けている。


ライター:宗像陽子
職人や各種専門家などの取材を多く手掛けている。
オールアバウト歌舞伎ガイド https://allabout.co.jp/gm/gp/1504/


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