ものづくり 2023年08月30日

銭湯にある下駄箱の鍵をガジェット化! ⼀瞬でパソコンがロックできる装置を作る

昔ながらの銭湯や居酒屋などで⾒かける、⽊札(下⾜札という)を挿すタイプの下駄箱。
あれが好きだ。

よく⾒るとメーカーごとにいろんなデザインがあるし、鍵が「⽊」というのもいい。ポケットに⼊れるとき少し邪魔になるけれど、持ったときの物質感や⼿触り感があり、ただ抜いたり挿したりするだけでも楽しい存在である。

この楽しさをもっと⽇常的に味わうため、何か⾝近なものに応⽤できないだろうか。鍵なので「ロックする」のに使うのが⾃然である。⽇常⽣活でよくロックするものと⾔えば……あ、パソコンだ。


あの鍵でパソコンをロックできたら⾯⽩いし、意外と役に⽴つんじゃないか。作ってみよう。

銭湯の下駄箱みたいなガジェットを作る

⽊札を挿すタイプの下駄箱、というのはこれである。

筆者がよく⾏く銭湯の下駄箱

鍵メーカーごとに異なるいろんな鍵を見かけることがあり、これはそのうちの「おしどり」と呼ばれている錠。 その名の通り、おしどりの装飾があしらわれている

鍵となる⽊札はこれだ。番号ごとに切り⽋きの位置が違っていて、その形に合う受け⼝に挿すことで錠が開くようになっている

受け⼝にはメーカーごとに違う装飾が付いており、⾒ているだけでも楽しいし、⽊札もレトロで味わい深い。

これ、家にも欲しい! と前から思っていたのだけど、鍵のかかる下駄箱は必要ないし……。何か別のものに使えないか、ずっと考えていた。そこで思い付いたのが、「パソコンのロック⽤の鍵」だったのだ(ここで⾔うパソコンのロックとは、パスワードを⼊れないと何も操作ができなくなる、あのロック機能のこと)。

⽊札を抜くとパソコンがロックされ、⽊札を挿すとロックが解除される。そんなガジェットを具現化してみたい。

そして完成したのが、こちらの下駄箱。よく⾒て欲しい。あの鍵からケーブルが伸びており、USB でパソコンにつながっている

私のハンドルネームの NEKOPLA(ねこぷら)にちなんで、猫印の「ねこぷら錠」が⽣まれた

鍵番号の 26 は「⾵呂」にかけている。でも、あとで考えると 69 で「ロック」にすれば良かったかも。

⽊札を抜くとロック画⾯になり、⽊札を挿すとロックが解除される(⾃動でパスワードが⼊⼒される)。ここに、下⾜札でパソコンをロックする物理的な鍵が誕⽣した

これがあればさっと⼀瞬でロックできるし、鍵を持って席を⽴つことができる。ロック解除もスムーズだ。

難点を挙げるとすれば、実は⽊札がなくても簡単にロックが解除できてしまう点だろうか。セキュリティ的にはあまりよろしくない。その辺も含めて、中⾝がどうなっているのか、順番に説明していきたい。

あの鍵を作る

フリマサイトを探せば、あの鍵(オリジナルは「松⽵錠」という名前)の本物が売られていたりするのだけど、やはりこだわって⾃作したい。まずは⽊札づくりから始めよう。

⽊を買ってきた

⽊の厚さが 1cm あるため、うちにある家庭⽤レーザーカッター(レーザーで⽊などがカットできる機械)で切断可能な厚みを超えている。なので、ノコギリを使って⼿作業で切っていくことに。

特に切り⽋きの部分が⼤変だった。ノコギリで切れ込みを⼊れて、

そこを平⼑でそぎ落としていく。彫刻⼑を使ったのなんて、⼩学⽣以来かもしれない

⼿にマメを作りながらも、なんとか切断できた

番号の部分はレーザーカッターで刻印する

お、⼀気にそれっぽくなった!

仕上げにオイルステインを塗って⾵合いを出せば、

⽊札が完成〜

ただの⽊札なので、⾃分で作っても本物と遜⾊ないレベルのものができあがった。街で新品を⾒ることはまずないので、この真新しさが新鮮だ。本来なら家にあるはずのないものが家にあると、それだけで⾯⽩い。いいものができた。

ただ、これだけでは鍵にはならない。次はこの鍵を受ける部分を作っていこう。

オリジナルキー「ねこぷら錠」の誕⽣

受け⼝の部分、本物は⾦属製だが、⾦属を切削して作るのはなかなか⼤変である。今回は3D プリンタで造形し、⾊を塗って⾦属っぽい質感を出せないか試してみた。

CAD ソフトで 3D モデルを作り、それを 3D プリンタで印刷する

これだけでもう満⾜感がある

それをスプレーで塗装し、

さらに「タミヤ ウェザリングマスター」という塗料を使って、汚し塗装を⼊れていく

最終的に完成したのがこちら

⽊札と合わせてみる

完全に⾦属! とまではいかないが、使い込んで擦れた⾦属の汚れ具合が出せたのではないだろうか。

先にも書いた通り、オリジナルの「ねこぷら錠」なので、上部には猫の装飾をあしらってみた。⾃分で作っておいてなんだが、かわいい。実際に銭湯で使われていたら、今の時代だと⼈気が出そうである。

さて、これに⽊札を挿すことで、パソコンをロックしたり解除したりできる必要がある。そのため、内部には⽊札の挿抜を検知するスイッチを仕込んでいる。裏⾯がどうなっているのかというと……

シンプルに、⽊札が当たる部分にスイッチ(軽い⼒で作⽤する「マイクロスイッチ」という種類)を設置

⽊札の切れ込みに合ったピンを⽴てることで、⼀応この⽊札しか通らないようにしている

⽊札が奥まで押し込まれると、⽮印部分にあるスイッチが押されるという単純な仕組みだ

セキュリティ的に問題があると書いたのは、これを⾒て分かる通りで、何か棒状のものを差し込んでもスイッチを押すことができてしまうからだ。

なのであまり実⽤的ではなくて、やはりジョークアイテムということになってしまう。このタイプの鍵を使う以上は避けられない問題なので、セキュリティがガバガバなのは許して欲しい。

外装を付けて完成へ

最後に下駄箱らしさを出すために、もう⼀⼿間かける。

⽊を切って接着し、⽊枠を作る

⽊札と同様にオイルステインで着⾊し、

鍵の付いた扉部分と蝶番でつなげれば完成。⼀気に下駄箱っぽくなった

ちゃんと扉も開くけど、中は筒抜けなので、ハリボテの下駄箱である

ここだけ切り取ってみると、本物っぽく⾒えないだろうか

ちなみに、こんな⾵に⽊札を斜めに差し込む形状は⼤阪に多いタイプらしく、東京だと縦に差し込むタイプが多いとのこと(参考⽂献:けんちん著『蒐集 下⾜札』)。

あの下駄箱が家にある喜び。今回は少しひねってガジェット化しようとしているが、ただ⽞関に下駄箱を置くだけでもよかったかもしれない。そこにあるだけで絵になる、つくづく魅⼒的な存在である。

あの鍵をガジェット化する

鍵から伸びているのは USB ケーブル。古⾵な下駄箱と、電⼦ガジェットが融合を果たした瞬間である

裏には「Pro Micro」というマイコンボードを配置しており、それが鍵部分のスイッチとつながっている

世界初、パソコンと USB で接続された下駄箱

USB 接続することで、この下駄箱の鍵部分がキーボードとしてふるまうようにプログラムしてある。あらかじめ設定しておいたキー操作を、⽊札の挿抜(スイッチの ON/OFF)に応じて⾏うことができるのだ。

どういうことか順番に説明すると、

⽊札を抜く、つまり鍵をかけるという動作をすると、中に⼊っているスイッチが OFF になる

スイッチが OFF になることで「Ctrl+Cmd+q」というキー操作が発動し、パソコンに⾃動⼊⼒される

いま USB 接続しているパソコンは Mac なので、「Ctrl+Cmdq」というショートカットキーが押されるとロックされるのだ。鍵を抜くと、⾃動でこのキー操作が⾏われ、それによってロックがかかるという⼨法である。

キー操作を受けて、ロック画⾯になった

反対に、⽊札を挿す動作をすれば、中のスイッチは ON になる

するとロックを解除するための「パスワード⽂字列+Enter」というキー操作が発動し、パソコンに⾃動⼊⼒される

本来ならキーボードでパスワードを打つところを、下駄箱というキーボードが⾃動で⼊⼒してくれるのだ

キー操作を受けロックが解除されて、元の画⾯に戻った

⽊札の挿抜をスイッチで検知し、キーボードのようにふるまう下駄箱が勝⼿にキー⼊⼒してパソコンを操作する。仕組みは単純なのだけど、⽊札を動かすというアナログな⾏動の結果がパソコン操作につながるのは予想以上に⾯⽩い。

なんて呼んだらいいだろう。デジタル化された下駄箱の鍵、「デジタル下⾜札」!? なんかそういうものが完成したのであった。

デジタル下⾜札のある⽣活

パソコンの傍らに置かれるデジタル下⾜札

現実的な話をすると、めちゃくちゃ邪魔である。下駄箱部分がパソコンよりも⼤きくて、異様な存在感を放っている。

ちょっと休憩でもするか〜。そんなときは、⽊札を抜く

⽊札を抜くことでパソコンがロックされる。スマートである。スマート下⾜札と呼んでもいいかもしれない。

離席するときはこの⽊札を持ち歩くことになるため、職場にいながらにして銭湯気分を味わうことができるだろう。

戻ってきたら⽊札をガチョっと挿す

⽊札を挿したら仕事再開だ。

模擬的に使ってみて思ったが、⼀瞬でロックやロック解除ができるのは、想像以上に便利である。今のままだとセキュリティ的に難ありだけど、⽊札に IC チップを付けるなどして、⾮接触で挿抜が検知できるようにすれば解決できそう。

⼀家に⼀台、デジタル下⾜札!

スマートにロックできるだけでなく、「鍵を挿す」という動作が意外と気持ちいい。何度も抜き差しして、その感触を味わっていた。

タッチパネルに代表されるように、どんどん物理的な感触がない UI が浸透していっている今だからこそ、⽊のぬくもりに触れられる下⾜札みたいなデバイスが必要だと改めて感じたのであった。

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