ものづくり 2021年01月25日

試行錯誤の10年。海洋堂原型師、山口勝久氏がたどり着いた「デジタル造形」

原型師・山口勝久氏(左)とインタビュアー・けんたろう(右)

アナログ造形からデジタル造形へと移行するのは、ベテランの造型師ほど難しい。PCに向かい合って操作を覚えるより、そこにあるにパテやファンドなどをこねたほうが100倍早く、優れた造形ができるからだ。

指を縛るようなもどかしさに耐えながら、デジタル造形を選んだ原型師が海洋堂にもいる。海洋堂で可動ロボといえばこの人、山口勝久氏。リボルテックシリーズの生みの親にして、現在はAmazing Yamaguchiのシリーズでアメコミキャラをアクションフィギュアにする名うての原型師だ。アナログ造形から切り替えてデジタル造形を商品原型にするまでの道のりと葛藤を存分に伺った。(文・けんたろう)

山口氏も、デジタル機材を買いながら挫折、塩漬けにした経験を持つ等身大のアナログ造形モデラーだった。そこからどうやってデジタル造形へとふたたび向き合ったか。現在デジタル造形の入り口で迷う皆様にもエールとなるような、山口氏のデジタル遍歴をご覧いただこう。

デジタルの時が再び動き出すまで

[山口氏]自分のまわりで粘土造形をしてはる人が、デジタル造形をやりはじめてその変わりようを見て触発されたというのがそもそものきっかけですね。僕も無理かなあというので何度も挫折して、勉強をやめていたんですよ。でもその人を見て、ちょっと仕事でできるところまでやってみようかって。

もう10年ぐらい前に、海洋堂がアキバでワンフェスカフェ[1]をやっていたときに、横でデジタル造形を広げようぜ、というイベントを何回かやっていて。そこでデジタル造形の人がこんなにいてる、というのを認知するようになったんですよ。そのイベントの中心にいた浅井さん経由で、「液タブが安売りしてるから買い~や」っていう情報が直接来たんで、じゃあ始めてみようってタブレットとソフトを買って……塩漬けにしていた

[1] 2011年にAKIBAカルチャーズZONEの地下1階にオープンしたのが海洋堂のワンフェスカフェ。ワンダーフェスティバルの略称ワンフェスの名を持つだけに、イベントではおなじみの素材である混合前のレジンキャスト液を模したドリンクがあったり、学校の椅子が座席だったり、ある意味アキバらしい異色の要素を持った小さなフードコートのようなカフェ。ガチで模型が作れるスペースがあったり、好きものが集まるマニアには妙に居心地の良い優しい場所だった。しかし居心地が良すぎたのかあまり売上がよくならずに1年もせずに閉店の憂き目に。ある意味海洋堂らしい、ちょっとした語り草になる店舗だった。

デジタル造形を楽しんでいる人を見て、自分もって。

デジタル造形を本格的に触るまでは、左右反転のパーツでも、まず右側を作って、左を合わせて作って、また右側をもう位置段階ブラッシュアップして、という作り方をしていて、なんならそこに(アナログ造形ならではの)メリットを見出していたと思うんです。それこそアナログ造形の、自分の持ち味だって思っていた部分があった

でも、最初に言った粘土を使った造形職人だったはずの人が、めちゃくちゃ楽しそうにデジタル造形取り組み始めて。造形が楽しいっていう以上に、機械を通じて造形をするのが楽しいっていう、一本の道ができていた。その変化のしようを見ていたら、自分が考えている以上にデジタル造形の魅力がもっと広がっているやろなあって。

例えるならお互い空手一筋だったのに、その人が柔道を始めた。そしたら柔道めっちゃおもろいわって。えっ柔道"も"楽しいの? って。基本のくくりでみたらどっちも同じスポーツだったり格闘技やん。面白いやん。って意識になった。空手が世界一ってこだわっていた粘土造形職人だった人が、すぐに変わったので。

背中を追って、不退転

その人はメインはアナログ造形で、それを補うカタチでデジタル造形をしていました。半分をアナログ造形で作って、それをスキャンしてデジタル造形で反転して、という感じでやっていました。そのやり方自体もアナログ造形的に見ても理にかなっているな、と考えて。

その姿を見てて、僕も右だけつくってデジタル造形で反転してという作り方になって。あとはデジタル造形方面にだんだん置き換わっていきました。

「作業」は専らディスプレイにむかう

一番最初の機材は、塩漬けにしていたタブレットと、10年ぐらい前のゲーミングPCで。Zbrush[2]がわりとどんなパソコンでも動くんで、最初はそれです。海洋堂では、この部屋みんなが使えるパソコンがあったので、そこで3年ぐらい前からやり始めたんですが、最初は勤務時間中ではなくて、空いた時間でやっていました。でもすぐに、退路を断つように仕事時間中に無理やり原型に仕上げる覚悟で自分の席に持っていって、ここでパテをこねて削りカスを出すような作業がなくなりました。

[2] 読み方は"ズィーブラシ"。現代デジタル造形における最も広く使われているソフトウェアのひとつ。専用のマシンを使うことなく一般的な家庭用PCでも使用できることで導入障壁がぐっと下がった。盛る削るの直感的な操作が可能なこと、そしてフィギュア造形的な緻密な表面表現がやりやすいことが特徴。近年では日本語にも対応したのでますます手に取りやすくなった。

デジタルをはじめて2年くらいは「作っている感」が感じられなかった

デジタル造形をやりはじめたら、やりたいことはさておき、できること自体はめちゃくちゃ多いわけで、そこからアナログ造形意外のメリットを拾っていくと全体的にデジタル造形のほうがメリットは増えるよな、というのが感覚的にわかって来ました。

ただ、作り始めて2年ぐらいまで、作っている感じがほぼなかった。5つ6つと作りながら、液晶タブレットで作業して、モニターで資料見ながらでやっているんですけど、手で作っているときはもう作っている=楽しいで、ながら作業でも気持ちいいラインは手が生み出してくれるという感覚すらあったのが、デジタル造形ではそれがないし、ながら作業では全くできなかった

アナログ造形ではロボットが可動してカッコよく銃を構えられた! みたいな気持ちよさがあるんですが、それはそもそもPC自体の操作が苦手っていうのがあるので、ソフトのなかではできない。顔のパーツだけをかっこいい表情に作り込んでいくというのはできます。

可動モノを作るときは、PCで作ってプリントアウトして、全く動かないということの繰り返しです。PC上では(可動について)どこが悪いというのがさっぱりわからないので、プリントアウトしたものを見て、チェック項目を書き出して……。単純に毎日プリントしています。それで動きを妨げている箇所を実際にリューターで削って、こんだけ削ったなというのをここ(PC)でも削っている。ここが一番作っている感じがある。やっていることはアナログ。

デジタル造形にかかせない3Dプリンター

海洋堂では光造形方式のプリンターを導入している

いまやっているアメコミのシリーズ(Amazing Yamaguchi)の、初期が半分アナログ造形で作って。半分をデジタル造形で増やしてっていう作り方で、だいたいシリーズの1/3過ぎたぐらいでぜんぶソフト上で作ろうっていうふうに踏み込んで3年経った、という感じですね。

わかってきたデジタル造形のこと

(デジタルの手応えを感じたのは)3年ぐらい経ったころですね。

自分で楽しいって思わない限りはこれは一生楽しくない機械なんやなって痛感してしまった。たぶんデジタル造形をする動機はそれぞれ違うと思うので、こういう使い方をしたら君は気持ちいいと思えるよ、というのは自分で見つけないとしんどいです。

とくにそういうのはハウツー本には書いていないので、自分がアナログ造形でやっていたことに近い機能を探すとか……。なんとか楽しいところを探そうと。いまのところプリンタを高回転で回せているってところは楽しいところです。(可動の検討で)アナログ造形でやっていたらできない、なんかおかしいってところを透かして見ることとか。でも苦手意識はいまでもあるんですけど(笑)。

手作業だと何時間もかかる工程や、「1つ戻る」も

画面上でサクっとできるのは大きい

アナログ造形だと、プロポーションの調整をしてディテールを彫ったものを、全体を短くしてとか細くしてって言われたら、のこぎりで切断してつないで一回作ったはずのディテールを作り直してと3日はかかりそうな作業が、デジタル造形だったらひゅっと短くして細くして秒で終わる。アナログだったらここまで来たらもう戻れないっていうところがあるんですけど、デジタル造形ならどこでも戻れるし、時間の自由度は大きいですね。終わり際のディテールを入れてからでもプロポーションを変えることもできるし、ポーズのために可動する場所を変えることもできるし、そういう作業のスケジュールをシャッフルできるのが一番大きい変化ですね。そうこうしていたら、デジタル作業で早くなった部分があっても、いつまでも突き詰めようとしてしまって時間がなくなってしまったり

デジタル造形の入り口で迷うあなたへ

いまでもロボットの拳をPC上で作るのと、キャストのブロックからアートナイフ一本で作るのとどっちが楽しいかって言われたら、多分アートナイフ一刀彫のほうが楽しいんですよ。それでも自分自身がパソコン自体なんの箱かわからんようなところから始めたので。絵を描くのが楽しいって言ってた人が、紙に描くのをやめてPCを使うようになったように、Zbrushに立体を作るのになる。それこそ人によるとは思うんですけれども、絵を描くような人は平面の絵を描くようにZbrushにスッといくと思うのですが。

いまのところはデジタル造形はお金が1020万がポーンと要る造形手段だから、ファンド(粘土)一個買ってというよりはハードルは圧倒的に高いですけど、どんどんこれからハードルは下がっていくと思うので、いろんな人が気軽にやる時代になっていくんだと思っていますね。アナログ造形でまだ作っているんやったら、いつかは始めるべきですよ~、と。いま苦手意識を持っている人でも、乗り越えられる高さまで、バリアフリー化はどんどん進んでいっていますから。(文・けんたろう)

デジタルのハードルはこれからどんどん下がっていきます


ライター:けんたろう

模型雑誌を自由に飛び回るプロモデラー。新キットの作例や、途中写真を用いた組み立てのHowto記事、工具やそれを用いた技法の解説からインタビューまで、その内容は多岐に渡る。最近はnippper.comでもその知見を活かして牛丼の玉ねぎ的な存在の記事を書いている。

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