ものづくり 2025年09月30日

風を感じろ!「室外機」を搭載した新感覚ゲーム機を作る

今年も暑い夏だった。外出時には、もうハンディファンが手放せない。風を浴びることで「尋常じゃない暑さ」が「強烈な暑さ」くらいまでレベルダウンする。文字で表現すると大して変わってないように思えるが、風があるのとないのとでは体感温度が大違いなのだ。
 
しかし、本当にどうしようもなく暑い場所にいると、ハンディファンから出てくるのは熱風となる。冷却効果がないわけではないが、なんとも不快な気分である。この感じ、どこかで味わったことが……あ、真夏に室外機の前に立ったときと同じだ!
 
涼むためにハンディファンを持っているというのに、これではまるで室外機を携帯しているようなものじゃないか。そう考えると、なんだか愉快な気分になってきた。わざわざ室外機の風を浴びるって、どんな状況だ。でも、ただ風を浴びるだけでこんなに面白いのだ。このエンタメ性を何かに使えないだろうか?
 
そんなこんなで、「携帯ゲーム機に室外機を搭載する」というアイデアを思い付いたのであった。

風を感じるゲーム機を作る

いつも携帯しているハンディファン

ハンディファンを手に持って歩いていると、もっとスマートに使えないだろうかと考えてしまう。たとえば、スマホの液晶の上にファンを付ければ、スマホをさわりながら涼むことができるんじゃないか? でもそれだと歩きスマホを助長しそうなので、いまひとつか……。
 
そこで登場するのが、冒頭で思い付いた「室外機を搭載したゲーム機」のアイデアである。室外機の熱風は、わざわざ浴びるものではない。でも浴びることにゲーム性を持たせられれば、エンタメ化できるのではないか。

最初に考えたラフスケッチ。携帯ゲーム機と室外機との融合を図りたい

ゲームの中で室外機に近づくと、ゲーム機に搭載された室外機(室外機型のファン)から実際に風が出るのだ。映画の4DXみたいな、体感型のゲームが作れるかもしれない。Switch2が到達できない領域がここにある。個人開発者の柔軟性を生かして、ゲーム機本体から設計してみることにした。

そうして完成したのがこれなのだ。ほぼラフスケッチそのままの形になった

どういうゲーム機で、肝心のゲームはどんな内容なのか、順に紹介していきたい。

専用ゲーム機を設計する

私は小型ゲーム機が好きで、過去にも「蛇口を回して風呂に湯を入れるゲーム機」や、「スライドさせて紙を切る体験ができるペーパーカッターのゲーム機」などを製作してきた。
 
ゲームセンターに行くと、体験型のゲーム機は数多く存在している。でも個人で携帯する小型ゲーム機になると、応用範囲が狭そうなギミックを搭載したものはほとんどない。しかし、スマホでいくらでもゲームができる今の時代だからこそ、スマホでは味わえない体験が新鮮に感じると思うのだ。

まずはこのゲーム機の最重要デバイス、ファンを選定

ファンはもちろん、直径が大きいほど風量を強くしやすい。でも今回は小型ゲーム機に収めたかったので、小径かつ風量が強いファンの選定が重要となる。
 
海外から取り寄せたものも含めて評価した結果、Delta Electronics社製の30mm×30mmのファンに決定した。一個1,500円程度する少し高級なファンであるが、微風から強風まで調整可能な風量が決め手となった。
 
ファンが決まれば後は簡単だ。電子工作では定番となっているパーツだけでゲーム機を作ることができる。

各パーツを接続して、簡易的な動作検証をしているところ

専用基板も設計し、中国の基板製造サービスで作ってもらった。この規模であれば500円くらいで製造可能だ

基板にパーツを実装したところ

裏面はこちら

ゲーム制御には、「RP2040」という電子工作では定番のマイコンを使い、ディスプレイはこれまた定番となっている小型のTFT液晶を搭載。あとはゲームに応じて振動できるように、バイブレーション用モーターも配置した。操作系は、上下左右の入力ができるジョイスティックと、A/Bボタンだけというシンプルな構成だ。

外装は3Dプリンタで制作

そこに基板がピッタリと収まった。寸法が完璧だと気持ちいい

最後にネジ止めすれば、オリジナルゲーム機の完成だ

まるで黄色いゲーム機の上に室外機が寄生しているようなデザインである。でも室外機は、街中でも台や屋根の上に乗っているが普通なので、何かに乗っていることにあまり違和感はない。

ゲーム機の上に鎮座する室外機。各社を参考にミックスしたオリジナルデザインの室外機だ

背面は吸気のために穴を開けている

試しにファンを動かしてみたところ、ちゃんと肌で感じられる風が吹き出してきた。さすがにこのサイズだとハンディファンみたいに涼しくはならないが、ゲーム用途としては十分であろう。いいゲーム機ができた。
 
さらっと書いたが、ここまでに実は一ヶ月程度かかっている。あとはゲームを作れば完成……なのだが、そこでさらに一ヶ月程度を要することとなった。ゲーム機&ゲームを作るのって大変だ。
 
アイデアのブラッシュアップやドット絵の準備、コーディングなどなど、生成AIの力を借りながら日曜大工でゲーム制作に興じる。なかなか濃い一ヶ月間であった。続いては、そんなこんなで無事に完成したゲームの全貌を紹介していきたい。

室外機の風を感じるゲームで遊ぶ

下部のUSB-C端子に電源をつなぐとゲームが起動!

昔のゲーム風の簡素なタイトル画面。これがいい

ゲームタイトルは「室外機 -FEEL THE WIND-」とした。そのままのタイトルである。せっかくなので、ストーリーなどをファミコンの説明書風に解説してみる。

こういう資料を作る時間が実は一番楽しい

タイトル画面でA/Bボタンを押すとゲームがスタートする。さっそく始めてみよう。

室外機ゲームの基本ルール

画面構成はこのようになっている

制限時間は60秒。その間に、できるだけ多くの室外機を修理してハイスコアを目指そう! というシンプルなゲームである。

ジョイスティックで左右移動するのが基本操作。移動し続けると加速する

そして室外機の前に立つと……

ここが、わざわざ専用のゲーム機を作ってまで表現したかったコアの部分だ。室外機の前にキャラクターが来ると、どうなるか?

ブオーーー!

そう、ゲーム機に搭載した室外機からリアルに風が出るのだ!(※風が見えるように紙を付けています)

室外機の前に来ると風が出て、離れると風が止まる。ただ行ったり来たりしているだけでも楽しい

正直、これが実現できたので8割方は満足である。室外機の状態(正常/故障)を、実際の風を肌で感じながら判断するのだ。室外機のドット絵は状態によって変化しないので、風だけがゲームを進める手がかりになる。

もう少し風を分かりやすくしてみた。ブオーーー!

この風が絶妙な風力になっており、顔を少し近づけて意識を集中すると感じられる。でも漫然とゲームしていると見逃す(感じ逃す)程度の変化なのだ。
 
なので、瞬時に室外機の状態を判断する行為そのものに、それなりのゲーム性が生まれている。

一方で、故障している室外機は前に立っても風が出ない

その場合は、Aボタンを押すことで修理ができる

修理完了!

無事に修理を終えると、室外機から風がブワッと吹き出すようになる

逆に、風が出ている正常な室外機を修理しようとすると「ミス」になり、スコアが大幅に減点される

まとめると、基本的なルールはこれだけだ。
1.     室外機の前に移動
2.     風が出ていなければ故障なので、Aボタンで修理
3.     風が出ていれば正常なので素通り(間違ってAボタンを押すとミス)
※室外機の配置や状態(正常/故障)は、プレイごとにランダムで変わる。
 
シンプルなゲームではあるものの、このゲームの肝は「室外機から出る風」なので、専用のゲーム機がないと体験できない。そして何を隠そう、このゲーム機はまだ世界に一台しかない。よって、これだけ説明しても誰ひとり遊べないという悲しさがある。
 
しかしゲーム好きなら、誰もが一度は味わったはずだ。持っていないゲームの攻略本を熟読したり、『ファミ通』の画面写真だけで胸を高鳴らせていた、あの頃を!
 
実際に遊ぶだけがゲームではない。遊んでいることを想像して楽しくなる行為もまたゲームなのだ。……というわけで説明を続ける。

ゲームのサブ要素「おじゃまキャラ」

室外機の修理だけでもゲーム性はあるが、もう少し中毒性を高めるために「おじゃまキャラ」を入れてみた。

室外機の前に立ち塞がっているのが、おじゃまキャラ

パイロン、ねこ、植木の三種類

写真では分かりづらいが、おじゃまキャラがいると室外機の風が遮られて風力が落ちる

通常の風が「強風」だとすると、おじゃまキャラごしの風は「微風」である。おじゃまキャラがいることで、室外機の故障判断が難しくなるのだ。

そんなときには、Bボタン。おじゃまキャラの前で押すことで「除去」することができる

バシッ! おじゃまキャラが消滅した

消えた猫がどこへ行ったか詮索してはいけない。設定では、リペアくんの特殊能力で消し去ったということになっている。
 
以上がこのゲームのすべてだ。おじゃまキャラの出現率はそこそこ高いので、ユーザーは「おじゃまキャラを除去」「室外機の風を肌で感じる」「修理or素通り」というのを一瞬で判断してゲームを進める必要がある。シンプルながら、やり始めると結構ハマってしまうゲームが完成した。

慣れてくると右ボタンを押しっぱなしで、A/Bボタンをタイミングよく押すゲームになる

そして60秒経ったらゲームオーバーである

最後にこれまでのハイスコアが表示される。おそらく1,500点を超えると上位ゲーマー!

動作の様子や、世界記録のプレイ(私しか遊んでないので、もちろん私が世界記録保持者)を動画にまとめたので、こちらもあわせてご覧いただきたい。

専用ゲーム機で遊ぶことのロマン

つねづね「スマホですべて完結するのはロマンがないよなぁ」と思っている。一見すると無駄に思えるものでも、やはり専用機にすることで生まれる良さがある。
 
今回は「風」といったプリミティブな要素をゲームに取り入れ、それを遊ぶための専用ゲーム機まで設計してみた。できあがったのは、このゲーム機がないと遊べないという、ものすごく閉鎖的で、でもロマンあふれるゲームであった。
 
商業ベースでは絶対に発売されないゲームだし、ハードウェアを製造するハードルもあるので、インディーズでも発売困難だろう。そういう一点ものを作れるのは、個人制作者の強みである。

遊んでいる様子をお見せしたかったが、人間に対してゲーム機が小さすぎてうまく撮影できなかったため、ユーザー代理としてフィギュアに登場していただく

顔に室外機からの風を感じている様子が伝わればと思う

冷房が効いた家の中で遊ぶと、室外機の風も心地よくなってしまう。よりこだわるなら、真夏の屋外でプレイするべきだ。室外機からは熱風が吹き出し、ゲームのリアリティが増すことだろう。

今後なにか展示できるイベントがあれば、ぜひ皆さんにも遊んでいただきたい!

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