ものづくり 2022年10月21日

2022年版ものづくり白書から見る人材育成の課題と育成推進の取り組み

国内の製造業では、少子高齢化の急速な進展による人材不足に加えて、感染症の拡大に向けた働き方の変化、デジタル技術の普及により必要な人材の育成が課題となっています。

経済産業省が発行している2022年版のものづくり白書でも、人材育成という切り口でさまざまな課題や取り組みが挙げられています。そこで、製造業における人材育成の課題やその対策となる取り組みについて紹介します。

製造業における人材育成の課題

製造業における人材育成の課題について、ものづくり白書では、従業員の能力開発とデジタル技術を活用できる人材育成の二つについて言及しています。そこで、それぞれの観点で人材育成に関する課題を明確にします。

製造業における能力開発・技能継承

従業員の育成を進めるためには、仕事中に行うOJTOn-the-Job Training)やOFF-JT、および仕事の時間外に各従業員が主体的に行う自己啓発の取り組み。このどちらかが必要不可欠です。

ものづくり白書によると、製造業は日本の全産業と比較して、OJTや自己啓発の実施率が低く、能力開発が十分に進められていないことがわかります。特にOJTOFF-JTの実施率が低い利用として、アンケートに回答した企業は以下のような理由を挙げています。

  • 指導できる人材の不足
  • 時間をかけて育成した人材の退職
  • 育成すべき人材の不足

時間をかけて育成した人材が退職してしまうことで、仕事を任せられる人材が不足します。それによって指導できる人材が実務を担当せざるを得なくなるため、指導できる人材が不足するという悪循環に陥っている企業が多くあります。

デジタル技術を活用できる人材の確保の難しさ

製造業では、人材不足の解消や競争力強化を目的に業務効率化や業務プロセスの変革を推進しており、実現手段としてデジタル技術に期待が集まっています。しかし、情報処理推進機構の調査によると、企業が求めるIT人材は量・質共に不足しています。実際に、多くの製造業でデジタル人材が不足しており、世界的に見ても日本の製造業におけるIT人材の不足感は顕著です。日本が諸外国と比較して不足感を感じている理由は、IT人材の所属する業界が偏っていることが挙げられます。

日本は海外に比べて、IT人材がツールを提供する側であるSIerやツールベンダーに偏っている傾向が強く、ユーザー側である企業内には十分な人材がいません。世界的に見てもIT人材が不足している状況では外部からの採用も難しい状況なため、もともとはIT人材ではない社内の人材を育成することが重要です。しかし、日本は一度企業に就職した人材が学び直しをするリカレント教育の実施率も諸外国と比べると低く、いずれにしてもデジタル技術を活用できる人材の確保について、難しい状態が継続しています。

デジタル技術を扱える人材の育成における課題

政府はこのような状況を深刻に捉え、小中高など、若年層からのデジタル教育に力を入れ始めました。しかし、実際に就業できる年齢になるまでは時間がかかりますので、大きな課題を抱えている企業に対して、目先の課題を解決する効果的な策にはなりません。

また、リカレント教育の充実に向けて、政府は第四次産業革命スキル習得講座認定制度を運用することでデジタル人材の確保を目指しています。しかし、従来の業務をこなす人材も不足している状況では、制度の活用に貴重な人材を割ける余裕がありません。新たな技術を身に付け、新しい取り組みを推進してほしいと企業が考えている人は、社内的にも重要な仕事を任されている場合が多く、その人の時間を確保するのは容易ではありません。

デジタル人材が活躍しなければいけない職場ほど、デジタル人材の育成を進めることができないという状況です。

人材育成に関する課題を解決するための取り組み

ものづくりに関わる企業が、自社従業員の能力開発を進め、デジタル技術を活用する人材を育成していくための取り組みについて、以下の4点を紹介します。

このうち、①②は現役のエンジニアとして部下を持ちながら実務を推進する立場としての提案です。また、③④の2点については、ものづくり白書で言及されている長期的な視点での取り組みです。

①上位層による取捨選択と業務マネジメントの徹底
②企業が必要とする内容の自己啓発を進める人材に対する明確な評価の充実
③ものづくり人材を育む基盤の充実
④成長分野を中心とした人材育成の推進

①上位層による取捨選択と業務マネジメントの徹底

前述した通り、ものづくりに関わる多くの起業で人材育成にかける時間がなく、社内にない技術を外部のセミナーなどで習得しようにも、その時間さえ確保することが難しい状況です。

特に、育成を主で行うのは若手の管理職や実務のリーダーで、マネジメントを行いながら実務もやらないといけない状況です。いくら若手の時間を確保しても、指導する層の時間を確保しなければ効果的な育成は難しいでしょう。

もし、現時点で人材育成に関する危機感を感じているのであれば、短期的な利益や売上の増加の一部を犠牲にしてでも、状況を改善するために育成に充てる時間を確保することを優先すべきと考えます。

そのためにはまず、経営層が現場の実態を理解した上で仕事の取捨選択をすることで、仕事が集中しがちなマネジメント層、実務リーダーの仕事を調整することが必要です。仕事が集中しがちな優秀な人材が、後進の育成や新たなスキルの習得に時間を使えるように、部下の業務マネジメントを徹底することが重要です。

実態を十分に把握せずにうわべだけの指示や管理では、優秀な人材が離れてしまう可能性があります。

②企業が必要とする内容の自己啓発を進める人材に対する明確な評価の充実

従業員の中には、上司や同僚に共有していなかったとしても、会社への貢献及び自身のキャリア、スキルアップのために、業務時間外で自己啓発に取り組む人材がいます。特に、社内では育成の時間を取れない場合や従業員自身が取り組みたい内容に取り組んで欲しいと考えている場合には、自己啓発の活動を支援するような制度の充実が必要です。

例えば、福利厚生の一環として書籍購入や資格試験の受験費用補助、また有用な資格を取得した場合には資格取得手当の設定なども効果的です。また、業務外の活動であったとしても、学習した内容が成果に繋がった場合には、明確に高い評価をすることが重要と考えます。

このような取り組みにより、会社内で積極的に教育の機会を用意することが難しい場合でも、一部の従業員が自ら、モチベーション高く、学ぶ意思を持てる環境を構築できるでしょう。また、取り組みの方向性を企業が考える、企業の役に立つ内容だけに制限しないことが重要です。社員の自主性に任せた学びにより、多様な能力を持った人材が育ち、想定しなかった場面で活躍してくれる可能性があります。

③ものづくり人材を育む基板の充実

ものづくり白書では、ものづくり人材を育む基盤の充実として、各学校段階と社会人の学び直し、女性の活躍推進に向けた取り組みを進めています。

学校段階 ごとの特色ある取り組み

ものづくり人材を育むためには若年層からものづくりに触れる機会を充実させることが必要です。そこで、学習指導要領では、学校段階ごとに、図画工作や理科、工業などの教科において、それぞれの教科の特質に合わせたものづくりに関する教育を行っています。

例えば、富山県の小学校では、地域の材料を活用したものづくりに取り組んでいます。また、岐阜県の工業高校では、全校生徒が参画する活動の母体となる「岐阜工テクノLAB」という組織が誕生し、自治体との協力や新たなビジネスモデルの開発に取り組んでいます。

社会人の学び直し

リカレント教育の重要性が増している中で、社会人が学び直しをしやすい開講時間や学習成果を実際に活用する機会の創出など、キャリアチェンジやキャリアアップを実現するための取り組みを進めています。

例えば東洋大学では、急速に進展しているIoT技術を多忙な社会人が効率的に学べるように、対面とオンラインのハイブリッド形式で開講しています。また、文部科学省では、社会人が大学などで学ぶことを応援するサイトである「マナパス」の運用を開始しました。

④成長分野を中心とした人材育成の推進

新型コロナウイルスの感染拡大を機に、デジタル技術を使いこなすための人材が強く求められています。そこで、以下のような取り組みが進められています。

  • 「データサイエンス・AI教育の推進」
  • 「マイスター・ハイスクール(次世代地域産業人材育成刷新事業)」
  • DXなど成長分野を中心としたリカレント教育の推進」
データサイエンス・AI教育の推進

Society5.0の実現に向けては革新的技術の社会実装に加え、産業構造改革を促す人材の育成が必要です。そこで、大学生及び高専生がデータサイエンスやAIへ興味を持ち、その半数がこれらを活用して課題を解決できる状態が、AI戦略2019の目標として掲げられています。

この実現に向けて、多くの大学が教育プログラムを開発しており、また産業界とも連携しながらそれぞれの分野を牽引するエキスパートの育成にも取り組んでいます。

また、データサイエンスやAIは理系分野だけでなく、経営学や公共政策学など一般的には文系に分類される領域でも必要です。そこで、文系・理系の枠を超えた学位の創設やデジタルとそれ以外の知見を合わせ持つ人材の育成が進められています。

マイスター・ハイスクール

これまで、職業系の専門学校により高度な専門性を持った人材を育成することで、高度成長や工業化を実現してきました。一方で、現在は必要な人材や育成の方向性が不明確になっており、特に最先端の領域では、専門的な知識や能力を持った人材の不足が顕著です。

そこで、最先端の職業人材を育成するために、条件を満たした専門学校をマイスター・ハイスクールに認定しました。このそれぞれが、産業界と連携することで、職業人材の育成が加速することが期待されています。

成長分野を中心としたリカレント教育の推進

コロナウイルス感染症の影響を受けた就業者、失業者、非正規雇用者に対して、成長分野を中心に就職や転職に繋がるプログラムの提供を開始しています。

具体的には、DX分野リテラシー、DX分野リスキル、重要分野のリカレントの3つに分けて、プログラムの開発や実施が行われています。これらの活動は、自治体と民間企業、大学が協力することで、仕事の提供とデジタル人材育成の両立を目指しています。

まとめ

ものづくり白書2022に取り上げられている製造業における人材育成の課題として、従業員の能力開発とデジタル人材の確保について紹介しました。

製造業が生き残っていくためにはどちらの課題も解決する必要がありますが、それぞれの企業が独自にこれらの課題を解決することは困難です。産官学が協力しながら、人材育成に向けた取り組みを行っているため、各企業、従業員は制度を把握し、うまく活用することが重要です。

一方で、短期的な取り組みについては会社や従業員が主体的に動く必要があります。どのような制度・取り組みが効果的か、用意されているかを把握し、積極的に利用しながら育成や自身の学び直しに取り組むことが必要です。

<了>


ライター:一之瀬隼(いちのせ しゅん)
現役エンジニアとして働きながら、製造業ライターとして活動しています。2020年4月に産まれた子供に、実体験の伴った多様な選択肢を示せるように、試行錯誤しながら新たなことにチャレンジし続けています。https://yuyu-jiteki.com/

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