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ものづくり
2022年07月19日
激しく抵抗する「抵抗」が見てみたい。
「抵抗器」(以下、抵抗と呼ぶ)という電子部品がある。回路を流れる電流量を制限するもので、その名のとおり電気の流れに「抗う」素子だ。
抵抗はすごく抵抗しているはずなのだが、パッと見た感じではそれが分からない。抵抗という名を持つからには、もっと派手に、暴れるくらいの勢いで抵抗したいんじゃないだろうか。
そんなお節介なことを考えてしまったので、「めちゃくちゃ抵抗する抵抗」というのを作ってみることにした。
「抵抗」があまり抵抗しているように見えないので……
抵抗は、電化製品にはなくてはならない部品である。この記事をご覧になっているスマホやPCの中にも大量の抵抗が入っているし、いまこの瞬間も世界中の抵抗が抵抗をし続けている。テクノロジーを支える縁の下の力持ちと言ってもいいだろう。ナイス抗い!
抵抗に電流を流すと、消費された電力は熱に変換されるため、触るとほんのり温かくなっていることがある。これが抵抗している証し、といえばそうなんだけど、通常は発熱なんて微々たるもの。涼しい顔をしていることが多い。
ものすごい重責を担っているにも関わらず、淡々と仕事をこなしてくれるクールなパーツなのだ、抵抗ってやつは。
その様子を見ていて思った。「もっと激しく抵抗してもいいのに!」って。もしかすると抵抗も内なる悩みを抱えていて、それを態度に出したいのをグッと抑えているのかもしれない。我慢するのはよくない。たまには大暴れさせてあげたいじゃないか。
抵抗しているように見えない抵抗から、激しく抵抗する抵抗へ。鬱屈とした悩みを抱える現代人に向けた抵抗である。実現する仕組みを考えて、作ってみることにした。
振動モータで抵抗を態度に示す
抵抗しているように見せるにはどうしたらいいだろう? 思い付いたのは「振動モータ」だった。
モータが回転することで重りが左右に強く振られ、それによりブルブルブルといった振動が発生する。身近なところでは、これの小型版がスマホなどのバイブに使われている。
自分は電子部品の店に行ったとき、何に使うか分からない部品でも直感で買っておくクセがある。振動モータも使い道がないまま購入し、おそらく2年くらい棚の中で眠っていた。でもそんな風に備蓄しておくと、いずれ使いたいタイミングがやってくるのだ。
よく「知識の引き出しを増やそう」と言われるけど、現物の引き出しを増やして物を置いておくことも時には有効である(でも部屋は散らかるよ)。
手を緩めるとぶっ飛んでいきそうなレベルの振動が発生した。もはや暴力である。工作で使える一番暴力的なパーツなんじゃないだろうか。
これを抵抗の形をした物の中に組み込むことで、見た目にも激しく抵抗する「真の抵抗」が表現できそうだ。よし、それでいこう。
動作原理が決まったところで、次は外装の設計である。
抵抗型の外装をつくる
作ろうとしている抵抗には、先ほどの振動モータと、モータを動かすためのモバイルバッテリを内蔵する必要がある。けっこう巨大な装置になりそうだが、こういうのはデカければデカいほど面白い気もする。気にせず進めよう。
抵抗は大きくすると、蚕の繭、もしくはピーナッツの殻みたいになることが分かった。そういうものが出来上がった。
本物の抵抗は、小さいものだとサイズが1mm以下というのもある。かたやこちらの抵抗は、長辺が17cmである。親と子、いや太陽と月くらいのサイズ差が生まれた。
ちなみにこのサイズを3Dプリンタで印刷しようとすると、かかる時間は約20時間。テスト印刷も何度かやったので、合計30~40時間くらいを費やした。でも機械ががんばってくれているので、人間は「失敗してないかなあ」とたまに様子を見に行って、「あぁ問題なかった!」と安心するだけでいいのだ。ありがとう機械。
このままだと本当に蚕の繭なので、塗装して抵抗らしく仕上げていこう。
オーソドックスな印象のある、オレンジ、黒、茶を使った色味にしてみた。この色は、「300Ω(オーム)で、抵抗値の許容差±5%」という意味。
本当は見た目どおり300Ωの抵抗として使えるものが作りたかったのだけれど、なかなか難しくて、実際の抵抗値は300Ωではないです(これは心残り)。
すべてのパーツがピタッと合わさって、ちゃんと形になった。この通りに設計したので当たり前ではあるのだけど、やっぱり作ってみないと何が起こるか分からない。想定外のことが起こるのが想定内なので、逆に難なく出来てしまうのは想定外? もう何がなにやら。
いい抵抗が完成して本来の目的を忘れつつあるが、今回はただ単にでかい抵抗が作りたかったわけではない。これは「抵抗する抵抗」なのだ。ちゃんと抵抗するのかどうか、電気を流して確かめてみようじゃないか。
抵抗、抵抗する
改めてこの抵抗の使い方を説明しておこう。両端の針金部分に電圧をかけて電流を流す。すると、中に入っている振動モータのスイッチがONになる。それによって激しい振動が生まれる=抵抗が抵抗する、といった寸法だ。
だいたい8Vくらいの電圧をかけてやると、上手い具合に振動がはじまる計算だ。いざ、電源オン!
電源を入れた瞬間、ブオーーー! という振動音が部屋中に鳴り響く。ただモータが振動しているだけではなく、外装部分と共振しているのだ。電動工具を使っているときのような、近所迷惑な騒音が耳に突き刺さる。
それと同時に、激しい振動によって小刻みに震え、机の上を勝手に移動しはじめた。モータの設置位置が偏っているので、振動によって右回りにグルグルと回ろうとしている。絡まるケーブル、けたたましい動作音。落ち着け! 落ち着け!
あんなに穏やかだった抵抗は見る影もなく、ただ衝動に身を任せて「抵抗する」抵抗の姿がそこにあった……。
幸せなら態度で示そうよと、先人は言った。ならば抵抗するときも態度で示さねばならない。これが求められていた、抵抗本来の姿ではないだろうか。
現物の抵抗はとにかく迫力があった。うるさすぎるので動画では音量を落としているが、年末の居酒屋かと思うような大賑わいのてんやわんやである。すべての抵抗がこんな風に反乱を起こせば、人類は滅亡やむなしといった風情だ。
分かった、もう分かったから休め。そう言いたくなるような、見事な抵抗っぷりであった。
抵抗する抵抗を、本来の抵抗として使う
このでかい抵抗は、ただ電気を流すと震えるだけじゃない。振動モータの駆動とは無関係に、両端の針金間をちゃんと一定の電流が通過するように設計してある。なので普通の抵抗(電流を制限する用途)としても使えるのだ。
けたたましい音と振動を巻き起こしているものの、ちゃんとLEDを光らせることができている。普段は荒くれ者の乱暴キャラだけど、実は繊細で気配りが上手とか、そういう感じである。本当はいい奴だったんだな、抵抗。
こんな風に普通の抵抗として使えるということは……。このでっかい抵抗をいっぱい作って組み合わせれば、複雑な電子回路を作ることもできるだろう。想像するに、たぶん畳一畳分くらいの回路基板になりそうで、それはそれで見てみたい。ただそのときの騒音は、きっと工事現場レベルである。んー、やっぱり見てみたいぞ。
まとめ
抵抗する抵抗を具現化してみた。抵抗は普段のおとなしさから解放されて、思う存分「抵抗」ができて喜んでいるに違いない。静かに耐え忍ぶのも美徳だが、たまにはこうしたストレス発散も必要である。ただ闇雲に暴れるあまり、ケーブルがもつれて電源がショートしそうになっていたので、事故が起こらないようにだけは注意したいものだ。
そんなわけで、抵抗を激しく抵抗させるという試みは、これにて終了!
<了>
斎藤 公輔:1983年徳島県生まれ。大阪在住。散歩が趣味の組込エンジニア。エアコンの配管や室外機のある風景など、普段着の街を見るのが好き。「デイリーポータルZ」などで記事を執筆中。
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