✕ 閉じる
ものづくり
2023年02月22日
展示会のブースってどうやってつくっているの? 制作過程に密着する
展示会というものがある。日本はもちろん世界中で行われているイベントの一つで、大小様々なものが行われている。モーターショーや東京ゲームショウなど挙げればキリがない。関東圏だと東京ビッグサイトや幕張メッセで行われることが多い。
展示会に行くとわかるのだけれど、多くの企業のブースが並び、様々な形や見せ方をしていて凝っている。もちろんこれは誰かが作っているわけだ。では、ブースができるまでにはどのようなことが行われているのか記していきたいと思う。
接着・接合 EXPO
2022年12月7日から12月9日まで幕張メッセで接着・接合EXPOが行われた。簡単に言えば接着剤を作っている会社などがブースを出展して、それぞれの商品を展示していたわけだ。もちろんセメダインも出展していた。
セメダインのブースは黒を基調にしたもので、プレゼンテーションできるステージがあり、工業系か建築系の接着について相談できるコーナーもあった。商品の説明は壁面を活用して、グラフィックによる商品説明を多用したもので、その商品数も多かった。
このブースはセメダインだけでつくったわけではない。セメダイン社内で企画し、展示会の企画・制作を専門とする事業者「株式会社フジヤ」に依頼して制作したものだった。このブースができるまでにはどのような過程があるのだろうか。今回このブース制作に関わった担当者の皆さんに話を聞いた。
株式会社フジヤ
株式会社フジヤについて
株式会社フジヤは創業が1928年という歴史ある会社だ。今回のような展示会のブースや商業・エンターテインメント施設、イベント、文化・公共施設などの企画・制作に携わっている。業界では名の通った会社である。もしあなたが展示会に行ったことがあるとすれば、株式会社フジヤが手掛けたブースを見たことがあるかもしれない。
フジヤはセメダインのブースを約10年にわたり制作している。基本的にメンバーは固定で、現在は上のお写真の3人が担当している。今回の接着・接合EXPOもそうだし、多い時は年間で5件ほどセメダインブースを制作している。まずは3人の役割について聞いた。
まずディレクターがプロジェクトの進行管理を担当します。クライアントの対応や費用・スケジュールなどの社内調整ですね。
営業はさらに細かい進行、制作管理、コスト管理・発注などを担当します。あとは施工中の現場管理や会期中の対応ですね。
デザイナーは展示会ブースの企画やデザイン、設計管理、クオリティ管理を行います。
いつからブースの制作は始まるのだろうか。
セメダインブースの場合、3カ月前くらいにスタートのお声がけをいただきます。ですので、企画から開催まで約3カ月ほどですね
コンペが入るとさらに1カ月から1カ月半プラスされますね。先方の検討期間などを加えると、さらに日数がかかります
もっともこれはブースの規模で変わる。一般的には3カ月というだけで、たとえばモーターショーだと2年かかることもあるそうだ。2年、と驚いたけれど、アイデアが膨らんで膨らんで仕方がないと大室さんは言っていた。
お客様によっては1カ月前にご依頼いただくなんてこともありますよ。もちろん可能な限りお手伝いさせていただきます。
内容や規模によって様々ですね!
制作は何から始まるのだろうか。
最初はお客様が何を伝えたいのかをヒアリングします。それからチームで話し合います
今回のセメダインさんの場合だと、前回の展示よりも展示内容を多くしたいというご要望がありました。増やしたいのは主に商品特徴の紹介部分です。例年、壁面を利用して接着剤の特徴を説明しているのですが、この壁面グラフィックの内容量を増やしたいというご要望がありました
ここ数年はコロナの影響でプレゼンテーションのステージができていなかったのですが、今回はそこを復活させたいというご要望もありました。前回と比べてボリュームが増えた部分ですが、ブース面積は変わりません。同じ面積の中で増えた分をどのように収め、機能性を持たせるのか、試行錯誤しているところです
今年はコロナウイルスによる規制も緩和されつつあるので、見渡せるオープンスタイルでとご要望をいただいています。ですので、より視認性を高めようと思っています
接着したいものを持ってきて相談にくるお客様が多かったので、より具体的に相談ができる対面式カウンターに進化させていきました。2019年まではカウンター式ではなかったんですね。引き合いが多かったのでこちらから提案させていただきました
お話を聞いている段階では接着・接合 EXPOは1カ月先だったのでまだ決まっていないことも多々あり、打ち合わせが続いている状態だった。展示内容が増えるということは壁が増えることになるけれど、それだと圧迫感があるので、それをどのように解決するか話し合いが行われていた。
今の展示会のこと
そもそも展示会のブースは一般的な建築とは根本から異なる。多くの展示会は数日で終わるため、現場で組み立てやすく、さらに撤収しやすくする必要がある。強度を担保しつつもそのようなことも配慮しなければいけない。ある意味では儚いものなのだ。
入社当時は儚いなって思っていたんですよ。でもお客様や来場者の方々の記憶には残っているんですよね
最近の展示会ブースの動向としては、SDGsやサステナブルな素材への関心が高くなっています。お客様からも環境に対する会社の取り組みを伝えるコーナーを設置したいといったお声や、グリーン系の環境を意識したデザインにしたいというご要望が多くなっています
今まではつくっては壊すというのが一般的だったけれど、そこに変化が生まれている。
今、素材は過渡期なんです。サステナブルな視点だけでなく、建築法や消防法、コストなど多角的に素材を見ていかないといけない。業界全体の大きなテーマだと思います。昔はたくさんつくって、たくさん壊して、どんどん使ってもらう、それがこの業界を活性化させた。しかし、今は時代が全く変わっています
ひと昔前、「エコ」という言葉が出てきた時に、パーツを組み立ててブースをつくるレンタルのシステム部材が誕生した。今でも使われていて、パーツはリサイクル可能で何度も使い回しが効く。コストは抑えられるし、廃材も最小限にできる。
確かにいいように聞こえるけれど、できることが限られるのでオリジナリティが損なわれる問題も発生する。どれも同じようなものになるわけだ。各社でカラーやフォルムなどを必死にブランディングしている中で、全部同じカラー、同じフォルム、同じ素材になってしまうと、プロモーションの魅力が損なわれる可能性もある。難しい問題だ。
リボードというリサイクル可能なエコ資材もあります。ただエコ素材って今まで使っていた資材に比べて少し高額なんです。サステナブルで、とご要望いただくことにより、予算によっては、今まで華美に飾っていた装飾の部分を削る必要が出てくることもあります。弊社でも素材に対する提案をすることが多くなっています
コロナ禍で展示会の在り方が様々変革していっています
大室さんが言っていたように、いま展示会は過渡期なのだ。だからこそ見る側としては面白いとも言える。いろいろなアイディアが出ている最中だから。そのような目線で展示会に行くのもいいかもしれない。
設営が始まる
デザイン等が決まればいよいよそれの制作に入る。実に多くの協力会社が関わっていることがわかる。まずは埼玉の木工工場で骨組みがつくられる。撮影に行ったのは開催まであと1週間というタイミングだった。
今回の規模だと3人で1週間ほどで完成するそうだ。ここにも展示会ならではの工夫がある。たとえば、先に圧迫感をなくすために柱の間隔を空けてつくると書いたけれど、その柱は角材ではない。中は空洞なのだ。
軽くして運びやすく、組み立てやすくするためだ。そして電飾などの配線を中に通すことが可能になる。角材の方が作るのは楽だけれど、展示会では様々なことを配慮する必要があるのだ。
パーツで作っておいて、あとは現場で組み立てるだけという感じですね
木工工場では流れるようにつくられていて、見ていて気持ちがよかった。職人という言葉が合う感じだ。私がもしここでつくれ、と言われてもつくることはできない、当たり前だけれど。あと私の性格的にミリ単位の仕事とか無理なので、ただただすごいと感心した。
木工工場での骨組み制作が終われば、現場、今回で言えば幕張メッセでの設営となる。
開催2日前の8時くらいから施工をはじめ、18時くらいまで1日がかりで作業をします。開催前日は8時頃からお客様が搬入を始めます。それと並行して13時頃までの3~4時間作業して、合計するとだいたい14時間くらいで引き渡しができる状態になります。
今回の接着・接合EXPOでは設営に2日間あるけれど、中には1日というわんぱくなスケジュールの展示会もある。その限られた時間をどのように使うかを大畑さんがコントロールしている。
そして、設営が始まる
まずは「床屋(ゆかや)さん」と言われるカーペットを敷く協力会社が入ります。パンチカーペットを接着剤を使わずに両面テープで敷きます
次に造作を建てる「木工屋さん」が入ります。大道具さんみたいなイメージですね
そして造作に壁紙などを貼る「表具屋さん」が入ります。同時進行でできたところから貼っていきます。壁紙などは乾かす時間も必要なんですね
今回は工場の段階で一部のパーツに壁紙を貼る作業が行われていた。乾かす時間が必要で、乾かないとこの後にやって来る協力会社が作業できないので、先に行う場合もある。
表具屋さんの仕事は見ていて特に気持ちがよかった。シワなく壁紙が貼られていく。やっぱり私には無理だ。スマホの画面に保護フィルムを貼るのですら、空気が入ったりで無理なのだ。自分にできないことをスマートにされると尊敬しかない。
さらに照明や配線をする「電気屋さん」が入ります。ブース内への動力設備の設置から、照明器具やコンセントの設置も行います
そしてロゴなど看板を担当する「サイン屋さん」も入ります
大きなモニターをつける場合は、「AV機器屋さん」という映像機器の協力会社さんも入ります。モニターの取り付けや映像、マイク調整などやってくれます。あとは椅子・テーブルなどのレンタル備品ですね。合わせると、6社から7社の専門業者がひとつのブースの制作に関わっています
ほかに補修作業などもある。作業中にひっかけて壁紙が削れたりした場合はそういう補修の時間も考えておかなければならない。
工程管理表というものがあるんです。どの協力会社が何時に入って何時までに作業を終わらせる。次にどこの協力会社が入ってどの作業をする、など段取りを各協力会社に相談して作っておきます。それがスケジュール通りに進んでいるか、現場監督として管理しています
何もないところからどんどんと形が出てきていく。結局は「すごい」という言葉しかでない。安い言葉だし抽象的にも感じるけれど、「すごい」の一言なのだ。だって、朝には何もなかったんだぜ。それが1日でほぼ形ができて、2日目には完成するのだ。秀吉の一夜城もこんな感じだったんではないだろうか。小田原城の人々が驚く理由がわかった気がする。そりゃ、驚くよ。
完成したブースはスタイリッシュでカッコよかった。木でできていることを知っているけれど、木材なんですかこれ? と思ってしまう。何より設計図通りなのがすごい。私も何かをつくる時、設計図のようなものを描くけれど、それ通り行ったことがないもの。すごいよ、マジで。
展示会の魅力
このようにして展示会のブースは完成する。3カ月前から始まっているのだ。展示はわずか数日で終わってしまうけれど、その数日のために数カ月の時間をかけ完成するのだ。セメダインブースは素晴らしいものだった。そこにはセメダインと株式会社フジヤとの長年の関係性もあるはずだ。
セメダインさんはアグレッシブなデザインに理解のあるお客様です。ブースはデザイン賞などに入選したこともあります。他には雑誌に取り上げていただいたり、フジヤのホームページでも代表事例として掲載したりしています
お客様によってデザインの色味や求められるものが違います。また様々な業界に触れられるのが楽しいなと思います。それと、毎年開催される展示会で依頼をしてくださるお客様の中には、信頼して自由にプランを提案させていただける企業もあります。そういった時はやりがいを感じます
営業はお客様に一番近いところにいます。お客様の想いやご要望を直接キャッチする立場にいるんですね。キャッチしたことを形にしてお客様に評価していただいたとき、特に感謝の言葉を頂戴したときが一番やりがいを感じます
最終的にはつくることが好きなんですね。今でも現場で「やっぱ俺たちつくるのが好きだよな」なんて手を動かしながら語ったりしています。ものづくりが好きじゃなきゃここまでやってこられなかったと思います
株式会社フジヤでは展示会の進化系を様々な視点から探求している。VR展示会サービスの「ネクシビ」や来場者を管理するシステム「ツーカン」を開発するなど、セメダインの接着技術が向上するように、株式会社フジヤの制作する展示会もいろいろな形に進化しているのだ。
多くの人々によって展示会のブースは作り上げられる。ほとんどの場合は完成したブースしか知らないし、それで問題ないのだけれど、裏側を知るとさらに展示会は面白くなる。ちなみにこの時期の会場設営は寒いです。
ライター:地主恵亮(じぬし けいすけ)
1985年福岡県生まれ。2009年より人気Webサイト「デイリーポータルZ」にて執筆を開始。2014年より東京農業大学非常勤講師。著書に「妄想彼女(鉄人社)」、「ひとりぼっちを全力で楽しむ(すばる舎)」がある。(全く釣れない)釣りを得意とする。
関連記事
タグ一覧