ものづくり 2022年09月08日

「ヘボコン2022」(後編)~最ヘボ賞は、トホホの神様が降臨して意外なチームに!

7月31日、渋谷の東京カルチャーカルチャーにて、技術力の低い人限定ロボコン2022(通称:「ヘボコン2022」)が開催されました。前編ではトーナメントの模様と優勝(大したことない賞)チームについて紹介しました。後編では、惜しくも予選1回戦で敗退した個性あふれるユニークなヘボコンと、栄えある今年の「最ヘボ賞」や、「審査員賞」などにフォーカスしてレポートします。(取材・文/井上猛雄 撮影/丸山光)

【前編】はこちら。

こんなに面白い! 惜しくも1回戦で敗退したヘボコンも大紹介

こやしゅんさん(ハカリズム)

▲最ヘボ賞3回連続受賞のこやしゅんさんは、「ハカリズム」というメジャー系ヘボコンを製作。駆動にはメジャーの反力を利用するので、こんな格好で戦闘態勢に。

こやしゅんさんは、残念ながら今回は4連覇ならず。しかし「ハカリズム」というメジャー系の意味不明なヘボコンを製作し、会場を沸かせました。過去のヘボコンでは、長さや重さを測らずに製作してきたことが大失敗の原因だと気づいた同氏は「ロボットを構成するパーツそのものの測定機を使えば、いつでもどこでもデータを測定できて便利という発想です」と、訳の分からない供述(笑)。

ロボットには長さを測るモノサシ、角度を見る分度器、重さを計る天秤、液体の体積を知るメスシリンダー、時間を確認する砂時計、方向を調べる方位磁石、天体と地平線の角度を調べる六分儀、そのほか温度計、メトロノームを搭載。ロボットの動力はメジャーを引っ張り、戻ったときの反力を利用するという発想でしたが、うまく行かずに撃沈し、本体がボロボロと壊れてしまいました。最終的にメトロノーム本体の心臓部だけを使って勝負に挑みましたが、動く方向が逆になり、自ら土俵から外れてしまいました。

モーニングチルドレンあさこさん(みかん×ミカンモーニングルーティン-MIKAN-)

▲「みかん×ミカンモーニングルーティン-MIKAN-」。製作者のあさこさんは、時間の奴隷となった社会人の自分に対して、怒りを込めて「みかん」のボールを投球。

「みかん×ミカンモーニングルーティン-MIKAN-」は、社会人になって時間の奴隷となった自分の虚しさと悔しさを込めて、みかんを力いっぱいロボットに投げて動力にするという発想のヘボコンです。みかんがモチーフの理由は、子供の頃に「みかんの目覚まし時計」で目を覚ますいうルーティンだったから。ヘッド部にタイマーで回転するみかんの目覚まし時計と振子を使い、ロボット本体もみかん箱(M)。車輪もみかんの形状で、本体の横に「アルミカン」(あるミカン)というダジャレも。

さらにランボルギーやフェラーリのミニカー、海上保安庁のヘリコプター模型にもみかんを載せたり、本物の蚕の繭を載せたりと、ギミック満載のヘボコンでした。ヘボポイントは、3年前に応募の締切を忘れて出場できなかったこと。また、あさこさんは、ヘボコン3連覇のレジェンド、こやしゅんさんの後輩でもあり、大学のゼミも一緒。新たな「あさこ伝説」も期待されましたが、戦いでは自ら転倒してしまい、予選敗退となりました。残念!

チームタナゴ(スーパーロボット)

▲ユニークな「スーパーロボット」。相手のロボットに半額シールを張り付けてパワーを50%半減させるという作戦。試合後になって半額シールが大量放出。

「スーパーロボット」は、スーパーマーケットの「スーパー」を冠したヘボコンです。人が冷静さを失う場所は、なんといってもスーパーの半額コーナー。相手のロボットに半額シールを張り付けてパワーを50%半減させ、自分の攻撃力が2倍になるという作戦を立てました。群馬電機が販売するメモリー式の音声ポップ(録音再生器)「呼び込み君」を購入しましたが、重量オーバーで搭載できなかったことがヘボポイント。実戦では相手に一瞬で場外に押しやられてしまいました。しかし戦いが終わってから、呼び込みの音楽とともに「からあげの半額シール」が大量に出てくるという見せ場も作りました。このシールは他の参加者にも好評でした。

ちゅうわっとさん(一撃必殺黒ひげタンク)

▲空圧で球を飛ばして相手を倒す作戦の「一撃必殺黒ひげタンク」。実は内部から「不意打ち号」という車体が飛び出す仕組みでした。

「一撃必殺黒ひげタンク」は、ゲームの「黒ひげ危機一髪」を改造したものです。発射口から球を勢いよく飛ばして相手を片付けるというコンセプトです。空気チューブがあり、空圧も加えて一撃必殺で相手を倒します。しかし大砲にすべての力を注いでしまったため、ロボットの動力までは手が付けられず、動かないロボットになってしまった点がヘボい点。動力がないため、相手を倒す手段は一発の弾だけ。一球入魂のロボットという触れ込みでしたが、それはギミックで、内部から突撃するクルマ「不意打ち号」が飛び出す仕組みでした。

KEROKEROBOT(No.66-B)さん

▲「No.66-B」も空圧を利用したユニークなロボット。自転車の空気入れを使い、ろくろくびのように首を伸ばして相手を倒します。

No.66-B」は、その名のとおり、ろくろくびをイメージしたロボット。前回は大会一長いロボットを目指しましたが一番になれなかったので、今回こそ目的を達成するために再チャレンジしたとのこと。首が伸びる仕組みについては、自転車の空気入れから長い風船に空気を入れるというアイデアを採用。またプロペラにも風を当てて移動させる工夫も凝らしていました。ひたすら人力で空気を送り続けた努力が素晴らしかったです。

やまねせいやさん(ロボファイナル)

▲「ロボファイナル」は、ローテクのなかに高度なギミックを詰め込んだヘボコンです。相手がエリアに入ると、セミの最期のように「壊れたiPhone」がバタバタと暴れ出します。

「ロボファイナル」は、夏の風物詩であるセミの最期をモチーフにしたヘボコンです。死期の迫り、裏返っているセミを触ると、突然バタバタと動き出す。そんな情景を壊れたiPhoneで再現しました。相手が自分のエリアに入ると、罠のアルミホイルがあり、そのホイルとベース部のアルミシートが通電することで、iPhoneに取り付けたモータが回転してバタつく仕組みです。相手を攻撃せず、相手を待って驚かせるという、これまでにない発想のヘボコンでした。

あずみさん(毎日がEveryday)

▲大好きな俳優さんをリスペストするために参加した「毎日がEveryday」。参加理由がいまいちよく分かりませんでしたが、彼女の愛が伝わるヘボコンでした。

「毎日がEveryday」は、大好きな俳優さんの誕生日を祝うというコンセプトのヘボコンです。犬のロボットやカレーライスなど、俳優さんが好きな要素を詰め込みました。バースデーソングが流れる剥き出しのスピーカーと、袋のままのライトがヘボポイントです。尻尾を振りながら「わんわん」と鳴く犬のロボットが可愛かったのですが、バランスが悪くて自ら横倒しになって敗退しました。

sueさん(技術科教育の限界)

▲「技術科教育の限界」は、学習指導要領という文科省の御紋を全面に出し、相手を教育するという作戦(笑)。教師の大変さが伺える作品でした。

学校の教師であるsueさんの「技術科教育の限界」は、学習指導要領を積んだユニークなヘボコンです。この国を担う技術・家庭の教本によって、相手を教育するという作戦。重量規制を超えるために、本体を中抜きにしたり、制御コントローラーを外してリモコン操作にしたり、ダメな見本やフロッピーディスクなどを搭載したりと、技術・家庭科の教師の大変さが伺える作品に仕上がっていました。予選では教本の重心がズレていたのか、バランスを崩して転倒して惜しくも予選敗退に。

うまくロボットを作りたい(ワンダーベイビー)

▲かわいらしいワンちゃんロボット「ワンダーベイビー」。大容量モータで団扇を動かしていましたが、このモータを駆動系に使えば馬力のあるヘボコンが作れたかもしれません。

振動に反応して動く犬のロボットを改造して、団扇が動く手作りリンク機構を追加したヘボコンです。大容量モータを搭載し、団扇をパタパタと扇ぎながら相手を倒す作戦でしたが、モータとの重心がズレていて、4足歩行にならず犬の前足が浮いてしまった点がヘボポイントです。本来は駆動系にローラースケートを使う予定だったそうです。予選ではワンワン吠えながらよく動いたものの、やはりバランスが悪くて自ら場外に行って敗退しました。

じきるうさん(原稿提出ロボ 初稿機)

▲原稿をバンバンと出してくれる「原稿提出ロボ 初稿機」。ちなみに、こんなロボットが本当にあったら筆者も欲しいです(笑)。

ライターのじきるうさんは、ユニークな「原稿提出ロボ 初稿機」で参戦。担当編集者から日ごろ原稿の締切りの督促が来るので、今回は原稿を出しまくるロボットを開発して見返してやろうとのこと。ヘボポイントは、急いで16ページの原稿を書いたので、誤字脱字や引用だらけで、クオリティがかなり低いところ。しかし戦いの相撲にはまったく関係ない点が、またヘボポイントに加算されました(笑)。原稿提出の機構に気を取られ、ロボットを動かすまで手が回りませんでした。そこで100均のプラレールの電車を使って、その場しのぎで挑みましたが、時間切れになり、あえなく移動の差で敗退。

なお、番外編になりますが、参加者の戦いだけでなく、スポンサー紹介ロボットも披露されました。ヘボコンマスターである石川さんが、ゴールドスポンサーの弊社(セメダイン)を紹介するためだけのロボット「スーパーレックス」を制作。恐竜ロボットの背後にモータを付け、その場で超多用途接着剤「スーパーX」を使ってシャフトに糸を付け、糸を巻き上げる動力によって、ロボットの前扉が上に開き、セメダインのロゴマークが出ていくという仕掛け。どのように動くのか、ロゴマークは無事に出るのかと、会場も固唾を飲んで見守り、大いに湧きました。

▲ゴールドスポンサー・セメダインの紹介もヘボコンマスター謹製ロボットで行われ、超多用途接着剤「スーパーX」の威力を見せつけました。

栄えある最ヘボ賞(最も技術力が低かった賞)は誰の手に?

最ヘボ賞の発表の前に、審査員賞とスポンサー賞が発表されました。今回のヘボコンでは、審査員として青山学院大学大学院特任教授の阿部和広氏と、小山工業高等専門学校の田中昭雄氏が招聘されました。

▲審査員の二人。青山学院大学大学院特任教授の阿部和広氏(左)と、小山工業高等専門学校の田中昭雄氏(右)。

【審査員賞】
阿部賞 ケサランパサラン「よびこみブルドーザー」

▲阿部賞には、ケサランパサランの「よびこみブルドーザー」が選ばれました。「大人には未来がない(笑)。未来を担う子供に技術を身につけてもらい、今度はロボコンにも参加して欲しい」という受賞理由でした。

小学生とお母さんのチームで参加したケサランパサランは、「呼び込み君」と「招き猫」を載せたヘボコン「よびこみブルドーザー」を製作しました。対戦相手を呼び込んで、相手が寄ってきたところで、ストローのショベルで押し上げる仕組みでした。ロボット本体は動く縫いぐるみを使用しましたが、試合開始直後に横転して、その実力を発揮する前にあえなく敗退となりました。阿部先生からは、ご自身が監修した「なるほどわかった コンピュータとプログラミング」が贈られました。

▲小学生チームのケサランパサランの二人。「1回戦ですぐに負けてしまったのに賞をもらえて本当に嬉しいです!}とコメント。将来を担うのは彼ら。これからも頑張って下さい。

田中賞 Live and Jet Die「政治の重みを感じるロボット」

▲田中賞には、ワシントンD.C.から参加のLive and Jet Dieが製作した「政治の重みを感じるロボット」が選ばれました。政治の問題をパフォーマンスで表現した点が評価されました。

ワシントンD.C.からやってきたLive and Jet Dieは、アメリカ合衆国議会議事堂をモチーフにした「政治の重みを感じるロボット」で田中賞を受賞しました。電気を一切使わず。ネズミ捕りのバネで、車輪のシャフトに巻き付いた糸を引っ張って動かす仕組みです。サイズが大きくて重量もあるため、前輪のタイヤを外して軽量化。田中先生からは栃木県の日光東照宮の「陽明門」のプラモデルが授与されました。

セメダイン賞「うおうさおう」(不穏な香り号)

▲「うおうさおう」さんが製作した「不穏な香り号」。正面の風車には「世間体」「黒歴史」「猛犬に注意」「締切」「油汚れ」といった、人を不安にさせる言葉が張り付けてあります。

北海道から参戦したうおうさおうさんは、360度ぐるりと不吉なものを取り付け、相手の動揺を誘い、精神を内部から崩壊させるヘボコンを開発。インパクトのあるズワイガニの甲羅を中心にした「アレルゲン千手観音」をモチーフに、アレルギーを引き起こす原因物質を集めて、相手を恐怖に陥れます(笑)。

後方には「現金のみ扱うお店でクレカしか持ち合わせていないシチュエーションを再現。正面の風車には人を不安にさせる言葉が張り付けてあります。風車の裏側から、変な臭いのする香水を送り付け、相手の精神を破壊するという発想も恐ろしかったのですが、実戦では風車の羽に角度がついておらず、フラットな羽が回転するだけで、風と臭いを送りつけられないというヘボさを露呈しました(笑)

セメダインの大村氏は審査に当たり「自分もキャッシュレス生活をしており、現金しか使えないお店に入って困ったことがありました。不穏な香り号の装飾に精神が揺さぶられました」と受賞理由を語りました。

▲うおうさおうさんには、セメダインの特製エプロンとガチャガチャのミニチュア全種、学研の学習漫画「接着剤のひみつ」が贈られました。

デイリーポータルZ賞 カーネルおいさん(パープル象さん)

▲デイリーポータルZ賞には、カーネルおいさんが製作した不気味な象さん「パープル象さん」が選ばれました。大会の司会も務めた石川氏は「象の造作の不気味さと、内部に可愛い子象が入っていた点」を大きく評価しました。

「パープル象さん」は、臀部のラインに拘った不気味な象ロボットです。脚が動かないので、分割した上半身のクローラで動く仕組み。1回戦で「戦慄の爆音ロボ ツインシンバル君」と対戦した際に、惜しくも首のスカーフがクローラに巻き付いて、前に進めなくなって敗退しました。ヘボコンマスターで本大会の司会を務めた石川大樹氏から、デイリーポータルZ編集部のネタのヒント本などが贈られました。

最ヘボ賞 ミッフィー軍団(アルティメット ミッフィー)

▲最ヘボ賞の栄冠に輝いたのは、ミッフィー軍団。最ヘボ賞には毎年恒例の小学生が作ったトロフィーが贈られました。受賞理由は、やはり奇跡のファームウェア・アップデートでした。

見事に最ヘボ賞の栄冠に輝いたのは、ミッフィー軍団の「アルティメット ミッフィー」でした。本来は小学生3人のチームで参加する予定でしたが、残念ながら2人がコロナの影響で不参加になってしまいました。そこで2人の写真をロボットに付けて参戦。3人の友情を垣間見ることができました。ロボットの攻撃は、LEGOブロックで機構をつくり、上からボールを落として、段ボールで作った空気砲で一撃で吹き飛ばす仕組みでした。

大変よく考えられたロボットでしたが、いざ勝負のときに、LEGOコントローラのファームウェアのアップデートが始まって、勝負ができなくなってしまいました(笑)。そこで急遽、試合を1試合だけ先送りすることに。実戦ではボールも上手く落ちて、相手に当たりましたが、空気砲が弱くて負けてしまいました。しかし予想外のファームウェア更新というインパクトが強く、トホホの神様の降臨によって、見事に最ヘボ賞をゲットしました。

▲これが奇跡の瞬間、LEGOコントローラのファームウェアのアップデート。「このタイミングでアップデートかよ!」と突っ込みが入りそうですが、これがヘボコンなのです。

▲最ヘボ賞受賞のミッフィー軍団は「参加できなかった2人に、一番良さそうな賞を取ったと報告できます」と喜びのコメント。ヘボコンマスター石川さんも嬉しそうでした。

最後に審査員から一言。阿部先生は「普通の人では考えつかない素晴らしい想像力を見せて頂きました。たぶん皆さん、どこかがおかしいのだと思います。その発想を実際に具現化することはなかなかできません。その半面、大舞台に上がる前には、1度ぐらいはテストしましょう」とガチの指導も入りました。また田中先生は「参加者の方々はプレゼンにも力を入れていました。ロボットの造形もユニークで見た目も楽しめました。高専ロボコンでも皆さんのような独創的なアイデアを取り込んでいけるようにしたいですね」と評価しました。

今年は3年ぶりのリアル開催のへボコンとなりましたが、これまでの鬱積を晴らすような大きな盛り上がりを見せました。なおLPIと協賛で2月26日(日)にも「ヘボコンアドバンス」が開催されるそうです。ワンボードコンピュータのRaspherry Piを使った、少し上級なヘボコンですが、こちらも面白い大会になりそうですね。

ー了ー


井上猛雄
産業用ロボットメーカーの研究所にて、サーボモーターやセンサーなどの研究開発に4年ほど携わる。その後、株式会社アスキー入社。「週刊アスキー」副編集長などを経て、2002年にフリーランスライターとして独立。おもにエンタープライズIT、ネットワーク、セキュリティ、ロボティクス、組込み分野などを中心に、Webや雑誌で記事を執筆。主な著書は、「災害とロボット」(オーム社)、「キカイはどこまで人の代わりができるか?」(SBクリエイティブ)など。

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