ものづくり 2020年11月24日

不真面目に真面目な発明者! 3Dプリンターで世界に違和感を作り出す(カズヤシバタ)

世の中は日々進化している。あらゆるものの性能がよくなり、わかりやすいところでは、PS5が発表され、iPhone12が発売されたかと思ったら、もうiPhone13のスペックが噂されている。去年より今年であり、今年より来年と多くのものが急速に進化していくわけだ。

そんな進化する世界の中で、最新のテクノロジーをいい意味で、とてもいい意味で、それに使う? という人々もいる。その一人が今回お話を聞いた発明者の「カズヤシバタ」さん。無駄だな、と思うけれど、笑ってしまう電子工作を作っている方だ。

なんでふざけちゃうのか?

カズヤシバタさんは現在25歳。広島で生まれ、大学時代から大阪で暮らし、現在はエンジニアとして働きながら、よくわからない、いい意味で、よくわからない電子工作を作っている。

▲カズヤシバタさん(25

カズヤシバタさんの電子工作を、SNSで見かけたことがあるという方も多いのではないだろうか。年に数回新作を発表し、その度に話題になっている。ご本人はとても役立つと言っていますが、今回は、それはいい意味で、いい意味で無視して、進めたいと思います。

上記の動画を見ていただくと、カズヤシバタさんがどのようなものを作っているかわかる。ね、いい意味で無駄でしょ! 

今回は大阪にある、カズヤシバタさんのご自宅兼工房を訪れて、実際に作っている環境を見せてもらいながらお話を聞いた。

ー物作りはいつ頃から始めたんですか?

顔
 

 

もともと物作りを始めたのは小さい頃からです。もう本当子供の頃から作っていました。年齢と一緒くらいなので、25年ということになると思います。ネタに走り始めたというか、真面目ではないものを作り始めたのは、ここ5年くらいですね

 

ー5年前に何があったんですか?

顔
 

 

転換期になったのは「義手」ですね。でも、「あれ、あんまり受けない」と思ってしまって

 

自由度を持つ機械の手

顔
 

 

それまではもっと真面目な「世の中のために」みたいなのを作っていました。たとえば、当時は大学生だったので、出欠管理アプリみたいなのを作ったり。ただ競合が多いんですよね。同じようなものを作っている人が多いですし、これじゃ勝てない、と思ってしまって

 

顔
 

 

あと、真面目にするのが得意じゃなかったんですよね。真面目にしていると、そういう人が集まってきて、これの優位性はなに? 新規性はなに? みたいな話になるんですが、そういう話をしたくなかった

 

顔
 

 

そういうものではなく、ただ単に面白いことを突き詰めて行きたかったというのが大きいです

 

ー面白いことをすれば、だいたい新規性ですからね!

顔
 

 

そうなんですよ! 誰も思いつかないものを作っていますからね!

 

ー大学でもそういう研究をしていたんですか?

顔
 

 

理工学部で、光通信みたいな研究をしていたので、今とはあんまり関係ないかもしれません。また高校も高専とかではなく、普通科でした。基本的にはGoogleで調べて、いろいろと作っていました

 

ーGoogle便利!

ー電子工作の前は何を作っていたんですか?

顔
 

 

始めは紙工作ですね、手を動かして何か作るのが好きで。具体的な何かを作っていたのではなく、こう動いたら面白いよな、という機構を作っていました。ここを引くと曲がる、とかという機構です! やがてそれが電子工作になり、アプリになり、面白電子工作になっていく感じです。

 

ーどのくらいのペースで面白電子工作は作っているんですか?

顔
 

 

小さいものを含めると年に5つくらい。大きなものは年に2つくらい。自分で勝手に締め切りを決めて作るようにしています。じゃないと作らないので! 企画、設計、プロモーションを自分で全部やっています!

 

プロモーションに使う機材も部屋に並ぶ

ー3Dプリンターを使うことが多いですか?

顔
 

 

ほとんど3Dプリンターを使わないものはないですね! 3Dプリンターの出現はすごいことです! ちょっとしたネジ止めでも、思いついた1時間後には形になっています! スピード感がすごい。今までだったら、金属を削ってとか、それだけで1日仕事だったんですよ! 革命でしたね!

 

顔
 

 

その分、適当に設計してしまうという弊害も生まれましたね! ミスっても作り直せばいいやと! これが失敗したものたちです!

 

失敗したものたち

ーすごい量!

顔
 

 

いま自宅には熱溶解積層方式の3Dプリンターと、光造形方式の3Dプリンターがあります。熱溶解積層方式はプラスチックを積み重ねていくもので、光造形方式は光で固まる液体をつかって細かく緻密な造形できます。光造形方式の方が、最終的な品質に近いものができます

 

熱溶解積層方式3Dプリンター

光造形方式3Dプリンター

ーその使い分けはなんですか?

顔
 

 

光造形方式は緻密にできる反面、レジン自体に脆さがあって、熱で変形してしまったりするんです。一方で、熱溶解積層方式は造形が安定している。材料費も違いますね、光造形方式は熱溶解積層方式の倍かかります!

 

こちらが熱溶解積層方式で作ったもの

光造形方式で作ったもの!

顔
 

 

ちょうど5年前、ネタに走り始めた頃に導入しました! 私の面白電子工作は3Dプリンターと共にあります! 登場した時は3Dプリンターはホビー用途でしょ、という感じがあって、プロユースというか、物作りをガッチリやる人が使うというイメージがなかったんです。ただよく調べるとラビットプロトタイプ、試作品をとにかくたくさん作って、改良していくというやり方の人にはいいらしいということで、そこからはすぐに!

 

ー今ではないことが考えられない?

顔
 

 

三種の神器の一つです! 「3Dプリンター」「MacBook Pro」、あと一つはなにかな、、、

 

ーセメダイン?

顔
 

 

そうです、「セメダイン」です! これは本当に、言わされているとかではなく、いや、本当に、本当に嘘ではなくて、偶然、偶然、ど忘れですよね、怖いですよね、本当に怖い。三種の神器の一つを忘れるなんて。偶然が生み出すことですよね

 

ーそういうことありますよね

顔
 

 

でも本当で、いま「デルモンテ2020」というのを作っています。これは以前作った「ゴージャス登場箱【デルモンテ】」の改良版になります。そこでもスーパーXが大活躍しています!

 

これは以前のゴージャス登場箱【デルモンテ】

顔
 

 

ネジを見えるところに一切使わないというポリシーがあります。ネジを見せると現実感が出てしまいます。ネジなどがない現実感のないものから、ガチャガチャと動いた方がギャップがあって感動があると考えています

 

 

もうすぐ完成するデルモンテ2020

顔
 

 

これは上の蓋が最終的に開きます。ということは、機構上はヒンジにネジが必要になるんです。でも、ネジは外に見せたくない。そこで登場するのがスーパーXということになります。わずかな接着面積でしっかり固定できるのはすごい。本当に助かりました!

 

スーパーXで接着してあります!

 

 

【追記】

2021年2月ついに完成。これが【デルモンテ2020】だ!

 

どういう風に企画を考えるの?

ー結構なペースで作っていると思うんですが、どうやって考えているんですか?

顔
 

 

アイデア帳みたいなものがあって、思いついたら書いています。ただアイデアが降りてくるということではなく、フィクションからすごく影響を受けています。映画とか、アニメとか、漫画とか、ここの動きカッコいいな、となって、この機構をみんなが思い描いている日常の風景に溶け込ませることはできないかと考えるわけです

 

顔
 

 

ガシャガシャ動くものをどこか一般的の生活の中に取り入れたら、今まで見たことない風景が生み出せる。それを私自身も見てみたいと思うんです!

 

顔
 

 

そのあとに、こういう風に動いたらいいな、という機構を絵で描きます。そして、パソコンで設計をしてという感じです

 

パソコンによる設計図

顔
 

 

作っているところは、実はあんまり見せたくないんですよね

 

ーどうしてですか? 部屋もカッコいいし、どんどん見せた方がいいですよ!

顔
 

 

そうですか?

 

ー一目見て、秘密基地みたいでカッコいいと思ったんですよ!

顔
 

 

ありがとうございます! 事故物件なんですけどね

 

ー棚もかっこいいし、工具がずらりと並んでいて!

顔
 

 

 でも、試して実験して失敗して修正してという繰り返しなので、見せたくないんです。失敗作もたくさん並んでいるし。ものすごい回数を繰り返すんですよ。こうすればよりコンパクトになるかも、と少しずつ形を変えて何度も

 

ー緻密な設計に見えるんですが、実際に3Dプリンターで出力すると違うんですか?

顔
 

 

ソフトウエア上ではあっていても、実際に作るとたわみとかが出て、距離が足りないとかが出るんですよね。何度もやり直せるので、3Dプリンターはすごいという話になります! なかったらと考えると怖いですよね。デルモンテ202010年プロジェクトとかになってしまいます!

 

光る魔法の本

魔法の世界に入り込む直前までを再現できる

最近感動したもの

ーご趣味は?

顔
 

 

物作りと、キャンプですね!

 

ーおぉ、キャンプは意外ですね!

顔
 

 

最近は全然行けてないですが、キャンプとか山登りとかが好きです。たぶん道具集めが楽しいんだと思います。道具というのは機構がいいんです!

 

ー確かにキャンプ道具は大きいのに、小さく折りたためたり、機構が面白いですよね!

顔
 

 

最適化されたものって魅力がありますよね。メーカーの英知のような。そういうものにヒントがあると思います。使いやすくするために、少しだけくぼみがあったり。そのためにあったのか、と気づいた時の感動。そういうのを与えるのがゴールかもしれないですね!

 

ー最近感動したものはありますか?

顔
 

 

あります、これです!

 

こちらです!

顔
 

 

テレビショッピングみたいになっていますね! 最近出会ったのがOXOの「ポップコンテナ」です!

 

OXOのポップコンテナ

顔
 

 

密閉ビンなので蓋が閉まるのですが、引っ掛かりがまったくないんですよ! 本来はくぼみがあったりするんですが、ない。蓋にあるボタンを押すと灰色の部分(パッキン)が広がって、密着して蓋が閉まるんです! スマートだし、突き詰めた結果ですよね。 溝がないから洗いやすいんですよ! よく考えられています!ロフトで見つけたんですが、こうやって人に語るように、何もいれないのを取ってあります!

 

ー続いては?

顔
 

 

こちらです! OXOの「クリアサラダスピナー」

 

OXOのクリアサラダスピナー

顔
 

 

これも同じメーカーです! これも機構が変態的になっています! 押し込むと回るんですよ! 普通はこういうのはハンドル式なんですよね! でも、押すだけで回転を生み出すことができる。普通押し込み式は押し込んで加速して手を離すとすぐに止まってしまうんですよね、でもこれはいくらでも押せる。中がコマみたいになっていていくらでも押せる! まったく水切りしないんですが、感動して買いました! これいい値段するんですよ、4500円! ただとにかくすごい! ストレスが溜まった日はこれを押しています! 開発者の執念を感じます! どうやってなっているのか分解してみました! 分解しやすくなっているんですよ! 分解してください、ってことだと思います!

 

顔
 

 

シンプルなのにギミックがすごい、そこにこだわって作るということに感動しました! 水切りしないのに! お店でもホコリをかぶっていて、自分がこれを買ってあげないと、こんな素晴らしいものなら買わないと、と。値段的にもっと安いものがあるので、みなさん、そっちを買うんでしょうね! でもね、これはすごい! 

 

顔
 

 

加速していく感じがいいんです、気持ちがいいんです! 何度押しても手応えを感じる!

 

ーもしやOXOの方?

顔
 

 

違います! でも、これ本当にすごいと思うんですよ、水切りなんてしないのに、4500円出して買ってしまうくらいなので!

 

ーカズヤシバタさんもキッチン系のもの作っていますよね?

顔
 

 

全自動割り箸割り機ですね、それがこちらです!

 

顔
 

 

製品名の通り、全自動で割り箸を割ることができます。一本割るのに3分ほどかかります。ですので、カップ麺にお湯を入れたタイミングで、セットするとちょうどいいと思います! そもそも割り箸を割るのが得意ではなく、綺麗に割れなくて、ずっと割る機械を考えていて、最初に手動で割るものを作ったんです

 

ー手動で割り箸を割るのは、もはや普通に割り箸を割るということですよね?

顔
 

 

そうですね、確かに! ただあまりうまくいかなくて、やっぱり電動だろということで、これで6世代目ですね! いろいろと試作を繰り返し、光センサーが付いていて割り箸がどこのポジションにあるのか、とかいろいろなギミックがあります!

 

全自動割り箸割り機の中!

ーカズヤシバタさんのゴールはどこでしょう?

顔
 

 

世の中に一般的に流通している変なものを作りたいと思っています。僕が作ったものが、量産化されて普通に電気屋に並んでいる。まったく誰もおかしいと思っていないのに、一部の人だけ気がついて、これおかしくない? いらなくない? と言いながら使っている違和感を見たい。それがゴールです!

 

ーありがとうございます! 確かにそういう世界を見たいです!

顔
 

 

今後も作っていきたいと思います!

 

ーあと、さっきは流していたんですが、この部屋、事故物件なんですか?

顔
 

 

そうです、この部屋で……(以下、カットとさせていただきます)

 

カズヤシバタさんにお話を聞いた。真面目ではないものを真面目に作るというこだわり。カズヤシバタさんがゴールにするような、違和感のある世界が来るといいなと思う。あと結果論だけど、カズヤシバタさんの部屋に入ってから、なんかずっと、言葉にできない違和感のようなものを感じたけれど、それはなかったことにしたいと思います。

個人の家と思えない道具たち!


ライター:地主恵亮(じぬし けいすけ)
1985年福岡県生まれ。2009年より人気Webサイト「デイリーポータルZ」にて執筆を開始。2014年より東京農業大学非常勤講師。著書に「妄想彼女(鉄人社)」、「ひとりぼっちを全力で楽しむ(すばる舎)」がある。(全く釣れない)釣りを得意とする。


 

関連記事

PAGE TOP

コピーしました