2021年01月22日モノづくり

いつだって最先端!アナログから3Dプリンターへ、海洋堂の造形いまむかし ー後編ー

海洋堂のリアルなデジタル

いつの時代も「造形」の世界を切り拓き、先頭を駆け抜けてきた海洋堂。

ここからは3Dプリンターをはじめとする「デジタルものづくり」と、海洋堂の未来についてを海洋堂専務、宮脇 修一氏(愛称:宮脇センム)に伺っていく。(文・けんたろう)

★前編はこちらから 


Form 23Dプリンター)は4年前、大阪芸術大学の授業の延長線上で1台を入れてたけどそのときはとくに役に立てず。実験機みたいなカタチでしかなかった。で、西が入社した時「デジタルでこれやってみましょう」というので一番最初はマシーネンクリーガー[1]をやった。

[1] イラストレーター横山宏氏の展開するSFメカニックの雑誌企画。ロボットやパワードスーツなどの立体物が登場し、模型雑誌にて長らく連載された。立体物を用いたストーリー仕立ての特撮写真が特徴で、あたかも横山市のイラストを立体化したようなイメージがかき立てられるスチールがファンのツボをついていた。現在でも様々なメーカーから立体物が発売されており、海洋堂でもガチャーネンというカプセルトイサイズのプラモデルなども製品化されている。

海洋堂の「デジタル」を加速させた西氏(写真左)

3Dプリンターで商売になったのは最初がカメ止め、半月後にガラモン。デジタル造形をはじめた海洋堂の原型師は山口勝久[2]が最初で、最近松村しのぶ[3]が中国に行って向こうのデジタルの進み方や凄さを見て始めた。この二人だけ。

あとは榎木(ともひで)くん[4]まあボーメくん[5]にせよ、カメ止めをやった寒河江くん(寒河江弘)[6]にせよ、(物理的に)でかく造った原型を、3Dスキャンしてキレイにしたり、活用してる。また香川くん(香川雅彦)[7]が作ったものを、スキャンしてデジタルでアレンジするともっといいものができて、「ああいいね、香川のこんな小さな原型がおっきく見えるよ~」って見たりしてる


▼海洋堂を支える原型師たち▼

[2] 山口勝久氏:アメコミ映画やエヴァンゲリオン、ロボットからキン肉マンまで、可動するフィギュアの原型といえばこの人。迫力あるポーズからまた異なる威容を誇るポーズまで、計算され尽くした可動と造型を行き来する達人。デジタル造型を会得し、さらなる飛躍を果たした。「昭和44年、タミヤを見学したとき私は小学5年生でした。かっちゃんさんが3年生で。そのころからかっちゃんさんも客です。」(センム)

[3] 松村しのぶ氏:怪獣、動物、恐竜を得意とする原型師。この10月に発売される全体で90cmのエヴァンゲリオン初号機の原型を制作。暴走しサキエルを倒したゾッとする怖さをそのままに、妖しげな魅力もまとった造型は一見の価値あり。また話題になったリボジオ オオスズメバチの造型総指揮も担当。おおよそ実物から2.5倍のサイズのオオスズメバチ、恐怖も感動も2.5倍。

[4] 榎木ともひで氏:ぷにっとした女の子のフィギュアを中心に、人やヴィネット形式(ジオラマのいち部分を切り取ったような、コンパクトで高密度な台座付き小品)の造型を手掛ける原型師。ビブリア古書堂の事件手帖のカプセルQフロイラインは美しい表紙の横顔を見事に引き出したかのような素晴らしい造型。模型雑誌の海洋堂広告にマンガ『ホビロビ』を連載していたこともある。

[5] ボーメ氏:パワーあふれる大きな美少女フィギュアを作る原型師。80年代からフィギュアを作り続ける、文字通りのトップランナー。村上隆氏とタッグを組んだことで美術界にも爪痕を刻んだ。近年でも愛媛県鬼着北町に赤ちゃんの鬼王丸を抱えた母鬼の柚鬼媛像を制作。5mの大きさとそのセクシーさでボーメ氏のパワーを天下に示した。名前の由来は帽子とメガネの略。ワンダーフェスティバルでもフェラーリの帽子を着用した氏の姿を見かけることができる。

[6] 寒河江弘氏:顔のシワひとつ逃さない人物の造型でリアルさを表現する"フィギュア王"。特徴を捉えたディフォルメで、誰が見てもその人物であると認識させる造型。特撮映画の美術スタッフも務め、芸能人のフィギュアをいくつも制作した。みなさんも芸能人のフィギュアを見たことがあるなら、そのどれかは必ず寒河江弘氏の制作したものだろう。デジタルガレージキットでも、横山宏氏の頭部セットでその原型を楽しむことができる。

[7] 香川雅彦氏:「指先造型の一番大好きな原型師。彼はゴッホみたいなタイプで、自分の手をこのダメな手が! ってコンクリートに叩きつけるような人間なんです。」(センム)宮脇修も惚れ込む。カプセルQにもなったAKIRAや、この世界の片隅に、センムの部屋シリーズ『未来少年コナン』のラナなど、作品の空気感を内包した造型は、サイズを感じさせない圧倒的なものをもっている。


最初からデジタルに移行できるならいいんでしょうけど、第1世代の造形師はアナログなりのよさがあっていまさらようせん人間もおるので、もう仕方がないねと。まあ僕も本来デジタルだいっきらいな人間やからね。でも西村井が来て、デジタルをガンガン推してくれる。西はエキスパートではないけれどもそれがよかった。なんでもやってくれる。村井は絵心のあるデジタルに親しんだ人間で、デジタルとアナログを乗り越えるというか、なんでもアリやから。

なんかしらんけど、でかくなったり、好き放題。それでまた作り込みができる。それで出来上がってくるものが本当にワクワクさせてくれる。この村井を番頭として、西が実際に商品を作る人間として、両輪でやっています。

海洋堂デジタルの両輪を担う二人。

(左)つくる人:西さん

(右)番頭:村井さん

ほんまガレージキット創世記の頃の面白さですから。だから普通に思いついたら「むらい~にし~、いま思いついた~。あれやって~って。」ダメな指揮官が来て、ああせいこうせいって言ってるようなもので、自分でもアカン命令を出しているというのがよくわかる。

でもデジタルをわからんからこそ、頼めないこともできる。まあ(機材で)できるなら買ったらええやんって言って、高い機材の案内を見せたら、「それは高いだけです」って言われて。まあ全部内製にしたいのはそうだけど、当面はうちらもスキャンするところは業者に持っていったり。

でもForm 2(3Dプリンター)[8]もそうであるように、昔だったら機械が1000万したものがわずか40万50万で買えちゃうわけですよね。それこそ10分の1どころかもっと安くなるようなご時世になるんだから。今取材を受けているこの部屋の隣に、「夢の部屋」の一歩手前のものができてる。もう少しするといい夢になる部屋。

[8] Formlabs製の3Dプリンター。本体の価格やライフサイクルコストが無理をすれば一般のモデラーでも使えるレベルまで降りてきたことや、ピッチが細かく出力品の表面がなめらかになったことなどがあり、モデラー向け3Dプリンターのスタンダード製品となった。海洋堂はこのForm 2を並べて工場のようにガレージキットを生産したり、試作品を出力したりと活用している

海洋堂の3D造形スペース

Form 2がずらり!

やりたい放題だからデジタル造形に作家性が出てくる

いまはもうZbrush[9]とかああいうものがあるおかげでサクサクと絵を描く感覚で、造形らしきことができて、指先よりも細かいグリグリ削ってという作業が誰でもできちゃう。昔はゼロから粘土とヘラを使って造形なんてハードルが高かったんですよ。指先の技術よりソフトの習熟で、誰でも作ることができて、造形の幅を広げることができる

ワンダーフェスティバル[10]ではワンダーショウケースを作って、作家を応援しているけれども、今やほぼ全員がデジタル造形でZbrush使って、怪獣であろうが女の子であろうが造形できちゃっている。デジタルかどうかで審査しているというより、ただ作家でうまい人がデジタルを使っていた

ふわふわしているものは、昔だったら芯を金属で作らなければダメだった。でもいまは服のひだひだとか、重力を無視した髪型とかとかやりたい放題できるんで。そうすると重力感のないような、重心なんかも前は考えられないようなものが作れる。当然そういう作家力のあるものが出来てきますよねぇ。最近になったら、もう自分で模型もプラモもやったことない人が原型製作者、原型師になりました~って。もうなんでもアリですよね。そういう時代が来ちゃったんですよ。デジタルで作ったものがそのまま出力で売れたらもう、ワンフェスの未来とか造形の未来の姿だよね。それを僕らが商売として昇華させないことにはなんにもならんので。

[9] 読み方は"ズィーブラシ"。現代デジタル造形における最も広く使われているソフトウェアのひとつ。専用のマシンを使うことなく一般的な家庭用PCでも使用できることで導入障壁がぐっと下がった。盛る削るの直感的な操作が可能なこと、そしてフィギュア造形的な緻密な表面表現がやりやすいことが特徴。近年では日本語にも対応したのでますます手に取りやすくなった。

[10] 世界最大の造型の祭典。1985年に始まり、現在は夏と冬を中心に開催される。メーカーやアマチュアが結集する一大イベントとなっていて、アマチュアは1日版権というライセンスを得てアニメやマンガなどのフィギュアを展示、販売をする。プロからアマチュアまで、多数の参加者が自分の造型を世に問うて、買う側は造型と夢を共有する。メーカーは向こう半年の新製品展示やおのおのステージでのイベントを行う。

ワンダーフェスティバルは、僕が主催者でしょ。ほかのイベントのような共和国じゃなくて、うちは独裁主義国家であるべきだと。主義主張、ものを売るときは考える、そうでなかったらアカンというのが考え方で。造形そのものについてもそうだけど、そういうことよりも実行委員長としてこれから来る未来を見せないと

2000年に、実行委員会の名のもとに一回ワンフェスをやめますってお休みしたこともある。ひどい主催者だ。キミらにとって造形はどこまでの覚悟で来るねんと。信任投票をするために一回休むようなすごい行為すらした。当時はこのままなんかぼんやり広がるのはいややなって時期だった。まあでももうそんなことはしませんけど。(それでリセットちゃんというキャラクターができた[11]

[11] 今でこそワンダーフェスティバルのガイドブック表紙はワンダちゃんとリセットちゃんのふたりが描かれるのがおなじみだったが、もとはワンダちゃん一人だった。海洋堂がワンダーフェスティバルを一回"リセット"し、2001年に再びリスタートというタイトルをつけて開催したとき、この事件の象徴として生まれたのがリセットちゃんだった。デザインは水玉螢之丞氏。

上海のワンフェスも今年10月で3回目なんですけど、すごいです。最初は不正コピーのことがあって良い印象はなかったんだけど、クオリティも、造形志向も、何もかも日本を遥かに凌駕していますから、びっくりしました。僕らが苦手な「中国」はそこにはなかった。

ちゃんとした正しいオタクで、審美眼もあって。中国の原型作家ってお金持ちなんですよ。北京に造形公房があって、駐車場にはポルシェにBMW、アウディがある。で、とくに向こうのフィギュアメーカーでポップマートというのがあって、東京で言ったら六本木ヒルズみたいな、一番高いビルの一番上のワンフロアを借りて家賃を払っている。中国はいきなりフィギュア先進国になっちゃったんですよ。

宮脇というキャラクター、海洋堂という会社は続いていく

次のワンフェスは、もっとデジタルが増えればいいねと。実行委員長として、自分の目の黒いうちに何かはやります。造形として例えば今回はデジタルをテーマになにかやります、次は何をします、こうします、ってこちらがなるべく新しい人にむかって、新しい道具を使って発信の場としてなにかやるべきだし、そうやっていけば何年かにはコレ、って海洋堂が結果につながる部分があるかもしれない。

っていうのも、オタクの世界でエヴァにせよヤマトにせよガンダムにせよ、最初から狙ってヒットしたものはひとつもないんですよ。マーケティングとかマーチャンダイズをしっかりして成功したなんてないわけで、僕自身もそんな意思をもって何かを生み出そうなんてそんなことは無理なので。

最近未来少年コナンがテレビで流れてて、僕はあれで人生が変わったんですが、あの素晴らしいものが当時は退屈って言われてて。いまはビデオがあるからいいんだろうけど。

だからこそまあガレージキットをやったりとか、PVC製の完成品をメイドインチャイナでフィギュアにしたり、チョコエッグというお菓子のおまけをやったり、今で言うところのアクションフィギュアのリボルテックをやったりと。秋葉原もそう。僕らが1996年にラジオ会館に1号店を出して。いろいろな偶然の結果、今の海洋堂がある。そういう意味では海洋堂もフィギュアが評価されて、市民権を得たなんてこれっぽっちも思ってないから。もうあとどれだけ世の中にフィギュアや、模型が、市民権を得られるかっていうのはなかなか大変ですね。

宮脇というキャラクターがいつの時代も【海洋堂】を体現している

模型メーカーの社長として、「僕はプラモは4万個あります! 世界一持ってますよ!」って愛情なり、情熱なり示すし、あと自分でもフィギュアを塗ったり作ったりもする。海外メーカーとかタミヤを語るとか、造形師の代弁もするし、こうしてデジタルも語る。

自分のなかで宮脇というキャラクターが存在して、話をさせてもらうと。それこそカリオストロの伯爵みたいに一人で回って一人で戦う。まあ毒でもあるけど、こういったフィギュアの世界で、あっしみたいなものがそうやって生きているのが特徴でもあると。ここが海洋堂の幸いなところで、他の会社では細かい製品まで誰の意思でやってるかというのはわからない。会社の社長が誰かっていうのもわからない。誰の意思であの製品を作っているのかって、全てワシの意思じゃ!と言い切ってしまう。

名刺に(センム)って書いてますけど、なぜかと言うと経営はしたくないの。海洋堂っていうのは小さい40人ぐらいの会社で今までは居続けて、僕が好きなものが作れればあとは好き放題やらせてますから。ちょっと次からはマシになりますから、企画書作って稟議書作って、原価率を計算して、時間がもっとかかった商品が出てくるかもしれませんが、あくまで僕の好きなものを作らせる会社なので。デジタルもその延長線上にあります。 (文・けんたろう)


ライター:けんたろう

模型雑誌を自由に飛び回るプロモデラー。新キットの作例や、途中写真を用いた組み立てのHowto記事、工具やそれを用いた技法の解説からインタビューまで、その内容は多岐に渡る。最近はnippper.comでもその知見を活かして牛丼の玉ねぎ的な存在の記事を書いている。

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