ものづくり 2022年11月10日

【アイデアクリエイター いしかわかずやさんに聞く〝発想〟のコツ】アイデアは誰にでも出せる。そして、世界を楽しく便利にしてくれる。

数々のデザインコンペに入賞し、その勝率が9割に迫るというアイデアクリエイター・いしかわかずやさん。ヤフー株式会社で自社のブランドマネジメントに携わるかたわら、個人活動として、SNSにさまざまなアイデアの投稿を続けてきた。「ありそうでなかったもの」をコンセプトとするいしかわさんのデザインは、どのように生まれているのか? これまでの歩みやアイデアを出す秘訣などを聞いた。
(取材・文 菅原さくら/写真 タケシタトモヒロ)

デザインには、客観的な視線や意味が必要だと気づいた

いしかわさんは昔から、ものをつくることがとにかく好きな子どもだったという。絵を描いたり工作をしたり、自分のイメージを具現化するのが楽しかった。高校生になって、卒業後の進路を考えるときにも、その気持ちが自然とふくらんだ。

「普通の大学に行って、普通に働くのはつまらないと感じていました。自分ならではの人生設計をしようと考えたとき、いいなと思った職業はアーティストやパイロット。でも、昔から続けている“好きなこと”に絡めたほうが、より自分らしい選択になって長く続けられるのではないかとも思いました。それで、デザイナーになろうと考えたんです」。

決めてからの行動は早かった。美術部の先生に弟子入りして毎日デッサンの授業を受け、めきめきとスキルアップ。工業系の大学に進んで、プロダクトデザインの魅力にハマっていった。ひとつの転機となったのは、大学1年生のときに学内で開催されたアイデアコンペだ。テーマはご当地土産の「馬サブレ」。周囲が作り込んだパネルやモックを提出するなか、いしかわさんは鉛筆書きのスケッチ一枚で、賞を獲得した。

「左向きの馬には、幸せの象徴という意味があるんですって。そして、サブレは老若男女が楽しめる素朴なお菓子です。鉛筆でささっと表現できるくらいの優しいテイストが、今回のテーマに合っていると感じました。逆に、鉛筆スケッチじゃ足りないようなアイデアは、複雑すぎるんじゃないかと。とはいえ、さすがにA3用紙一枚で絶対に勝てる自信があったわけではありませんが……結果として、賞をいただきました。ちゃんと本質を突いていて中身がよければ、見せ方はシンプルでもいいんだと気づいたのはこのときです」

2年生になっても、いしかわさんはコンペ参加に励んだ。その最中で出会った学内の先輩にも、大きな影響を受けている。

「馬サブレのコンペを主催した先輩は、自分自身がいろんなコンペに入賞している凄腕。その人に認めてもらいたくて、アイデアを出してはぶつけ、そのたびにフィードバックでボコボコにされるという1000本ノックをやりました(笑)。たとえば、水滴の形をしたイヤホンを考えたときは『見た目はきれいだけど、これは何がいいの?』と一刀両断。悔しいけど、コンセプトの薄さは否定できません。イヤホンの形を水滴に変えることで、何かしら意味が生まれないといけないし、そこをきちんと説明できなきゃ、いいアイデアとは言えないんですよね。アイデアは思いつきや主観だけでは足りなくて、第三者的な意味や需要が必要だと痛感しました」

それからは自分の感覚を押しつけるのはやめて、客観的な視線や課題解決を意識し、デザインに励んだ。マニキュアのパッケージは美しいけれど、商品の色を確かめるには、爪の形のサンプルをいちいち見なくてはいけない。では、パッケージに指の形をあしらって、商品の色を使えば、塗ったときのイメージがわきやすいんじゃないだろうか? という具合だ。

「その思考法を研ぎ澄ました結果、2021年にSHACHIHATA New Product Design Competitionに入賞したのが『筆跡えんぴつ』です。2Bとか3Bとか言われても、書いてみないとその濃さってわからないじゃないですか。だから筆跡そのものをグリップに印刷して、ひと目で濃さがわかるようにしました。表面のデザインをほんの少し変えるだけで、課題解決に大きく役立つ、まさにデザインコンペ向きのアイデアだと思います」

しかもこのコンペでグランプリを獲得したのは、大学時代に1000本ノックをしてくれた、件の先輩だったという。授賞式の壇上で、二人は10年ぶりの再会を果たした。「感極まって、泣きそうになっちゃいました」と、いしかわさんはうれしそうに笑う。

求められている表現を、考え尽くした先にあるアイデア

学生時代に「いいアイデアには客観的な視線が必要だ」と気づいてから、いしかわさんのひらめきの精度は飛躍的に上がった。しかし、それだけで10年以上もアイデアを出し続け、コンペ勝率9割にまでたどり着けるものだろうか。「コンペで勝つ」を例に、アイデアづくりのメソッドをもう少し掘り下げてみる。

「やっぱり、誰もが共感できるアイデアは強いですよね。『ここがちょっと不便だな』『これがこうだったらいいのに』という小さな不満を、できるだけ少ない労力で解決できるように工夫するのが、アイデアの基本です。そのうえでコンペに勝つには、主催者の思考まで想像することが大切。そのあたりは恋愛と同じだと思ってて……いくら流行の服でかっこいいヘアスタイルをしていても、それが相手の好みじゃなきゃ意味がない。だから、そのコンペが開催された理由や審査員が求めているものを、しっかり分析するんです。アイデアそのものを考える時間よりも、そうした情報収集や背景の整理をしている時間のほうが長いと思います。よくコンペを開催しているブランドをいくつか例に挙げるなら、コクヨはブランディングの一環としてコンペをしているケースが多いから、ストーリー性のあるものが好まれる。シャチハタはすぐに製品化できるような、現実的なアイデアがおすすめです。サンスターは企画重視で、タレントさんの審査員も少なくないので、ギャグ要素が強い表現もアリですね。そういう分析がしっかりなされていれば、効率よく“当てに行く”ことができます」

しかも、そうした前提が明確になっていると、アイデア自体も浮かびやすい。いしかわさんはもはや、30分もあれば確実に1案は思いつくという。アイデアを考えるための時間をわざわざ設けず、“ながら”で考えるのもコツだ。

「いまからアイデアを考えようって思うと、プレッシャーになっちゃうんですよね。だから、いかにそういう重圧がない状態をつくるかが大事。僕の場合は、一人でリラックスしている時間が一番アイデア出しに合っていると感じます。お風呂に入ったり散歩したり、料理をつくったり……そういう作業のついでにアイデアを考えられたら、起きている時間すべてが発想タイムになって、効率いいですもんね」

 

アイデアは誰にとっても武器になる。手軽に試せる“3つの発想法”

アイデアは企画やデザインを仕事にしていたり、コンペに参加したりする人だけのものではない。日常のあらゆる場面で、あらゆる人に、その“ひらめき”が役立つ。

「たとえば学校の先生だったら、みんなが勉強に集中しやすくしたり、楽しく学べたりするように教室の環境を変えてみることだって、立派なアイデアの使い方です。以前バズった僕の『課題炎上付箋』は、付箋を炎に見立てただけで「燃えてるから火を消さなきゃ」という思いが芽生え、勉強という行動が面白おかしく促せる。そんなふうに“ちょっとした工夫”でいい未来につながっていくのが、アイデアの力なんですね。そういうスキルはどんな人にとっても役に立つし、誰でも絶対に身につけられると考えています」

いしかわさんのようにアイデアマンになるためには、どうすればいいのか? 尋ねてみると「当たり前を疑う」「身近な“不便”を見つめてみる」「何かに見立てる」という3つのポイントを教えてくれた。

「身の回りにあるもののすべては、完成形じゃありません。そう考えて、当たり前を疑うことから始めましょう。『信号はどうして3色なの?』『切手は絶対に左上に貼らなくちゃいけないの?』といった身近な疑いから、アイデアが生まれます。僕の『ガムテープってどうして丸いんだ?』という思いつきで作った四角いガムテープは、置きやすいしちぎりやすい、とても使い勝手のいい商品になりました。四角に変えたあとで、四角ならではのメリットを後付けで考えたんですよ」

 

「次に、日常の製品を取り上げて、その不便なところを考えてみる。そして、その課題をできるだけ少ない工夫で解決しようとしてみてください。この発想法から生まれて気に入っている僕のアイデアは、折り目を付ける紙コップです。バーベキューやパーティーのとき、自分の紙コップがわからなくなる不便ってみんな感じていますよね。ペンやシールで目印を付ければいいけれど、コップ単体で解決できるのが一番いい。そこで、紙コップのふちに数字をつけてみました。自分の番号に折り目をつければ、それだけで目印になるわけです」

「何かに見立てる方法は、この『繁華街になる付箋』なんかがそう。まさに繁華街の看板を見ているうちに『付箋に似てるな』と思いついて、こうなりました。アイデアはシンプルですよね。……こういう意識で景色を見ているから、アイデアが生まれすぎちゃって、僕は下手に街を歩けないんですが(笑)」

この3つのポイントを意識して頭を使うようにすれば、誰でもある程度のアイデアはかならず思いつくと、いしかわさんは力強く言ってくれた。

「大切なのは『どれだけ考えるか』じゃなくて『どこを考えるか』。ブレストで思考を拡散させていくのもいいけれど、思いつきのメモばかり増やすことをゴールにしていてはだめなんです。だったら人とかぶらなさそうな場所を3つくらい見つけて、そこをひたすら5m掘り続けたほうが、いいものが出てくると思います。大学でアイデアに関する講義やワークショップをするときも、こうしたポイントを押さえてもらうだけで、実際に学生さんからたくさんのアイデアが生まれてくるんです」

自分が思いついたアイデアを語るときと同じくらい、アイデアの出し方を話すときにも、いしかわさんは楽しそうだ。ヤフー株式会社に務め、自社のブランドマネジメントに携わるかたわら、個人で続けているアイデアクリエイターとしての活動。見る人の想像を超えたアイデアを生み出せたとき、大きな快感があるという。

「ぜひ、そういう気持ちをたくさんの人に味わってほしい。1000人働いている会社で、事業を動かすアイデアを出しているのがいまは100人くらいだとするじゃないですか。でも、残りの900人もアイデアが出せるようになったら、会社のパフォーマンスは10倍になる。みんながそうなれば、きっと社会はどんどん便利に、どんどん楽しくなっていくはずです。この秋からは最強のアイデアマンになるためのコミュニティをはじめたり、アイデアに関する著書を上梓したり、ノウハウを人に伝えていくプロジェクトが多数控えています。アイデアは盗まれたら困るけれど、発想法は分け合えるもの。多くの方々に、アイデアの出し方を広く伝えて、人生を充実させてもらえたらいいなと思っています」

いしかわかずやTwitter


ライター:菅原さくら
フリーランスのライター/編集者/雑誌「走るひと」チーフなど。1987年の早生まれ。北海道出身の滋賀県育ち。早稲田大学教育学部国語国文学科卒。
インタビューが得意で、生き方・パートナーシップ・表現・ジェンダーなどに興味があります。メディア、広告、採用などお仕事のジャンルはさまざま。
6歳3歳の兄弟育児中。高校生のときからずっと聴いているのはBUMP OF CHICKENです。
https://www.sugawara-sakura.com/


 

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