ものづくり 2026年01月16日

プリンタが輪ゴム飛ばし機に、黒電話がモグラたたきに~廃材を「読み解き」、クリエイティビティに変える桐朋電子研とは

某日夕方、東京都国立市。校舎の一角にある会議室にて。
 
さっきまで無傷の状態だったプリンタが、6人の生徒の手によりバラバラのパーツの山にされつつあった。
 
 
 それも、すごい勢いで
捨てる前の電気製品を興味本位で分解してみたことのある人は多いと思う。でも彼らの手つきはそういう「試しにやってみた」とは違うのだ。
 
「配線が多いから静電容量(※)かな?」
「インクジェットのところやってくれない?俺苦手だから」
 
※タッチパネルモニタの形式
 
そんな言葉を交わしながら工具を操る。彼らの手つきが物語る経験値は、2台や3台ばらしたことがある程度ではない。明らかに日常的に分解している手つきなのだ。
なんというか、迷いがない
彼らは私立の中高一貫校、桐朋中学校・桐朋高等学校で活動する同好会「桐朋電子研」のメンバーだ。
部員は約20人。主に昼休みと放課後に集まり、こうやって廃棄予定の機器を分解し、回収した部品でオリジナルの作品を作っている。

オリジナル作品が面白い

というわけでその活動の様子を見せてもらいにやってきたわけだが、なにもプリンタの分解が速いから取材に来たわけではない。そこから生まれたオリジナルの作品がとにかく面白いのだ。
 
まず紹介したいのが、「あゝ懐かしの黒電話土竜叩き」。

4つある自動卓上電話機(通称、黒電話)のうちどれかがランダムに鳴る。その音をうまく聴き分けて、鳴っている電話の受話器を取れたら得点。要は黒電話を使ったもぐらたたきゲームだ。
右にある透明のトレイの中に入っているのが制御回路
黒電話は古い機材なので、今どきの電子機器とは作りが違う。改造するのにはなかなか苦労しそうに思えるが、幸い部員に黒電話に詳しい中学2年生がいたためスムーズに進んだという。黒電話に詳しい中2!? どういうことなんだ。
 
ちなみにこの作品は2025年10月に開催されたものづくり展示会「Maker Faire Tokyo 2025」にて行われた学生コンテスト「Young Maker Challenge 2025」にてセメダイン賞を受賞している。
 
次は、一転して学生らしい作品。「授業を早送りする装置」だ。
教室によくある掛け時計だが、スマホからコントロールして時刻を勝手に変えられてしまう。針が回るだけでなく、終業のチャイムまで鳴らせるところが学生らしい。
時計は教室の壊れた掛け時計から、音を鳴らす部分は壊れたラジカセから部品を取って作られているとのこと。
 
面白いのは、針を動かす仕組み。
時計の時刻合わせのギアを、普通のモーター(ミニ四駆とかに入ってるアレ)に接続して回しているという。手近な部品と強引な力業で実現されたハック精神あふれる作品といえよう。
 
モーターといえばこれも面白い。
「It Was EPSON 2」という名前の本機、その名のとおり元プリンタ複合機である。
何をするものかは、動画で見てほしい。
メニューの左右ボタンで照準をさだめ、決定ボタンで輪ゴムを撃つ!
左右に動いているのは、スキャナの部品。紙をスキャンするときに、複合機のガラスの下でバーが左右に動いて像を読み取っていく、あの機構を利用したものだ。
そして発射のしくみも面白い。
モーターにスクリューギヤ(ねじ状のギヤ)がついていて、そこに輪ゴムをひっかけておく。モーターを回すとねじのらせんに沿って輪ゴムが押し出され、発射されるというわけだ。
 
さらにもうひとつ、機構の面白い作品を紹介しよう。「プラレールキャッチャー」だ。
プラレールを使ったクレーンゲーム!
 
クレーンの回転にプラレール(緑の機関車)を使っているのはすぐにわかると思うが、クレーンの伸び縮みもひっくり返した青い電車のプラレールで行われている。
 
白いプラスチック部品は3Dプリンタ製だ。
見事ゲットした瞬間
動画には写っていないが、コントローラーも初代プレイステーションのものを再利用している。奥に見えるプレステの筐体には、クレーンゲーム制御用の回路を格納しているそうだ。
 
どの作品にも廃材が活用されている。でも、なんていうか、ありがちな「エコです!」的お題目で再利用しているのとはちょっと違うにおいがするのだ。
 
全ての作品に創意工夫があって、腰の入ったクリエイティビティを感じるし、それと「廃材を使う」ということが直結しているような気がする。もうちょっと詳しくお話を伺ってみた。
部品がいっぱいに詰まった箱から、何か取り出す印出先生
これは防犯カメラですけど、生徒が近所の家でもらってきまして、ちゃんと映像も映ります。
こういうのがあると、プラレールに積めば何か作れるな…とか思いつくんです。
 
なるほど。例えるなら、廃材から出てきた部品はある意味「お題」であり、そうすると大喜利的な発想で自由な作品作りが行えるのかもしれない。お題があることが、作品のクリエイティビティにつながっているのだろう。

先生と生徒の「一緒に部品を読み解く」関係

くわえてもうひとつ、Maker Faire Tokyo 2025会場にて桐朋電子研が配布していたガイドブックには、こうも書かれている。
 
「部品達に第二の人生を与えることを楽しんでいます。(中略)廃材の使用方法などどこにも書いてありません。WEBでデータシートを探し、時には勘で、そして時には基板パターンを読み解き、ジャンク部品達にやさしく働きかけたとき、部品達もまたこちらに微笑んでくれる瞬間があります。それこそが至高のときなのです。」
 
電子部品、特にICチップなんかは見た目はみんな黒い石だし、その使い方はパッと見でわかるものではない。自分で資料を探したり、時には実験して調べる必要がある。廃品にはそういった「読み解く楽しさ」がある。それが醍醐味だというのだ。
 

この日も黒板いっぱいに、作品のアイデアスケッチ、そして部品の配線図らしきものが描かれていた
そしてこの「読み解く楽しさ」というのも、桐朋電子研のもうひとつのキーワードである。
 
印出先生は技術や理科の先生ではない。同じ理系でも、数学の先生なのだ。
電子回路の知識はほとんど歴代の部員と一緒に手探りで身に着けてきたものだという。
そもそも桐朋電子研のなりたちから、手探りだった。
 
印出先生:
8年前に、学生が二足歩行ロボを作りたいっていうので、じゃあ一緒にやろうかって始めました。当時は私も電子回路はちょびっと触ったことがある程度だったんです。今は8年間の蓄積である程度分かるかな、というくらい。
 
桐朋電子研において顧問の先生は教えてくれる人ではなく、一緒に考える人。この関係が、廃部品を読み解く作業をよりエキサイティングにしているのではないかと感じた。
印出先生が書き溜めているという部品のデータ。桐朋電子研の大事な資産である

プリンタばらしてると、「部活やってるな!」って感じがするんです

生徒たちも個性豊かだ。
 
その好例と言ってもいいのが、先ほども言及した「黒電話に詳しい中学2年生」。

基板のCADを引く、黒電話に詳しい中学2年生。
彼の名前は岩佐くん。古いテクノロジーにめちゃめちゃ詳しく、(それとは直接関係ないが彼のギークさを物語るエピソードとしては)家の自室に業務用のサーバがあるという。
 
岩佐:
ネットオークションで落としたデータセンター用のサーバです。サーバが発熱するから暖房いらないんですよ(笑)
用途としては趣味の計算に使っています。球体の乱反射の計算とか、大分の友人に無線の電波を送るのに電離層反射の計算をして届きやすい帯域を調べたりとか。
 
また3Dプリンタ担当として活躍しているのが高校1年の大木くん。
 
大木:
趣味で模型をやってるので、CADや3Dプリンタを扱えるようになりたくて入部しました。気づいたらプリンタの分解をしてましたが(笑)
 
彼が後輩たちに3Dプリンタを教えてくれるので、部全体の造形レベルが向上しているそうだ。
 
かと思えば。こんな子もいる。中学一年の千輝くん。
 
千輝:
家ではハンダゴテが禁止されてるので、電子研でやってます。
こうやってプリンタばらしてると、「部活やってるな!」って感じがするんです。
 
そういう青春もあるのか! ちなみに分解の特にどういうところがそう思うの?
 
千輝:
自らの手で、ものの形が変わっていくことに対する満足感。
 
千輝くんのこの回答は「国語の記述問題の模範解答みたい」として現場でめちゃくちゃウケていた。
 
左がはんだごて禁止の千輝くん、中央が3Dプリンタ担当の大木くん
大木くんが作ったという極小自販機。
紹介したのはメンバーのごく一部だが、こうした個性と才能豊かな生徒たちと顧問の先生がお互いに教え合うことで日々の活動が成り立っている。
 

部室の外へ広がる挑戦

ところでなにもずっとこの会議室でプリンタを分解したり輪ゴムを飛ばしたりしているわけではなく、時には大会に参加したりもしている。
 
2024年には、桐朋電子研は「水中ロボットコンベンション in JAMSTEC」にてジュニア部門の第3位に入賞した。そのときの様子を印出先生はこう振り返る。
 
印出先生:
大会前には学校の3Dプリンタを家に持ち帰って出力したりしていましたね(笑)

これは過去にロボコン用に制作した二足歩行ロボット。制作者が卒業したため現在ではロストテクノロジーとなっている
ほかには前述したようにものづくり展示会のMaker Faire Tokyoに出展するほか、最も重要な活動として、学校の文化祭の作品展示もある。
桐朋中学校・桐朋高等学校は私立の学校であるため、文化祭には受験生である小学生も学校の雰囲気を見に大勢やってくる。そこで電子研の作品を見て興味を持ち、入学後に新世代の部員として入部してくる、というわけだ。
 
いっぽうで卒業生には、こういった活動でデザインに興味を持って美大に進学した子や、海外の大学で工学を学んでいる子もいるという。
 
ここで学んだ探求心や創造性、そして先生と生徒分け隔てなく一緒に物事を考えていく経験は、どこに行っても生きると思う。
もう高校卒業から数十年が経過した筆者も、うらやましい、今からでも入学したい…!と思うことしきりの取材であった。
余談。スキャナから取り出せるLEDバーが部内で流行っており、複合機の分解の際には争奪戦になるらしい。
ちなみにこの翌日、メンバーの家からもう一台、新しい廃棄プリンタが来る予定だという。
 
桐朋電子研に休息はない。
この日来ていたメンバーの皆さん。(上段左から)大木くん(高1)、千輝くん(中1)、岩佐くん(中2)、(下段)稲垣くん(中1)、村田くん(中1)、辻くん(中1)、印出先生(顧問)
 

ライター:石川大樹

「技術力の低い人 限定ロボコン(通称:ヘボコン)」主催者、雑な電子工作作家。共著書に初心者向け電子工作本「雑に作る」(共著、オライリー・ジャパン)。

本業は編集者・ライター。よみものサイト「デイリーポータルZ」などで編集を担当。趣味はワールドミュージック収集です。

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