2017年12月25日モノづくり

インターステラテクノロジズ社 稲川貴大社長に聞く「ロケット作りは楽しいし、できます!」

民間の宇宙ミッション実現のやりがいや難しさはどんなところにあるのでしょうか? 2017年7月30日に北海道の大樹町から民間初のロケットMOMO打ち上げ実験を行い、現在2号機を開発中のインターステラテクノロジズ(IST)社稲川貴大社長に伺いました。

インターステラテクノロジズ社稲川貴大社長。地下の秘密基地のような東京の工場で。常駐は5人。各種部品が作られている。

MOMO2号機クラウドファンディング、大反響

顔

12月3日から始まったクラウドファンディング(「今度こそ宇宙へ!MOMO2号機をみんなで飛ばそう」https://camp-fire.jp/projects/view/54332)、反響が大きいですね!

顔
稲川

すごい勢いです。1日で目標額の10%を超える300万以上集まりましたからね。

顔

初号機に比べてリターンの種類が増えましたよね。工場見学ツアーとか、(発射)指令所の中にカメラを設置できる権利まであって。本業のロケット開発もあるのに大変では?

顔
稲川

手間がかかって、かなり大変ですよ(笑)。でもクラウドファンディングは資金調達のためであると同時に、宣伝にもなるし、ファンを増やすことにもつながります。

顔

「自分のロケット」という実感をもってもらえるようにしたい、と書かれてましたね。

顔
稲川

はい。国に頼るのでなく、民間で色々な人の手や想いを合わせれば大きなものが作れるというコンセプトは、10年以上前にこの取り組み始めた「なつのロケット団」から引き継いできました。

MOMO初号機の前で。(提供:インターステラテクノロジズ社)

顔

稲川社長お勧めのリターンはなんでしょう?

顔
稲川

お勧めですか?発射ボタンです!

顔

1000万円の?

顔
稲川

そうです。発射ボタンって普通は責任者が押すものですよね。例えば日本で初めてロケット開発を始めた(東京大学の)糸川英夫博士だったり。それがMOMOでは、一般の人が押すことができてしまう。他のロケットではありえない。これこそ「みんなのロケット」です。

顔

発射ボタンを委ねる・・ドキドキしませんか?

顔
稲川

ドキドキはありますけど、その分、仲間になってもらおうと思います!

顔

MOMO初号機の発射ボタンを押した芹澤豊宏さんは相当緊張されたみたいですね。

顔
稲川

リハーサルの時から震えてましたから。いつもはおおらかな方なのに、当日は声も震えて。現場も極度の緊張状態にありましたからね。

MOMO初号機打ち上げを振り返って

2017年7月30日(日)16時21分に打ち上げられた、日本初の民間ロケットMOMO(提供:インターステラテクノロジズ社)

顔

7月30日、北海道大樹町から打ち上げられたMOMOは日本初の民間ロケットで、高度100㎞までの往復を目指した弾道ロケットでした。解析結果からわかったことを教えて下さい。

顔
稲川

ロケットは綺麗に打ち上がりました。ただ順調に上がっているように見えるのですが打ち上げ14秒後から、ロール方向に少し回り始めます。初めはゆっくり、その後少しずつ早く回っていきました。ある程度回っても安定するような制御にしていたので、それ自体が大きなトラブルではないのですが、想定していない回転が起こった。そして打ち上げ66秒後、地上に通信が届かなくなりました。

顔

なぜ66秒で通信が届かなくなったのでしょうか?

顔
稲川

発射66秒後は「マックスQ(キュー)」と呼ばれるタイミングで、空気の力が一番大きくロケットにかかります。ヘリウムタンクを収納している部分や外装に使われている黒い部分、CFRP(炭素繊維強化プラスチック)の強度試験をやってみたところ、ある条件でフライト中に壊れる可能性がある。つまり強度に問題があることがわかりました。
その結果、機体はバキッと折れて電線がちぎれ、通信ができなくなったのだろうと推測しています。ロケットの強度の見積もりが甘かったこと、想定外の回転が起こったこと、それらの対策を2号機で行う予定です。

顔

回転と強度は関係していますか?

顔
稲川

一部は関係しています。ロケットが回転することで独楽(こま)みたいな運動が起こり、機体に余計な力がかかって(マックスQに耐える)強度が足りなくなったのだろうと。

顔

どんな対策を行いますか?

顔
稲川

強度についてはCFRPを肉厚にします。回転については、姿勢制御に使うガスの種類と噴射場所を変えて、姿勢制御の効率をよくするとともに制御力を増します。

あくまで「実験」―国のロケットと民間ロケットの違い

顔

マックスQは想定していたんですよね?

顔
稲川

もちろん。どのくらいの力がかかって、どう危ないか、僕自身が計算しました。強度解析はかなり時間をかけてやっています。ただ、想定から抜け出るところがあった。

顔

計算していても、実際にやってみないとわからなかったということですか?

顔
稲川

経験値があればわかっていたのかもしれません。ただ我々はゼロからロケット開発を始め、経験や知識がすべてあるわけではない。予想よりもマックスQは難しかったです。

顔

どういう点が難しかったのですか?

顔
稲川

宇宙空間は特殊な世界で、しかもロケットは超音速というスピードで飛びます。地上で物を見ているのとは違う、感覚との乖離みたいな難しさだと思います。

顔

逆に想定よりよかったこと、新たに確認できたことはありましたか?

顔
稲川

(MOMOのような弾道ロケットには通常搭載しない)姿勢制御機能を、次の人工衛星衛星打ち上げ用ロケット開発のために搭載していました。それはばっちりでした。エンジンの推力も少し余裕があったことが、衛星から送られてきたデータからわかりました。

顔

では、マックスQを超えさえすれば、高度100キロメートルに行けると?

顔
稲川

行くだろうと思っています。エンジンの性能がわかったので、2号機では強度を高めるためにCFRPを肉厚にして多少重くなっても、100㎞に到達できる推力はあるだろうと。

顔

エンジンの性能や姿勢制御も飛ばしてみてわかったのですか?

顔
稲川

はい。シミュレーションを行って設計しても実際は幅があって、いい方向に出るか悪い方向に出るかは、正直よくわからない。そこで実際に飛ばしてみると、制御はよかった、推力はちょうどいい、でも強度は悪い方向に出た、といっぺんにわかるんです。

7月末のプレス公開で。多数のメディアが詰めかけ、全国で大きな注目を集めた(提供:インターステラテクノロジズ社)

顔
稲川

それに地上でいくら試験しても課題は出し切れない。すべてのものを試験すると1年か2年かかります。それなら早めに飛ばしてしまうことによって課題の洗い出しができる。だから初号機は、打ち上げ「実験」という言い方をしていました。

顔

なるほど、「失敗」と報道で書かれていましたが、そもそも実験の過程というわけですね。

顔
稲川

そうです。なのに「失敗」と書かれてしまう。これまで国がやってきた宇宙開発では「成功」か「失敗」かの二極でした。そして「打ち上げ=ゴール」という形で開発が進められてきました。でもそういうやり方だけじゃない。ねじ一本まで管理して不具合を全部事前につぶすJAXA的なやり方は、お金も時間もかかります。試験によっては打ち上げるのと同じぐらい、お金がかかることもある。打ち上げ実験をした方が早いし、悪いところをブラッシュアップしながら開発するのが、民間ならではのやり方だと思っています。

ゼロからの物づくり、難しさと楽しさと。

東京の工場で作られた2号機用アビオニクスを手に。電子回路ははんだ付けから作る。ロケット模型の右側にある液体酸素バルブもここで作られた。下町ロケットの世界。

顔

ロケット開発で一番大変なのはなんですか?

顔
稲川

いっぱいありますが、やっぱりエンジンですね。ロケットはほとんどエンジンにかかってますから。

顔

アポロ着陸船のエンジンを参考にされたとか?

顔
稲川

アポロ月着陸船の噴射器の技術を応用しています。ただ詳細な設計図があったわけではありません。また(アポロ月着陸船とMOMOとは)使っている燃料も違います。アポロ月着陸船を参考にIST担当者が設計図を起こし、一から物づくりをしています。そもそもロケットエンジンはノウハウの塊で、ノウハウは論文には書かれていない。やっていって経験値でたまるものです。

顔

なるほど。では、ロケットづくりの楽しさは?

顔
稲川

物ができた瞬間ですよね。MOMOは全長10mの小型ロケットですが10mって見上げるとけっこう大きい。さんざん図面をみて議論してたのに、できあがって見上げた時の「こんなにすごいものを作っていたんだ」という達成感や昂揚感は、ほかではなかなか得られないと思います。大きな物づくりだからこそですね。

7月29日、組み立て所から運び出されるロケットMOMO(提供:インターステラテクノロジズ社)

立った。大きい!(提供:インターステラテクノロジズ社)

顔

発射の瞬間は緊張しましたか?

顔
稲川

もちろん、めちゃくちゃ緊張しました。僕の主な役割は、緊急停止の判断をすることでした。どういう条件だったら止めないといけないのか、判断基準に基づいて機械的に判断しないといけない。「俺は機械だ」と感情を入れずにモニターを見るのに集中していました。66秒後に通信が途絶えて数秒後に「エマスト!(エマージェンシーストップ、緊急停止の略)」と叫びました。

顔

辛い役回りですね。

顔
稲川

でも誰かがやらないといけないし、きちんと体制がとれたと思います。人身事故もなかった。驚いたのはその直後です。指令所のみんなが「66秒で通信が途絶えたって、なんだろうね」と次に向けて話している。強度が問題か電子機器か、あれじゃないかこれじゃないかと、原因究明を始めている。全然うなだれてなくて、すぐに次のことに頭が働き始めているんです。「熱いなぁ」と思いましたよ(笑)。

発射カウントダウンからの指令所内の様子。(提供:インターステラテクノロジズ)

顔

それはすごい!というか実験のあるべき姿ですね。

これから -開発スピードを加速させたい。

顔

今後の課題はなんですか?

顔
稲川

いっぱいありますが、技術開発を加速させたい。今、小型衛星打ち上げ用のロケットは世界中で競争になっています。いかに早く、実現させるかが鍵です。

顔

ライバルは?

顔
稲川

例えば米国の「ロケット・ラボ」は1号機の衛星打ち上げ用ロケットがうまくいかなくて、12月に2号機を打ち上げる予定でしたが延期されました。ちなみに初号機の名前が「It’s a Test(これはテストです)」号。2号機が「Still a Test」号。あくまで実験だ、ということをロケットの名前にしてしまっているのは、頭いいなと思いました(笑)。

顔

面白い!

顔

宇宙活動法など法的整備もようやく整い始めましたね。

顔
稲川

宇宙活動法は、車で言えば車検のようなもので規制法ですが、我々の意見を反映して頂いて、かなり産業を支援する内容になっています。ロケットが許認可制になったことで、「国の許可を得てロケットを打ち上げる会社です」と投資家への説得材料にもなります。

顔

法律も整ったのになぜ、日本は宇宙のスタートアップが少ないのでしょう?

顔
稲川

宇宙産業が世界的にこれから絶対にのびるといわれていて、大きなチャンスがあることに、気づいていないんだと思います。そもそも宇宙飛行士ってすごいヒーローだし、宇宙開発はお金もかかるし大変そうと思う人も多い。でも、やってみると楽しいし、できます!ロケットが自分の手の中から生まれるんですよ。

顔
稲川

他にはヴァージン・オービット社がロケットエンジンの試験をしています。従業員は100人以上。どこも開発途中なので、頭一つ出られるようにしたい。うちの会社は小さいし、まだ衛星打ち上げ用でなく(弾道飛行を行う)観測ロケットの段階なので、開発スピードを加速させたい。

顔

小型衛星のスタートアップはたくさんありますが、ロケットは少ないですね。

顔
稲川

そう。宇宙への輸送革新が伴わずに衛星ばかり盛り上がってもしょうがない。外国のロケットしか選択肢がないのはまずい状況です。なんとかしないと。

顔

逆に言えば勝機ではないですか?

顔
稲川

はい。みんなに使ってもらえるようにしたいです。

顔

今後の民間宇宙ビジネスへの期待は?

顔
稲川

日本の民間宇宙開発はプレーヤーが少ない。目立っているところは両手で数えられるぐらいです。アメリカだと1000社以上はあるといわれている。日本は技術をもっているところがもっと挑戦して欲しい。成功例が出れば、投資や発注などいいサイクルが回って産業として成り立つようになる。これからだと思います。

打ち上げに向けて追い込み作業中、差し入れを手に。楽しそうな現場(提供:インターステラテクノロジズ社)

顔

MOMO打ち上げには全国からたくさんのファンが詰めかけていました。「手が届く」感じがあるんでしょうね。

顔
稲川

なるべくオープンにして、見てもらいたい。それは僕自身の経験に基づいています。20歳ぐらいの時はロケット開発って、どこかエライ先生がやるものだと思っていた。だけど、学生ロケットの世界を見始めると「ロケットは自分で作れるのか、うそ!」と。色々な人の活動がすごく面白くて、意外に宇宙は手が届くんだという衝撃というか感動があって、のめりこみました。色々な人に同じように思ってもらいたい、宇宙に関わる人が増えたら日本でも宇宙開発が盛り上がるだろうと思っています。

顔

日本の宇宙産業を盛り上げるためにも、MOMO2号機打ち上げ、大事ですね。

顔
稲川

どのくらいの技術を持っているか見せられるチャンス。世界でロケットを打ち上げられる会社はそんなにない。我々の技術力をはっきり見せられると思っています。


稲川貴大(いながわ たかひろ)
インターステラテクノロジズ社代表取締役社長。1987年埼玉県越谷市生まれ。東京工業大学入学後、鳥人間にのめりこむ。引退後に学生ロケットを知る。作家や漫画家らがロケット開発を行う「なつのロケット団」を手伝い、堀江貴文氏と出会う。2013年3月、東京工業大学大学院機械物理工学専攻卒業、内定していた大手企業を4月1日に入社辞退しインターステラテクノロジズ社入社。2014年6月より同社社長に就任。


林公代(はやしきみよ)
ライター。神戸大学文学部卒業。(財)日本宇宙少年団情報誌編集長を経てフリーランスに。宇宙・天文分野中心に執筆。世界のロケット発射、望遠鏡など取材歴20年以上。著書「宇宙遺産138億年の超絶景!!」「宇宙においでよ!」(野口聡一宇宙飛行士と共著)等。https://gravity-zero.jimdo.com/


※こちらの記事はHAKUTOスペシャルサイトより転載したものです。

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