2021年04月30日モノづくり

南極に現れた未来の月面基地、居心地は? ―極限の地での快適な住まいづくり ―【後編】

将来の月面基地や未来志向の住宅を視野に入れ、2020年に南極で行われた「南極移動基地ユニット」実証実験。ミサワホーム、ミサワホーム総合研究所とJAXA、国立極地研究所の4者が取り組む実験の特徴や狙いについては前編で詳しく伺った。実際の実験はどうだったのか。実は気象観測史上一位を更新するほどの南極の好天によって、最初から予想外の展開が強いられることに! 2009年に第51次南極地域観測隊・越冬隊に参加した経験を持ち、現在はミサワホーム技術部担当部長かぐやプロジェクトリーダー。ミサワホーム総合研究所南極研究プロジェクトにも所属し、当実験に携わる秋元茂さんに詳しく伺った。 (取材・文 林公代 / 撮影 金田邦男)

全然雪が降らない! 2月に組み立て予定が5月に。

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実際の実験はどのように⾏われたのでしょうか︖

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秋元茂さん(以下、秋元)

今回の実証実験に現地で観測隊員として携わった当社社員に聞いたところ、南極移動基地ユニット自体は予定通り2020年1月頭に到着しました。実験場所である「見晴らしエリア(昭和基地主要部から約1km)」の雪のステージを整えるまで海氷上に置いていたらしいのですが、全然雪が降らずステージを整えられなかったとのこと。
そもそも南極で雪が降らないなんてありえないでしょ(笑)。昭和基地での気象観測史上1位を更新するほどの好天で、雪が降るまで待っていたら4月末になった。そして、ようやく移動させることができたそうです。5月は極夜期が近く、10時半ごろ日の出、14時ごろ日の入りと日が短い。防寒用の作業服を着てまずは地ならしから始めて。

昭和基地の主要部から約1㎞離れた見晴らしエリアに到着。(2020年4月28日)(提供:国立極地研究所)

まずは整地作業(2020年5月11日)(提供:国立極地研究所)

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簡易施工についてはいかがでしたか?

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秋元

予定では6時間あればできると思ったけれど、倍以上かかったようです。

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何に時間がかかったんでしょう?

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秋元

作業がまだ細かいのでしょうね。手袋に対してボルトが小さいとか。6人で組み立て作業を行ったのですが、そのうち事前に訓練を受けたのは一人だけ。他の5人は初めての作業で、しかも観測や研究を行う方や料理人の方たち。越冬隊には建築の専門家が一人しかいないので、段取りなど難しかったのだと思います。まぁ、南極の建物は全部そうですけどね。

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第61次南極地域観測隊による組み立ての様子は、国立極地研究所観測隊ブログに詳しく紹介されていますね(https://nipr-blog.nipr.ac.jp/jare/20200522post-87.html)。拝読すると、位置をミリ単位で調整しますとありますね。

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秋元

ユニットとユニットの高さを合わせるんです。人間の足は1.5㎜の段差を感じてしまう。(南極移動基地ユニットは)設計上、4㎝の段差があってもユニット同士は電気系統を含めて接合できるし、気密性も保たれます。でも生活面では気になるということですね。

防寒着を身に着け手袋をしてミリ単位の位置調整をする第61次隊員(2020年5月16日)(提供:国立極地研究所)

側面のパネルをはずし、連結させる(2020年5月18日)(提供:国立極地研究所)

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施工では「気がつくと、防寒手袋を外して薄手の手袋で作業してしまう」と書いてあります(笑)

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秋元

いらいらするんでしょうね(笑)

2020年5月21日、完成!外装の目地のシーリングにはセメダインの「EXCELⅡ」が使われている。(提供:国立極地研究所)

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苦労しつつ完成させたんですね。6月1日の「気象の日」にはユニット内で記念式典が行われたんですね(国立極地研究所観測隊ブログhttps://nipr-blog.nipr.ac.jp/jare/2020060161-3.html)。写真を見ると、普通の住宅のリビングルームに見えます。

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秋元

はい。外が気温マイナス20度でも室内は20度。気密性も保たれ内部の温度や湿度、二酸化炭素濃度などモニターすることができました。JAXAからも成果をあげられたと評価を頂きました。

2020年6月1日、完成したばかりの南極移動基地ユニット内で行われた電波の日・気象記念日・第61次南極地域観測隊の日の記念式典。外は気温マイナス20度以下、風速毎秒約15mの風が吹く寒空だが、ユニット内は室温約20度(提供:国立極地研究所)

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秋元

ただし、2月に組み立てを行う予定が5月に遅れたことで、白夜の時期に隊員が滞在して実証実験を行うはずが6月ごろから極夜になってしまった。極夜では太陽が地平線から出ないため、太陽光発電パネルによる発電がなかなかできませんでした。

今後―いよいよドームふじ基地へ

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そうなんですね。更なる実験に期待ですね。今後、ドームふじ基地まで移動させる計画についてはどうなっていますか?

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秋元

2022年の1月にドームふじ基地に移動させる予定です。今年の11月に出発する63次隊が移動させ、64次隊で組み立て予定です。63次隊は出発に向けて日本の冬山で訓練をやっていますよ。

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冬山で!どんなことをやるんですか?

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秋元

雪でホワイトアウトを起こしたときにどうするか、ビバークのやり方やコンパスを使った方位の探し方。昭和基地の周りは海なのでクレバスに落っこちたときに仲間をどう助けるかとかも訓練します。

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そんな訓練をされていくんですね。

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秋元

極限環境ですからね。日焼けの話はしましたが、凍傷はもっときつい。肌はなるべく露出しないようにしていますが、鼻息がもれると、呼気に含まれる水分が冷たい空気とふれて頬のあたりが凍傷にかかりやすくなる。途中までは痛くもかゆくもないんです。だからマイナス30度以下になると外に出るときは必ず2人以上で出ます。お互いの顔を見て頬が赤くなってきたら中に入ろうと声をかける。けっこうストレスがたまります。

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何が一番ストレスになりますか?

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秋元

プライベートの空間がないことです。夏隊は出発してから帰るまで一人になれるのはトイレの中だけですからね。越冬隊は1年間滞在しますから3月以降個室が与えられますが。

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うわぁ・・

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秋元

でも楽しいこともあって。オーロラは確かにきれいだし、内陸に行くと空気がきれいだから星の見え方が全然違いますよね。オーロラと天の川の競演とかね。でも一番の楽しみはウィスキーを雪上車の外に出しておくこと。シャーベットになるんです。ビールは凍るからダメですけどね(笑)

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南極で流しそうめんをやっているのを見たことがあります。

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秋元

流しそうめんは建築隊員の腕の見せ所なんです。溝切カッターでどうやって溝をほると、綺麗にそうめんが流れるか(笑)。昔はボードゲームをやりに食堂に集まって、雑談しながらお互いお顔を見ることができましたが、今はパソコンがメインになってなかなか部屋から出てこない。太陽が出なくなる時期は精神的にまいる。だからこそ、この移動基地ユニットでコミュニケーションをとるスペースができて、みんなが集まる場所を提供できる意味は大きいのだと思います。木材を使っているから精神的に落ち着きますしね。

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そうですよね。今後、地上への展開はどんな風に考えておられますか?

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秋元

まだ詳しくは言えないのですが、災害時に使えたらいいなと思っています。自然災害は頻発しています。例えば「道の駅」など様々な場所において、継続的に利用できる仮設住宅にできたらいいなと思います。ユニットはISO規格をとっていて世界中のトラックや船、飛行機にも載せることができるので地球上どこでも持っていけます。

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月面基地への展開はいかがでしょうか?

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秋元

このまま直方体の形で月に持っていくのはありえない。円い形のほうが圧力が均一にかかるので、月面では外側は円筒形になると思います。ただし中は四角くして底部に水を満たせば水平におけるし、水が宇宙放射線を遮蔽してくれます。ただし、真空の月面では換気が難しいし、部屋の中はコンピューターなどの機器を使うことで熱くなる空気を冷やす方法など居住に関しては一筋縄ではいかない問題が色々あります。月の土レゴリスも熱をためやすいのでね。

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ISSのように無重力状態ではなく六分の一の重力というのも未知の環境ですね。

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秋元

はい。実際に月で住む時にどういうことを考えないといけないのか、かぐやプロジェクトでは今後、JAXAさんと研究会を作っていきたいと考えています。我々にはセメダインさんはじめ住宅を作るサプライヤーさんがいっぱいいるので、ご協力を頂きながら宇宙を目指していくための布石を作りたい。たとえば換気扇をどうするか、トイレやお風呂をどうするか、寝る角度はどうなの?とか。建設に関する話だと月にも地震があると言われていて震度3ぐらいの地震が起こるそうです。そうすると基礎工事が必要なのか。そのあたりも全然わかっていません。

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興味深いですね。ゆくゆくはミサワホームのハウスが月面に?

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秋元

まだまだ。日本は月の探査は認めていますが有人基地を作るとは言っていません。だから勉強会でしかない。でもこのユニットがいつかどこかで化けるかもしれませんね。


ライター:林公代

神戸大学文学部卒業。(財)日本宇宙少年団情報誌編集長を経てフリーランスに。宇宙・天文分野中心に執筆。世界のロケット発射、望遠鏡など取材歴20年以上。近著は「宇宙に行くことは地球を知ること」(野口聡一宇宙飛行士、矢野顕子さんと共著)、「るるぶ宇宙」監修等。https://gravity-zero.jimdo.com/


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