ものづくり 2021年06月25日

試して作って、少しずつーー造形作家「K」が挑む、人体[デジタル]造形の世界【後編】

データ制作から出力までをすべてデジタルでこなす原型師、K。人体造形に魅せられ、初参加のワンダーフェスティバルで華々しい結果をのこした話題の造形作家だ。

ここからは海洋堂との新たなガレージキット「Android HB 01」についてお話を伺っていく(文・けんたろう)

★前編はこちらから 


「Android HB 01」について

――今回のデジタルガレージキット、「Android HB 01」はわずかに5パーツです。パーツを統合してしまえる[1]のがデジタルの強みのひとつかなと思いますが、プリンターによる造形に合わせたポイント、みたいなものはありますか?
K:パーツを減らしたいという意図があったわけではないですが、3Dプリンターの特性に合わせた結果、そうなりました。具体的には三次元的な複雑なつながりのある形状が強みだと思います。

デジタルガレージキットはパーツを接着して組み立てる
レジンの接着は「スーパーXゴールド」で

――「Android HB 01」は人間的な部分もあり、そして生体部品的なところもありという、全体的に見どころの多いものになっています。どのあたりがとくに見て欲しいポイントですか?
K:単純に体の表面を作るのではなく、体の内側と外側が入り組んだようになっている部分は特に注力した部分です。

――顔の表情がすごいと感じます。無表情にも見えるし、怖くも見えるし、見る人によってどうとでもとれるような、私なら蔑まれているようにも見えるのですが……。このあたりの表情づけや顔の造形にはどういったこだわりがありますか?
K:特定の感情を想起させるような、強い表情はつけていませんが、全くの無表情というわけでもなく…生きている人。そんな感じです。顔だけでなくポーズによる影響もあると思います。造形に関しては、顔が主題になる作品というわけではないので、個性を持たせることよりもバランスをとることに注力しています。

――瞳があることにも驚かされました。生きている人、として造形するポイントみたいなものはありますか?
K:生きている感みたいなところは、制作の中で一番大切にしていきたい部分でもあります。目玉についてはそのまま飾っていただくことも想定して、陰影で表現をしました。
特にこれ、というポイントはわからないのですが、人間は人間の形の違和感には厳しい目を持っていると思いますので、とにかく違和感がないように調整していくことなのかなと思っております。

――胴体は肋骨のあたりは意外としなりがあったり、逆に腰のあたりは硬かったりと、ラインの太さや細さで強度的なものを変えたり、見える印象を変えたりと、人間の筋肉や骨を模しつつも、シルエットとしてカラダを表現する、このあたりのアイデアはどこからきていますか?
K:これは試行錯誤した結果です。このように3Dプリンターに特化した造形言語は、今回初めて取り組みましたので、いろいろなパターンを試しました。結果、複雑な構造の中に、人間らしい筋肉や骨、女性らしい肉感が混ざり合った今のような形状になりました。テーマと造形のバランス感覚は、たぶんカーデザイナーとして培ったデザイン的なアプローチを頼りにしています。

――解剖学的な視点ではなかったんですね。仕事のデザイン的アプローチというのは、どういうあたりだったのでしょうか?
K:もちろん解剖学的な視点もありますが…私は専門家ではないですし、結局かっこいいと思う形を優先してしまいます。
スケッチをして、テーマを明確にして、それをベースに形をコントロールしてスタイリングしていく感じです。

――肩のボールジョイント的なところなどは彫りを深くして、いかにも動きそうな、あるいはパーツが分かれていそうな感じになっています。このあたりのモールドの管理も秀逸だと感じました。
K:可動しそうな部分、そうでないところ、素材感、工法、などをそれとなく想像しながらディティールをそれっぽく見えるようにすることは、非現実的なものにリアリティを持たせる上で大事にしたいと思っています。

この接続部も、動きそうな感じのモールドになっていて、本当にいいんですよね……

再びデジタル造形の話へ

――ワンダーフェスティバルにディーラーで参加したときはデジタル造形とForm2の組み合わせを使っていますが、いわゆるガレージキットではおなじみのシリコン型やレジンキャスト[2]というのは扱ったことはありますか?
K:キットとして販売するためにしたことはありませんが、個人的な作品で型取り、複製はしたことがあります。

――とすると、シリコン型で複製しやすいパーツの分割などが3Dプリンターの特性とは違うことを理解していて、アナログ~デジタルへと移行するなかで造形の方向(あるいはパーツの分割の仕方)が変わった、ということもあったのでしょうか?
K:自ら手を動かしたアナログの複製の経験は数えるほどしかありませんが、工業デザインの世界では型や樹脂の特性で、デザインが影響を受けることを数多く経験してきましたので、それなりに知識はあったと思います。そんなこともあり、はじめは一般的な型と樹脂の流し込みを前提とした形を発想していましたが、デジタル造形、デジタル出力の経験をしていく中で、型どりの時とはまた違った表現ができることを肌で感じました。
今回の「Android HB 01」は3Dプリンターでの生産が前提ということもあり、積層していくのに合わせた造形に初めて本格的に取り組みました。

「Android HB 01」の3Dデータ

――Zbrush(3D造形用ソフト)の操作感を楽しんでいた、とおっしゃっていましたが、実際に楽しいという部分はどのあたりになりますか?
K:アナログに比べて、物理的な制約を受けにくいので、狙っている形を出しやすい。大胆に試行錯誤できるので、happy accident の恩恵を受けやすい。そのあたりが楽しいです。

――アナログ造形からデジタル造形へと移行すると、どうしても手で作ったほうが早い、というもどかしさを感じる方も多いようですが、そのあたりはすんなりといけたのでしょうか。
K:前職の自動車のデザインの現場もデジタル化が進んでいましたので、デジタルで造形すること自体には違和感はありませんでした。造形に対する感覚も、デザイナーとして働いていた10年の経験の中でついてきたものだと思います。

――ちょうどデジタル造形に向かおうという人も増えていると思うので、なにかメリットなどポイントの部分があれば教えていただければ。
K:デジタル造形の利点は、様々なパターンを大胆に試しやすいので、最終的なアウトプットの質をあげやすいことがあると思います。またメカのように左右対称や精度が大切になるモチーフに取り組むには特に有効だと思います。それから汚れないのでフィジカルな負担を低減できる点もいい点かな、と感じています。

――新しいカッコよさ、美しさ、視覚的な刺激の追求、まだまだたくさん拡張性がありそうで、今後も楽しみにしています。最後に、Kさんがこれから未来にプリンターなりソフトなりで、ここが伸びてほしいなあという部分はどこですか?
K:Zbrushに関してはどんどんアップデートされていくので、正直まだ追いつけてもいない部分もありますが、プリンターは石や金属などいろいろな素材が簡単に扱えるようになるといいなと思います。

ミステリアスなプロフィール、独特の世界観の造形、いきなりワンダーショウケースの栄光……。事前に見られる情報からは、デジタル造形精鋭のイメージしかなかったK氏。しかし飾らずざっくばらんに答えてくれたところからは、むしろそういったデジタルネイティブという感じでもなく、かといって造形スクワットマッチョマンという感じでもない、何事も経験値にする等身大の人物が伺えた。もちろん造形が素晴らしいことは言うまでもないが、それが人間の目から見た違和感を消すことで生まれることには驚かされた。そう言われてから再び見るAndroid HB01の顔貌にはまた魅力が増しているような気がした。それにしても、Zbrushというソフトには追いつけていない気がする、というのはデジタル造形をする人みんなの共通認識ではないだろうか! (けんたろう)


[1] パーツを統合してしまえる 3Dプリンターと従来のシリコン型を用いた量産の大きな違い。シリコン型は素材の特性上中空のパーツに対応しづらく、パーツをどんどん割って複製するほうが効率的。逆に積層する3Dプリンターは、パーツを繋いでしまったほうがプリントしやすい。この違いを意識すると、デジタル造形ならではの部分が少しだけわかる。

[2] シリコン型やレジンキャスト ガレージキットといえば、原型をシリコン型でとり、その型にレジンキャストを流し込んで複製したものが一般的。デジタル造形ソフトや3Dプリンターの普及にともなってプリンターでそのまま出力した出力品を販売するケースも増えてきて、海洋堂のデジタルガレージキットやK氏がワンダーフェスティバルで販売したものがそれにあたる。


ライター:けんたろう

模型雑誌を自由に飛び回るプロモデラー。新キットの作例や、途中写真を用いた組み立てのHowto記事、工具やそれを用いた技法の解説からインタビューまで、その内容は多岐に渡る。最近はnippper.comでもその知見を活かして牛丼の玉ねぎ的な存在の記事を書いている。

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