ものづくり 2024年06月03日

“プラモデルを楽しめる土壌は完璧とも言える”今だからこそ、多くの人にプラモデルの楽しさを届けたい。(俳優 石坂浩二)

  俳優として唯一無二の存在感を持ち、常に最前線で活躍している石坂浩二氏。彼は俳優業だけでなく物作りを愛している人としても知られています。その中でも「模型・プラモデル」は特別な存在。自ら「ろうがんず」というプラモデルクラブを結成して、多くの仲間と共にプラモデルの楽しさを発信しています。
 そこで今回、セメダインスタイルでは、石坂氏の物作りの源流ともなっている模型の話や、ろうがんずの活動についてお聞きしてきました。

セメダインは強さの象徴だった

 ーーセメダインと聞いてまずイメージすることは何でしょうか?
 
石坂:セメダインと言うとまずは「強い」というイメージですね。子供の頃の接着道具の定番と言えば「糊」でしたが、今のように性能の良い糊なんてありませんでした。でもセメダインなら「何でもくっつくぞ!」って思わせてくれるくらい、子供の頃の自分にとっては魅力的でした。接着剤って特有の糸を引くじゃないですか。だから沢山糸を引かせて煙や雲みたいな塊を作って遊びましたね。また、今こんなことしたらすごく怒られると思うのですが、当時は接着剤がまた良く燃えまして……。近所の仲間と集まって、塊にした糸を燃やしたりして遊んでもいました。まぁ、これは時代が許してくれたことですので、皆さんは絶対にやらないでくださいね。

BBXは魔法の粘着剤

 ーーセメダインの商品で愛用しているものがありましたら教えてください
 
石坂:BBXですね。接着ではなく粘着というのがポイントで、私の大好きな飛行機模型で大変役に立ちます。透明パーツの風防(キャノピー)は、プラスチック用接着剤を使うと透明のパーツの表面が溶けて曇ったり、塗った塗料が溶け出したりするので、接着工程がナーバスになることも多いのです。
 しかしBBXを使用すれば、パーツも塗料もダメージなく、ぺたりとキャノピーを粘着させることができます。さらに粘着なので好きな時に剥がせますし、剥がす時もダメージがほぼ無いのです。多くの模型仲間に、BBXはいいですよと薦めています。

  • P20ml

    BBX

    貼ってはがせる弾性粘着剤。 フィギュアの固定やプラモデルの仮組におすすめ。

接着剤があるだけで、プラモデルは自由になる

 ーー今、接着剤を使用しなくても作れるプラモデルが沢山出ていますが、石坂さんはプラモデルと接着剤の関係をどう思っていますか?
 
石坂:接着剤はとっても大事で、プラモデルを自由にしてくれるものだと思っています。それは商品を開発する上でもです。接着剤を使わないでパーツ同士が接合されるようにするためには、パーツの内側に軸や穴を設けた上で、プラとプラの嵌合でしっかりと合わさるように調整しなければなりません。今のプラモデルはそれがほとんどですから、当たり前のように見えるかもしれませんが、これが結構大変なのです。軸や穴の位置を的確に配置して、モチーフのデザインを殺さないまま模型にしなければなりませんから。だからこそアニメーションに登場するロボットなどは、模型や完成品のフィギュアになることをしっかりと想定して練り込まれたデザインになっています。
 私の好きな飛行機模型などのスケールモデルは、もともとプラモデルになるために生まれてきたデザインではありません。だから模型にする際、プラ同士の嵌合でパーツを接合していこうとするとデザインの破綻だけでなく、逆に組みにくいプラモになってしまいます。しかし、「接着剤」があるだけで、その問題は大きくカバーされます。接着剤を塗るための糊代さえプラモに用意しておけば良いのです。接着剤を使うことは難しそう、接着剤を使うプラモは上級者プラモと思われることがあるのですが、決してそんなことはないのです。今の接着剤は最初から蓋にハケや筆がついていて、とても簡単で綺麗に塗れるので、むしろ接着剤を使うプラモデルは無理が無くて組むのが楽しいですよ。接着剤を日本で初めて開発したのがセメダインなんですもんね。モデラーにとっては感謝しかないです。

透明のパーツは衝撃的だった……

ーーそれでは、石坂さんと模型の出会いについて教えてください
 
石坂:私が子供の頃はまだ「プラモデル」と言うもの自体がありませんでした。その前身にあたる「ソリッドモデル」と言う、木を削って形にしていく模型を楽しんでいたんです。当時は下駄屋さんが結構ありまして。下駄屋さんに行くと、すり減った下駄の歯を交換した時の廃材がもらえるんですね。それを削って飛行機とかを作っていたんですよ。少年時代はソリッドモデルに本当に夢中でした。飛行機の専門雑誌なんかにもソリッドモデルを製作するため図面なんかも入っていてね。その図面を隅から隅まで見てましたよ。
 
ーープラモデルってものがあるぞって知ったのはおいくつぐらいの時でしょうか?
 
石坂:高校生くらいの時ですね。プラスチックで、しかも金型成型で作られた飛行機の模型が日本に入ってきているらしいって聞いたんですよ。「そんなものが出たのか!?」と当時新橋にあったステーションホビーまで見にいきました。プラモデルは今なんかでは考えられない高級品ですから、高校生の僕らが行っても「本当に買うのか? 冷やかしなら帰ってください」って雰囲気をすごく出されたんですよ。それだけプラモデルというのはひとつ違うステージにあったものだったのです。だから、パーツを見た時は衝撃でしたよ。
 
ーーいちばんの衝撃は何でしょうか?
 
石坂:透明パーツにつきますね。木では無理ですから。飛行機のコクピットをカバーする風防(キャノピー)の透明パーツを見て本当に驚きました。ソリッドモデルの時は「空の色が映り込んで青に見える」みたいな言い訳をしてキャノピーを塗っていたのですが、プラモデルは本物と同じような透明パーツでキャノピーが楽しめるんです。これが新しい時代の模型なんだって、透明パーツが印象付けさせてくれました。

 ーー本格的にプラモデルとしての模型を楽しむのは大人になってからだったのですね?
 
石坂:実はそうなんですよ。プラモデルが日本にやってきた時にすでに高校生ですからね。そして高校生の時は舞台に夢中になってました。舞台は芝居だけでなく、舞台装置とかも自分で作っていたので、舞台を通して物作りはずっと続けていたんです。その流れの中で、大学生活から社会人くらいの時にプラモデルを手にとるようになりました。

模型が大好きだったから見ることができた景色がある

 ーー模型・プラモデルを楽しんでいて良かったなって経験はありますでしょうか?
 
石坂:旅行に行ったりした場所で、実際の飛行機や戦車と出会えた経験は良かったですね。自分の手で作ったりしたものが目の前にある感動や、見た後にプラモを手にして、よりそのモチーフと自分の距離が縮まるという瞬間は最高です。これは良いですよ。私は1963年に初めてイギリスとアメリカに行きました。最初の東京オリンピックが開催された前の年です。まだ第二次世界大戦の香りが残る時代ですから、博物館にある展示車両や飛行機も、戦場から帰ってきたままのような状態のものが沢山あって、リアルな雰囲気を纏っていたんです。あれには本当に圧倒されました。今は塗り直されたり、レストアが行き届いたものが多いですが、あの時代でしか見れなかった雰囲気を体験できたのは今でも貴重だと思っています。実際にあるものを模型化しているスケールモデルならではの楽しみと言えますね。

大好きな模型への恩返し

 ーー沢山の模型体験が、石坂様が結成したプラモデルクラブ「ろうがんず」に繋がるんですね。このろうがんずについてもお話をお聞かせください
 
石坂:ソリッドモデル、プラモデルといういつも物作りの楽しさを提供してくれた模型に恩返しをしたいという思いがあります。模型や物作りを通して沢山楽しいことを経験できましたので。「ろうがんず」は、2009年2月23日に結成しました。実はその当時、「定年退職後のリタイア組」のことがニュースでよく取り上げられていたんです。家にいてもやることもなく1日を過ごしている人が思ったより沢山いるんだって分かったんですよ。それならもう一度模型を楽しんでみないか? って提案したくなりました。

  模型趣味は程度にもよりますが、趣味を始めるための準備も比較的簡単ですので。そこで模型雑誌などで会員を募り活動を開始したんです。僕らの世代は子供の頃に模型を楽しんでいた人が多かったこともあり、僕たちのメッセージを受け取ってくれる人も多かったと思います。そんな仲間たちとプラモデルへの恩返しという思いを込めながら、気楽に楽しく活動しています。
 また年に数回、私の地元で模型イベントも開催しています。大人だけでなく沢山の子どもたちも見にきて、思いっきり遊んでいってくれます。こうやって僕たちが模型の楽しさ、物作りの楽しさのバトンを次の世代へと繋いでいけたらと思っています。今、プラモデルは「作るための道具」、「塗るための塗料」が格段に進化していて、これからプラモデルを楽しむという人にとっても完璧な状況が出来上がっています。本当に楽しい趣味ですので、ぜひプラモデルを楽しんでください。
 
ーー本日はありがとうございました


 ライター:丹文聡(たんふみとし)
1983年生まれ。12年務めた株式会社ホビージャパンで、月刊ホビージャパンの編集と広告営業を担当。その後フィギュアメーカー・マックスファクトリーで3年務めたのち、フリーランスの編集として独立。模型ウェブサイト「nippper」の副編集長も務める。

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