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ものづくり
2025年01月13日
雪の結晶を再現!「世の中の役には立たないが面白いモノづくり」にこだわるYOY のプロダクトとは。

【プロフィール】
YOY/2011年に小野直紀と山本侑樹が設立したデザインスタジオ。「空間とモノの間」をテーマに家具や照明、インテリアの分野でデザイン活動を行う。
小野直紀/デザイナー。1981年生まれ。2008年京都工芸繊維大学建築設計専攻卒業。
山本侑樹/デザイナー。1985年生まれ。2008年金沢美術工芸大学製品デザイン科卒業。
山本侑樹/デザイナー。1985年生まれ。2008年金沢美術工芸大学製品デザイン科卒業。
雪の結晶を作るということ
YOYがミラノデザインウィーク に出展するのは、2012年以来10回目となる。
二人が今回の出展にあたり、頭の片隅にあったテーマは「すごく小さいモノを作れないかな」ということだった。すごく小さいモノというのはプロダクトとして成立しにくいから世の中にあまり存在しない。誰も作ろうとしないそんなモノができれば、世の中に新しい表現として提案ができて面白い。
小さいモノってなんだろう、虫かな?と考えていく過程で出てきたのが「雪の結晶」であり、そこから「SNOW」が生まれた。

当初「雪の結晶」と思いついたのは小野さん。2023年の秋のことだ。相方、山本さんは「いいんじゃない?できるかもね」と同意する。そこからは行動が早い。さっそく小野さんは透明のプラスチックから雪らしいモノが作れるのか検証にはいり、山本さんはすぐに何社かに連絡をして費用感や時間スケジュールについて同時に問い合わせを始めていた。
雪の結晶の形状は、結晶ができるときの温度や湿度などの条件によって121種類ほどに分類される(※雪の結晶グローバル分類)。その中から標準的なものを12種類選んで製作準備をスタート。また北海道大学の古川義純先生に雪の結晶の監修を依頼する。古川氏は、国際宇宙ステーション「きぼう」で氷の成長の宇宙実験を行ったことでも知られており、現在加賀の「中谷宇吉郎 雪の科学館」の館長も務めている。
雪の結晶のサイズは、直径3.2~6.4mm、厚さは0.2mmで作ることにした。それより小さすぎると量が膨大になってしまう。大きすぎると雪らしく見えない。

セメダインの接着剤が最適だった
最後の難関は接着剤だった。ほぼ雪の結晶と同じものができたとしても、本物の雪との最大の違いは「溶けない」ので「接着剤で接着する必要がある」からだった。
最適の接着剤が見つからなければこの企画は没になってしまう。本気の接着剤探しが始まった。
「SNOW」製作に使われる接着剤は「透明で、黄変(時間がたつと黄色く変色すること)せず、耐候性が強く、粘性の強くない水溶性のもの」でなければならない。それを探すために様々な接着剤を量販店で購入し、ひとつひとつ試していったところ一番適していたのがセメダインの接着剤だった。
特に透明度が続くことはありがたかった。最初こそ透明でも時間がたつと黄変してしまう接着剤は多いため、透明をキープできる接着剤は貴重だったのだ。
ふたりにとってセメダインの接着剤は、懐かしいアイテムだ。山本さんは、小学生のころは図工が一番好きな科目だったから、よくセメダインの接着剤で何かと何かを貼り付けて遊んでいたような記憶がある。小野さんにとってセメダインで思い出されるのは学生時代だ。建物に興味があった小野さんは、大学で建築科に進んだ。建築家の学生は年に数回の課題と、卒業設計で模型を提出しなければならない。その模型を作る細かい作業のときには常に傍らにセメダインの接着剤があった。
セメダインの接着剤を使うことに決めたものの、市販している接着剤では量が全く足りない。そのため業務用の量の商品はないか、購入希望を前提にセメダイン本社に問い合わせた。いくら愛着があったとはいえ、すぐに良い返事が得られるとは期待していなかったが、案の定業務用の缶などは販売していないとのことだった。ところが何度かやり取りを重ねているうちに、セメダインの広報担当者がデザインに興味があり、「ミラノデザインウィーク」も知っていたことから話が進み、大量に提供をしてくれることとなる。「SNOW」は完成に向け大きく前進した。
提供された接着剤はそのままだとまだ粘性が強いためさらに水で2倍に薄め、スプレーボトルに入れる。土台にスプレーで接着剤を吹き付け、雪の結晶をパラパラと振りかける。またスプレーを吹く。パラパラと雪の結晶を振りかけ、乾燥させる。これを二人は「エビフライ方式」と呼んだ。「SNOW」の製作ブースを作り、そこでエビフライにパン粉をつけるように結晶を塗布していった。乾燥には24時間かけ、何層か重ねる。もう一度最初からその工程を経て、やっと完成である。最終的に50万個の雪の結晶を吹き付けた。



空間デザインとプロダクトデザインの絶妙な関係
さて、コンビの息もピッタリなお二人だが、どのような経緯で知り合い、YOYを結成したのだろうか。

小野さんと山本さんは、出身も大学も異なるが共通の友人を介して知り合った。二人は同じ「デザイン」に携わる者同士ではあったけれど、小野さんは空間デザインが専門、山本さんはプロダクトデザインを専門としていた。空間とプロダクト、同じデザインでも似て非なる存在だ。たとえばまっすぐモノそのものを見る山本さんに対して小野さんはモノを包み込む空間に視線を移す。共通する視点と異なる視点があり、そこがお互いに面白くて意気投合したのが2010年のことだ。
二人は、毎年ミラノで行われるインテリアやデザインの祭典「ミラノデザインウィーク」を視察に行くことにした。「ミラノデザインウィーク」は、プロのインテリアデザイナーや家具メーカーなどが出展する場である一方、若手のデザイナー、アーティストや学生など幅広い人たちが参加してデザインを発表できる場でもある。どうせなら来年僕ら二人で出展してみようと話ははずむ。「ミラノデザインウィーク」視察旅行の行きの飛行機で二人はデザインスタジオを立ち上げた。それが「YOY(ヨイ)」である。
「YOY」という名前は、山本侑樹のイニシャルY・Yと小野直紀のイニシャルO・Nからとり、Nは省いて音は「ヨイ」にした。
すでに二人は、違う会社に就職し2年目のころ。学生のときにやっていたような自由なモノづくりから少し制限がかかるようになり、そこにフラストレーションを感じるようにもなっていた。クライアントにも規制されず、世の中に求められるものかどうかも気にせず、自分たちが「良い」と思うものを作りたいという思いでYOY(ヨイ)はスタートした。
実際にいっしょに仕事をしてみると、思っていた以上に二人の相性はよかった。アイデアを形にするまでの段取り、全体の見せ方、おおまかな設計などは主に小野さんの担当。製作にはいると主に手を動かすのは山本さん。小野さんは少し引いてみて、出来上がるまでの苦労を一切考慮せずに気になるところを客観視してダメ出しをしていく。山本さんはそれを引き取って再び没頭して作るという役割分担で進めていく。
ネガティブな思考ばかりでは前に進まない。一方で楽観的過ぎるのも危険だ。冷静で厳しい小野さんと、意見をポジティブに受け入れすぐに軌道を修正する山本さんとは、性格はまるで違うのにまるで「凸と凹がくっつくように」ウマが合った。


面白いが、生活の役には立たない作品郡
こうして小野さんと山本さんは「空間とモノの間」をテーマに作品を作り始めた。
2012年の「ミラノサローネ」に出展した初めての作品は「PEEL」という。

ほかにも、水たまりのような花器。




このようにどれも「え?どういうこと?」と種明かしが楽しくなり、頭の中で常識がくるりと反転し、適度にかき回される感じが心地よく、とても楽しい。
「面白い。ただし、大して生活の役に立つわけではない」。これが、YOYの作品の大きな特徴だ。
現実と虚構の間をあいまいにする
その創造のアイデアはどこから生まれるのだろうか。
「ファッションや絵画などの表現物を見て思いつくというよりは、日常の風景からヒントを得ることが多いです」と小野さん。老若男女の誰もが面白がれるものをつくりたい。だからこそ、その面白さは日常に潜んでいる。
さらに、どの作品も現実と虚構の境界線をあいまいにしているという。
壁の向こうは光の国なのか?
そこに水たまりがあったのか?
光るのは影なのか?
風は本当に吹いているのか?
今回の「SNOW」もそうでしょう?と小野さんはうれしそうに問いかける。
「雪を真似しましたというよりはどちらかというと溶けない雪を作れないかなと思ったんです。結晶が残った状態の現実の雪の降り積もった質感って、温度や湿度など特定の条件じゃないと見ることができないはずなんです。そういった状況を再現するということはつまりは『溶けない雪』を作るってこと。現実のようでいて虚構。そういう虚構性みたいなことを常に考えています」
溶けない雪。机からはみ出ていても本が落ちないブックエンド。影が光なのか光が影なのか。どこまでが現実でどこからが虚構なのか。そのあいまいさに私たちは翻弄され魅了される。


便利なモノ、役に立つモノの外側にあるモノを作り続けたい
YOYは、一点物にこだわる作家を目指しているわけではない。最終的には量産されて多くの人に届くことを見越して、作り方や素材について複雑になりすぎないように様々な検証を重ねている。「普通量産して届くものって便利なモノだったり役に立つモノだと思うんですけれど、僕らの作るものはそういうものの外側にあるんです」と小野さん。
なぜ「便利なモノ」や「役立つモノ」の外側にこだわるのだろうか。
「役に立つものは、人にも喜ばれるから必ず誰かがやるじゃないですか。でも役にも立たないけれど面白いものは世の中にはたくさんありますよね。僕らはそういうものを作っていたい。そのスタンスは変えずにやりたいねっていう話をずっとしています」と小野さんは言い、山本さんが大きくうなずく。
人は「なんのために?」という意味付けをしたがる。けれども「なんのために?」という目的や役割とは無関係に、自然は雪の結晶を作り続け、その美しさに人は魅了されてきた。
社会や経済と手を携えることも必要だけれど、そこにあまりとらわれすぎなくてもいいんじゃない?YOYのプロダクトは、そう私たちに楽しく語り掛けてくれる。

最大の褒め言葉は「クレイジー!」
「役に立ちました」「便利です」「効率化できます」という褒め言葉を期待しない二人にとって、うれしい褒め言葉はなんだろうか?
「一番うれしい言葉は『クレイジー!』ですね」と小野さん。「SNOW」は下層に配した簡易形状のものも含めればなんと約200万個もの雪の結晶を製作したという。
「普通ここまでやらないよね」と山本さんもニコニコ。
「Crazy!」「Insane!(常軌を逸している、正気とは思えない)」。「SNOW」を見て多くの人からそう声をかけられたという二人はクスクスと笑って楽しそうだ。
別々の場所で作業をすることが多いが、 常にオンラインや電話などでやり取りをしているというお二人。今日も対話を重ねつつ、新たなプロダクトに挑戦をしている。
「おいおいそこまでやるの?」
「クレイジーだね」
新しい作品が生まれれば、またそんな声が世界中から聞こえてくるに違いない。
(取材・文/宗像陽子 撮影/金田邦男)
ライター:宗像陽子
職人や各種専門家などの取材を多く手掛けている。
オールアバウト歌舞伎ガイド https://allabout.co.jp/gm/gp/1504/
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