ものづくり 2023年04月24日

垂直上昇は直感的にわかる、けれども謎は残る。 ドローンはどうやって向きを変えているのか

宅配ドローンが、いよいよ本格化する。そんなニュースを見かけるようになってきた。つい最近では日本郵便が「レベル4」、すなわち目視外の住宅地上空での自動飛行に成功している。コンビニなどに商品を注文したら、ただちにドローンが荷物を届けてくれる。そんな物流システムが2025年には実現するとの期待も高まっている。では、ドローンは一体どのように飛んでいるのだろうか。飛行中のドローンを詳しく見た人はあまりいないだろう。四隅のプロペラを回せば、そのまま浮き上がっていく……、そこまではたぶん誰でも想像できる。けれども、その態勢から前後左右へと思いどおりにドローンを操縦するにはどうすればよいのか。金沢工業大学の赤坂剛史准教授は、ベンチャー起業も視野に入れ、ドローンの実運用を目指す研究開発に取り組んでいる。

いつでも、どこにでも 荷物を届けるドローンの可能性

—日本郵政が行ったレベル4のドローン飛行は、最高難度だと聞きました。

赤坂剛史先生(以下・赤坂):ドローンの飛行レベルは、難易度別にレベル1から4まであります。レベル1は常に目視できる範囲内で人が操縦します。レベル2はコンピュータプログラミングでコントロールするけれども、飛行するのはあくまで目視できる範囲に留める。レベル3はプログラミング制御で目視外まで、とはいえ飛ばせる地域は無人地帯に限られます。最高難度のレベル4ではニュースにも取り上げられたように、有人地帯を目視外でプログラミング制御によって飛ばします。レベル4まで到達すれば、ドローンの活用範囲が大きく広がるのは間違いないでしょう。

—現時点でもドローンを使って撮影した空中写真などがニュースで使われています。

赤坂:ドローンの用途といえば、まず思い浮かぶのが空中撮影でしょう。テレビの映像などを見ていても、これはドローンで撮っているなとわかるケースが増えています。画像や映像を撮れるようになり、使われ始めたのがインフラの点検です。例えば橋梁や高層ビル、あるいは高速道路のトンネル内など、以前なら人がリスク覚悟で行っていた危険な箇所の点検をドローンに任せられるようになりました。ほかには農薬散布もあり、これは実は半世紀以上も前から日本が始めたものです。ただし、これらはいずれもレベル3までにとどまっていました。

—そして、いよいよレベル4に到達したのですね。

赤坂:いずれそうなるだろうとは思っていました。実は今、研究室の学生たちが「ドローンで起業しましょう」と盛り上がっていて、大学発のベンチャー起業も視野に入れています。もちろんビジネスとして成立させるためには、何を運ぶのかが極めて重要で、ビジネスモデルは簡単には決まらないと思います。国土交通省が操縦者の国家資格と機体認証の制度を創設していて、レベル4で飛ばすためには予め飛行計画を出して許可を得る必要もあります。各種の法整備もまだ完全ではなく、事業を進める環境が整備されてくるのは、これからでしょう。とはいえドローンの未来が可能性に満ちているのは明らかで、起業は既に現実的な選択肢です。

そもそもドローンは どのように飛んでいるのか

—ドローンにはオスプレイの小型版のようなイメージもあります。

赤坂:ドローンとは航空法(第2条22項)の定義によれば「無人であり、遠隔操作または自動操縦で飛行できる、200g以上の重量の機体」です。軍用のオスプレイと左右に回転翼を備えている点だけは似ていますが、そもそも大きさがまったく違い、操縦原理なども根本的に異なります。ドローンが空中飛行している様子を見た経験はあるでしょうか。

—ドローンから撮影された映像は見かけますが、ドローンそのものが飛んでいる様子を目にする機会などほとんどないのでは。

赤坂:周囲に4つのプロペラを持つドローンは、どのように飛んでいるのでしょうか。4つのプロペラを回して生まれる力は、上へと上昇する力、つまり揚力です。ただし、4つのプロペラから同じ揚力を得ていたのでは、ひたすら上がっていくだけです。ドローンが前進するためには、前後のプロペラの揚力に差を発生させる必要があります。具体的には前のプロペラの回転数を、後ろより遅くして揚力を下げるのです。この揚力の差によって機体が前側に傾きます。その結果、前に進めるのです。この原理は左右への移動時にも当てはまります。

—地上からプロペラの回転数を制御して狙い通りに飛ばしているのですか。

赤坂:基本はそのとおりで、ドローンは各プロペラの回転数コンピュータで精緻に制御しないと思ったようには飛ばせません。あるいは横から風が吹いてきたりすると、当然姿勢が傾く。そんなときはどのプロペラの回転数をどれぐらい増やせば姿勢を戻せるか。瞬時に計算して指示を出さないと傾きを制御できなくなり進路が狂ってきます。

ドローンは四隅のプロペラの回転数をコントロールして進む方向を変える。
—機体をきめ細かく制御しながら、目的地に向かって飛ばすのは簡単ではなさそうです。

赤坂:そのとおりで、まず現在位置と高度を常に正確に把握しておく必要があります。そのために使われるのがGPSセンサと気圧高度センサです。いずれも高性能化と小型化が進み、小さなドローンにも搭載できるようになっています。スピードに関してはGPSセンサから割り出す対地速度に加えて、対気速度を計測できるセンサも活用しています。一連のセンシング技術自体は以前からありましたが、携帯電話の発達に伴って小型化が進んだ恩恵をドローンも受けています。

—コンピュータからの指示は無線で伝えるのですね。

赤坂:通常の飛行機が常に通信し続けているのと同様、ドローンも常に無線通信を行っています。この通信に関しても携帯電話の5G化が進み、高速・大容量化の恩恵をいずれドローンも受けられると期待しています。さらに次世代の6Gも視野に入っていて、通信網が整備されていけば、ドローンの制御能力向上に大きく貢献してくれるでしょう。その上高精細な動画をリアルタイムに配信できたりするようになるはずです。

部品の自作も含めて 自分たちで手作りする

—研究用のドローンはどうやって入手されるのでしょう。

赤坂:基本的に自分たちで作っています。モーターやセンサーまでを自作するのは無理ですが、機体のパーツなどは既製品を買ってきて加工したり、最近は3Dプリンタで自作するケースも増えています。大学には実験用の風洞もありますが、サイズが限られています。そこで国の利用許可を得ているラジコン飛行場が近くにあるので、そこで実機を飛ばします。ただし常にシミュレーションも同時並行で行っています。

—実機はどのようなプロセスで作るのですか?

赤坂:ざっと仕様を決める段階から始めます。用途に応じて、例えばどれぐらいの重さの荷物を、どこまで運ぶのかを決める。その際にはモーターとバッテリーの関係から飛行速度と飛行時間の制約を考慮しなければなりません。このプロセスで欠かせないのが航空力学の知識です。計算を詰めていくと、目的を達成するために必要なモーターのスペックが出てくる。そこで求めるスペックを実現できるモーターがあるかどうかを調べる。モーターが見つかれば、部品をチョイスしていく。樹脂製の部品は3Dプリンタで作るケースが増えています。3Dプリンタによって、自由に造形できるようになったメリットが非常に大きいですね。樹脂の接着にはセメダイン社の「スーパーX」をよく使っているようです。

3Dプリンタで樹脂製の部品を整形し、機体に組み込む。

—同時にシミュレーションも行うのですね。

赤坂:モノが決まってくれば、その動きをコンピュータ上でシミュレーションします。実際に飛ばしてみたときに、どのような挙動になるのか。突風が吹いてきたときには、どのように制御できるか。シミュレーションによってある程度メドが立った段階で、実機を飛ばして見るわけです。その結果を踏まえて、実機に手を加えていく。一連のプロセスを何度も繰り返しながら、精度を高めていきます。

物を運び、命をつなぐ

—今後、どのようなドローン制作を考えているのでしょうか。

赤坂:まず長距離の物資輸送を第1の課題と考えています。そのためにドローンに翼を付けた複合型の機体「コンパウンドマルチプレーン」の開発に取り組んでいます。これだと垂直に離着陸できて、そのまま翼を使って水平飛行に移っていける。これを「リフト&クルーズ」方式と呼びます。揚力を活用する飛行については、ドローンのプロペラよりも翼のほうが圧倒的に効率が良いのです。電力消費を抑えて速度を出せるから、長距離移動が可能となります。

—長距離を飛べるようになると実用性が高まりそうです。

赤坂:私は20年前からドローン開発に携わっていますが、無人機に対するニーズとしてよくいわれるのが、例えば台風のときなどに飛ばしたいという話です。有人ではリスクが高すぎて飛ばせない。けれども被災地の状況などを一刻も早く知って対応したい。そのために無人のドローンを飛ばせないのかと。だから悪天候に耐えられるドローンを作るのも重要課題です。

四隅にプロペラを配して、さらに翼も付けたコンパウンドマルチプレーン。


—JAXAとも共同研究をされていると伺いました。

赤坂:JAXAの研究対象となっているのは無人のドローンではなく、有人ヘリコプターの高速飛行です。ヘリコプターに高速飛行が求められる理由は、ドクターヘリに応用するためです。ドクターヘリは基本的に各県に1機備えられています。ということはドクターヘリを必要とする患者さんが1人出ると、その地域は空白エリアになってしまう。そこで従来の1.5倍ぐらいのスピードで飛ばせられれば、搬送速度が高まるし、緊急時には隣県から応援を呼べるようにもなります。大学院生を研修生としてJAXAに派遣し、少しでも手助けになるよう取り組んでいるところです。
 

赤坂 剛史(あかさか たけし) 金沢工業大学工学部 航空システム工学科 准教授
神奈川県出身、1999年東海大学大学院 工学研究科 航空宇宙学専攻 博士後期課程修了。博士(工学)。1999年川田工業株式会社入社、2011年金沢工業大学工学部機械系航空システム工学科講師、2020年より現職。極地ランナーでもあり、2008年のサハラマラソンをはじめ世界各地の極地マラソンを走破、「白山ジオトレイル」実行委員長も務める。


竹林篤実
理系ライターズ チーム・パスカル代表、京都大学文学部哲学科卒業。理系研究者取材記事、BtoBメーカーオウンドメディアの事例紹介記事、企業IR用トップインタビューなどを手がける。著書に『インタビュー式営業術(ソシム社)』、『ポーター✕コトラー仕事現場で使えるマーケティングの実践法がわかる本(TAC出版)』共著、『「売れない」を「売れる」に変えるマケ女の発送法(同文館出版)』共著、『いのちの科学の最前線(朝日新書)』チーム・パスカルなど。
 

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