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ものづくり
2026年07月21日
あの「ガシャッ」をもう一度! ファミコンのカセット交換みたいなセンサーガジェットを作った
ファミコンのようなゲーム機は、カートリッジを交換することでいろんなゲームで遊べるようになっている。しかし、最近のゲーム機はディスクやダウンロード販売が主流になり、あの「ガシャッ」とカートリッジを差し替える感覚を味わう機会は少なくなってしまった。
子どもの頃、新しいゲームを買ってもらった日のことを思い出す。すでに刺さっているカートリッジを抜いて、新しいカートリッジを差し込む。本体の電源を入れてタイトルが表示された瞬間、目の前にまったく新しい世界が開けるような感動があった。あの一連の動作には、単なる記憶媒体の交換以上のワクワクがあったように思う。
もし、あのカートリッジ交換の感覚を味わえるガジェットがあったらどうだろう。
今回は、温度や空気、光といったさまざまな環境センサーを、ファミコンのカセットのように交換して使える「カートリッジ交換式センサーガジェット」を作ってみた。
カートリッジ交換により機能が増える感動
単なるゲームだけじゃなくて、ゲームボーイにはこんなガジェットもあった。
「ポケットカメラ」は、ハードウェアの拡張ができるデバイスだった
「ガシャッ」とカートリッジを差し込むことで、カメラ機能を付けることができたのだ
あの頃ワクワクしたのは、ゲームそのものだけではなく、カートリッジを差し替えることで新しい世界が始まる感覚だったのかもしれない。
もし、ゲームではなく「機能」をカートリッジとして交換できる機械があったらどうだろう。今日は空気を測る。明日は光を測る。使いたい機能を選び、本体にガシャッと差し込む。そんな、子どもの頃の記憶を少しだけ呼び起こしてくれるガジェットがあったら面白いと思った。
そこで作ったのが、これである。
「ENV SENSOR SYSTEM」と名付けたそれは、縦長の液晶を持つハンディ端末だ
専用カートリッジがいくつかあるので、
ひとつを選んで本体上部に「ガシャッ」と差し込む。まずは「ひかりセンサー」、君にきめた!
電源を入れると、液晶に「照度」が表示された
カートリッジに空いた穴から光を取り込み、それを光センサーで測って照度を表示している。いわばこれは「ひかりゲーム」のカートリッジである。ちなみに、いま立っている場所、室内の蛍光灯下では302ルクスだった。
中身は意外とシンプルだ。
中には「TSL2561」という照度センサーの基板が入っており、これを専用カートリッジとして使えるようにしている
もちろん、遊べるのはひとつのゲーム(機能)だけではない。ファミコンのカセットを交換するようにカートリッジを差し替えれば、このガジェットはまったく別の機能を持った測定器へと変化する。
次は「きあつセンサー」のカートリッジだ
今度は液晶に「気圧」が表示された。現在の気圧は1010ヘクトパスカル。気圧の変化によって体調が悪くなったりするので、目に見えるようになるのはありがたい。
中には「BME280」というセンサー基板が入っている。温度や湿度も測れる多機能なセンサーだが、今回は機能を絞って気圧だけを表示するようにした
今日は頭が痛いな……気圧はどれくらいだろう。そんなときに、カートリッジを交換するだけで、このガジェットを気圧計に変身させることができるのだ。
そして最後が、「くうきセンサー」のカートリッジである。
表示されるのは「VOCインデックス」という指標
VOCとは揮発性有機化合物のことで、人の呼気や生活臭、さまざまな化学物質に反応して数値が変化する。人が近づいて息を吹きかけると数値が上がるので、なんだか「人の気配」を測っているような不思議な感覚になる。いわばこれは「くうきゲーム」のカートリッジだ。
中に入っているのは「SGP40」という空気センサー基板
絶対的な空気の良し悪しを測るというよりは、「さっきより空気が濃くなった」「人が増えた」といった環境の変化を感じ取るのが得意なセンサーである。遊んでみると、つい街のあちこちで試したくなってしまう。人がいる場所には、人の気配が数値として残っているのだ。
……というわけで、子どもの頃に味わった「カートリッジを交換すると新しい世界が始まる」感覚を、センサーガジェットとして再現してみた。
とはいえ実際に作るとなると、カートリッジをどう認識するのか、どうやってセンサーを接続するのかなど、考えることは意外と多い。ここからは、この「ENV SENSOR SYSTEM」ができるまでを紹介したい。
カートリッジ交換式ガジェットができるまで
カートリッジの中身はこのようになっている。
先に紹介したように「ひかりセンサー(TSL2561)」「きあつセンサー(BME280)」「くうきセンサー(SGP40)」を搭載している
それぞれをユニバーサル基板に実装し、コネクタを介して本体と接続できるようにした。
また、カートリッジごとに搭載する抵抗値を変えており、本体側ではその値を読み取ることで、「いま何のカートリッジが差し込まれているか」を自動判別している。この仕組みによって、最小限の部品追加で交換式カートリッジの動作を実現することができた。
本体側はこのような構成
中央にあるのは、76×284ドットの縦長液晶ディスプレイ。安全のため電源はリチウムイオン電池ではなく単4電池2本(3V)にしたかったので、液晶の左にある「DCDCコンバータ」により、3V→3.3Vに昇圧している。
裏側には制御用のマイコン「RP2040-Zero」を搭載
本体とカートリッジの接続は、QIコネクタという電子工作ではお馴染みのものを使用した。本当はもっと「ギュッ」と力を入れて差し込む、ファミコンのカセットのようなコネクタに憧れたのだが、それを一から作るのはなかなか大変である。今回は、電子工作で最も信頼できる方式を採用した。
グッと差し込むことで簡単に接続できる
カートリッジを装着した状態
上部のコネクタにカートリッジを差し込むと、本体が自動的に種類を認識、それに応じた液晶表示に切り替わる。まるでファミコンにカセットを差し込んで電源を入れたときのように、カートリッジごとにまったく違う世界が立ち上がるのだ。
唯一の欠点は、ファミコン世代なら誰もが知っている「カセットの端子にフーッと息を吹きかけて接触不良を直す」という伝統技が使えないことだろう。QIコネクタは最初から接触が良すぎる!
中身ができれば、あとは外装だ。基板に合わせたサイズでケースを設計し、3Dプリンタで出力した。
上下で色を変えたツートンカラー仕様にしてみた
なかなか良いでしょう
今回イメージしたのは、最近のガジェットのようなパキッとしたカラーではなく、少し色褪せたレトロゲーム機の雰囲気だ。そのため、表面と背面には少し灰色がかったフィラメントを選んでいる。新品なのに、どこか懐かしい。そんな質感を目指した。
反面、カートリッジの色はカラフルにしてみた
ゲームソフトを何本も並べたとき、ラベルやケースの色が違うと、それだけでなんだかワクワクする。そんな感覚を出したくて、「ひかりセンサー」はシルバー、「きあつセンサー」は半透明のスケルトン、「くうきセンサー」は鮮やかな黄色と、それぞれ違う色のフィラメントを使ってみた。
並べてみると、どことなく昔のおもちゃ売り場に並んでいたファミコンゲームのような雰囲気になってないだろうか
そのカートリッジの中央から顔を出すのがセンサー本体だ。昔、ゲームボーイアドバンスのカートリッジに光センサーを搭載した『ボクらの太陽』というゲームがあったのを思い出した。今回はセンシングしているだけだが、ゲームと組み合わせるとさらに可能性が広がりそうだ。
特にお気に入りはスケルトン
最近では「平成レトロ」の文脈で良さが見直されつつあるスケルトン。やっぱり私の世代では、これぞガジェット! という感じがしてかっこいい。特に中が基板なので、うっすら複雑な部品が透けて見えるというのにロマンを感じてしまう。
そのままでは味気ないので、ラベルをデザインして貼り付けてみた。これで「ENV SENSOR SYSTEM」の完成だ
ガジェットの使い方
本体ができたので、さっそく使ってみよう。
レトロゲーム機でもあり、産業用のハンディ端末でもあり、という雰囲気をまとっている
側面には電源スイッチと、普段は蓋で隠している中にマイコンのUSB端子(ここからUSB電源で駆動することもできる)がある
片手で持ちやすいサイズ感
上部には、センサーカートリッジを差し込むスロットがあるので、
そこにカートリッジを差し込んでいく
少しの手応えと共に、カートリッジが本体に装着された。実際には「ガシャッ」という感じではなく「グッ……」という刺さり心地だ
少しだけ飛び出したカートリッジがいい
不思議なのは、カートリッジの抜き差しそのものが楽しいことだ。
カチッとロックされるわけでもなく、特別なギミックがあるわけでもない。ただ、「グッ……」という控えめな手応えとともにカートリッジが収まる感触が妙に気持ちいい。測定の必要がないのに、つい何度も抜いたり差したりを繰り返してしまう。
永遠に遊んでいられる
今でもSDカードやUSBメモリを抜き差しすることはあるし、ゲームカードだって現役だ。でも、子どもの頃にファミコンカセットやフロッピーを入れ替えていたときのような、不思議な高揚感はなかなか味わえない。
あの頃の「交換」は、単にカートリッジを変えることではなかった。カートリッジを差し替えるたびに、目の前の機械が別の何かに変わる。そんな感覚が好きだったのだと思う。そして、その感覚をいつの間にか機械から感じなくなってしまったのかもしれない。
なので、このガジェットでは「センサーを交換できること」そのものを大事にしたかった。測定値を見るためだけの装置ではなく、今日はどのカートリッジを差そうかと考えたり、意味もなく抜き差ししたくなったりする。そんな、少し昔の機械が持っていた楽しさを取り戻してみたかったのだ。
あまり抜き差しばかりしていても前に進まないので、いざ電源を投入!
まずは起動ロゴが表示され、その後センサー表示に切り替わる
ゲーム機には、起動時にロゴが表示されるものが多い。あれが好きだ。電源を入れて、ほんの少し待たされる。その短い時間に、「これから何かが始まる」という期待感が詰まっている気がする。
このガジェットを作るなら、起動ロゴは絶対に導入しようと決めていた。イメージしたのは、ゲームボーイ起動時に「Nintendo」ロゴが降ってくるやつだ。そのまんまである。
一瞬だけ表示される「NEKOPLA」(筆者の活動名)のロゴ
起動後はセンサー値の表示画面になる
ここで「ひかりセンサー」に差し替えると、照度計に早変わり
強烈な光を当てると照度(ルクス)は跳ね上がり、
「くうきひんしつ」センサーにもなるぞ!
家の中でも外でも、おおむね90前後を示すことが多かった
面白いのは、センサーに向かって息を吹きかけたときだ。最初にこのセンサーは「人の気配」を可視化すると説明したが、まさにそれを感じることができる。
息を吹きかけた瞬間、数値が急上昇。一気に200まで駆け上がった
正直なところ、安価なセンサーなのでそれほど正確な値ではない気がする。でもセンサーの精度はあまり気にしていない。欲しかったのは正確な測定器ではなく、「気圧を測るための機械」や「光を測るための機械」にカートリッジを差し替える体験そのものだった。
実際、数値が多少ずれていたとしても、「今日は気圧を測ろう」と思ってカートリッジを差し替える時間の方が、このガジェットでは大事なのだ。
ちなみにカートリッジを差さずに起動したら、「カートリッジなし」をちゃんと検知して表示が変わるようにした
せっかくなので測ってみる
センサーの精度はそれほど重要ではない、と書いた。
とはいえ、センサーが付いている以上、何かを測りたくなるのも事実だ。せっかくカートリッジを交換できるのだから、街に出ていろいろなものを測って遊んでみることにした。
新幹線に乗ったので「くうきひんしつ」を測ってみたところ、屋外と大差ない数値だった
ただ面白かったのは、通路上で測ると数値が上昇したことだ。おそらく車内で空気を循環させており、通路を気流が吹き抜けているのではないかと思われた
人がほとんどいない場所(山中湖)に持って行くと、数値は60台まで低下した
ならば混雑したところでは数値が爆上げするのでは? と思ったものの、それほど上がらない(表示は78)
ただ空気が淀んでいそうな隅の方に行くと値が上昇したので(161になった)、換気の影響がかなり大きいようだ
ウロウロしていると、一ヶ所だけ値が激増するポイントがあった(数値は199)。何だろう? と思って周りを見たら、そこには「551蓬莱」があった……
「きあつ」センサーも見てみる。雨の日の河口湖周辺では、900.3ヘクトパスカルを示していた。え、雨でも低すぎない?
山中湖に至っては893.2ヘクトパスカルだ。さすがにセンサーがおかしいのか? とも思ったが、よく考えると山中湖は標高約1000メートルに位置しており、900ヘクトパスカル前後が標準なのであった
大阪に移動すると、気圧がグッと上がって1002ヘクトパスカルに。同じ日本でも場所によってこれだけ気圧が変わり、しかもそれを数値で確認できるのは面白い
ちなみに「ひかり」センサーはというと……太陽光下では値が振り切れた(光って見づらいが上限の65536に)。晴天の照度は10万ルクス程度になるらしく、太陽エネルギーの強力さを実感する結果となった
数値そのものに大きな意味はないのかもしれない。
でも、「次は何を測ろうか」と考えながらカートリッジを差し替えている時間が、このガジェットではいちばん楽しいと改めて実感できた。
思った以上に、何度もカートリッジを抜き差ししたくなるガジェットになった
斎藤 公輔:1983年徳島県生まれ。大阪在住。散歩が趣味の組込エンジニア。エアコンの配管や室外機のある風景など、普段着の街を見るのが好き。「デイリーポータルZ」などで記事を執筆中。
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