ものづくり 2024年08月10日

自宅に自動改札機!? ピピッとタッチする「ICカード残額チェッカー」を作る

自動改札にあこがれる少年時代だった。

私が生まれ育った故郷・徳島には、自動改札がなかった。非接触ICカード方式が登場したとき(2001年)も、「こちとらまだ磁気券の自動改札すらないよ!」と、四国の地から指をくわえて見ていた。

東京に旅行したとき、羽田空港のモノレールの駅で初めてSuicaを買った。「ピピッ!」とタッチで改札を通ったときの感動をよく覚えている。

あれから時は過ぎ……驚くことに、徳島にはまだ自動改札はないが(2024年現在)、いつの間にか個人でも自動改札型のガジェットが作れる時代になっていた。

自動改札機型のガジェットを作ろう

電子工作を趣味にしていると、いつも視界の端で面白い部品を探してしまう。そして、電子パーツショップの棚を漁っては、使うかどうか分からない部品をとりあえず買って積んでいる。買った本を読まずに積んでおく「積ん読」と同じように、電子工作愛好家はパーツを積む「積みパーツ」を日々行っているのだ。

今回使用するのも、随分前に買っておいたパーツ「FeliCaリーダー/ライター」である(現在は販売終了している、買っておいてよかった)。

型番は、SONY RC-S620/S。「総務省指定」の文字が格好いい
FeliCaとは、Suicaなどの非接触ICカードで使われている通信方式である。このリーダーがあると、ICカードと通信して情報の読み書きができる。

ということは、自動改札みたいに「ICカードをピピッとタッチできる装置」も作れるはず。あの頃あこがれた自動改札が自分で作れるのだ。Suica登場から23年、いつの間にか未来は手の中にあった。

どんな機能にしようか考えてみる。さすがに駅の改札と同じことはできないものの、「ICカードから残額を読み取って表示する」というのなら簡単に作れそうだ。作ってみよう。
そうして完成した「自動改札型ICカード残額チェッカー」
思い描いていたものの10倍くらいの大きさになってしまったが
手のひらに乗るくらいのサイズで、かわいい自動改札が作りたいなあ、とぼんやり考えていた。でもFeliCaリーダーのサイズが意外と大きくて、そこから逆算すると、そんな小型の自動改札は作れないのであった。

それなりに存在感のあるサイズになってしまったので、リアルさは追求せずにデフォルメして丸っこい形状に仕上げてみた。なので、実在する自動改札ではなく、いろんな会社の自動改札が混ざったオリジナルモデルとなっている。

実際に使ってみよう。

家でも「ピピッ!」が可能! 自動改札を使ってみる

手元にあった「Suica」で試してみよう
カードを近づけると、「ピピッ!」という音と共に、残額が画面に表示された
こんな感じで使用する。残額は……8円!
青い部分に先ほどのFeliCaリーダーが入っていて、ICカードを近づけると反応する。そして通信によりカード残額を読み取って、それを液晶に表示するのだ。

それなりに筐体サイズが大きくなった影響で、本当に自動改札にタッチしている感覚が得られた。ごっこ遊び用のおもちゃとして使っても、結構面白いかも。

静止画で伝えられないのが残念だが、タッチしたときに「ピピッ!」と鳴るのも楽しくて、何度もICカードをタッチしたくなる魅力がある。
別のICカード、JR北海道の「Kitaca」でも試してみよう
こっちは460円だった。何年も使わずに眠らせていたカードだけど、意外と残額があることが判明
残額表示は、西日本エリアでよく見るデザインを真似してみた。液晶が小さい影響で低解像度だけど、「あ、これ駅で見たことあるやつ!」と思わず叫んでしまいそうになる。街でよく見かけるものが家にあると、それだけで意味もなく楽しい。
この自動改札、天面の黒いパーツは取り外し可能だ
磁石でくっついているだけなので、力を加えると外すことができる
駅の自動改札でも、たまに駅員さんが蓋を開けてメンテナンスしているのを目にする。チラリと覗く中身は複雑で、素人が見てもさっぱり分からないけれど、この自作の自動改札は単純な構造なので安心して欲しい。

中を紹介していきたい。

開けてみよう! 自動改札

中を開けると、天面のパーツにFeliCaリーダー(左側)と液晶(右側)を固定してある
中身を取り外すと、このようなシンプルな構成で、
大きく4つのパーツからなる
全体の動作を制御しているのは、「Raspberry Pi Pico(ラズパイPico)」というマイコン(小型のコンピュータ)である。これにプログラムを書き込んで、各パーツを下記のように動かしている。

・ICカードリーダーにICカードが近づけられるのを待つ
・ICカードの存在を検知すると、残額を読み取る制御信号をカードリーダーから送信
・ICカードから残額情報を取得する
・スピーカーから「ピピッ!」という音を鳴らす
・液晶の表示を更新し、ICカードから読み取った残額を表示する

ICカードが近づけられるたびにこの動作を繰り返しているので、何度も続けてカード残額を読み込むことが可能だ。
ラズパイPicoは7~800円くらいで入手でき、簡単に使えるため、今回みたいな工作に向いている
筐体は3Dプリンタで出力した。デカいので、なかなかの存在感
ICカードをタッチする部分は、カットした透明アクリルにシールを貼って作成
裏のFeliCaリーダーが薄らと透けて見えることで、サイバーな雰囲気になった
そうして、この少しぷっくりとした自動改札が出来上がったのであった

いろんなカードの残額を確認してみよう

残額を見るだけなら別にスマホでもできるのだけど、この自動改札型ICカード残額チェッカーを使う方が圧倒的に楽しい。この機会に、家に眠っていたいろんなICカードをタッチしてみた。

スマホの「モバイルSuica」も読み取り可能だった。これは普段使っているので残額が多い
JR西日本の「ICOCA」は、残額1円。どうやってこんなに器用に残したんだ
この「モノレールSuica」は、冒頭で述べた初めてSuicaを使ったときに買ったカード。50円残っていた
今はもう「モバイルSuica」しか使ってないのだけど、過去に使っていてそのまま眠っていたICカードたち。この他にもEdy付きのカードもあって、どれも微妙に残額が残っている……。
使い切るのもなかなか面倒だし、たぶんこのまま微妙に残り続けていくのだろう。見ない方が良かったかもしれない。
部屋の入口に自動改札
オフィスビルだと入口に自動改札があったりもするが、一般家庭にはなかなか似つかわしくない。そもそも何の目的で設置するのかもよく分からないなと思いつつ、部屋を出入りするときにタッチしてみた。
部屋を出るときに「ピピッ!」とICカードをかざす
駅みたいな家の誕生だ
玄関に置いてみたらどうだろう。これだと外出時間、帰宅時間を記録できるので、少し実用的かもしれない。
玄関に自動改札がある風景
帰ってきたら、靴を脱ぐ前に「ピピッ!」とICカードをかざす
手元だけ見ると駅みたいだが、まわりの風景は完全に家だ
家の玄関に自動改札を置くというシチュエーションは、もう一捻りすれば便利に使えるかもしれない。たとえば自動改札を通ると家の鍵が開くとか、泥棒が来たら改札が閉まって引っかかるとか……。

もはやあまりに日常的になりすぎて、何の感動も得られなくなっている自動改札。でもカードを近づけて「ピピッ!」とするのは、実は楽しいことなのだ。思う存分「ピピッ!」とできるこの自動改札型ガジェットを作ってみて、そんなプリミティブな楽しみに気付くことができた。いいものができた。

斎藤 公輔:1983年徳島県生まれ。大阪在住。散歩が趣味の組込エンジニア。エアコンの配管や室外機のある風景など、普段着の街を見るのが好き。「デイリーポータルZ」などで記事を執筆中。

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