2021年06月25日モノづくり

試して作って、少しずつーー造形作家「K」が挑む、人体[デジタル]造形の世界【前編】

はじめてのワンダーフェスティバル[1]参加にして、海洋堂のプレゼンテーション"ワンダーショウケース[2]"に選出、そして海洋堂のデジタルガレージキット[3]での新作の発売……。造形の世界観やZbrush3D造形用ソフト)[4]Form 23Dプリンター)[5]でのデジタル造形出力品販売と、あまりの新しさやその速度に、もはやデジタル異世界から来たのかと畏怖すら感じる原型師のK

そんなK氏が海洋堂と新たにつくりあげたデジタルガレージキット『Android HB 01』。フォトリアルな顔貌に筋肉や骨格のような体、動きそうなジョイントとひと目で個性しかないこのアンドロイド胸像の造形へとK氏はどうやってたどり着いたのか。デジタル造形への親和性はどうだったのか。尽きない興味のままにK氏にインタビューを敢行した。(取材・文 けんたろう)

K氏の最新デジタルガレージキット「Android HB 01」

興味や経験が織りなす立体への道

―創作の原体験や、立体に関する記憶、興味のはじまりなどがあれば教えて下さい。
K:幼少期は車が好きで、よくパーツを詳細に描き込んだ絵を描いていたのを覚えています。レゴで乗り物やロボットを作ることも好きでした。アニメやゲームには、あまり親しんでこなかったのですが、スターウォーズやバックトゥザフューチャーなどのSF作品は好きで、何度もみて、影響を受けました。作品やキャラクターというよりも、造形そのものへの興味からプラモデルに手を出したりはしてきました。それから祖母に美術館や博物館につれていってもらうことが度々あり、それは私にとってとても特別な体験だったと思います。それをきっかけにロダンやミケランジェロの彫刻に憧れを持つようになりました。

―その後美術大学に入ったそうですが、在学時代も造形関係のなにかをやっていらっしゃったんですか?
K:在学中は人体造形はしていませんでした。プロダクトデザインを専攻し、カーデザイナーとして就職した後、趣味として人体造形を始めました。3年くらい細々と、ファンドやスカルピー、NSP[6]などを触っていましたが、その後デジタルに移行していきました。

K氏のアナログ造形作品

――趣味のアナログ造形は、具体的にはどういう造形をしていましたか?
K:顔や体の習作を作っていました。技術的に未熟でしたので、完成を前提にせず、さぐりさぐり、手を動かしていました。実際には思ったようにうまくはいかず、素材をとっかえひっかえしながら何個か作った程度です。

――プロフィールにもあった人体造形に強い興味、というのはこのあたりからも伺えますね。
K:もともと美術作品が好きです。(先に挙げた彫刻に限らず、ルシアン・フロイドやフランシス・ベーコンなど人体を扱った絵画も好きです。)肉体の表面に現れる微妙な形状の変化が、表情や動きが、生きている、何かを感じさせる造形物になるのが面白いと思います。それからファッションのコレクションの動画を見るのも好きです。ファッションは人体を拡張しながら美しさを追求しています。私の[アンドロイド[7]では人体をメカに置き換えて新しいカッコよさ、美しさ、視覚的な刺激を追求したいと思っています。

――ファッションが人体を拡張している、という視点はハッとさせられます。そしてデジタルに移行したということですが、ソフトをZbrushに移行した際、感覚などはどうでしたか?
K:ソフトの基本的なしくみを覚えるのはある程度時間がかかりましたが、Zbrushは操作感を楽しめたので苦労したという感じでなかったと思います。デジタル移行後、アンドロイドを作り始めましたが、元々フィギュアにするといった目的はなくつくりはじめました。

Zburshが展開するハウツー動画
PC上で誰でも3Dデータが作成できる

――――フィギュア化を考えなかったのはまたどのような理由だったのでしょうか。目的がないというのは……
K:目的がないというよりは、最終ゴールが自分でもわからない状態で、ろいろな表現方法を模索していたという感じでしょうか。そもそもアンドロイドを作り始めたのは、そういうスケッチを描いたことがきっかけです。あたらしい表現を求めて、いろいろなスケッチを描いたりもしていました。その頃、コンセプトアートの世界ではデザイナーが自ら3Dデータを作って魅力的なビジュアルを生み出しているのを知り、自分も「解像度が高く、精度の高いビジュアルを得るためには、実際に3Dデータをつくった方がいいのではないか」と思うようになりました。それでZbrushを始めたといえるかもしれません。必ずしも立体化を前提に作り始めたわけではなかったと思います。

――3Dプリンターを導入するまで少し時間差が……?
K:実際にデータを作り始めると、工業デザインの仕事をしていたこともあり、細かい面の質感などにもこだわりが出て、「やはり自分のやりたいことは二次元の中だけでは表現できないのではないか」と感じるようになりました。そこでプリンターを導入し、今に至ります。

――結果的にデジタル造形をはじめてからの期間はどれぐらいですか?
K:5年くらいです。現状もベーシックなスキルしかありませんが、できないことはその都度調べながら使用しています。

K氏が所有する光造形式3Dプリンター「Form 2」
スピーディーで精細な造形が特長

――Form 2(3Dプリンター)を導入して、ワンダーフェスティバル向けのキット生産にかける時間はどれぐらいでしたか?イベントのための生産をしていないシーズンでは、試作などの生産はどれぐらいの頻度でしているのでしょうか。
K:一体作るのに一日かかったので、スピードは速くないと思います。本格的に生産するためには複数台の運用が望ましいと感じました。試作品は月に数回程度です。

ワンダーフェスティバルとの邂逅

――はじめてワンダーフェスティバルに参加した時の感想を教えて下さい。
K:就職後に粘土による人体造形を作っていた時に知りました。その時は自分の造形技術を上げるために参考になるものを求めて一般で参加しましたが、ディーラー参加するというイメージまでは持ちませんでした。

ワンダーフェスティバルはフィギュアや模型をはじめとする国内最大級の立体造形の祭典

会期中の海洋堂ブースは来場者でごったがえす

――結果的に参加することになった理由はなんでしょうか。
K:前の問いでお答えしたように、(デジタル造形は)そもそも立体化が前提で作り始めたわけではありませんでした。そのためなかなか完成しなかったので、目標を設定する意味でワンフェスへの参加を決めました。

――ワンダーフェスティバルという締め切りを設定すると完成する、これはめちゃくちゃわかります!そしてワンダーショウケースに選出されました。どんな感想をいだきましたか?
K:初めての参加でワンダーショウケースに選出いただきましたが、メインストリームから外れている私を選んでいただいたことに、ワンフェスの懐の深さを感じております。

ワンダーショウケース第38期プレゼンテーション作品に選出されたK氏の作品「Android EL01」

▶▶▶[後編]K氏が語る、新ガレージキット「Android HB 01」▶▶▶


[1] ワンダーフェスティバル(WF) 海洋堂が年2回開催する"世界最大の造形の祭典"。おのおのが制作した造形物を複製したガレージキットを展示・販売する。主にキャラクターのキットがメディアでも取り上げられるが、オリジナルの造形やキットのほか、造形に関係するアイテムまでゆるく広く扱われているのが特徴。(ガレージキットやワンダーフェスティバルについては過去のセンムの記事をチェック!)

[2] ワンダーショウケース(WSC) 海洋堂がワンダーフェスティバルのガレージキットから、とくにすぐれた造形を顕彰し、そのアイテムを広く世に知らしめる、プレゼンテーションでありセレクション的な存在。ワンダーフェスティバルのたびに2~3作が選出され、ガイドブックにもその選出された造形が掲載されている。

[3] 海洋堂のデジタルガレージキット 海洋堂は3Dプリンターで出力したキャラクターもののフィギュアや怪獣、ロボットやスケールものなど多岐に渡るキットが販売している。海洋堂自身が所有する3Dプリンターのファクトリーにて生産されているので、フットワーク軽く新しいネタを投入しているのが特徴。今回のAndroid HB01もこのデジタルガレージキットとして販売されていて、オンラインストアなどで購入できる。

[4] Zbrush デジタル造形での基軸となるアプリケーションになったおなじみ3D造形用ソフト。家庭用PCのスペックでも使用でき、盛る削るの直感的な操作や多彩な表面表現など、デジタル造形をはじめるならこのソフト、というぐらいになった。

[5] Form 2 デジタル造形での基軸となる出力機となったおなじみ3Dプリンター。スジのないなめらかな出力品はモデラーの3Dプリンターに対する要求に応える。海洋堂も10台単位で導入し、試作やデジタルガレージキットの生産に使用している。

[6] ファンド・スカルピー・NSP 模型用の粘土。ファンドは石粉粘土で、水分の蒸発で硬化する性質。スカルピーは樹脂粘土で、焼くことで硬化する。NSPは油粘土で、そもそも硬い。生物などの造形をするときは、こうした柔軟性のある素材を用いるのがセオリー。ヘラで押せば押しただけカタチが変わる、盛り上げたり削ったりが直感的でカタチを追い込みやすいなどパテと異なり固めないからこその使い方が魅力。使うならたくさんの粘土素材から自分に合ったものを見つけるのが一番重要。

[7]アンドロイド K氏のアンドロイドは最初にワンダーフェスティバルにて販売したAndroid Ver.01(のちにワンダーショウケースAndroid EL01となる)や展示したAndroid iv02、そして今回発売したAndroid HB01など人肌と機械骨格の織りなす造形を制作している。


ライター:けんたろう

模型雑誌を自由に飛び回るプロモデラー。新キットの作例や、途中写真を用いた組み立てのHowto記事、工具やそれを用いた技法の解説からインタビューまで、その内容は多岐に渡る。最近はnippper.comでもその知見を活かして牛丼の玉ねぎ的な存在の記事を書いている。

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