ものづくり 2023年11月13日

対話と試作、ダメ出しと試作の繰り返しで生活者に寄り添うプロダクトを作る

おしゃれなのに実用的、無駄のない機能、コロンブスの卵的な発想。今回ご紹介をするのはそんなプロダクトを次々と発表をして注目を浴びているクリエイティブユニットTENTさん。
魅力的なアイデアの発想の源は? そして、プロダクトはいかにして生まれているのか伺って来た。

【プロフィール】
TENT 
治田将之氏・青木亮作氏によるクリエイティブユニット。TENTは2011年に活動を開始。企業から依頼された案件では、象印「STAN.」シリーズ、携帯端末の「NuAns」シリーズ、突っ張り棒の「DRAW A LINE」シリーズなどで高い評価を受ける一方、TENTが独自に「こんなものが欲しい」と思ったものを次々とプロダクト化している。

楽しくて、便利で、お気に入りになるモノを作る

「見て楽しく、触って嬉しく、使うほどに愛着が湧くものづくり」。これがTENTのコンセプトだ。
インテリア、キッチンツール、家電、文具などなど、私たちが生活する上で、欠かせないモノたち。一見、なんでもないようなアイテムがTENTの手にかかるとデザインがおしゃれだけではなく、使いやすく機能的なプロダクトとして生まれかわる。

たとえば「キーキーパー」。カギっ子だった青木さんが、自分にとってネガティブだったカギのイメージを変えたくて作ったという。暗がりでもカギを見つけやすく、ほかのモノを傷めず、明るいカラーバリエーション。裏表で触感を変えたことで、間違わずにカギを鍵穴に入れられる。子どもが持っていてもカギとはわからず、むしろお守り的なモノにも見える。

たとえば「フライパンジュウ」。ちょっぴり行儀が悪いとは思いつつ、鍋からそのまま料理が食べられたら洗い物が少なくていいとは、誰しも一度は思ったりやったりしたことがあるはず。「フライパンジュウ」は、取っ手をとればまるでお皿のようだから、お行儀の悪さは気にならない。しかも取っ手は、すこぶる取り外しがしやすい。

フライパンジュウ

たとえば「BOOK on BOOK」。ご飯を食べながら読書をするときやレシピを見ながら料理をしたいときに、本がパタンと閉じたり、ページがパラパラと勝手にめくれない。

BOOK on BOOK

どれも、「あ!」と声がでてしまうほど画期的なアイデアであふれ、機能を追求した結果、おしゃれでシャープ、しかも主張しすぎないさりげないデザインに仕上がっている。

企業からの依頼案件では、象印STAN.シリーズなどで名を馳せた。スタイリッシュな外見からのイメージとは異なり、操作ボタンは大きな日本語にするなど、3世代家族でも安心して使えるよう工夫している。

文化祭的なノリで始めたTENT

こんなプロダクトを続々と発表して世間の耳目を集めているTENTは、治田将之さんと青木亮作さんのユニットである。

2人の出会いは、18年前にさかのぼる。治田さんは大学卒業後、プロダクトデザインの事務所を経てメーカーに転職するも、1年ほどでフリーとなっていた。そのころ仕事の関係でデザイナーを探していた青木さんは、知人の紹介で治田さんに出会う。その後、たまに会って飲んだりする関係が続いたが、青木さんもフリーになると週に一度は治田さんの事務所に遊びに行くようになった。フリーデザイナーとしてお互いの仕事を手伝うようになり、その流れで展示会に出展することに。2011年のことである。

「展示会のブース代を2人で出せば半額ですむからという理由でユニットを組んだんです。まさか、こんなに長く一緒にやるとは思わなかったです」「そうだね」と2人は顔を見合わせて笑う。

青木亮作さん(左)と治田将之さん

展示会に出すからには、ユニット名も名刺も作ろうと決めた「TENT」という名称。文化祭的なノリで始めたけれども、出品したものが評判を呼び、仕事につながり、会社化することに。
活動はじわじわと広がり、今年で13年目に入る。

TENTとして、初めて製品化したのが青木さんアイデアの「BOOK on BOOK」と治田さんアイデアの「Display Cleaner」である。

テレビやパソコン、iPad などの ディスプレイモニターを 綺麗にする。まるで黒板消しのようなDisplay Cleaner

いずれも展示会で評判がよく、制作販売まで話が進むはずだったがメーカー都合で途中で頓挫。それなら自分たちで作って販売までやってみようと、作ってくれる工場探しから始まり、見積もりをとり、販売までこぎつけた。「BOOK on BOOK」は、アイデアが出てから商品化するまで7年もかかった労作だった。

現在は、企業からの依頼案件と自分たちが欲しいオリジナル製品の製造販売を、バランスをとりつつ進めている。

LOOPティーストレイナー。フタをスライドしてスプーンのように茶葉を掬い取って淹れられる。分解できるので洗いやすい。

パソコンの横においてもスッキリなじむ。リモートワーク時代の新しい湯飲み CHAPTER

耐久性が高く、水切れのいいスポンジ TEILE SOFT DURABLE SPONGE

収納できたり座れたり、とても便利なPOCHI

立て看板みたいな収納アイテム。移動も楽々なTOOL STAND DESK

役割分担は藤子不二雄方式で。

2人の様子を見ていると、実に仲良し。ツーと言えばカー。阿吽の呼吸で物事が進んでいく。治田さんは青木さんよりも9歳年上だが、上下はなくフラットな関係だ。

「僕がクライアントだったから、年齢に関係なくお互いに敬語です」「そうですね」

結成当時から2人は片方がいなくてもお互いのことができる状態を理想にしている。名付けて「藤子不二雄方式」。往年の人気漫画家である藤子不二雄は、個々に独立するまでは2人で合作をしていたことはよく知られている。
TENTの2人も得意のジャンルの違いはあるので仕事の比重が変わることはあるが、基本的には2人とも同じことができ、最初から最後まで2人で作り上げることを理想としている。

TENTは現在、青木さんと治田さんのほかにスタッフも3人おり、オフィスの雰囲気も和気あいあいとしたもの。
チームの理想は、最近見た映画の「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME3」のチームだとか。「チームの中の誰がやってもいいものができる土壌がある。高学歴やすごい職歴といった超人の集まりではなくて、たまたま流れ着いた人が、その人の個性のままここにいたら急に伸びたとなるといいなと思っています」「うん。なりつつありますね」とニコリ。

チームTENT

アイデアの入り口は多め。試作!ダメ出し!試作!の繰り返し

多種多様なアイデアは、どこからどうやって生まれてくるのだろうか。

TENTのプロダクトは機能的なものばかりだが、アイデアの入り口は「機能にこだわる」だけではない。たとえば「このアイテム、もう少しかわいい方がいい」という入口が意外と機能的になることもあれば「腰が痛いから何とかしたい」が発想の入り口になることもある。入口はたくさんあればあるほどいいし、なんでもいい。けれども最終的には体験した人に「こんなにいいものだよ」と自慢してもらわなければ世に出す意味がないと2人は考えている。

治田さん 「まずは2人で対話を重ねます」

そして、アイデアの素はどんどん出していく。

しかし、「こうなればいい」「こういう機能が欲しい」という欲求はともすれば、自分本位のものになってしまわないだろうか。

「そうならないように、まずはたくさん対話を重ねます。最初の考えというのは、いろいろ要素が混ざっているんです。対話をする中でこれはいいと思うけれど、この部分は違うかななどと、どんどん掘り下げていきます」
「自分の奥底にある根っこのところに人間という生き物に共通の気持ちがあると思うのです。たとえば温泉は気持ちがいいとか、砂糖は甘いと感じるとか。そういう動物としての人間に通じる根っこを自分自身を通じて探っていく感じです」

青木さん 「自分を通して、動物としての人間に共通の感覚を探り当てます」

TENTのプロダクトのひとつである「METHOD」はアイデア出しのための道具が詰まった箱だ。中にはA6の紙が200枚とサインペン3本が入っている。1カード1アイテムでチームでどんどん書いていく。
「会話って、一軸でずっとつながっていってしまうので編集ができないけれど、このバラバラのカードなら編集したり合体したり混ぜたりができるので、僕たちにとってめちゃくちゃ大事な道具です」

アイデア出しには欠かせない。ネーミングを考えるときにも大活躍の「METHOD」

そして、試作。アイデア自体だけを見ていい悪いは判断はしない。とにかく試作品を作ってどんどん使ってみる。

「小学校のころから、図工の時間がめちゃくちゃ好きだったんですよ。今は3Dプリンタで立体物をつくるのも簡単になりましたが、やっぱり試作品を作るのは接着剤とハサミを使って、切っては貼ってを繰り返して作ることも多いです。大人になってもずっと同じことをやっているんだなあと思います」と治田さん。

試作を作る。使ってみる。「なんか違う」。スタッフにも使ってもらう。ダメ出しをしてもらってまた試作。何回も、何十回も。その繰り返しだ。

なぜそれほど試作が必要なのだろうか。
「アイデアって自分の脳みそにあるものですが、物体として作って取り出してそれを外から眺める。使い手として冷静な判断を下し、その繰り返しでモノがよくなっていくんです」と青木さん。だから作っては使う。使っては作るを繰り返す。

「試作品はとにかくたくさん作ります」

作り手から使い手へ。オンオフで視線を変えてさらにダメ出し

さらに、家に持って帰る。

「会社で作っていると『めっちゃいい』と信じ込んでしまうんです。頑張って作ったという思いがあるからどうしても良く見てみたくなっちゃうんですね。ところがいったん家に持って帰って、一晩寝て、朝使ってみると『あれ?』となる。そういうことは頻繁にあります」

家族にも見てもらい、使ってもらう。今は家庭で使うプロダクトの開発が多いので、家族の批評は貴重だ。冷静な意見が、試作品を作って熱くなっている心を一気に冷やしてくれる。そしてまた試作。

売れっ子のお二人のこと、さぞかし夜遅くまでパソコンに向かい、家庭を顧みない生活かと思いきや、どうやら青木さんも治田さんもそうではないらしい。意外…と言っては失礼だが、二人ともごく普通の生活者で、夜7時には家に帰り、洗濯物をたたみ、晩御飯は(たまには作る!)家族と一緒に食べ、洗い物をし、子どもと語らい、しっかりと睡眠をとって朝またオフィスに出てくるという生活をしているそうだ。

「お父さんがいない家庭が嫌だったんです。朝も子どもと一緒に起きて、夜も一緒に食べるという生活がどうしてもしたくて。でもそれだけではなくて、ずっと作業をしているより、ちゃんと生活をしていると逆にアイデアは出るんですよ。ですからどんなに忙しくても6時くらいにはそわそわして帰るようにしています」と治田さん。

「健康に暮らして、その暮らしを支えるものを創りたいですね」

オンとオフのスイッチは作り手と使い手の切り替えでもある。その切り替えを何度も行ってアイデアの精度を高めていく。

TENTはプロダクトのネーミングも秀逸だ。「吐くほど考えます」というお二人だが、秀逸なネーミングは自分たちの力だけとは思っていない。

「フライパンジュウ」は、まるで聞いただけでジュウと肉が焼ける香りまで漂ってきそうな優れたネーミングだが、当初は没案だったという。ほかのネームとともに「これは没案ですが」と見せたところ「これしかないじゃないですか」とクライアントに言われて決定した。「DRAW A LINE」も3番目くらいの候補の名前だったが、今ではすっかりなじんでいる。

「拾ってもらったり、育ててくれる人がいて、一つずつ名前が決まり、プロダクトができていくのだと思っています」

だれもおいてきぼりにしないプロダクト

TENTは別々の場所にあったオフィスと店舗を一拠点にまとめるために引越しを予定している。新オフィスでの店舗オープンも間近だ。
「店舗があるとうれしいのは、子どもや地元のお年寄りが気軽に来てくれて、製品を見て驚いたり喜んでくれたりすること」と言う青木さん。

取材を通して、TENTの作るプロダクトがどこか温かくて優しいのは、赤ちゃん、子ども、仲間、おじいちゃん、おばあちゃん、誰もおいてきぼりにしていないからだと気が付いた。

(取材・文/宗像陽子 撮影/金田邦男)


ライター:宗像陽子
職人や各種専門家などの取材を多く手掛けている。
オールアバウト歌舞伎ガイド https://allabout.co.jp/gm/gp/1504/

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