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ものづくり
2024年03月04日
「当たり付き自販機」を家で存分に楽しめるマシンを作る
当たりが出るともう一本もらえる自販機がある。最近ではほとんど見なくなってしまったが、子どもの頃はあれで当たるのを夢見ていた。ちょっとしたゲーム感もあり、ドリンクを買うのが楽しくなる良い仕掛けだった。
ただ思い返してみると、一回も当たったことがないように思う。当たるまで何度も買うものではないし、そもそもそんなに台数があったわけでもない。挑戦する回数がかなり限られていたはずだ。
もっとあれで遊んでいたかった……と今になって思う。そうだ、大人になった今なら、自作できたりしないだろうか。家で気軽に楽しめる、当たり付き自販機のようなマシンを作って、存分に遊んでみたい。
当たり付き自販機とは?
かつては街を歩いていると、たま~に見かける程度には設置されていた「当たり付き自販機」。例えばこんな感じのものだった。
LEDがいくつも付いており、商品購入ボタンを押すとLEDがルーレットのように点滅して流れていく。そしてちょうど「当たり」の位置が点灯した状態で止まれば当たりである。
機種によって見せ方に違いはあるものの、多くはルーレット方式だったと記憶している。とてもシンプルなゲームになっており、突然始まって、突然終わる。面白いかと言われるとそこまで面白くはないのだが、独特の味わいがあって私は好きだった。
これをリスペクトして、自分なりの当たり付き自販機を作って楽しんでやろう! というわけだ。さっそく作ってみよう。
自作! 当たり付き自販機が存分に楽しめるマシン
自販機と言っても、実際にジュースが買えるわけではない。あくまで当たり付き自販機の「あのLEDゲーム」の雰囲気を存分に味わいたい、そして遊びたいと思って作ったものだ。タダでボタンを押し放題! 当たりが出るまでゲームし放題! という夢のようなマシンの完成である。
せっかくの自作マシンなので、ゲームに少しストーリー性を持たせたい。未来感がありつつ、歴史も長くどこかレトロな雰囲気も出てきた「E-mail」をモチーフとして選んでみた。
左側のパソコンからメールを送信し、右側のパソコンで受信。さらに右側から返信したメールを左側のパソコンで受け取る、というストーリーだ。LEDのルーレットは左回りに動いていき、途中で止まらず(パケットロス?)、無事に「当り」の位置まで到達すればクリアというわけである。
全然面白くなさそうと思うかもしれない。でもそれでいいのだ。実際の自販機ゲームも、このような何とも言えないアンニュイさをまとっている。理屈で考えるのではなく、心で感じて欲しい。
上のアニメーションGIFでは、途中でLEDルーレットが止まっている。つまり「はずれ」である。
外れた場合、特に演出はなく唐突に終わる。実際の当たり付き自販機も、外れた場合はよく分からないまま終わっていて、「あれ? これ外れたの? どうなったの?」といつも困惑していた。それを再現している……んだけど、分かりにくい! いや、分かりにくいところを再現しているので、それで合っているのだが。
全体的に「なんじゃこら」と思いつつも、「これこそが当たり付き自販機なのだ」と寛大な気持ちで見て頂ければ幸いである。
写真では伝わらないが、当たりになると「♪ティロリロン」という何とも言えない音が鳴る。おめでとう。
ちなみに私は、「あたり」の送り仮名は「当たり」派なのだけど、レトロな雰囲気があるのは「当り」な気がするので、自販機上では「当り」を使っている。
何回ボタンを押してもタダなので、これで思う存分、当たり付き自販機を堪能することができるようになった。当たる確率は1/8に設定してあり、これは何度かやっていたら、たまに当たる程度のちょうどいい案配である。
実際の自販機とは違い、当たっても特に何ももらえない。でも、そんなただのルーレットでも当たるとそれなりに嬉しいものだ。良いものができた。
動いている様子は動画でもどうぞ。
当たり付き自販機の作り方
どうやって作ったのかも少し紹介したい。まず筐体のベースは、3Dプリンタで製作した。
今回は「当たり付き自販機の概念」なので、本来の自販機ならもっと縦長であるべきところ、筐体の下半分をバッサリ削除している。自販機に付属したLEDゲームに特化した存在なのである。
LEDが付いている前面のパネル部分は、3Dプリントした板状のものにLEDを差し込んで作っている。
肉眼で見る分にはあまり気にならないのだが、いざ撮影しようと思うと反射は大敵である。撮影しづらくて後々泣きを見ることが自明だったので、つや消しの印刷紙で作り直すことに。
全体の制御を行うマイコンには、「ProMicro」という小型のArduino互換機を使用。さらに「シフトレジスタ」というICを使うことで、14個という多数のLEDを一度に制御することが可能となっている。
あとは商品を購入するための「スイッチ」と、音を鳴らすための「圧電ブザー」があるといったシンプル構成だ。
デザイン力が乏しい私には、ドリンクラベルの制作は難しかった。低い語彙力を誤魔化すように「うまい」と書いてみたらラーメンショップみたいになってしまったし、キャッチコピーが思い付かなかったので、ChatGPTにそれっぽいものを生成してもらった。
バヤリースのロゴをオマージュして、四国のシルエット(愛媛のミカンからの連想)にしたのだけは上手くハマったと思う。
改めて遊んでみる
完成の喜びを噛みしめながら、ゲームで遊んでみよう。
このゲームは、外れたときでも特に悔しいとは思わないのが素晴らしいと思う。
夜の路上を想像する。人気のない静まった住宅街。街灯と自販機の明かりだけがやけに明るく道を照らしている。温かいコーヒーでも買うかと自販機のボタンを押したところ、ピピピピピという場違いな電子音が周囲に響きわたる。しばし点滅するLEDを見つめる……あ、はずれた。
特に悔しさはない。そこにはただ「あ、はずれた」という感想があるだけだ。
思うに、当たり付き自販機ってそういう静かな存在なのだ。別にあってもなくても構わないし、特に感情が揺さぶられることもない。つまりマイナスの印象がまったくない。でも当然ながら、当たりが出ると少しだけ嬉しい。
イヤなところがなくて、でもたま~に喜びを運んできてくれる優しい存在、それが当たり付き自販機だと私は思うのである。
♪ティロリロン、という気の抜けた電子音が響き渡る。少し嬉しい。寒い夜に飲むコーヒーのように、じんわりと心が温まっていくような気がした。
当たり付き自販機、またいつの日か本物でも遊んでみたい。その日まで、この自作マシンで練習(?)しておくとしよう。
斎藤 公輔:1983年徳島県生まれ。大阪在住。散歩が趣味の組込エンジニア。エアコンの配管や室外機のある風景など、普段着の街を見るのが好き。「デイリーポータルZ」などで記事を執筆中。
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