ものづくり 2024年01月26日

再びブームのカプセルトイ。製造の流れや最近の市場動向をメーカーに行って聞いてきた。

 一般社団法人日本玩具協会の発表によれば、2022年度のカプセルトイ市場は前年度比35.6%増の610億円になっています。カプセルトイは、かつてはおもちゃ屋の軒先や商業施設の片隅などに置かれ、主に子供が購入するおもちゃでした。

セメダイン製品のカプセルトイの数々

今では数百台ものカプセルトイマシンが置かれた専門店が、全国各地に多数展開しています。客層も広がり、子供だけでなく、大人も購入するようになりました。中に入る商品も、大人向け、女性向け、ファン向けなど、多彩になっています。
 
 多くの人が楽しむようになったカプセルトイですが、そもそもカプセルトイはどのように作られているのでしょうか?そして、カプセルトイ市場はどうなっているのか?人気商品や購買層など、最近の業界動向は?そんなカプセルトイの疑問をメーカーに行って聞いてきました。

※ガチャ、ガチャガチャ、ガシャポン、ガチャポンなど色々な呼ばれ方をするカプセルトイですが、ガシャポン、ガチャポン、ガチャガチャはバンダイの登録商標です(9類:マシン什器、28類;玩具商品他)。ガチャはタカラトミーアーツの登録商標になります(9類:マシン什器、28類;玩具商品他)。本記事では一般名称として使われる「カプセルトイ」で表記していきます。

カプセルトイメーカーに話を聞く

左が安藤さん。右が中條さん。よろしくお願いします。

今回訪問したのは、カプセルトイやボックストイ、アミューズメント専用景品などの企画開発、製造、販売などを行うスタジオソータ(株式会社SO-TA)です。スタジオソータの創業は2009年。2017年からカプセルトイの企画、製造、販売を始めています。

話を聞いたのは代表取締役の安藤さんと中條さん。カプセルトイが製品となるまでの流れや、製品のこだわりポイント、最近のカプセルトイ事情、今後の展開などをお聞きしました。

展示されていたスタジオソータのカプセルトイ。ほんの一部だそうです。

カプセルトイができるまで

カプセルトイはアメリカ発祥のもので、1965年に日本に入ってきました。70年代後半から80年代にかけて、スーパーカー消しゴムやキン肉マン消しゴム(キン消し)などの第一次ブームが起こります。その後何回かのブームを経て、2017年頃から専門店が登場し、2020年頃から再びブームが起きています。

 安藤さんによれば、カプセルトイの製造方法は、デジタルツールを使うようになったものの、基本的な部分は昔も今も変わらないそうです。主な流れは以下のようになります。

カプセルトイができるまでのおおよその流れ。

最初の工程は、どのようなカプセルトイを作るかの企画です。スタジオソータでは、開発部門だけでなく、社長、営業、事務担当も含めて全ての社員が企画会議に参加して案を出していきます。これを作れば話題になりそうだとか、SNSで話題になっているなど、企画案を持ち寄って週一回企画会議を開催。採決して70%以上の賛同を得られれば企画採用となります。採決は全員で行い、社長の一存では決まりません。企画案は、外部からの持ち込みもあるそうです。

話題になったセメダインBなどのカプセルトイ。

企画が採用されたら、版権を持つ会社や作品を作っている作家の方などに問い合わせていきます。先方からOKが出ればデザイン、製作の工程へ

カプセルトイ化されたセメダイン製品も、この流れで製作されました。80年前のセメダインCが発見されたことがSNSで話題となり(https://www.cemedine.co.jp/cemedine_reports/cemedinehistory-01.html)、企画が採用された後に社へ問い合わせがあって製品化が実現しています。

現在のデザイン工程はほぼ全てデジタルツールで行われる。

続いてのデザイン工程では、製造に必要な3Dデジタルデータを作成していきます。かつては原型師と言われる職人の方が、粘土や木を削ってカプセルトイの元となる原型を作っていました。今はそのほとんどの工程を、コンピュータや3Dプリンターなどを使って行います。

Geomagic Freeformによるデザイン作業

3Dデジタルデータの作り方は大きく分けて3つ。

1つめは、実物があるものをミニチュア化するような場合。3Dスキャナーで読み取ってデジタル化したものを、モデリングソフトで整えていきます。2つめはイラストから3Dデータを作る場合。デザイナーの方がモデリングソフトを使って、元の絵から粘土細工を作るようにデータを作成します。3つめは、個人で作品を作るモデラ—の方で、現物も3Dデジタルデータも既にあるような場合。そのデータをカプセルトイのサイズに変換します。

原型モデルのパーツを出力する3Dプリンターには主に光造形タイプが使用されていました

カプセルには大きさの制限があるので、中に入るサイズへのパーツの分割が必要です。分割は専用の分割ソフトを用いておこないます。分割後に3Dプリンターで出力して塗装、組み立てを行い、実際に製造していく際の見本となる原形モデルを作ります。

3Dデータと原形モデルが出来たら量産用の金型作りです。スタジオソータの場合、実際の製造は中国で行っているので、出来上がった両方を中国へ送って現地で金型を作ります。

中国での手作業によるパーツへの着色作業。画像提供:スタジオソータ

金型は、同じ形のプラスチック製品、金属製品などを大量に製造する時に使用されるものです。たい焼きの型のように、作りたいパーツの形に内部に穴が開いていて、中に材料を流し込んで固めればパーツが出来上がります。現在では、数個程度レベルならば、3Dプリンターを使って、同じ形の樹脂部品を同時につくることが可能です。ただし、時間がかかります。金型ならば、同じものを大量に短時間で製造できます。

安藤さんによれば、カプセルトイは1個あたりの利益は非常に薄く、最低でも3万個ぐらいは作らないと採算がとれないそうです。そのため、プラスチック製のカプセルトイならば、今でも量産では金型が用いられています。

パーツの選別作業も手作業。画像提供:スタジオソータ

金型が出来たらパーツを作り、塗装工程へ。塗装は、塗らない部分を保護して塗装を行うマスク塗装、または塗る部分にスタンプのように押し当てて塗装するパッド印刷が主に用いられます。いずれにしろ1個ずつ手作業で行います。

塗装後に乾燥し、パーツをカプセルへ封入したら、まずは製品サンプルの完成です。まだ量産は出来ません。この後に監修工程が入ります。

カプセルへの封入も手作業。画像提供:スタジオソータ

監修工程では、カプセルから出して実際に組み立てて、パーツが上手く組み合うか、色は原形モデルと同じであるかなど、仕上がりをチェックします。パーツが上手く出来ていないと、関節部分が正しく動かなかったり、パーツがはまらなかったりするので、金型を修正してもう一度作り直します。色などについても同じで、差が有る場合は指示を出して修正します。修正は複数回行われるのが通常です。

更に、許可をとった版元やモデラ—の方に完成品をチェックしてもらいます。こちらも一度で通らないことが多く、その場合は何度も修正がかかります。製作のなかで監修工程に一番時間がかかるそうです。監修工程が完了したら、量産されて出荷されます。出荷する製品は一度日本に全て入り、スタジオソータの社員が抜取りで検査を行ってから出荷されます。

企画採用から実際に量産されるようになるまでは、平均で10か月程度です。スタジオソータでは、月に7、8アイテム程度のペースで新作カプセルトイをリリースしているので、常に複数の企画が同時に進行しています。

最近のカプセルトイ事情、人気商品

流行ったり、話題になったりしたカプセルトイの数々

次は、最近のカプセルトイ事情や人気商品などを聞いていきます。

安藤さんによれば、2023年現在でカプセルトイを作るメーカーは60社ほどあるそうです。2017年頃まで10社程度だったものが、ここ数年で急に増えました。そして、毎月500アイテムほどの新しいカプセルトイが登場しては消えています。

80年代頃は子供向けのみだったカプセルトイも、90年代頃からコレクションを行う大人向けの商品が出回るようになります。最近は20、30代女性をターゲットにしたカプセルトイが多く出ていて、売れ行きもいいそうです。女性も入りやすい、広くて明るいカプセルトイ専門店が多く出来たことで、客層は大きく変わりました。

音モノのカプセルトイ。押すとカエルの鳴き声や卒業式の定番曲が流れる。

カプセルトイの流行の話では、少し前までは音モノといわれる製品の人気があったそうです。押すと鳴き声やメロディが鳴るタイプのものです。バスの停車ボタンのような、音と一緒に光る物もありました。握って遊ぶ、柔らかく弾力のある人形(スクイーズ)も一時期流行りました。

金型で量産をしていても、作るのは一回の注文分のみで、かなり話題になったものでもない限り再販はほぼないとのこと。見つけた時が買い時のようです。

NHKのどーもくん、未来少年コナンのダイス船長とロボノイド、モンチッチ

また、昔からキャラクター物は人気があり、最近は今流行っているキャラクターではなく、少し前に流行ったものや、昭和や平成時代のキャラクター物も人気です。絵本のコンテンツも人気があります。当然それらの物は版権があるので、各カプセルトイメーカーで取り合いになるそうです。

企業のIP(知的財産)を使ったものも人気があります。例えば、普通の食パンのカプセルトイではなく、有名パンメーカーのパッケージを使用した食パンの方が、遥かに数が出るのだとか。セメダイン製品のカプセルトイもそういった企業IPを使ったものの一つです。

ムシキングの筐体。こんなものもあります。

企業IPを使ったものは、身近で見慣れたものなので、持っているだけで楽しいということもあります。それ以外に、ドールハウスに置いたり、フィギュアと並べたりして写真を撮る際にも多く使われるようです。

その写真がSNSにアップされて大きな話題となることで、爆発的に売れたカプセルトイも多くあります。そのはしりとなるのが、企業IPではないですが、2012年に発売されたコップの縁に乗せる、制服姿の女性会社員のカプセルトイ「コップのフチ子」です。あの頃からSNS発で売れたものが増えています。

ゲーミングチェアとバスケットボール用車いす。これも12分の1サイズ。椅子はちゃんとリクライニングします。

フィギュアと一緒に並べて撮影するという点を考え、スタジオソータの多くのカプセルトイは実物の12分の1サイズで作られています。安藤さんによれば、フィギュアが12分の1で作られているものが多いので、そのサイズで作ることを意識しているのだとか。

SNSを意識した商品展開は、近年のカプセルトイ市場では必須のようです。

スタジオソータの製品に対するこだわりポイント、スタジオソータの今後

最後にスタジオソータのカプセルトイでこだわっているポイントや今後の展望について聞いてみました。
スタジオソータでは、企画だけに終わらせず、確かなクオリティの製品を作ることや、製品の再現度に力をいれています。

例えば、セメダイン製品のカプセルトイでは、ちょっと見ただけではわからないところまで作り込まれています。

セメダインの注意書きのようでありながら、再現商品である説明書き。

よく見ると、本物のセメダインCのチューブの裏にある注意書きの所に、セメダイン株式会社の製品を再現した表示であり、本品に関する表示ではない点が記載されています。かなり小さな文字なので、教えてもらわないと見落とすレベル。

製造現場とのやりとりとか、本当に大変だったそうです。

開発を担当した中條さんによれば、ここの表記部分は、通常パッド印刷でやるところ、チューブの形状を再現すると均一な曲面とならないので、上手く塗装ができませんでした。そのため、より手間のかかる、水を使って貼るシール(デカール)を手作業で貼ってつくっています。

カプセルトイは1個が300円や500円と安価で、利益も少ない。円安で製造費も上がるなか、クオリティを維持するのは容易なことではありません。それでもスタジオソータでは、目に見えないところまで製品のクオリティにこだわり続けています。

そのため、カプセルトイだけにとどまらず、同じモデルでよりハイクオリティなものを、ボックストイとして自社オンラインショップでも販売しています。(https://so-taofficialstore.com

ICOMA TATAMEL BIKEのカプセルトイ。スタートアップ企業とのコラボもあります。

スタジオソータのカプセルトイと他社との違いを聞いた時、安藤さんはカプセルトイをメディアとして使うことを意識しているといいます。

「スタジオソータでは、流行りのものよりこれから流行りそうなものを製品化することや、新進気鋭の作家の方とのコラボを積極的にやっています。他の業態、媒体とカプセルトイとの異なる点は、北海道から沖縄まで全国一斉にアナログで商品が並ぶ点です。そこをしっかり活かして、企業のプロモーションや、作家さんの名前を知ってもらうことを意識してやっています。
 カプセルトイをメディアにして、そこからボックストイに持っていく。その次に、さらにクオリティの高い高価格帯のものも発売ができるようにしていきたい。スタジオソータのファンを作って、コンテンツに頼るだけでなく、スタジオソータの商品だからリピートして買いたいと言ってもらえる商品を作ります。多くの商品が出続けるカプセルトイ市場で、そこが他社との差別化になると考えています。」

今後も面白いカプセルトイが色々出てきそうです。次はどんなカプセルトイが流行るのか?今から気になります。


ライター:馬場吉成
工業製造業系ライター。機械設計や特許関係の仕事を長らくやっていましたが、なぜか今は工業や製造業関係の記事を専門とするライターに。企業紹介、製品紹介、技術解説など、製造業企業向けのコンテンツを各種書いています。料理したり、走ったりして書いた記事も多数あり、別人と思われることも。学生時代はプロボクサーもやっていました。100kmぐらいなら自分の足で走ります。http://by-w.info/

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