ものづくり 2023年12月11日

こんなモノまで自作? こだわりが凝縮されたモノづくりの祭典「MakerFair 2023」から、若手による作品を厳選して紹介!~「Young Maker Challenge 2023」レポート(前編)

コロナ禍も明けて、本格的な開催となった「MakerFair 2023」。本コンテストのなかでも、当社が協賛している、学生メーカー中心の「Young Maker Challenge 2023」のコーナーについて取材しました。将来が有望な技術者の「金の卵たち」が、創意工夫を凝らして、あっと驚くような作品を出展していました。前編では特に優れた入賞作品を中心にご紹介します。

「Young Maker Challenge 2023」の入賞者の皆さんと審査員が集合。ユニークな作品が目白押しで、審査員も賞を選ぶのが大変そうでした。

身の周りの空間から音を生み出す! 一期一会の意外なサウンドに驚き

最優秀賞

筑波大学 長谷川泰斗さんの新感覚な電子楽器「SPATIALIZER」(ブース番号:Y-02-04)


数多くの作品の中から最優秀賞を獲得したのは、筑波大学の博士課程の長谷川泰斗さんのユニークな電子楽器「SPATIALIZER」でした。この作品が画期的だった点は「空間状態から音を生み出す」という新しいコミュニケーションを模索していた点でしょう。キーボードのサイドにLiDARを組み込み、レーザーによって目の前の空間を点群としてリアルタイムに捉えます。これにより数m先に何があるのか、空間の状態を把握できます。

キーボードの横にあるスピーカーのようなオレンジ色の箱がLiDAR。LiDARはロボットや自動運転などに欠かせない測距センサだ。

ここでLiDARが検出した任意の場所の断面を切り取ると、その波形が音の波形のように見えます。そこで、この空間の波形を音に見立て、サンプリングデータとして扱うという発想で、SPATIALIZERが生まれたそうです。これによって、ある空間の変化に応じて、空間特有の音が出力されます。ちなみにコアとなるシンセサイザーもソフトウェアで自作したそうです。地球上の形があるもの(空間)は音に変換されます。すべてのものが振動で表現できるという発想は大変面白いです。

また審査員の中には、作品の完成度が非常に高いという評価もありました。見た目が市販品の楽器と同じレベルまで作り込まれていたので「市販品を購入した」と間違える来場者が続出したそうです。それで、わざわざ張り紙をして、自作であることをアピールしたほどでした。並々ならぬ完成度への拘りが、最優秀賞に選ばれた理由の1つにもなっているようでした。

キーボードは中古品をバラして利用したという。波形が出る液晶モニターや、空間を切り出せるレバーも自作している。

3Dプリンターで作られた積層痕をユニークテクスチャに昇華した陶芸作品

優秀賞その1

京都芸術大学のいとうみずきさんが出展した「しゃかりき陶芸器」(ブース番号:D-02-08)

優秀賞に選出されたのは、京都芸術大学 情報デザイン学科のいとうみずきさんの陶芸作品です。光造形方式のセラミック3Dプリンターで生じる積層痕を、陶磁器らしい味のあるテクスチャに昇華させていた点が評価されました。このテクスチャは、素材を押し出すノズル形状の違いや、3Dデータの変化によって生み出されるもの。3Dプリンターで成形された器は乾燥させ、約700~800度で焼き上げます。その後、釉薬(ゆうやく)をかけ、1200度ぐらいで本焼きし、1週間ほどで完成するそうです。

陶磁器の成形に利用したセラミック3Dプリンター。ノズル形状の違いなどで生じる積層痕が作品の大きなポイントになる。

3Dプリンターで作っても、ほとんどの完成品にヒビは入らないとのこと。ガラス成分が含まれた釉薬でコーティングされるので強度も増し、釉薬の流れが味のある作品を生み出します。面白かった点は、オープンデータを利用して縄文時代の火炎土器にもチャレンジしていたこと。いとうさんは「やはり火炎土器の美しさは再現できませんでした。あらためて縄文人の感性や魂が必要なことも分かりました」と語りますが、先端技術と伝統工芸の融合は、また新しい可能性を生み出してくれそうです。

しゃかりき陶芸器の作品群。手口、花口七切、星口など、ノズル形状によって積層痕が変化して味のある跡が残る。

面白くて、ついついハマってしまう「ウオォォラコースター」とは?

優秀賞その2

武蔵野美術大学と多摩美術大学の合同プロジェクト・接点事務所の「ウオォォラコースター」(ブース番号:Y-02-02)

この作品は「ウオォォ」と大声で叫ぶと、電装のシートLEDがジェットコースターのように点灯して動きだすという面白い作品です。リアルな絶叫マシンに乗ると、誰もが大声で叫んでしまいますよね。この作品は、大声を出すと、その音の強度(エネルギー)に合わせてLEDの光が走査し、声の高低によって加速度が変化していくのです。

ジェットコースターの曲線に沿って、シート状のLEDを張ってある。大声を出すと、このLEDの光が走り出す仕組み。

仕組みはシンプルですが、やはり発想が大変ユニークです。ちょっと実際に試してみると楽しくて、思わず誰もがハマる仕上がりになっています。その点が審査員にも評価されたようです。本作品は武蔵野美術大学と多摩美術大学の学生による合同プロジェクトで生み出されたもの。工学と芸術の「接点」を見つける意味で「接点事務所」というチーム名を名付けたそうです。今後も多くのユニークな両者の接点を見つけてほしいですね。

電子工作メーカーなら絶対欲しい! 万能? チップマウンター

優秀賞その3

電気通信大学のやえさんが製作した「万能? チップマウンター RaPick」(ブース番号:Y-01-07)

電子工作をたしなむメーカーならば、誰もが欲しがりそうなマシンを自作してしまったのは、今回初出展となる電気通信大学の学生・やえさん。簡単に説明すると、このRaPickは、電子基板上に米粒ほどの小さなチップの電子部品を載せる表面実装用(SMT)のチップマウンターです。ただし、このマシンは部品実装だけでなく、後工程のはんだ付けにも対応する点が特徴です

XYZテーブルで小さな表面実装用のチップ部品を置いていく。基板の下にある発熱プレートで、はんだを溶かす。手前には部品ストック機構も見える。

一般的なSMT工程は、接着剤やクリームはんだを基板上に塗布し、その場所にXYZテーブルでチップを置いて、リフロー炉と呼ばれる装置ではんだや接着剤を熱して電子部品を固定します。RaPickは、マウンターとリフロー工程を一体化し、すべての工程を自動化した優れものです。Gerber Data(プリント基板の情報をまとめたもの)から、マウントする位置を決め、クリームはんだを塗布し、バキュームでチップをピッキングして指定位置に置きます。

ちなみにシート状のチップ部品(最小サイズ0402、0.4mm×0.2mm)を送り出す機構として、32種類のスタッカー機構も用意され、そこからチップ部品が自動で送られます。また空気を吸引するポンプは1つだけですが、チップのピックアップ用と、はんだ塗布用の空気圧をバルブで切り替える工夫も凝らしています。さらにリフロー工程では、基板下のプレートで加熱し、はんだを溶かして固着させます。専用ソフトフェアを自作している点も素晴らしいです。設計から製作完了まで3ヵ月ほどかかり、材料費は約3万円で済んだそうです。量産も検討中で、製品化されたら、ぜひ筆者も欲しい一品です!

自作した制御ソフト「RaPickGUI」。デスクトップ・クライアント・アプリケーションを作成する UIフレームワークのWPFで開発中。

難しい数理モデルを、ライブ会場の観客の振る舞いとして再現!

【スポンサー賞】その1(セメダイン賞)

天狗工房の「結合振動子モデルでライブ会場を再現してみた」(ブース番号:Y-04-08)

たぶん読者の皆さんは「結合振動子モデル」と言われてもピンとこないでしょう。たとえば生物の世界では、心臓の鼓動や体内時計など周期的な活動があり、それらを「生物リズム」と呼んでいます。また蛍の発光が揃ったり、異なるタイミングでメトロノームを振ると徐々に動きが揃い始めたりします。このように時間推移の相互作用で動きが揃う同期現象は、振動現象を示す「振動子」が相互に影響を及ぼす「結合振動子モデル」で説明できます。

ボタンをテンポよく押していくと、ペンライト(モータ)の動きが揃い始める。逆にテンポが合わないと動きがバラバラになる。

この数理モデルを分かりやすく説明するために、ライブ会場の観客の様子を再現させたのが、東京工業大学のロボット技術研究会・天狗工房です。本作品はライブ会場をイメージしたステージとライト、観客のペンライトで構成されます。ペンライトの動きは、振動子モデルをベースにして、PICマイコンで制御されます。曲のリズムとペンライトの動きの差をフィードバックして同期させたり、個々の特性が強い場合は少しズレてペンライトが振られたりします。人の動きを数理モデルで再現できると、難しい数式にも説得力が増して感動すら覚えます。

ライブ会場の同期現象を再現している様子。難しい結合振動子モデルの数式が、実世界の現象として再現できる点が面白い。

超小型人工衛星を搭載できるハイブリッドロケットで実証実験も!

【スポンサー賞】その2(ソニーセミコンダクタ賞)

東京都市大学のTACが開発した「ハイブリッドロケットと超小型人工衛星」(ブース番号:Y-04-08)

東京都市大学の文理学部・学科横断型の宇宙科学教育コミュニティ・TACが展示していたのは、ハイブリッドロケットの「MUSASHI-01」です。固体燃料と液体酸化剤を使ったハイブリッド方式で、爆発の危険性が少ないというメリットがあります。また燃料系の構造を簡素化でき、比較的安価で学生でも製作しやすいそうです。2024年3月に伊豆大島で打ち上げるとのこと。

ハイブリッドロケットのサイズは直径φ150mm×L2000mmで、ロケットに1Uの小型人工衛星・CUBESATが収納できる。

もう1つブースで展示されていた「TCU-01」は、ソニーセミコンダクタのIoT用ボードコンピュータ「SPRESENSE」を中核においてデータを処理し、GPS、カメラボード、9軸センサなども内蔵している超小型人工衛星です。こちらは英国の小学校で教育に使われている超小型コンユ—タ・microbitを搭載したミッションを行う予定です【★写真18】。また、このTCU-01を卓上で学習できる模擬人工衛星のMugSat-Sも開発し、大学の授業で使っているそうです。

理解を深めるために展示されていた模擬人工衛星。microbitのボタンを押すと太陽電池パネルが展開したり、モールス信号を打ったりする。

懐かしのZ80マイコンで制御する高度な鉄道模型制御システムを高校生が開発

特別賞その1

高校生の中谷夏佑さんが自作したZ80マイコンによる鉄道模型制御システム「HOPE-2023」(ブース番号:Y-01-08)

中学2年生から鉄道模型を改良し始め、マイコンを使った高度な鉄道模型制御システムへと進化させてきた大阪明星高校・中谷夏佑さん。最初に参加したフェアから8ビットマイコン・Legacy 8080を利用し、鉄道模型(HOゲージ)の往復自動運転を実現させたというから驚きです。初年度は列車に磁石を付けて、ホール素子センサで車両が通過したことをマイコンに伝え、2年目にはポイント切替による車庫入れ機能を追加したそうです。

ポイント切替による車庫入れ部分のアップ。2つのソレノイドを使ってポイントを制御できる。

また昨年は自運転台(操作盤)を製作して自動操縦を楽しめるように工夫を凝らしました。今年はマイコンをZ80に変えて、自作ボードにチャレンジし、3つのポイントまで切替えられるようにしました。ポイントは2つのソレノイドを使って制御しています。自運転台のボタンを押すと、運転経路を指定できたり、マイコンで割り込みをかけて緊急停止できたり、車庫入れができたりと、大規模システムを簡単に制御できる仕組みでした。さらにシステムは進化を続けていきそうなので、来年も楽しみです。

コントロール基板が壊れてしまったため、急遽自作したというZ80マイコンボード。ブレッドボードで回路を組んだ。

コインもでかい! 大迫力で圧倒される巨大な木製手づくりガチャ

特別賞その2

京都芸術大学・ガチャガチャサークルの「手づくりガチャ」(ブース番号:Y-04-01)

子供から大人まで楽しめるガチャを手作りで作ってしまったのが、京都芸術大学ガチャガチャサークルです。レーザーカッターと3DプリンターとShopBot(CNCルーター)を駆使し、実際に使える木工ガチャを再現しています。これまで複数のガチャを製作し、毎年進化してきました。ガチャの機構だけでなく、カプセルに入っている景品やグッズまで、同大の学生がデザインしています。

ガチャの景品も同大のデザイン学科の学生さんが製作。シュールなアニマルのキャラクターが面白い。

そして今年は遂にMAXクラスの巨大ガチャの製作に挑戦し、来場者の注目を浴びていました。「大きいことはいいことだ! という言葉どおり、とても面白い仕上がりになっていた」とは審査員の弁です。この巨大ガチャは、木の硬貨を入れないとハンドルが回らない本格的な機構になっています。ハンドルやテーブルを回すギアも木で作られています。外装がスケルトンになっていて、内部が分かる工夫も良かったです。

迫力満点の巨大ガチャ。巨大コインを入れてハンドルを回すとガチャが出てくる。コインを入れないとハンドルは回らない仕組み。

150年前の古典的な技法で再現したノスタルジックな写真を展示

特別賞その3

アナログ写真屋ちなっちゃん(筑波大学)の「計算機と出会ったオルタナティブプロセス」(ブース番号:Y-03-09)

懐かしい銀塩写真は、デジカメの普及によって廃れてしまいましたが、その味わい深いテイストは一部のプロカメラマンやマニアによって、いまも愛され続けています。Z世代の小澤知夏さんは、高校時代にアナログカメラに出会い、その魅力にハマり、さらに古典的な写真技法の勉強も始めたそうです。そして筑波大学に入学後、落合陽一氏と意気投合し、同氏の研究室のDigital Nature Groupに所属することになったそうです。

さて、この作品ですが、スマートフォンやデジカメの画像を利用し、150年前の古典的な写真技法で印刷した作品です。画像データを取り込むと、印刷後の色味などがリアルタイムでシミュレーションでき、コントラストなど好みに編集しながらファイルを出力します。それを市販のインクジェットプリンタなどで透明フィルム(OHPフィルム)に印刷すると、古典的な写真の原板(ネガ)ができあがり、すぐに現像が始められます。現像用紙は厚手の水彩紙を使用し、和紙のような手触りを出しているとのこと。

150年前の古典的な写真技法で印刷した作品の数々。淡い感じの色味やモノクロが美しく、デジタルでは出せない味わいがある。

このほかにも、現在開発中のガラス写真なども展示されていました。

昔のガラス写真も展示されていた。坂本竜馬の片手を隠した有名な写真も同様の技法で作られているという。

前編では、学生を中心として「Young Maker Challenge 2023」の入賞作品を紹介しました。どれもユニークで着眼点が鋭い力作ばかりで、審査員も何を入賞に選出すればよいのか大いに迷っていました。今回、残念ながら入賞できなかった若手メーカーズの皆さん、また来年もチャレンジして下さいね! 後編では筆者の視点で面白かった作品をご紹介します。


井上猛雄
産業用ロボットメーカーの研究所にて、サーボモーターやセンサーなどの研究開発に4年ほど携わる。その後、株式会社アスキー入社。「週刊アスキー」副編集長などを経て、2002年にフリーランスライターとして独立。おもにエンタープライズIT、ネットワーク、セキュリティ、ロボティクス、組込み分野などを中心に、Webや雑誌で記事を執筆。主な著書は、「災害とロボット」(オーム社)、「キカイはどこまで人の代わりができるか?」(SBクリエイティブ)など。

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