✕ 閉じる
ものづくり
2026年06月26日
先輩からつながった“強豪校”への思いが大会史上“最高”のゲートに結実!(熊本高専熊本キャンパス)
★高専ロボコン2025の試合内容やルール概要については【高専ロボコン2025大会レポート】前編・後編をご参照ください。
工作機械が少ない! 元“電波高専”
熊本高専熊本キャンパスのロボコン部は、専用の「部室」ではなく、校舎内にある「創作工房」で主に活動している。壁には部としての目標が掲示されているし、部品棚、製作中のロボットなどが置かれている状態からすると、正直ほぼ部室に見えるのだが、「あくまで在校生が共用する創作工房の一部を借りている」のだそうだ。
ボール盤や旋盤、3Dプリンタといった工作機械が置かれている高専の創作工房がいち部活に占拠されていては、授業の際にもさしつかえがあるのでは…と考えてしまうが、そこには“熊本キャンパス”ならではの特殊な事情が関係してくる。
長田大輝さん(以下、長田さん)「熊本キャンパスには電子情報系の学科しか設置されていないんですよ」
“熊本キャンパス”の前身は、通信技術者養成校「電波高専」の1つ「熊本電波工業高専」のため、情報通信や電子工学などの学科で構成されており、工業高専の多くに見られる「機械科」が設置されていない。そのため、創作工房を主に使うのはロボコン部になっているので、問題にはなっていないそうだ。指導教員である同校の情報通信エレクトロニクス分野・高倉健一郎教授いわく、「常に自分たち専用の部屋でないことは伝えています」とのことだ。
機械科が無いことは、ロボコン部の活動にいくつかの影響を及ぼしている。
特に、高精度を求めたい部品や大きな部材を使う部品の製作は、部室兼創作工房では難しい。大型の工作機械は部で購入できるような金額のものではないし、扱う知識や技術を持った人材もいない。だからといって、仕方なく高精度な部品は諦めて、糸ノコとボール盤で作っている…というわけではない。
長田さん「じつは八代キャンパスの技術センターに部品を発注して作ってもらうことができるんです。サイズや精度などの関係で、自分たちで製作できないものはそちらにお願いしています」
同じ熊本高専の“八代キャンパス”には機械科や工房があり、大型レーザー加工機や扱える技官の方も在籍している。図面は自分たちで製作し、部材も自分たちで揃えるのだが、加工自体はお任せ。ある意味、図面から意図したとおりの部品を手に入れることができるという、エンジニアとして将来必要になるであろう発注テクニックの予行演習をしているといえるかもしれない。高専ロボコンにおいて、同高専でもキャンパスごとに別チームが出場する他校扱いとなっているため、協力関係が築かれている仲間でもあるのは意外だった。
取材時に見せていただいた、加工から上がってきたばかりという自作オムニホイールの部品。創作工房でも可能な大きさだったが、部品の精度が必要で加工を依頼したという。
育成で目指した“強豪校”
創作工房の壁には、大きく「強豪校になる!」という目標が掲げられている。「優勝」や「大賞」といった到達点としての成績だけではなく、強豪校と呼ばれる存在になろう、という目標が、ロボコン部の活動を見守っている。
松永蒼真さん(同、松永さん)「ある程度設計をやってきた2年、3年生が、1年生に講習のようなことを行ったり、一緒になって部品の設計をしながらCADのノウハウを伝え、身につけてもらうようにしています。1年生の目標は毎年3月に行われる『九州沖縄ロボコン交流会』に出場するロボットの部品を自分で設計できることで、そこに向けて自分の力を高めていく流れです。僕たちも同じように教わってきました」
水篠太奨さん(同、水篠さん)「過去に作った部品のCADデータを教材として、先輩が後輩に教えたりしていますね」
前述の通り熊本キャンパスには機械科がないため、現在の機械設計で必須となる3DCADなどは、授業で「CADの使い方」程度の触れ方で終わってしまうのだという。そのため機械設計のイロハをどう学ぶかは従来メンバーの自主性に任せられていて、やる気のある後輩が先輩に聞けば教えてくれるかもしれない、という環境だったそうだ。
前出の高倉教授によれば、2025年春に卒業した世代のOBたちは、現役当時に「強豪校」を大目標に掲げて一念発起。「後輩を強く育てていかなければ、強豪校にはなれない」という考えから、自分たちの技術力アップだけでなく、その技術を継承していくための環境づくりをスタートさせたそうだ。そして彼らから薫陶を受け、入部当初から“強豪校を目指す”ための人材として育てられた第一世代が、今回取材させていただいた長田さん、松永さん、水篠さんをはじめとする、2年連続の準優勝、大賞受賞の原動力となった部員たちなのだ。
成績を残すため、技術を学んで身につける努力を惜しまない学生さんは数多くいるだろう。自分が得た技術を惜しみなく後輩に受け継ごうとする人もまた、ある程度いるかもしれない。しかしさらに、受け継いでいくための環境づくりまで整えようとする人は、それほど多くないはずだ。目標へ着実に近づきつつある熊本キャンパスの土台となっているのは、そんな貴重な人材が世代を重ねて蓄積されているからこそなのかもしれない。
「重さはできるだけ性能に割り振りたい」
「強奪名星」は赤と青のカラーリングが目立ち、動作中も赤や青のLEDテープが光る。何かしらのシンボルカラーなのかと思い尋ねてみると、全く異なる答えが返ってきた。
長田さん「これは操縦をしやすくするためなんです」
ポイントは「強奪名星」のシルエットが左右対称かつ、2人の操縦者で動かしているところにある。長田さんが移動とアームのついた上半身の上下動。松永さんは箱をつかむアームの開閉と吸盤のON/OFFを担当していた。つまり長田さんが移動させた先で、松永さんはロボットの正しい向きのアームを開閉させなければならない。3分の中で「あ、こっちじゃなかった」というわずかなロスが生まれる可能性を塞ぐため、一目で左右が判断できる色分けを行ったのだ。
そして光るLEDテープは点灯/点滅で左右どちらの吸盤が吸い付いたかが確認できるモニターの役目を果たしている。こちらは逆に、松永さんの操縦結果を一目で判断して、長田さんが移動や上半身の操作に移ることができるというわけだ。
長田さん「装飾っぽく見えますが、実用的なLEDの使い方です。重量制限がどうしても辛いという部分もありますし、その重量はすべて性能のほうに振り分けたい、という気持ちがあるんです」
必要な部分として、惜しげもなく重量が割かれている場所もある。部品単体で2~3kgはあるという、ジュラルミン板材から削り出された厚さ10mmのモーターマウントだ。組み込まれるモーターは上半身の上下動のためのもので、10kg弱あるゲートの段ボール全体を持ち上げられるパワーを持っている。だが、モーターが機体にしっかり取り付けられていなければその力は100%で発揮できない。
長田さん「板材や軸材を組み合わせて作ろうとすると、組み上げるためのねじのほうがせん断してしまったりするんです。実際、Bチームは最初それで困っていました。Aチームは先輩がたまたま部室にあった板材で作ってくれた一体化しているこの部品のおかげでうまくいきましたが、こんなに重くして良かったのかな、とも思っています」
ロボットの重量制限は30kg。「強奪名星」はギリギリの29.75kg。約1割の重さを1つの部品で占めるのは確かに驚きかもしれない。しかし、必要となれば大胆にリソースを振り分ける割り切った考え方を中心に据えているからこそ、大会最大高さのゲートを建てられる機体に仕上がったのだろう。わかりやすい装飾的な部分は目立たないが、強さを求めるがゆえにシビアに選ばれた部品たちの集合体は“機能美”といえる装いに見えた。
勝利に真正面から挑む設計思想
「強奪名星」について話を伺っていると、ロボットそのものは非常にシンプルに作られている印象だ。そして機構の説明を受けると、それぞれ「なぜこのしくみなのか」という説明の背景には、常に“勝利すること”を意識した考え方がある。「こんな機構をやってみたい」といったこだわり部分はどこかにあるのだろうか?
長田さんは「やってみたいという気持ちだけで入れた機構はありません」と断言。勝つために必要な能力を計算し、それを実現できる機構を実装したいのだという。だから機構のアイデアも、勝つために必要であればあっさりと別のものに置き換えてしまうそうだ。
完成形とは全く違う「強奪名星」の初期機体。一旦製作しても、あっさりと機構を変えてしまったことがよくわかる。
長田さん「ルールを読んだら、最初にタイムチャートというか、戦略を考えるんです。まず試合の中のいろいろな動きにこれくらいの時間はかかるだろう、と想定します。そのうえで、移動のための足周りは何秒で到達しなければいけないし、アームは何秒で閉じなければいけない、何秒で収納できなければいけない…という要素の必要時間を割り振って、それが可能な機構を作っていきます」
あくまで優勝を目指した「強奪名星」は、全身が戦略ベースで解説される。例えば胴体左右にある特徴的な大きいハンドだ。
長田さん「もともとは共有ボックスE(長さ1000mm)を横向きにつかむつもりで設計を始めたんですが、どうせなら最大限大きなほうが使いやすいのでは、という方向に変わったように記憶しています」
水篠さん「つかめる幅は最大1300mmですが、これは自分のフィールド側から1種類の共有ボックスを複数一度につかむことで相手に取らせないという、戦略面から設定しました。400mm四方の共有ボックスBを3つ(1200mm)同時につかむことができます」
共有ボックスが対戦相手と取り合いになった場合、フィールドに落ちなければ競技時間が進む。相手にとって「なくてはならない」共有ボックスを引っ張り合いに持ち込み、たとえ取られたとしてもゲートを作るための時間を消費させれば、そのぶん自チームの勝利は近づくという戦略である。もちろん自分たちが建てられるゲートの高さや時間との兼ね合いもあるので「〇秒までこの共有ボックスが取れなければBプランに移行、△秒までにこういった状況ならCプラン」といった残り時間と状況に応じた作戦がチーム内で共有されていたそうだ。
水篠さん「2025年の地区大会日程を見たときに、僕たちが出場する九州沖縄地区は早い時期に行われることがわかりました。であれば、ある程度の課題を達成すれば全国大会には行けるのでは、と考えました」
地区大会は例年、週末ごとにおおむね2地区ずつ開催されていく。結果として最初の開催地区と最後の開催地区では1か月ほどの時差が生まれるため、早く開催される週にあたるとさまざまな面で情報が少なく、各チームが手探りで試合に臨むことも少なくない。熊本キャンパスチームは、大会ルールから自分たちの占有ボックスと共有ボックス1つで建てられる「3.2m」を最低限と考え、まずその高さのゲートを建ててくぐることができるロボットの設計を始めたそうだ。
長田さん「A・B両チームで3.2mをクリアしてからは、負けたほうは全国大会に出られない(注:全国大会に行くことができるのは原則として1キャンパス1チーム)ので、お互いを倒そうと、どんどん建てられる高さが上がっていったんです」
熊本キャンパスではロボットが動くようになると、週に1度ほどはA・Bチームが体育館に集合し、“部内戦”を行うのだという。もっとも身近にいるライバルの進捗を肌で感じる、否応なしに刺激がやってくる環境だ。
長田さん「僕たちは試合形式の練習をたくさんこなすことを重視して活動しています。ロボットの安定性を高めることと、メンバーの能力を安定して出せるようになろうという狙いですね」
試合慣れという部分はもちろんだが、数をこなすことで見えてくる戦略の磨き上げも大きなポイントだ。
長田さん「今年は特に共有ボックスの取り合いで「コレを奪ったら強い」みたいなのもあったので、それを研究しとかなきゃいけないという。相手がこれをされたらいやだろうな、みたいな形を紅白戦でやっていくことで、実際の地区大会ではこれをされるかもよ、みたいな形で情報を共有して、戦略というか戦いの組み立て方を高め合っていきました」
そうやって切磋琢磨した結果、熊本キャンパスA・B両チームは地区大会の決勝で相まみえることになった。戦略から作り上げたロボットを完成させ、両チームが望みえる最高の舞台で雌雄を決する場面に到達したのだから、目指す“強豪校”の姿にまた一歩近づいたのではないだろうか。
ハンドの付け根には開閉に連動して動く小さな部品がある。ゲートの柱をつかんで持ち上げると、ロボットがつかんだ部分が支点となって外に広がってしまう問題を解決したのが、この部品(画面中央にある台形の部品)。広がろうとする柱を抑えるために出てくるのだが、出たままではゲートをくぐり抜ける際に接触してしまうので、アームをたたむ動きと連動して引き込むことで、引き込んだ分、左右のゲートから確実に機体を離すことができるようになっている。「ちょっとおしゃれな機構ですね(笑)」(長田さん)
想定をはるかに超えてきた旭川“天旋”
共有ボックスの数を根拠に自チームと相手チームが建てられるゲートの高さを計算し、様々な戦略を実行できるロボットとして開発された熊本キャンパス「強奪名星」。しかし、そんな熊本キャンパスの予想をはるかに超えてきたのが、今回2回戦と決勝で2度対戦した旭川高専「天旋」だ。どんな機体だったかは大会レポートをご覧いただくとして、おおまかに紹介すると、自陣の占有ボックスのみを使用したゲートを素早く建て、残り時間じゅうゲートを高速旋回で繰り返しくぐって得点を積み上げるというチームである。
水篠さん「地区大会の後で、周回ですごい得点を取ってくるというウワサは聞いていたんです。でも速くても1周5秒あたりだろうと思っていたんですが、本番のテストランで見たら1周2.5秒くらいしかかかっていなくて、ものすごい速さにびっくりしました」
周回を重ねて1周ごとに5点を積み上げるというアイデアは、熊本キャンパスチームでも出なかったわけではない。しかし、もともとのチームコンセプトとして高いゲートを建てるという大会テーマになるべく近づくこと、高いゲートを建てたほうに50点がプラスされること、何より人を乗せた状態でそれほど速く周回することは難しいと考えて採用しなかったのだという。それだけにテストランで「天旋」を目の当たりにしたときのインパクトは非常に大きかったそうだ。
ある意味“想定以上”だった「天旋」とは対戦が決まっていたが、前日の夜は対抗するための戦略を立てたのだろうか。
長田さん「一応は考えていました。相手は共有ボックスを取りに来ないので、ボックスEは3つ取れるという想定で、自分たちができる最大サイズである4.2mをやろうという話をしました」
しかし、それでも勝てるかどうかの確信は持てなかったという。
長田さん「ほかのチーム相手であれば、いろいろな状況を想定した話し合いもできるんですけど、相手に何も干渉できないので、自分たちのやれることをやるしかない、という状況でした」
水篠さん「4.2m以上に挑戦しよう、という話も出たりはしたんですけども、練習も含めて一度も立てたことはないですし、検討したこともありませんでした。旭川さんは全国大会1回戦ではゲート得点を引くと480点だったので、自分たちがパイロンまですべて取ればギリギリいけるかも、と」
2回戦では通信不良もありゲートを建てられず失敗。ワイルドカードから再度勝ち上がっての決勝でも、自分たちのパーフェクトをやりきることに徹したのだという。決勝は会場中から「天旋」の回転数を数える声が響く異様な雰囲気になっていた。
長田さん「試合中は応援の声もほとんど覚えてないです。終わった瞬間にずっと点数を見ているので、振り返った瞬間に勝ちか負けかわかる。計算できてしまうんですよね。一瞬で負けたってわかって、その瞬間に銀テープが飛びました」
水篠さん「4.2mを本番で建てられたのが嬉しくて「よっしゃー、勝ったぞー」って言ってしまったんですけど、負けてました(笑)」
決勝で「強奪名星」がたたき出したのはゲート得点を入れて475点。「天旋」はゲート得点無しだったが、490点。
わずか15点、周回数にして3周。1周2秒ちょっとなので、「天旋」が7、8秒ゲートを立てるのが遅くなっていれば、逆転勝利が叶っていたことになる。できることをやる、ということに徹した結果の激戦であり、前日に決めた戦略が間違っていなかったことの証明が、得点差に表れていた。
そして何より、大会タイトル『Great High Gate』を体現した大会最高となる4.2mのゲートに当日一度失敗した記憶も新しい中で再度挑戦し、大トリの決勝戦で堂々と建てたその実力と勇気!
ロボコン大賞に輝くのも納得だろう。
後輩のロボットに宿る「大賞ロボット」
“強豪”を目標に掲げてきた熊本キャンパスは、2年連続で全国大会準優勝。優勝はまだ未達成だが、優勝より名誉とされるロボコン大賞も初めて獲得した。地区大会では毎年優勝候補に挙げられるチームを送り出しており、はた目では十分に強豪校としての存在感を出している印象だが、やはり「全国大会優勝」は何としても勝ち取りたいという。
「強奪名星」メンバーの未来は三者三様だ。長田さんは2026年もメンバーとして参加予定。1学年上の水篠さんは熊本キャンパスの慣例として最上級生として後輩のサポートに回る予定だという、そして松永さんは大学編入を目指して学業の比重が重くなるらしい。
同じチームでのリベンジができないのは残念…しかしそれは一面的な見方かもしれない。同じメンバーで優勝をもぎ取りに行くのもドラマだが、熊本キャンパスは先輩から後輩に、知識と経験、そして思いのバトンをつないできたから今の姿があるのだ。受け継いだバトンを後輩がひと回り成長させて優勝を目指す。最高のドラマではないだろうか。
熊本キャンパスの1号棟入り口を入った真正面に展示されている「強奪名星」は、よく見ると足回りや基板などが取り外されていた(取材時点では大賞受賞から3か月しか経っていないのに!)。しかもメンテナンスではなく、後輩が出場する九州沖縄共同ロボコンの機体に流用されるため。再び可動状態に戻ることはないという。
長田さん「使えるものは使いたい、という考えですね。後輩がそれで育つなら、あとは別になんでもいいやと(笑)」
「強奪名星」の横には2024年の準優勝機が並んでいたが、こちらもタイヤはすべて取り外され、エアタンクも撤去。そもそもロボットが1台まるごと消えてしまっていた。実績を残したロボットも、大会が終われば込められた魂や肉体が後輩に受け継がれていく。きっと2026年に熊本キャンパスから送り出されるロボットは、「強奪名星」のエネルギーが加わってさらに強くなっているに違いない。そう思わされた取材だった。
ライター:梓みきお
フリーライター。1999年以降、実際に目の前で動くロボットや腕時計を中心として取材・執筆に携わっています。歯車で動くものはおおむね興味の対象。
https://x.com/bamboo_azusa
https://x.com/bamboo_azusa
関連記事
タグ一覧