ものづくり 2025年12月12日

「デザコン」って知ってる? ロボコンだけではない高専の全国技術大会

 「デザコン」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。
 
デザコンとは、5年制の高等教育機関である「高専」の学生によって行われる競技大会の1つ。「全国高等専門学校デザインコンペティション」(通称:デザコン)という名で、主に土木系・建築系を中心とする学生が、専門的な知識を基に制作した作品で技術を競い合う大会です。社会課題の解決など広い視点を持ち、作品に取り組んでいるのが特徴です。
 
歴史は長く、1977年(昭和52年)にさかのぼります。始まりは明石高専と米子高専の建築学科で行われた研究交流シンポジウムで、その後、参加校を増やして発展。2004年以降は全国の高専全体での取り組みに変わりました。
 
現在、ロボコン(ロボットコンテスト)、プロコン(プログラミングコンテスト)に続く、高専の第3の競技として学生たちが力を入れて取り組んでいます。
 
ロボコンはテレビ放映などで広く知られていますが、デザコンはあまり知られていない世界かもしれません。高専生がどのような技術を用いてデザインを創造しているのか。
 
デザコンをこの目で見ようと、開催地に向かいました。
 

福井県で「織りなす」をテーマに開催

デザコンは毎年開催会場が異なります。全国の高専が持ち回りで主管校を務め、大会を運営しています。
 
2023年は京都府舞鶴市、2024年は徳島県阿南市、そして今年の開催地は福井県鯖江市です。主管校は福井高専(福井工業高等専門学校)で、11月8日(土)9日(日)の2日間にわたって開催されました。

 

 「でざこん2025ふくい」の看板
全国で毎年行われるデザコンは、その地域のものづくりや科学技術への関心を高め、高専生の技術の高さを示す貴重な機会でもあります。福井県は、古くから絹織物の生産が盛んで、明治期には羽二重織物が広く海外に輸出され、繊維産業が重要な役割を担っていた地です。そんな福井の歴史や技術を背景に、「でざこん2025ふくい」のメインテーマは「織りなす」に設定されました。毎年メインテーマに沿って部門ごとに作品に取り組んでいます。
 
部門は5つ。空間デザイン部門、構造デザイン部門、創造デザイン部門、AMデザイン部門、プレデザコン部門にわかれています。
構造デザイン部門の作品。繊細なデザインに興味がわく
構造デザイン部門は、紙を用いてつくられた橋に、荷重をかけて構造設計を競います。紙の特徴を生かして、耐荷重性と軽量性、デザイン性にすぐれた橋を目指します。会場に飾られた橋を見ると、デザインの美しさや構造の緻密さを実感しました。
AMデザイン部門。愛媛県の弓削商船高専が手がける『ルーメット』と『織り餌』のブース
また、AMデザイン部門は、3Dプリンタを用いて新しいものづくりを行っています。自由な発想、地域課題や社会に向けた視点、デザインを意識した表現など、多彩なプロダクトが展示されています。大胆なアイデアと社会課題に対する繊細な姿勢が織りなす作品の数々は見ていて飽きません。

興味深い「空間デザイン部門」の展示へ

さて、住宅やインテリア分野の取材活動が多い筆者が特に惹かれたのは、空間デザイン部門です。さまざまな居住空間の未来を立体的に示す内容で、建築や土木構造物、都市計画、地域計画、地区計画などの設計案で競います。
 
メインテーマ「織りなす」をもとに、空間デザイン部門は「織りまざる住まい」をテーマに設定。住まいとまち、人、土地、文化など、さまざまな重なりを意識した提案が集まっているようです。
 
そんな空間デザイン部門の作品展示を見るために、鯖江市の「まなべの館」へ。
 

空間デザイン部門が開催された「まなべの館」
館内のロビーには、100を超える応募作品のプレゼンテーションポスターが閲覧できるようになっていました。1枚1枚めくって眺めると、豊かな提案と、表現方法の工夫が見てとれます。
「まなべの館」の入り口近くには応募作品が自由に閲覧できるようになっていた
募集要項によると、今回の課題で求められていたのは、「複数の⼈たちが空間を共有し、多様性の観点からライフスタイルや⽂化が違う⼈たちが助け合いながら⼀緒に集まり過ごす空間」でした。地域の文化を育み、地域住⺠と助け合い絆を深める場として機能するように計画することも明記されています。
 
用途は、住宅に限らず、公共施設や商業施設、広場など自由に想定。実際の地域の抱える課題や、社会状況を調査したうえで提案することも条件とされ、⽂献やフィールドワーク、地域住⺠へのインタビューなど、さまざまな視点からの調査・分析を行うことが求められています。時間をかけて調べ、足を使い、人に会って話を聞く。取材にも似た積み重ねや、人との関わりがものづくりにもあることを実感しました。
 
会場には、選ばれた10作品が展示され、本選が行われます。プレゼンテーションと公開審査によって入賞作品が選ばれるのです。
展示室の様子
展示室に足を踏み入れると、立体模型や平面資料が目に入ってきました。見せ方の表現も審査の対象とのことで、どう見せるかをギリギリまで調整しています。
模型の表現はさまざまで見応えがある。写真は小山高専の「織り交ざる参拝路」
芝生や土の表現も豊か。米子高専の「時代を超えて人々を紡ぐ残丘的建築」
未来の様子も模型で表現。熊本高専(八代キャンパス)の「君マチ〜君と広げる小さな町〜」
細かなところまで作り込まれている。石川高専の「すれ違いの共生」
数独の概念を用いた発想。小山高専の「40mのタペストリー」
 絵や写真も組み合わせながら世界観を表現。石川高専の「関係集落」
模型を眺めると、光を取り込むための開口部の抜き方、借景、動線など細やかに想定し、立体で表現されています。ポップや照明を用い、見せる工夫も伝わってきます。
 
本選に進んだ10作品をのぞいてみました。

本選に進んだ個性あふれる作品の数々

豊田高専の「森つむぎ、街つなぐ」
愛知県の豊田高専のチームが取り組んだ「森つむぎ、街つなぐ」。豊田市稲武地区に着目し、既存の建物のリノベーションと新築による間伐材利用のサイクルを作ることで林業を再び地域の軸に戻す提案です。手前には1/200で表現された住まいやショップ、オフィスなどの模型もあり、そこで実現する建物や空間の使われ方のイメージが鮮明にうかびます。
 
有明高専の「日常を上演する舞台」
複数名でチームを組んで応募することが多いなか、ひとりで取り組みつくりあげる作品も。
 
有明高専の「日常を上演する舞台」は、かつて炭鉱のまちとして栄えた大牟田市の敷地を対象に、劇場と地域食堂が溶け合う新たな交流の場の計画です。手がけた5年生の坪井さんは、授業の一環でつくったプランを「せっかくなので出してみよう」とデザコンに応募したそう。まちとの関係性や地形を表現しながらつくられた模型はダイナミックであり緻密でもあり、眺めていると暮らしが浮かんでくるようです。
 
石川高専の「すれ違いの共生」
模型を見て佇まいに惹かれたのが、石川高専の「すれ違いの共生」です。集合住宅の住まいに宿など公共機能を追加し、配置計画や共用動線設計、住戸とセカンドスペース(離れ)の関係、プライバシーと交流を両立する建築の工夫などが盛り込まれています。担当した上野さんは今回初めての参加。計画はひとりでつくりこみ、模型やプレゼンテーションは先輩やクラスメイトに手伝ってもらったといいます。目の前にあったら足を踏み入れてみたい印象的な作品でした。
 
米子高専の「時代を超えて人々を紡ぐ残丘的建築」
模型をひと目見て引き込まれたのが米子高専の「時代を超えて人々を紡ぐ残丘的建築」です。奥出雲町の棚田と残丘のある地区を対象に、農業移住者を育成する住宅と地域の寄り合いの場などからなる住まいの提案で、残丘と建築の風景がとても魅力的でした。奥出雲のたたら製鉄の文化や地形にも興味がわき「行ってみたい」という思いが湧いてきます。
豊田高専の「みちまどい」
豊田高専ではもう1チームが本選に進みました。名古屋市有松を起点にした作品「みちまどい」は、みちと地域の関係を捉え、地域振興と設計手法の提案です。模型がダイナミックで見応えがあり、プレゼンの構成に巧みさも目をひきました。敷地の読み込みや地域住民へのヒアリングなど、調査を重ねた過程から本気度が伝わってきました。
石川高専の「関係集落」
リアリティを感じたのが石川高専の「関係集落 〜関係人口とオフグリッド建築が織りなす 暮らさなくても居られる場所〜」でした。地域の人口減少が進行するなか、空き家改修を核に「関係人口」を創出・拡大して、地域の持続性を高める提案です。課題に共感するとともに、いますぐ実現できそうな具体的な提案や発表に聞き入りました。
高知高専の「唄で紡ぐ」
わらべうたにある街の風景や人々の営みを表現した視点がユニークだった高知高専の「唄で紡ぐ」。高知県香南市赤岡町を対象に、地域特性を活かした事前復興まちづくりの提案で、審査員もわらべうたの着眼点に関心を寄せていました。発表では、フィールドワークやインタビュー、地域ボランティアなどを通じて継続的に関与していることにも触れ、当事者としての関わり方に説得力がありました。
小山高専の「織り交ざる参拝路」
栃木県の小山高専の「織り交ざる参拝路」は、日光東照宮における観光と暮らしの接点を再構築する都市建築計画の提案です。「参拝路」の空間構成を背景に、建築によって、祈りと暮らし、静けさが重なりあう体験をつくるプランは新鮮でした。賑わいと静けさに着目した視点は、地域に深く関わる高専生だからできることだと感じます。
 
小山高専の「40mのタペストリー」
小山高専からはもう1作品、本選に残っています。「40mのタペストリー」は学生ひとりで臨んだ作品で、群馬県の板倉ニュータウンを対象敷地に、駅から旧東洋大学のキャンパスまでの道幅40メートルの通りの活用提案です。建築空間を構成する要素の検討において、建築とは異なる「数独」の概念を用いた発想はインパクトがあり、審査員との質疑応答のやりとりも印象に残っています。

昨年の悔しさをバネに挑んだ熊本高専が最優秀賞に

熊本高専(八代キャンパス)の「君マチ〜君と広げる小さな町〜」
模型や発表から、筆者がわくわくしたのが、熊本高専(八代キャンパス)の「君マチ〜君と広げる小さな町〜」です。ロケーションは小国杉で知られる熊本県阿蘇郡小国町。町の8割を山林が占め、放課後の居場所不足や若者流出といった地域課題に着目し、子どもたちがまた帰ってきたいと思える場所、大人になって帰ってきて次の世代と関われるようなサイクルを目指した「学童」の新しい提案です。空間をいっぱいに使った模型の構成と細かな模型のつくりこみに、眺めて夢が広がりました。
熊本高専(八代キャンパス)の発表の様子
チームは、熊本高専5年生の田中さん、江藤さん、光永さん、徳本さんの4名。実は昨年のデザコンの本選にも出場したチームです。「昨年、模型のクオリティで悔しさがあったので、今年はできることをめいっぱいしよう、と。構成を練ってつくりこみました」と代表の田中さんは語ります。
 
4人は空き時間のほか、休日も朝から夜遅くまでつくり続けたそうです。デザコンへかける思いの強さや熱さを垣間見ました。
 
ちなみに今回のデザコン初日、会場に届いたダンボールを開けると、なんと模型が半壊状態。一同ピンチに見舞われます。「先生が接着剤を買ってきてくれて、みんなで急いで修正しました。初日の朝、接着剤がめっちゃ役にたったんです」。そんな裏話をメンバーの徳本さんはセメダインスタイルの私たちに教えてくれました。

高専生の技術力と発想を実感

熊本高専は見事、最優秀賞(日本建築家協会会長賞)を受賞。涙を流して喜ぶ姿に、高専生の本気を見ました。
 
優秀賞は豊田高専「みちまどい」と高知高専「唄で紡ぐ」、審査員特別賞は豊田高専「森つむぎ、街つなぐ」と有明高専「日常を上演する舞台」に。日建学院賞に米子高専「時代を超えて人々を紡ぐ残丘的建築」、三菱地所コミュニティ賞に石川高専「すれ違いの共生」が決まりました。
 
来年のデザコンではどんな空間デザインがみられるのでしょうか。「デザコン」では、高専生の技術者としての素地と可能性を感じる時間となりました。

 
 
執筆/鈴木ゆう子
 

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