ものづくり 2026年03月02日

夜の公衆電話の光を眺めていたい——公衆電話型ルームライトを作った

※自作ルームライトの写真です
夜道でポツンと光る公衆電話に、なぜか目を奪われてしまうことがある。
 
いまでは数も減ってしまった公衆電話。暗闇の中でぼんやりと光を放つその姿には、なぜか強い郷愁を感じてしまうのだ。誰かを待っていた時間、急いで電話をかけた夜、雨宿りのためボックスに飛び込んだ帰り道——そんな個人的な記憶が、あの明かりには静かに染みこんでいる気がする。
 
今回考案したのは、そんな「夜の公衆電話の明かり」だけを切り出した、公衆電話型ルームライトだ。実物をリアルに再現するのではなく、形や情報をそぎ落とし、記憶の中に残っている“あの光景”を抽象化することを目指した。
 
部屋を暗くしたとき、ふと視界の端で灯るこのライトが懐かしい記憶をそっと呼び起こしてくれる……に違いない。そんなことを考えながら作ってみることにした。

公衆電話をルームライト化する

公衆電話のライトは、街灯とは違って道を照らす目的の光ではない。あくまで「公衆電話ボックス」という閉鎖空間を照らす光である。それがポイントなのだろうと思う。
 
高いところから街の夜景を見下ろしたとき、無数の家々に明かりが灯っているのを眺めたときの感情に似ている。「ああ、この明かり一つひとつに人間の生活があるんだなぁ」という果てしなさに思いを馳せる、あの感情である。

夜の公衆電話(これは実物)
公衆電話も同様に、人の営みの痕跡のような光なのだ。遠くの人と話がしたいという目的のために、長い年月をかけて形作られてきた、その到達点。それがコンパクトなボックスに収められ、夜になると光る。そんなことを考えていると、それはただの光ではなく、私にはとても尊い光に思えるのである。
 
——という御託はこの辺りにしておこう。なにせ夜の公衆電話には、特別なものを感じるのだ。きっとルームライトにして家に設置すれば、いつでもその感覚を味わえるに違いない。
 
そんなわけで、作ってみたのがこちら。
抽象化された公衆電話
大きさはこれくらいで、ルームライトにぴったりなサイズ感
この状態で見ると、ただの公衆電話の模型である。でもひとたび電源をONにすると……。
ぼんやりと光を放つ。一瞬で雰囲気のあるライトに変貌した
これは自宅の机の上だけど、あの夜の公衆電話の空気感が絶妙に感じられる仕上がりとなった。目をこらせば、光に寄ってくるたくさんの虫たちが見える気さえしないだろうか。
ランタンみたいにして外に持ち出してみた
真っ暗な土手を照らす公衆電話の明かり。持って歩いていると、なんともアンニュイな気持ちになってきた。
ボックス内を照らしつつ、ぼんやりと周囲も照らしているのが良い
ツンと冷えた真冬の屋外では、この光がゲームのセーブポイントのようにも感じられる。ほっと一息つける光を見つけたときの安心感たるや。
 
郷愁や安心感に加えて、人の営みそのものを感じさせてくれるのが、公衆電話の明かりなのだと思い知った。

公衆電話型ルームライトを作る

このライトをどうやって作ったのかまず紹介したい。

基本的なパーツは3Dプリンタで制作した。あとはLEDと、その制御用のマイコンからなる
あんまり細部にこだわって造形するつもりはなかった。人々の記憶の中にある公衆電話はもっと抽象化されていて、きっと「これさえあれば公衆電話だと思える」という最低限のポイントがあるはずなのだ。そこだけを取り出して、あくまで公衆電話っぽい形を作ることを目指した。
 
というのは本音でもあり建前でもあり……単に造形を簡単にしたいという意図もあった。そこまでこだわって作っても、夜の暗い中だとほとんど見えないからね! と言い訳しておく。夜の公衆電話は、細部よりも「光の記憶」で覚えられている存在だと思うから。
緑の公衆電話本体は極限まで抽象化してみる
これでも支柱と合わせると、もう公衆電話にしか見えなくなった
土台部分はコンクリートをイメージして塗装する

コンクリの質感を再現するために、タミヤの「情景テクスチャーペイント(路面 ライトグレイ)」を使用した。この塗料シリーズは、簡単に路面っぽい質感を出せるので愛用している。
ライトの制御には、「Pro Micro」という小型で比較的安価なマイコンを使用。今回は点灯させるだけなので、これでも十分すぎるほどである
配線は、土台部分から支柱を通して天面へ
ボックスの骨組となるパーツを取り付けて、
ガラスの代わりに、切り出したアクリル板を差し込んでいく
屋根の裏には、シートタイプのLEDを貼り付ける。これが光源だ
天井面は、その光が透過しやすいように一部を半透明にしてみた
いざ、LEDを付けた屋根部分を上に乗せて光らせてみると
これで屋根からの光漏れがなくなり、下方向だけに降り注いでくれるだろう
電源ONにすると、狙った通り半透明素材の部分から下向きに光が届くようになった
そうして出来上がった完成形がこちら。
公衆電話といえば、この角度からの眺めが定番だ。入口ドア方向からのビュー
背面ビューはこんな感じ。どこから見ても公衆電話に見えるので、抽象化した造形は成功と言えるだろう
電源は背面のUSB端子から供給し、あとは光を消せるようにON/OFFスイッチも付けてある

完成したところで、改めてこのルームライトが放つ光をご覧いただこう。

夜の公衆電話の光を眺める

ポォ……っと部屋に灯った優しい光。公衆電話型ルームライトが足下 を円形に照らす
アクリルが微妙に汚れているのも、いい雰囲気を出している
後ろから見ると、どこか寂しげな印象も
夜の公衆電話の魅力については前半でくどくどと語ったが、それがこの「公衆電話型ルームライト」の光からも確かに感じられる。

暗闇を照らす安心感のある光であり、温かさもあり寂しさもあるアンニュイな光であり、過ぎた過去を思い出させる郷愁感のある光でもある。ただのLEDの光が、公衆電話の形をまとうことで、いろんな意味を持つ光に変容した。
部屋の片隅に設置してみよう
床を照らす足下灯になった。人感センサーを付けたら実用的かも
まわりに物がある場所に設置すると、公衆電話のミニチュア感がいっそう際立つ。寝静まった夜に、こびとがひっそり現れて電話をしていそうな、幻想的な風景が思い浮かんだ。
枕元に設置してみる
枕の横に公衆電話がある光景は、どうにも落ち着かない。ライトとしての役割は果たしているものの、やはりこのライトは机の上で使うのが一番しっくり来るように思えた。
外で使うとその良さが際立つ。ああ、すごく安心する光だ
ライトを消した状態からの、
ライト点灯。この光の広がり方をボーッと見ているだけで何時間も過ごせそう
あるはずのない記憶が蘇ってくる気さえする。公衆電話には浪漫がある
以上、公衆電話型ルームライトでした
だれしも暗闇の中で物思いにふけった経験があるだろう。蛍光灯がジリジリと微点滅するのが気になったり、窓を開けて風を浴びながら真っ暗な空を眺めたり、遠くのトラックの音がやけに大きく聞こえるような、そんな夜である。公衆電話の光は、それと似たようなコンテクストを持っている気がする。
 
このライトは、何かを照らすための道具というより、夜に立ち止まるための装置なのかもしれない。
静かな夜に、手元に置いた公衆電話型デスクライトの光を眺めるのも乙なものである

斎藤 公輔:1983年徳島県生まれ。大阪在住。散歩が趣味の組込エンジニア。エアコンの配管や室外機のある風景など、普段着の街を見るのが好き。「デイリーポータルZ」などで記事を執筆中。

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