ものづくり 2023年12月15日

こんなモノまで自作? こだわりが凝縮されたモノづくりの祭典「MakerFair 2023」から、若手による作品を厳選して紹介!~「Young Maker Challenge 2023」レポート(後編)

「MakerFair 2023」の後編では、筆者の視点で特に興味をひいた面白い作品をピックアップしてご紹介します。本イベントの常連で何度も出展しながら作品を進化させているチームだけでなく、初チャレンジのチームも多く参加しており、メーカーズの層の厚さを感じました。「若者のモノづくりへの興味が薄らいでいる」という昨今の報道もありますが、この盛り上がりを見る限りでは、日本のモノづくりの未来は明るいと感じました。ユニークで、あっと驚く作品群をご覧あれ!

HDDのような原理で逐次変化するループミュージックを作る電子楽器

注目作品ピックアップその1

京都精華大学の学生創作ユニット・Magyo-Zによる「描くターンテーブル」(ブース番号:Y-01-03)

京都精華大学の学生創作ユニット・Magyo-Zは、ちょっと変わった電子楽器を展示していました。「描くターンテーブル」は、回転しているレコードプレイヤー上に紙のパッチを載せると、光の反射率の違いによって紙の軌跡をセンシングします。装置内に8つのセンサが内蔵されており、それらのセンサの反応をトリガーにして、いろいろな楽器の音を鳴らすという仕組みです。

 <p>回るターンテーブル上に紙のパッチを載せ、8つのセンサの反応をトリガーに、いろいろな楽器の音を鳴らす仕組み。</p>

ターンテーブルはハードオフで売られていたジャンク品を使用し、壊れていた内部ベルトやケーブル類を交換するなど、オーバーホールしてあらたに再生させたとのこと。さらに電子基板も自作し、センサからの信号を電子楽器が理解できるMIDI信号に変換して端子へ送っています。意外性のあるループミュージックをお手軽に誰でも作れます。アンビエント・ミュージック(環境音楽)のような新世界が広がりそうです。

センサからの信号を電子楽器の共通規格・MIDI に変換する自作基板により音を鳴らす仕組み。電子工作もお手のものだ。

自宅で半導体まで作る!? 電極作製と半導体薄膜の積層にチャレンジ

注目作品ピックアップその2

京都工芸繊維大学と電気通信大学の学生ユニット・TNKS OZによる「自宅半導体製造プロジェクト」(ブース番号:Y-01-06)

これまで「自宅で○○シリーズ」として出展してきた大学生ユニット・TNKS OZの作品に、なんと半導体製造プロセスで使われる自作のCVD装置が登場しました。自宅で半導体デバイスを製作することを目標として、今回は高真空装置内の電極と、ミストCVD装置によるシリコン基板上での半導体薄膜生成のデモが行われました。

京都工芸繊維大学のTNKSさんは、テスラコイルの技術を成膜に応用するというアイデアを思いつき、成膜を行うスパッタリング装置の製作を続けています。スパッタリングは、熱・プラズマにより金属原料にエネルギーを与え、真空中に飛び出した粒子を基板に堆積させる方法です。半導体デバイスの電極作製に利用するのが目的です。

一方、電気通信大学のOZさんは今回、別アプローチとして安全かつ低コストで成膜できるミストCVD(気相成膜)装置を作りました。

こちらは超音波など、何らかの方法で原料溶液を霧(ミスト)状にして、それをキャリアガスなどで運んで、ヒータで加熱してミストを反応させることで、基板上などに薄膜を積層させる装置です。デバイス本体の作製に利用します。

試作したミストCVD装置(気相成膜装置)。左上部が基板の格納されている反応容器で、右上部がミスト生成部になっている。


ブースで実施されたミストCVD装置のデモは、安全性への配慮からホウ酸をミスト化して成膜していました。原料溶液の濃度や、成膜の速度や時間を変えることで、成膜がより均一になるとのこと。また今後は露光による回路の作り込みも目指しているそうです。自宅に簡易的な半導体製造ラインが本当にできてしまう日も近いかもしれません。大いに期待しています!

デモで成膜したもので、酸化ホウ素膜ができている。若干、膜が不均一だが、成膜の速度や時間を変えるとより均一になるそうだ。

プラレールの自動運転制御を極めて、トコトン遊び尽くす!

注目作品ピックアップその3

東京大学のサークル・プラレーラーズのプラレール制御システム「CBTC」(ブース番号:Y-01-09)

子供のころに1度は遊んだことがあるプラレールを「高度に制御して未来の鉄道システムに昇華させたい!」ということで始まったのが東京大学サークル・プラレーラーズの皆さんです。2019年に設立され、車両の位置把握から、速度制御、ポイント切り替えといった要素技術の開発、安全な運行とダイヤグラムに従った自動運転のアルゴリズムまでを開発してきました。

今回の展示では、線路上に障害物があると車両が位置を把握し、地上設備(PC)と無線通信することで、障害物を避けて運行を継続できる新システムを設計したとのこと。プラレールの路線には、上り線と下り線、さらに貨物線の3系統がありますが、上り線で架線柱が倒れるようにプログラムしておき、事故が発生するとプラレールの車両が貨物線側に進路を変えて運行を続けられます。架線柱が復旧したら、車両が再び上り線に戻るようになっています。

 

プログラムで上り線でランダムに架線柱が倒れているシーン。車両が障害物を検知し、貨物線路側に切り替わり、運行を続ける。

車両には制御用として無線通信モジュールを搭載したマイコンボードの「ESP32」とRFIDリーダーを搭載しています。線路枠にあるRFIDタグでポイントを読み取ったり、また車輪に取り付けたロータリーエンコーダで車輪の回転数を把握して位置も調べています。さらに車両の速度もPWM(Pulse Width Modulation)で制御してDCモーターをコントロールしているそうです。

車両の裏側にマイコンボードやRFIDリーダー、電源が搭載されており、車輪にはロータリーエンコーダを取り付けている。

刺繍がセンサになるって本当? 未来のウェアラブルデバイスに応用

注目作品ピックアップその4

東京大学IIS Labが開発した「インタラクティブ刺繍~導電糸刺繍でつくるセンサ」(ブース番号:Y-02-03)

ヒューマン・コンピュータ・インタラクションやユビキタス・コンピュ—ティングを研究している東京大学のIIS Lab。同Labでは電気を通す糸「導電糸」をミシンで布に刺しゅうすることで、多様なデザインや形のセンサを作り出す「インタラクティブ刺しゅう」のデモを行っていました。刺しゅうの形や厚みなど、縫い方を適切に設定すると静電容量が変わり、微小な電位差が生まれて、手で場所を検知できるタッチセンサや曲げセンサなどを作れるようになるそうです。

展示ブースでは、これまで作製した各種センサのほか、今回あらたに手書き入力デバイスやハンカチ型インターフェースなども展示していました。本作品のアプリケーションとしては、洋服をまるごとセンサにする、あるいはスマートグラスなどのウェアラブルなデバイスに応用することが考えられ、将来的な実用範囲も広そうです。ミュージシャンの平沢進氏が昔、まさに似たようなセンサウェアを身に着け、体を動かしてメロディを奏でるヒューマン・インタラクティブ・デバイスを開発しましたが、こういった用途にも使えそうです。
 

導電糸で刺しゅうをタッチセンサにするアイデア。導電糸を重ねて刺しゅうし、さまざまな色や形を表現できる。

4つの箇所を検知できるタッチセンサの事例。配線自体は1箇所のみでよく、動作することが可能だ。

これは斬新! 魔法の粒で作るフードプリンテイングで絵や文字も!

注目作品ピックアップその5

鹿児島大学の「粒で作るフードプリンティングプロジェクト」(ブース番号:Y-04-02)

鹿児島大学の電子工作好きが集まったさつまラボは「粒で作るフードプリンテイングプロジェクト」を進めており、その成果を披露していました。最近は3Dプリントも普及してきましたが、これを利用して培養肉などの「食べられる素材」を印刷するフードプリンテイングという分野の研究も進んでいます。今回の展示では、ゼリーのようなゲル状の粒を化学変化で作る新しい調理法にトライしていました。これは乳酸カルシウムの液にアルギン酸ナトリウムを滴下することで、ゲル状の粒ができることを利用したものです。

赤/青/黄の色が付いた食紅を混ぜたアルギン酸ナトリウム液を乳酸カルシウム液に混ぜるとゲル状になることを利用。

実際に開発したのは3つの分散型ロボット「Magic Drops」。赤/青/黄の色が付いた食紅を混ぜたアルギン酸ナトリウム液を各容器に入れてセットして、超音波浮揚で浮かせながら制御することで、ゲル状の粒を作って水槽に滴下させる仕組みです。ベースとなるマシンはソニーで発売されているキューブ型のロボットトイ「toio」で、これを分散型ロボット一機あたり2台ずつ採用し、1台は移動用に、もう1台はシリンジの押出しの駆動伝達用に利用しています。実際に粒をつくる様子も動画で公開されています。

とてもユニークで画期的な取り組みですね。これは食玩メーカーなどに売り込んでも良いと感じました。

3つの分散型ロボット「Magic Drops」。超音波浮揚で浮かせながら制御することで、ゲル状の粒を作って水槽に滴下させる仕組み。

曲芸のような3次元倒立振子のデモで来場者も釘付けに!

注目作品ピックアップその6

東工大のTeruruさんが開発した「3次元倒立振子」(ブース番号:Y-04-06)

倒立振子というと棒を立てたり、2輪で倒立したりすることが多く、大学の実習などでも取り入れられています。こちらは東京工業大学のロボット技術研究会のメンバー、Teruruさんが作製した立方体の3次元倒立振子です。回転するフライホイールによって、発生する反トルクを利用したもので、立方体の頂点と辺でバランスを取りながら上手く倒立させています。

新フライホイールの倒立振子は、CNCで加工したアルミフレームで製作していました。IMU(慣性航法ユニット)を6つ搭載して姿勢推定の精度の向上を目指しています。加速度と角速度を取得するセンサを組込み、DCモータのブリッジ駆動回路も自作し、入力トルクを制御しながら、3つのホイールを回転させていました。制御のアプローチは、現代制御理論の状態方程式とLQR(線形二次安定化器)を用いていました。

新フライホイールの倒立振子。制御系の中枢を司る基板には、STマイクロエレクトロニクスのマイコンボード・STM32F405を採用。

もう1つユニークだったのが、8つのプロペラとDCモータの回転で生じる力を利用した倒立振子です。カーボンフレームで外格を組み、コアにマイコンボード・STM32F446を採用。前者よりもバランスを取るのが難しく、いまも開発中とのこと。こちらもPD制御(P:比例、D:微分)で入力を決定し、制約付きQP問題(二次計画法:いくつかの変数からなる二次関数を線形制約のもとで最適化する方法)で安定制御しています。

8つのプロペラで生じる力を利用したユニークな3次元倒立振子。より難易度が高い。コアにマイコンボード・STM32F446を採用。

手先が器用でなければできない! ボトルシップのようなロボット

注目作品ピックアップその7

東工大の学生が時間をかけて作った「瓶の中にロボット入れてみた!?」(ブース番号:Y-04-07)

タイトルどおり「ボトルシップ」のような作品を製作していたのは、東京工業大学の学生さんチーム・OKsです。ビンの中で組み立てているのは、舟ではなくユニークなロボットです。3Dプリントで作った小さな各部品をビンの口から入れて、長いピンセットを使って器用に組み立てたそうです。部品は畳んだ状態にして、ビンの中に入れてから元の形に戻すといった工夫もしたそうで、ご苦労のほどがうかがえます。

部品の中に磁石が組み込まれており、電池の回転によってビン内の部品が回転するギミックもあり。

ビンの中のロボットは、外の磁石の力で、いろいろな動きをするため、見ているだけでも楽しめました。

ビンの細い口から長いピンセットを使って器用に多数の部品を組み立てた。相当な手練でないと絶対にできない作品。

台湾の中学生と先生が製作! 人を載せられる木製の歩行ロボット

注目作品ピックアップその8

台湾・蘭潭中学校のLANTERN MAKER CENTERが製作した「巨獣V2」(ブース番号:Y-05-03)

本イベントでは海外からの出展もありました。台湾の蘭潭中学校では、壊れた机や椅子、ポンプ用モーターなどを組み合わせて製作した歩行ロボット「巨獣V2」を動態展示していました。90㎏超の体重がある筆者が乗っても、少しギシギシと音を立てながら、しっかりと? 前後に動いてくれました。機構部の設計、電力システムの構築まで、指導の先生と共に学生たちが日本語で紹介していました。

人が乗れるサイズの歩行ロボット「巨獣V2」が目を引いた。台湾の中学生たちが教員の指導のもとで製作したもの。

設計のポイントは、軽量化と構造強度にあるとのこと。特に構造増強のために、機械の応力を分散させ、金属部品も使用することで、全体の強度を向上させたとのこと。このほかにも、レーザーカッターで作った木工のメカニズムや、ギアボックスなどの作品も展示していました。

オランダのアーティスト・テオ・ヤンセンのようなロボットやギアボックスなども製作。中学生の頃から、こういったモノづくりを経験できる学習は重要だろう。

後編でご紹介したチームは、創意工夫を凝らした作品ばかりでした。チームの皆さんは、何よりもモノづくりを楽しんでおり、来場者に対して自分の作品のこだわりを喜んで説明している姿が印象的でした。なかには自分の作品を販売してみたり、次回の開発のためにカンパを募ったりするチームもありました。クラウドファンディングだけでなく、実際に生の作品を見て、メーカーズの熱意を感じられる点も、このイベントの良さといえるでしょう。来年も素晴らしい作品を期待しています!


井上猛雄
産業用ロボットメーカーの研究所にて、サーボモーターやセンサーなどの研究開発に4年ほど携わる。その後、株式会社アスキー入社。「週刊アスキー」副編集長などを経て、2002年にフリーランスライターとして独立。おもにエンタープライズIT、ネットワーク、セキュリティ、ロボティクス、組込み分野などを中心に、Webや雑誌で記事を執筆。主な著書は、「災害とロボット」(オーム社)、「キカイはどこまで人の代わりができるか?」(SBクリエイティブ)など。

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