ものづくり 2022年08月25日

あの伝説のヘボコニスト、こやしゅんさんにヘボコンの魅力について徹底的に聞いてみた!

ヘボコン4連覇を狙う、ミスター最ヘボコニスト、こやしゅんさん。再ヘボコン賞には、子供が創作した空き箱のトロフィーが授与される。まさに、やりたいことをやるヘボコンの自由な発想の原点になるような賞品で、こやしゅんさんの宝物になっているという。

技術力の弱い人限定ロボコン、通称「ヘボコン」が、3年ぶりにリアル大会として戻ってくる。この731日(日)に、東京カルチャーカルチャーにて開催される本大会を前に、3大会連続で「最ヘボ賞」を受賞したヘボコンのレジェンド、こやしゅんさんにヘボコンの魅力や、ユニークな発想のヒント、製作中のロボットなどについて話をうかがった。(取材・文/井上猛雄 撮影/丸山光)

※本取材は、ヘボコン2022開催前に行われました。

不器用だったが、何かを表現することが大好きだった子供時代

本インタビューにあたり、まず気になったのが『こやしゅん』さんのニックネームだ。ちょっと変わった感じなので訊ねてみたところ、本名の「こやましゅん」さんから「ま」を取って「こやしゅん」にしたと聞いて合点がいった。お分かりでしょうか? 

「本名に“ま”の字が抜けてますよね、だから“マ抜け”ってことなんですよ」と、少しはにかみながら語るこやしゅんさん。その表情に彼の人柄がよく表れていた。ファーストインプレッションでも、やはりウイットに富んだ方であることが推察できた。そんな彼は、昔から実績を伴わない変な取り組み? が得意だったという。

「子供の頃から凄く不器用で、サッカーをやれば、あらぬ方向にボールが飛んでいくし、工作の時間でノコギリを引けば必ず斜めに切ってしまうし。ただ、文章を書いたり、何かを作って表現したりすることは大好きでした。でも自分の思う理想には、なかなか追いついていけませんでしたね」と回想する。

確かにヘボコンの本大会を見ても、戦う前に自爆してしまうという、こやしゅんさんの「特殊能力」は如何なく発揮されていた。一生懸命にやっているのに実績が伴わない。何かのハプニングに出会ってしまう。これは故意にやろうとしたわけではなく、まさに「トホホの神様」が、彼の下に降臨しなければできなかったことだろう。

ヘボコンレジェンドの意外な趣味が、面白アイデアの源泉に!?

ヘボコンの話から少し脱線するが、こやしゅんさんの発想の源を探るために、彼の趣味についても触れておきたい。実は、いまハマっているのはボードゲームだという。最近は趣味が高じて、自らゲームを企画・立案し、商品化してデパートなどで本格的に売り出しているそうだ

最近、熱中している趣味はボードゲーム。自ら面白いゲームを企画し、デザインが得意な友人とともに商品化。ここでも彼のユニークな才能がキラリと光る。何でもやってみなはれ!の精神と行動力は素晴らしい。

そこで特に印象的なゲームをピックアップしてみた。いかに彼が日頃から変なこと!? を考えているのか、よく分かるだろう。まずは「大江戸地引網」(おおえどじびきあみ)というゲームだ。

こやしゅんさんと友人が作り出した「大江戸地引網」(おおえどじびきあみ)。デザインもしっかりしており、本格的なボードゲームに仕上がっている。

これは、どこかで聞き覚えのあるネーミングだ。内容を簡単に説明すると、プレイヤーが地引網のコマで狙った魚を囲うと、その魚をゲットできるというゲームだ。また「FUSAFSUCCESS」(フサフサクセス)は、抜け毛の架空原因物質「ハゲイン」をコンセプトにしたお絵描き伝言ゲーム。

「FUSAFSUCCESS」。パッケージに書かかれた謎の物質「ハゲイン」の口上が、そこはかとなく「本物の偽物感」を醸し出していて思わず吹き出してしまいそうになる。

朝起きてベットに散在する髪の毛をみて、ゲームを思い付いたという。

あえて内容については想像にお任せするが、中華圏の怪しげなECサイトをモチーフにした「OMOZON crime」もアイロニーが効いていて面白いゲームだ。

アイロニーが効いた「OMOZONcrime」。このボードゲームでは、プレイヤーが過去にECで購入したデータを利用して遊ぶ。変な日本語と誤字、中華系フォントなどをリアルにカードで再現している。面白いだけでなく、あらたな気づきも得られるという。

このネーミングセンスが面白すぎたため、筆者はその場でゲームを購入させていただいた。このほか、シンプルで分かりやすいゲームとしては、ボードならぬ、布でつくられたクロスゲームや、左手でゲームを進行させる「さうすぽおう」なども発案している。

ボードゲームならぬClothゲームで真剣に標的を狙うこやしゃんさん。細長い両面マジックテープがついた布と、クロスカバー自在に組み合わせ、ボールを標的のアーチにくぐらせるとボーナスが与えられるというルール。

彼が考えたゲームは、単にタイトルや内容が面白いというだけでない。プレイヤーに何か気づきを与える要素が多分に含まれているのだ。「バカバカしさや楽しさの中にも、プラスアルファで新しい発見があるゲームをつくろうと心がけています」と、こやしゅんさんは語る。このコンセプトが、まさにヘボコンのロボットづくりにもつながっているようだ。

ヘボコンには失敗の美学があるから、委縮せずに一歩前に進んでいける

話をヘボコンに戻そう。そもそも、こやしゃんさんがヘボコンに興味を持ったのは、慶応義塾大学・湘南藤沢キャンパス(SFC)に在学していたときのこと。実はヘボコンのコンテストは、本大会以外でも各地で催されている。2015年にSFCの学内でもへボコン大会が開催され、友人に頼まれて出場したという。

この大会で、大学の創始者である福沢諭吉先生をモチーフにしたロボットをつくり、プロペラの回転で動く「学問よ 進め!」という作品で審査員賞をもらったそうだ。当時からヘボコニストの片鱗を発揮していたようで、このときヘボコンの面白さを知った彼は、3年後に本大会に出場することになり、そこでヘボコニストの才能を開花させたわけだ。

すでに3回もヘボコン本大会に出場している彼にとって、ヘボコンの魅力や面白さとは何か? と問うと、「やはり自分のやりたいことに純粋に向き合えることでしょうか。仕事やプライベートでは、本当にやりたいことと、現実に可能なこと、それらを天秤にかけて、妥当性のあるところに落ち着かせようとします。しかしヘボコンでは、自分の能力を度外視して、自分にも周りにも何も忖度せず、思い切りやりたいことに一直線で向かえます。その気持ち良さが良いのです」と強調する。

参加者もヘボコンを純粋に楽しんでいる人ばかりだ。なかにはファミリーで参加したり、本家のロボコン常連チームが息抜きを兼ねてやってくることもある。いろいろなバックグラウンドを持つ人々が集まるヘボコンは、異業種格闘技のような多様性を持ち、お互いのヘボさを楽しみながら競い合える場でもある。

「普通であれば失敗するとダメだよ! と怒られたりしますが、ヘボコンではむしろ失敗が良しとされるカルチャーです。もし日常生活でも、ヘボコンのように失敗が面白さにつながるという見方ができたら、失敗そのものにも価値を見い出せるでしょう。そういう気づきが得られると、自分が趣味でやっているようなボードゲームのように、新しいことに前向きにチャレンジできますし、失敗する恐怖心も薄らぐと思います。そういうこともヘボコンのメリットだと感じています」と、こやしゃんさんは力説する。

何かアクションを起こす前から「ムリ、ムリ、ムリ」と委縮せず、とにかく一歩前に踏み出してみる。背中をポンと押してくれるのがヘボコンなのだ。また作り手を見守る観戦者の受け止め方も大切だ。ヘボさを同じ空間でリアルタイムに楽しめる寛容性、それに価値観を見出せる大らかな場づくりが、常識で縛られている日常から自らを解放してくれる。

少し強引だが、ヘボコンに使われる素材は廃棄されるゴミのようなものが多い。価値のなさそうなものを組み合わせて意味のあるものにする。それを見た人たちが価値観を共有してエールを送ってくれる。これは最近のキーワードになっているサーキュラーエコノミーの概念に近いかもしれない。

誰もが度肝を抜いた法螺貝を吹く男の戦いと、脱力感のギャップ

いろいろと御託を並べてきたが、ここからはこやしゅんさんの作品を簡単に振り返りつつ、その魅力を探ってみたい。彼は2018年の大会で鮮烈なデビューを果たしたが、当初は抽選に落ちて、繰り上げ当選での参加だったという。へぼこんでは当選者が作品を完成できずに途中で棄権して、他の人が繰り上げになるケースもよくある話なのだ。

初出場では『モースとイン・ザ・シェル』という作品で戦った。こやしゅんさんは当時、東京の大森に引っ越してきたばかりだった。

ヘボコンの魅力は「誰への忖度もなく純粋に自分のやりたいことに向き合えること」だという。何度も大会に出たい気持ちになるのは、その気持ちの良さにあるらしい。

それで、ご当地で有名な大森貝塚をテーマにしたロボットを製作したのだ。貝塚を発見した動物学者のエドワード・モースの写真を帆に見立てたが、なんと動力は法螺貝(ほらがい)!その風の空気をモースの帆に当て動かすというものだ。

2018年の作品『モースとイン・ザ・シェル』。貝塚がテーマ。貝類は好きではないが、この製作のために、近所の居酒屋で貝料理を注文したそうだ。雄々しい音が響いても、1mmたりともロボットは動かず。彼はモースの写真の帆を「ホーラーパネル」と名付けたが、まさにホーラー(ホラー)な展開に。

突き抜けたアイデアは非常に面白かったのだが、法螺貝から送り込む空気ではロボットを動かすだけのエネルギーはない。いちおうバックアップ動力として、ぜんまい仕掛けのミニカーも搭載していたが、やはり本大会でも1mmたりとも微動だにしなかった。ロボットを前に、法螺貝を必死の形相で吹くこやしゅんさん。対戦はあっという間に終わり、モースとイン・ザ・シェルは場外へ押しやられて地面に落下。その名のとおり貝塚のような残骸となってしまったというオチがついた。

結局こやしゅんさんは勝負に負けた。だが、そのへボさとユニークなアイデアがウケて、栄えある最ヘボ賞に輝いた。ロボットと法螺貝という度肝を抜くミスマッチ。さらに法螺貝を吹けるまでに1週間以上もかかったいう超ムダな労力に対し、聴衆から惜しみない拍手が贈られた。ここからこやしゃんさんの快進撃が始まったのである。

法螺貝の音は、かなり大きくて雄々しい。まさに出陣のイメージなのだ。意外に大音量なのだが、へぼこん以外で何に役立つのかは不明だ(笑)。

なお「なぜ法螺貝なのか?」については、彼自身が『随筆春秋』という雑誌の中で、その切ない思いに触れているので、機会があればご一読されたい。ここに投稿した彼の随筆は、雑誌の特別賞を受賞している。大学時代、文芸評論家の福田和也氏のゼミに入って鍛えられ彼の文才がキラリと光り、また彼の別の魅力が伝わってくるだろう。

2019の大会に出場したときの作品は「チミツとクローバー」だ。

法螺貝を吹く男、こやしゅんさん。メルカリで5000円ぐらいで購入したという。1週間以上にわたる猛特訓の結果、こやしゅんさん流の吹き方で音が出るようになったそうだ。

これも聞き覚えのあるネーミングだが、チミツ=緻密にかけているという。このロボットは、運を味方につけて勝つという他力本願がコンセプトだが、「運も実力のうち」と言われるように、逆説的に運気が上がれば勝負に勝てるという、根拠があるようで、まったくない理屈からひねり出したものだという。

「とにかく幸運にまつわるアイテムを掻き集めました。幸せの青い鳥、幸せの黄色いハンカチ、幸せのパンケーキ、ご縁がある五円玉、星占いでトップになった星座の免許証など、縁起物グッズをロボットに張り付けて参戦ました」とこやしゅんさん。

このロボットの動力源はタミヤのプラモデルの車体を利用していた。しかし、モータのスイッチとなるのは巨大な「おみくじ」。10分の1の確率で出てくる、アルミで巻かれた通電棒をロボットに挿せたときだけ勝利のチャンスが訪れる。ロボットを動かすにも、プレイヤーの運が求められる運尽くし対戦だ。

2019年大会の作品「チミツとクローバー」。ハチミツではなくてチミツというネーミングがポイントだ。こやしゅんさんの作品は、ヘボコンに限らず、キャッチーでセンスのあるネ—ミングが多いようだ。

ここでも、こやしゅんさんは幸運どころか、逆に悪運を引き当ててしまう。おみくじを振った瞬間に手を滑らせて落としてしまい、アームバンドの配線が断線。それを直そうとするも、逆にロボットを倒してしまうという不器用の三段跳びを披露した。まさにホップ、ステップ、ジャンプで、奈落の底へまっしぐら。本番になると必ず裏目に出てしまうこやしゃんさん。でも、これでいいのだ。なぜなら、この戦いはヘボコンなのだから。

競技の勝敗は別として、ヘボコンの製作にあたり心がけていることを彼に訊ねてみた。「やはり法螺貝やおみくじなど、ロボットには縁遠いモノをギミックとして試してみようと意識しています。ちゃんとしたロボットを製作しようとしても、どうせ上手くいかないことは分かっているので、始めから無茶な組み合わせにしたほうが楽しいことができるんじゃないかと。ある意味で、諦めの境地が功を奏してきたのかもしれません」と謙遜する。

ロボコンは工学、ヘボコンは文学〜人機が織りなす想定外のハーモニー

こやしゅんさんが最強(最弱)ヘボコニストである所以、そして絶大な人気を誇る理由について、ご自身にも分析してもらった。

「自分の分析ではないのですが、友人から以前言われて得心したのは、お前のヘボコンはロボット以前にヒトがヘボいんだと(笑)。過去の対戦を振り返っても、対戦する前に最初に自分自身がコケてしまっています。人としてのダメさ加減が価値観を逆転させ、それが面白さにつながっているということらしいですね。まあ、それでみなさんに楽しんで頂けるなら、とても有難いことだと思っています」と自身のヘボさですら喝破する。

やはりヘボコンの魅力は、ロボットだけでなく、それを作る人=操縦者の人間性も含めての「人機一体」なのであろう。人機一体というと凄くカッコいい表現になってしまうのだが、その実は人間がロボットの足を引っ張るという意味での、人と機械が織りなす想定外のハーモニーとも言えそうだ。

こやしゅんさんも「ヘボコン発案者の石川大樹氏さん(デイリーポータルZ編集者)が<ロボコンは工学、ヘボコンは文学>とおっしゃっています。それは製作者の欲望がさまざまな面に表われるからでしょう。参加者のみなさんも私に負けず劣らずヘボい方が集まっているので、自分も負けて(勝って)いられないのですが、たぶん私の場合はヘボさが上向きではなく、下に突き抜けているのかもしれません」と笑いながら自己分析する。

今年の本大会に向けて、いま新しいロボットを開発中のこやしゅんさん。ネタバレしない程度に少し新作のコンセプトについて教えていただだいた。これまでのロボットは、最初から見切り発車で深く考えずに製作していた。それが彼の流儀だった。ただ、やはり失敗も多かったため、その反省を踏まえたロボットづくりに取り組んでいるそうだ。

「従来までは、パーツの重さや長さを一切考慮せず、行き当たりばったりでしたが、そのあたりを改善していきたくて(笑)。対策として、ロボットに使うパーツを測れる測定器をパーツに使えば、一石二鳥ではないか? と考えました。いまのところ天秤と砂時計とメスシリンダーを揃えましたが、さっそく脚部の計測を間違えてしまいました。ということで、すでに計画が破綻し始めています」。

いずれにしても、今回は計測器をテーマにした怪しげなロボットになることは間違いなさそうだ。その全貌は本大会で明らかになるだろう(注)。これまでの反省が本当に戦いの場で活かせるのかどうか、かなり雲行きが怪しいところだが、すべては彼のトホホの力に掛かっているといえるだろう。

(注)後日、開催された大会で、こやしゃんさんは「ハカリズム」という作品で1回戦を戦った。その模様は別記事でご紹介する予定だ。

「また今年もベスト、いやワーストを尽くしていきます。これまで最ヘボ賞をとってきましたが、いずれも1回戦で負けているので、敗者からパーツを引き継いで次のトーナメントに進めるヘボコンの楽しみ方を一度も経験していないのが残念です。もちろん最ヘボ賞は狙いたいのですが、このヘボコンの良きカルチャーを味わえるように、まずは1回戦を突破したいですね」と抱負を語る。

ヘボコンは、自身の実力に関わらず、やりたいことを具現化できるチャレンジの場。たとえ抽選で落ちたとしても、ヘボコンの会場に足を運べば、その価値観が反転した独特の雰囲気を味わえて楽しいだろう。

大きな御神籤(おみくじ)もメルカリで購入。10本に1本だけ、ロボットを動かせる通電棒が入っており、それを引き当てればロボットが動いてくれるのだが、ガチンコ勝負の前にトホホの神様が降臨し、ズッコケてしまったという。

久々に2022年の計測器をテーマにしたロボットになるというが、どんな形で相手と対戦するのか、その辺はまったく不明だ。こやしゅんさんが本大会で一回戦を突破できるのかも見ものだ。

ー了ー


井上猛雄 産業用ロボットメーカーの研究所にて、サーボモーターやセンサーなどの研究開発に4年ほど携わる。その後、株式会社アスキー入社。「週刊アスキー」副編集長などを経て、2002年にフリーランスライターとして独立。おもにエンタープライズIT、ネットワーク、セキュリティ、ロボティクス、組込み分野などを中心に、Webや雑誌で記事を執筆。主な著書は、「災害とロボット」(オーム社)、「キカイはどこまで人の代わりができるか?」(SBクリエイティブ)など。

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