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ものづくり
2022年11月11日
しとしと降る雨をずっと眺めていたいので、雨を降らせる卓上装置を作った。
雨。予定がある日に降られて憎らしい気持ちになることもあれば、一方では恵みの雨として重宝されることもある。個人的には明かりを消した静かな部屋で、雨音を聞きながらジッとしている瞬間が好きだ。ザーザー降る雨もいいし、小雨がポツポツと水たまりに跳ねる音もいい。
あのチル感を、いつでも手軽に楽しめないだろうか。
卓上で雪が舞う雰囲気を味わえる装置としては「スノードーム」がある。あれの雨版、いわば「レインドーム」である。作ってみよう。
卓上で雨を眺められる装置
雨を眺めていると、落ち着くと同時にどこかアンニュイな気分にもなる。私の年代(アラフォー)だと、アニメ「ドラゴンボール」のエンディング「ロマンティックあげるよ」の映像が頭に浮かぶかもしれない。窓を濡らし、葉っぱに落ちてしたたる雨粒。それを物憂げな気分で眺めるのだ。そういう装置を作りたい。
そんなことをツラツラと考えながら、特に設計図もなく作り始めた。そうして、できあがったのがこちらの装置である。おそらくイメージしづらいと思うので、いきなり最初に完成形を見てもらいたい!
雨を眺める装置。スノードームに対抗して「レインドーム」と名付けたいところだが、ドームではないので、ここでは「レインコンテナ」と呼ぶことにしよう。
この装置をどうやって作ったか、どんな風に使うのがいいか、順番に紹介していきたい。
雨を降らせる構造を作る
人工的に雨を降らせるにはどうしたらいいだろう。すぐに思い付くのは、ポンプで水を汲み上げて、上から落下させるという構造だ。水が流れるホースに小さい穴をいくつも空ければ、そこから水が垂れて雨のように見えるかもしれない。
ポンプ自体はすぐに動かせるものの、簡単に水を吸い出せるがゆえに、電化製品の近くで使うのが思いのほか怖い。上の写真のように容器を使って実験していたのだけど、少し目を離すと水が勢いよく噴き出して机が水浸しに……。しかもすぐ近くでマイコンを使わざるを得ないため、あふれた水がかかりでもしたら大ごとである。つねに漏水の緊張感と戦いながらの実験となった。
ズボンまでびしょ濡れになりながらも、ひとまず揚水は問題ないことが確認できた。大丈夫だ、問題ない。次は雨を降らせる構造部分を作っていきたい。
ホースに水を流せば、穴から水がしたたり落ち、それが「雨」となってキャニスター内に降り注ぐだろう。そうなって欲しいと強く願いながら、(また水浸しになるのがイヤなので)実験もそこそこに次のパーツ製作に取りかかる。水を扱うのって本当に大変だな……。
水を貯める部分も3Dプリンタで
ポンプで水を汲み出して循環させる。そのためには、水を蓄える貯水池のようなものが必要だ。キャニスターのサイズにピッタリ合うものにしたかったので、その部分も3Dプリンタで自作することにした。
3Dプリントだとどうしても内部に細かな隙間ができるので、水を入れるとジワジワと漏れ出してきてしまう。今回はその弱点を補うため、できるだけ隙間がないように(充填率を高く)プリントし、その上で防水材を塗って対策する。
雨と一口に言っても、降りはじめの頃の「ポツポツポツ……」って雰囲気と、大雨になったときの「ザーーザーー」って雰囲気は全くの別物だ。なので、そのどちらも自由に味わえるようにと、ボリュームを付けてみた。これの効果はいかほどか? それはすべてが完成したときに分かる。
ちなみに使っているレトロ風味のつまみは、以前に中国の通販で買ったものだ。そのとき、「いろんな種類を2つずつ買っとくかー」と思って注文したのだが、実は1セット10個入りだったことが注文した後になって判明。
全然使い切れないので、今回1個でも有効活用できて良かった……。
ジオラマの制作
最後に、雨を降らせる容器の内部に入れるジオラマを作っていこう。
実現したかったのは、先にも書いたとおり「葉っぱに落ちてしたたる雨粒」や、「雨で土が湿っていく様子」だったり、「アスファルトにできる水たまりに落ちる雨」などだ。ひとつのジオラマで表現するのは難しいので、二種類作ることにした。
右にある大きめの葉っぱに水がしたたる様子が想像できて、試す前からすでに上手くいく予感がしている。岩陰には虫が隠れていそうな雰囲気もあるし、雨がとっても似合いそうだ。
アスファルトの方は、これを使って作ることに。
ジオラマ界の重鎮・情景師アラーキーさんが、アスファルトを表現するならこれを使え、と言っていたのをそのまま真似してみる。たしかに、何もやってない時点ですでにアスファルトっぽいぞ。
そんなアスファルトに塗料で白線を描いて、ジオラマ用の雑草を少し盛り付けたら完成。こんな簡単でいいの? ってくらい一瞬で道路ができあがった。おそるべし、80番の布ヤスリ(そして情景師アラーキーさんのノウハウよ)。
これでようやく全てのパーツを作り終えた。さっそくこれらを組み合わせて雨を降らせてみるとしよう。
装置を組み立てる
そういえば、水を使って風流を味わうものに「水琴窟」がある。水が落ちたときの音を反響させて、その音を聞いて楽しむという古来の装置である。ただし水琴窟が音にフィーチャーしているのに対して、今回つくったレインコンテナは、音に加えて雨がしたたる様子も見ることができる。つまり、視覚と聴覚の両方に作用するのだ。
そう考えると、なんだかすごい装置に思えてきた。いったいどんな風に動くだろう。期待と不安が入り交じるなか、ゆっくりとボリュームを回してみる。さあ、さあ。
卓上装置に降る雨は
ジオラマのスケールが小さいので、相対的に雨粒が大きく見えてしまうのはご愛敬。ポンプの出力が弱めの状態だと、ポツポツと降り続く雨のアンニュイさが表現されていて、じっと見入ってしまう魅力がある。
ただ音は……。最初の動画を見てもらったら分かるとおり、ポンプの動作音(ブーという音)がうるさくて、雨音があんまり聞こえなかった。そこは少し残念。ポンプをどうにか防音するか、静かなポンプを用意するしかなさそうだ。
水はけが悪いので、雨量が増えると地面に水が貯まり気味に。こういう水たまりが道をふさいでたら絶望するよな、という光景が広がっていた(ジャンプして飛び越えようとするけど、水が跳ねてびしょびしょになるやつ)。
でも「雨で土が湿っていく様子」が見られるので、これはこれでよいものだ。跳ねた雨が容器を水滴で濡らしていくのも、窓越しに外を見ているように感じられて、どことなく「ロマンティック」である。
ああ、これは表現したかった「アスファルトにできる水たまりに落ちる雨」そのものである。いい。上のGIFアニメは無限ループしているが、実際の装置も水が循環しているので、(蒸発分とかを除けば)ずーっと眺めていることができる。机の上に頬杖ついて、暗くなった部屋で見ていると、なんとも言えない物憂げな気分になれるのでオススメである。
音が楽しめない、すぐ洪水になるという不満点はあったものの、おおむね期待通りのものができあがって満足だ。おそらくポンプの強さとか、ホースに空けた穴の大きさを最適化すれば、もっと細い水滴を垂らすことも可能だと思う。そのへんは今後の課題としたい。
最後にもう一回動画を貼っておこう。ひと通り記事を読んでもらったうえで見ると、また違った風に見えるかも。しっとりとした雨をご堪能あれ。
斎藤 公輔:1983年徳島県生まれ。大阪在住。散歩が趣味の組込エンジニア。エアコンの配管や室外機のある風景など、普段着の街を見るのが好き。「デイリーポータルZ」などで記事を執筆中。
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