ものづくり 2022年07月29日

子ども時代の「ゾンビごっこ」が仕事に!? 映像の現場を裏で支える特殊メイク・特殊造形「ZOMBIE STOCK」

ホラー映画やドラマや特撮などで私たちが目にするお化けやゾンビ、怪人たち。
技術の進歩が進む現在では、一見CGのようなあまりにもリアルな質感のものも見かけます。

でも、あれっていったい誰が、どんなふうに作っているんだろうと気になったことはありませんか……??

今回筆者は、都内にある特殊メイク・特殊造形を専門とする「 株式会社 ZOMBIE STOCK(https://zombiestock.biz/)」さんにお邪魔しました。

「ZOMBIE STOCK」さんは、デザイン・玩具・着ぐるみ・ダミー・原型・アトラクションプロデュースなど、特殊メイク・特殊造形を中心とした、エンターテイメントに関わるいろいろなことを手掛けている会社さんです。そう、映画やテレビでよく見る特殊メイクや造形を作っている……!

まずは工房の中を見せて頂きました。中では次の仕事に向けて職人さんたちが仕事の真っ最中。

工房の秘密基地感、わくわくします

奥にいるのは顔型を作っている最中の職人さん。人間の顔は、ひとりひとり形が違います。

筆者もはじめて知ったのですが、そんなひとりひとり形が違う人間の顔それぞれにぴったりの特殊メイクを施すために、まずは顔型を取らせてもらうのだそうです。

顔型に馴染むように人工皮膚などで特殊造形やメイクを作り、それを実際に現場に持って行ってメイクをする、という感じの手順を踏むのだとか。特殊メイクって完全にオーダーメイドなんですね……!

顔型を作るために用いた石膏の型

顔だけじゃなくて手の型などもあります!

工房内には今まで手掛けたものや特殊造形のための資料など、ありとあらゆるものがありました。

いろいろなものがストックされていました

ボタンやアクセサリーなど、特殊造形に使う材料のストック。特殊造形は何も特別な材料だけではなく、私たちの身近な商品も材料として使われることがあるのだそうです。

劇団☆新感線の舞台『蛮幽鬼』で用いられた蛮神像

例えば、こちらの美しくも怖さを感じる蛮神像の口元を覆うベール。

このベールの存在が荘厳さを引き立てていますが、こちらの原材料はなんとお風呂のボールチェーン!!

君のヴェール……そんなもので作られていたのか……

ただのボールチェーンが、プロの手にかかるとこんな風に変身するなんて面白すぎる。

こんなすごいものを作っちゃうって一体どんな人たちなのでしょう……。

左:ZOMBIE STOCK 取締役 中田奈美代さん、右:ZOMBIE STOCK 代表 中田彰輝さん

株式会社 ZOMBIE STOCK代表の中田彰輝さんにお話を伺います。隣にいるのは取締役で総務・経理などを担当されている奥さまの中田奈美代さん。

ちなみにおふたりの後ろにずらっと並ぶのが、今まで手掛けた演者さんたちの顔型です。デスマスク……! ではなく、生きている人の顔の型を取ったものは「ライフマスク」と呼ばれるらしいです。

ちなみにテーブルに普通に、ハラワタが出た人形やリアルな手が乗っていた。怖すぎる

幼少期から怖いものが好き、だけどリアルな血は怖いしお化け屋敷は苦手

——工房内にもゾンビとか生首とか怖い感じのものがたくさんありましたが、中田さんはやはりホラーがお好きなのですか?

怖いよお!!!!

中田 そうですね。ホラーは大好きで、何故かわからないけど小さい頃から怖いものにも興味がありました。
でも、リアルな血はダメで、血どころか注射もダメです。あと怖いの好きといいながら本物の幽霊は怖いし……怖がりなので、歩いて入るようなお化け屋敷も入れない。

——え!???(笑)この部屋にもこんなに怖い感じのものが溢れているのに!?

これを普段作っているのに、お化け屋敷はダメなの……?

中田 映画で自動車事故の死体の人形を作る仕事が来たりします。その際にどこかが欠損してるような、俳優さんそっくりな人形を作るんです。

こういう人形。この子たちは俳優さんの代わりに事故に遭ったり崖から落ちたりと、文字通り体を張っている

中田 その時は現場でめちゃくちゃ楽しんでるんですよね。事故が起きた時の想像を働かせて、いかにリアルな現場を作るかを頑張る。
資料も見ていかに本物っぽく作るかっていうのは大好きなんです。でも、実際に本物の現場を見たら気絶するだろうなという……この感覚、人には説明できないんですよ(笑)。

——仕事ではそういう資料を見られるのも、仕事だからスイッチが切り替わる感じなんですかね……。

休憩スペースには原作漫画をはじめ、法医学の本などいろいろな資料がありました

中田 医療ドラマに関わる時、こういう手術の時はこういう装備をして、こういう作業しますって指導してくれる、医療指導の方がいます。医療指導の方に話を聞いて、本物の器具をお借りして必要なものを作るんですが、皆さん目が肥えているので適当なものは作れません。
それで、リアルに再現するために本当の手術の映像を見たり、法医学の本とかを見たりするんですけど、その時はだいぶブルーになります。

日々怖いものに囲まれてるけど、本物は別なんですね……

——こういうことをお仕事にされている中田さんも、ブルーになるんですね!!

中田 なりますよ(笑)。現場では作ったものを持っていってニコニコ仕事してるんですよ。そうすると、周りからも「死体とか大好きなんでしょ」って言われるけど本物はダメなんです。ホラーっぽいものを作ることを仕事にしていて、死体を作るのは大変興味があります、でも本物のお化けは怖いです……。

——本物のお化けは怖いけどお化けを作ることを仕事にしてるし、作り物のお化けは大好き。不思議な感覚すぎて面白いですね……(笑)

坊主頭もオーダーメイド! 奥深い特殊メイクの世界

——質問の順番が前後しちゃったんですけど、ZOMBIE STOCKはどんな会社なのでしょうか。

代表の中田彰輝さん

中田 主に映画だったり、テレビだったり、コマーシャルや舞台ですね。そういったエンターテイメントの業界で、映像作品の中での特殊メイクや特殊造形を主に行っている会社です。
なので依頼としてはいろいろあるんですけども大半どんなことでも答えられるようにしているという感じです。

——映像の造形なんでも屋さん……! 今日も見せていただきましたが、怖い感じのものからかっこいい感じのものまでいろいろありましたが、どれもひと目見た限りではどうやって作るんだろうというものばかりで。

ドクロも。彼らはたまにテレビ番組や映画などに出演することがあるそうです

中田 それこそいろんな素材を使うんですけども、いろんなオーダーが来るので、なるべく頂いたオーダーに応えられるように自分たちで工夫したり考えていますね。
昔から使われている技術だったり新しい技術。そういうのを融合しながら作品に反映するのが主な作業になります。
僕らは何でも屋さんなので、材料もありとあらゆるものを使います。
例えば血糊を作るのにも、蜂蜜とか水飴をベースに作ることもある。

——美味しそう!!!

中田 粘性とかを表現するのに糖分がよかったりするんですよね。そういうのがあるくらい、身近なものも使うんですけども。

——さっきもかっこいい像の部品がお風呂のボールチェーンだったし、特殊メイク・造形ってもしかして、私たちが思っている以上に身近な存在なのでは……。

中田 特殊メイク造形がどんなことをするのかと言うと、人間の自然に起こりうる現象。
例えば老化とか、痩せる、太る、怪我をする。生まれてくる赤ちゃんとかも。そして演技の中で斬られたときに実際に怪我をするわけにはいかないので、傷を作ったりするわけですね。
役者さんがいろんな仕事をしている中で急に頭を坊主にすることができなかったりするわけです。そういう時に僕らがその頭の皮を作って、坊主の状態を作ったりします。

——俳優さんが映画で坊主の役をしたりするけど、番宣ではふさふさだったりする。そういう時の坊主頭はオーダーメイドで作っていたんですね!?

そしてこの顔型は基本中の基本だったんですね

中田 そうです。人の顔っていうのはほんとに皆さん違うのでその顔の形に合ったものを作ります。ひとりひとり性別でも、顔のサイズも凹凸のサイズも全然違う。そのために最初に顔の型を取らせてもらうことが多いんですけども、その顔型を取る作業ひとつにしても、いろんな材料を使います。

中田 顔型を取って、人工皮膚とかを作るんですけども、僕らの仕事は作って終わりではない。例えば30代の俳優さんが80歳にならなければならない設定があるとしたら、俳優さんの顔型を取って人工の肌を作って、それを現場に持っていって、医療用の接着剤を使って顔に貼り付けて馴染ませて色をつけて、白髪を入れたカツラを作ったりして老人にします。

老人メイクも奥が深いんですね……(こちらは中田さんが敬愛する“偉大な特殊メイクの父”ディック・スミス氏の貴重な制作物)

中田 特殊メイクというと、メイクって言いながら造形の部分が大事になるんですよね。
メイクしたときに人の肌に見えなければいけないので、シワだったり毛穴だったり、骨格も含めてなんですけどなんでも貼ればいいかというと顔の形が変わってしまいます。だからなるべく薄く、本人の印象を消さないように計算して彫刻しなければならない。その作業を総合的に仕上げるとこまでが仕事です。

——納品で終わりじゃないんですね。俳優さんにメイクをして、はじめて仕事が完了する。

中田 例えば「包丁で頬を斬られる」という設定の傷メイクの依頼があったとして、その傷をどうやって作るか、顔の型を取って、ここにこういう傷を作ろうと監督達と話して、斬られた傷が開いて血が流れてるのであれば、下にチューブを這わせてポンプで血糊を送って、血が流れる表現したりします。

でも例えば、首を斬られて血が噴き出るみたいな設定なら特殊効果さんという人と協力して、ボンベのガスを現場に持ってきて圧力で噴き出させるようなことをする。

——へー! そういう映像ってそうやって作っていたんですね!

中田 映画にはそれぞれ分担があって。それぞれの技術の融合によってひとつの作品が完成してるんです。それはめちゃくちゃ楽しいところでもありますね。
なので、他の人たちの仕事を見ているだけでも面白いんですけど、未だに現場では勉強勉強です。

工房内にはZOMBIE STOCKさんが携わった様々な映画や舞台のポスターがありました

中田 こちらはセメダインさんのメディアですけど、造形の面でも瞬間接着剤はなくてはならない存在です。それはなぜかというと、作業を早めるため。とにかく早くくっつけたいんです。

接着剤愛も強い中田さん

中田 例えば偽物のナイフを使っていて現場で壊れてしまうことがあります。それをつけるのに3時間とか役者さんたちを止めるわけにはいかない。そんな時にも瞬間接着剤を使います。助かっています。

——アツい接着剤への愛もありがとうございます。接着剤と特殊造形、どちらも縁の下の力持ちですね……!

サメがうようよいるような、想像の海に漕ぎ出していた小学生時代

——中田さんが特殊造形の道を目指すようになったきっかけはなんだったのでしょうか。

中田 小さい頃から昆虫や動物など、そういう生物が好きで図鑑をよく読んでいました。でも先ほど言ったように、生き物だけではなく怖いものにも興味があって、水木しげる先生の妖怪の本とか怪奇映画大全集とかも読んでいたんですよね。

工房内にはホラー映画や特殊メイクに関するDVDもたくさん

中田 そういうのもあり、自然と幼い頃から変な発想だったりとかそういうものに自然と興味を持っていました。今も監督に伝えられたイメージを形にする際には、その経験もつながっているのかもしれないなぁと思います。

——幼少期からの妖怪や生き物が好きだったのが、今の仕事にも活きているんですね。

中田 あと、1番大きいのが小学校からの親友の存在です。親友は映画が大好きで、彼の家にビデオデッキがあった。それまでは映画見るには映画館に行くか、テレビで放映されるのを待つしかなかったんですけど、録画した映画や、レンタルビデオの映画を見せてくれたんです。その見せてくれた映画の中に『ジョーズ』があった。

『ジョーズ』…言わずと知れたスティーヴン・スピルバーグ監督のサメ映画の金字塔的存在。日本での公開は1975年。

中田 小学生の頃だから○○ごっことかやっていたんですけど、その頃僕たちは彼と毎日のようにジョーズごっこをやっていた。
自分達は人間、布団を海に置き換えて、親友と一緒に空想の海に漕ぎ出していました。

——ジョーズごっこ楽しそうすぎる。その頃から想像の世界で航海を楽しんでいたんですね。

中田 その彼に出会ったことで映画のことを教わったんです。映画の世界について知って、本でだけ見ていた映画も実際に見ることができた。すると、映画にいろいろな造形物が出てくることに興味を持ったんですよね。
本でメイキングが紹介されている中で、特殊メイクや特殊造形という仕事があることを知った。「映画の中で作り物を作ってる人がいるんだ!」って。衝撃を受けました。

——それでは人生の結構早い段階から、特殊メイクや造形への道を意識しはじめていたんですね!

中田 あとはマイケル・ジャクソンとの『スリラー』との出会いもありました。自分の叔母がジャズダンスの先生をしていて、教材にしていたのが『スリラー』だった。

中田 あれって特殊メイク要素満載で。狼男に変身していく段階を特殊メイクで作ったり。そんなゾンビなどの特殊メイクを手掛けたのがリック・ベイカーという巨匠でした。
スリラーのビデオの中に、メイキング映像が1時間以上入っていて、造形の作っていく過程を紹介していたんですよ。衝撃でした。

中田 もともと自分は目立ちたがりだけど、自分で何か表現することができるタイプではなかった。それがある時フランケンシュタインのマスクを買ってもらい、それをかぶることで注目を集めることができた。
特殊造形でそういうものが自分でも作れる! と認識したことも、必然的に目指すきっかけになっていると思います。

変身願望をも満たしてくれる特殊造形やメイク……コスプレなどにも通じそうですね

——人生で幼少期からいろんな場面で特殊造形へのとっかかりがあって、導かれるように特殊造形の道に進んだんですね。すごい……。

中田 会社も「ZOMBIE STOCK」って名前にしましたけどそれは幼少期にゾンビ映画を見て。『ジョーズ』の後にゾンビにはまってて、ゾンビ大好きっ子として育ったんですよね(笑)。
親友と2人で、“街の人たち全員ゾンビ”という設定で、半ズボンに銃のおもちゃをさして走り回ってたんですよ。
それもあり、“ゾンビごっこをしていた子どもがそのまんま今の自分にまでなっている”って感じです。だから自分的には、いまだに“ゾンビごっこをしている”感覚なんですよね。

可動フィギュア・figma 「フライボーイゾンビ」の原型協力もしています。ゾンビ人生……!

——ゾンビごっこ、これまた微笑ましい。ゾンビごっこを仕事にし続けている……!! 

中田 自分はもう50手前ですけど大人になった感覚はなく、中身は変わらないまま見た目だけが老けていく。そんなギャップが自分の中であります。本当に仕事としては、大変だけどいまだに楽しくやれています。毎回大変さを上回るような楽しさがあるのでやってるという感じですね。
社名にはカミさんとも相談して、「ゾンビをたくさんストックしてますよ」みたいな、“ゾンビ倉庫”みたいなイメージを反映しました。

そんな特殊メイクの裏側を知ったらゾンビもかわいく思え……ないな。やっぱり怖い

ゾンビを愛し、ゾンビに愛された人生

ひとりの少年がゾンビに惹かれ、親友とゾンビごっこをしていた。

その少年が大きくなった時、少年はゾンビを作る側となり、人々に驚きを提供した。

これは一体だれが、どんな人が作ってるんだろう? という映像の中の特殊メイク・造形を追ってみたところ、“ひとりのゾンビ好きの人生”の話に辿り着きました。

中田さん率いる「ZOMBIE STOCK」は、これからも私たちの予想を上回っていくような驚きを提供してくれるんだろうな、という予感があります。

特殊メイク・造形の裏側を知ると、エンドロールを見るのもより楽しくなりそう。中田さん、ありがとうございました。

 

取材協力:株式会社 ZOMBIE STOCK
URL:https://zombiestock.biz/

<了>


ライター:井口エリ
オタク気味のサブカルフリーライター。実は宝石鑑定士の資格を持っている。 神社や御朱印が好きで、神社の繁忙期に非常勤巫女をしていたことも。 現在はWEB媒体を中心に様々なジャンルで記事執筆中。

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