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ものづくり
2025年01月24日
高専ロボコン史上、最も難しいミッション!? 第37回 高専ロボコン~「ロボたちの帰還」
毎年冬になるとやってくる高専生の熱き戦いといえば、やはり高専ロボコン全国大会です。2024年のテーマは「ロボたちの帰還」で、JAXAの小惑星探査機・はやぶさが、惑星イトカワからサンプルを持ち帰って地球に戻ってくる様をコンセプトにしたもの。全国から勝ち上がってきた計26チームが、また激闘とドラマをみせてくれました。さて、今年の全国大会で優勝を果たすのは、一体どのチームになるのでしょうか?
開会式では、四国の阿南高専のチームリーダー 谷 亜生彩さんが選手宣誓を行いました
競技フィールドの平面図。青と赤の2ゾーンでチームごとに競技。エリアはAとBとCに分かれており、エリアB(灰色の部分)は接触できない。エリアCの同心円の中心(直径800mmの小円)にロボット2を飛ばすと100点が得られる。またエリアCにはボールとボックスのオブジェクトがあり、それらをロボットが回収してエリアAに帰還する。ボールの場合は投げても良いが、ボックスの場合はロボット自身が持って戻らなければならない。
次に、着地したロボット2や、そのほかのロボット群が、さまざまな方法を駆使してボールやボックスを回収していきます。ロボットハンドや吸着盤で1つずつピックアップして回収したり、一度に多くのオブジェクトをまとめて掻き込むように回収したりと、チームごとのアイデアによって、そのアプローチは異なってましたが、一括して取るほうが有利なように感じました。
奈良高専の回収ロボットは、輪ゴムで作成したローラーを回転させて、ボールやボックスがどのような置き方で配置されていても、一気に回収できるように工夫していた。
競技時間は2分30秒しかないため、いかに早くロボット2がオブジェクトを回収して、帰還させるかという点が重要になります。帰還して得点をもらうためには、エリアAで待ち受けていたロボット1がオブジェクトを受け取る必要があります。またボール(得点1個10点)は、ロボットの機構で飛ばして、エリアAに戻すことが認められていますが、ボックス(得点は1個60点)のほうはロボットと一緒にリターンしなければなりません。そのぶん難しいため、ボックスの方が得点が高くなっています。そこでボックスを中心に狙っていくという作戦も考えられます。
一関高専のロボットは、射出の衝撃を緩和させるために足回りにサスペンションの機構を備えていた。
大分高専のロボットの機体。射出ロボットの側面や背後を三角形のトラス構造にしておくことで、剛性を高める工夫を凝らしていた。また飛ばされる側のロボットは筐体を中抜きして軽量化を図った
豊田高専は、軽くて丈夫なハニカム構造のプラダンをロボットの部材に使ったり(写真下)、着地時の衝撃を吸収させるために発泡スチロールなども採用していた(写真上)
もちろん射出ロボットにも工夫が求められます。10㎏近いロボット2を約2.4m超も飛ばさなければならないため、その射出機構は大変重要になります。複数のロボットを射出する場合は、それに合わせて複数の発射台で同時に飛ばせるように設計していました。
大島商船の飛行ロボット「かもめっ子」は、大会唯一無二のユニークな固定翼ドローンでグライダーのように滑空しながら100点スポットを狙おうとした。
旭川高専の飛行ロボットは、着地スポットのサークル中心の命中率が高くなるように設計。形状がユニークで、ヒトデのような吸着面と、3つの羽を持っている。
鶴岡高専の飛行ロボットは、本体が台車に乗った状態で射出される。着地スポットの同心円には5cmの段差があるため、3段式のタイヤを出し入れすることで、中心の100点スポットに乗り入れる仕組み。
ロボットエリアAに帰還させるための方法
この中で最も多かった方式は、接触が禁じられているエリアBに竿をかけたり、橋を展開したりして、ロボットを渡す方式です..竿には市販品を利用したり、鉄製のメジャー(巻き尺)をガイドに利用して引き伸ばしたりと、面白いアイデアを披露するチームもありました。橋については、折り畳まれた橋を展開する方式が目立ちましたが、特にユニークだったのは橋が重層的なミルフィーユ状になっており、テレスコピックのように広がる構造です。また、エリアCから引き伸ばした橋が、エリアAで待ち受けるロボットと合体して、引き寄せられる(押し出される)ように戻るロボットなども見られました。
函館高専のロボットは、エリアBに橋を架ける際に釣り竿を伸ばして展開。その際に市販のメジャー(写真→のところ)を使って、竿先端を固定し、モータでスルスル伸ばすというアイデアを思いついた
呉高専のユニークな帰還方式。エリアCから橋を伸ばしていく方法だが、エリアAで待ち受けるロボットと合体することで、押し出されるようにして戻るアイデアが秀逸だった
またロボットをジャンプさせてエリアBの中空を飛んでいく方式も見られました。あたかもスキージャンプのように、せり上がった傾斜台にロボットが勢いを付けて走りながら飛んでいくというアプローチです。さらに最初に射出ロボットもエリアCに送り込み、それを使ってエリアAにダイレクトに着地して戻るというチカラ技を見せて会場を沸かせるチームもありました。このようにエリアAへの帰還は、さまざまな方式が考えられ、各チームの見どころにもなっていました。
大阪公大高専のロボットは、行きも帰りもロボット自体を飛ばすという荒技にチャレンジしていた。そのために強力な射出機構に工夫を凝らしたという。写真は帰還時の射出の様子
準々決勝の8チーム。そのうち1チームがワイルドカード。どのチームが敗者復活したのだろうか?
準々決勝では、これまでの戦いで惜しくも敗れた1チームが復活するワイルドカードが発表されました。強豪ぞろいの中で見事に復活したのは、優勝候補の一角と評判も高かった大阪公大高専でした。同校は2回戦でコンプリートを達成した呉高専に敗れたものの、その差は僅か10点。この時の敗因は、帰還の際にロボットの勢いでボールをポロリと1個だけ落としてしまったことでした。しかし準々決勝に進むことができました。
小山高専の折れ!モモンガールズ(写真奥)と熊本高専 熊本の星射必宙(写真手前)の戦い
毎年ユニークなデザインが目を引く小山高専のロボット。今回のコンセプトは動物の「モモンガ」をモチーフにしたもの。「折れ! モモンガールズ」は、射出ロボット(オリーブ)と、3台のモモンガロボット(オリちゃん&ニコちゃん、シマちゃん)で構成されていました。
小山高専の射出の様子。射出ロボット・オリーブの上段にモモンガールズのシマちゃんがセットされている様子。シマちゃんはボールを飛ばし、背中カタパルト式で傾斜した発射台にもなる
熊本高専熊本キャンパスの射出ロボット。定荷重バネを採用しており、最大8kgものロボットを飛ばせるパワフルな投射が大きな特長とのこと
星射必宙は最初の着地で40点を獲得しました。ただ着地後の衝撃が原因なのでしょうか、ロボットがうまく分離できませんでした。衝撃を吸収するために付けたスポンジと、ロボット本体の固定部が上手く外れなかったことが原因とのことでした。その後、なんとか分離できたロボットは、いくつかのボールとボックスを取りましたが、帰還を果たせませんでした。最終的に着地時の40点が同校を勝利に導きました。両チームとも思い描いていた戦いができなかったのは、1回戦と2回戦の戦いのダメージが残っていたからでした。
呉高専の天地無用(写真奥)と旭川高専のLazuRite(写真手前)の戦い。両者とも戦いのアプローチが似ていた
呉高専の天地無用は、予選第二試合のときにミッションコンプリートを果たし、大阪公大高専を破った強豪チームです。ロボットを射出する「ぶっとばーす君」と、回転しながら正確に着地するユニークなロボット、オブジェクトを回収する2つのミニロボット、それらを収納できるコンテナユニットで構成されていました。また前出のようにコンテナから竿を出して、エリアAで待ち受けるぶっとばーす君と連結する仕組みです。すべてのオブジェクトを一気に回収できる機構が自慢のロボットでした。
呉の天地無用。2台のミニロボットがオブジェクトを回収し、コンテナユニットに積んでいるところ。
試合では、コンテナの着地に成功して見事に100点をゲット。その後にコンテナからミニロボットを出そうとしますが、なかなか出てこなくて時間を取られてしまいました。その後に、コンテナユニットでオブジェクトを回収しながら、2台のミニロボットが取りこぼしたボールを中に入れていきました。これらを持ち帰れば勝利の光が見えたのですが、旭川高専にミッションコンプリートを先行され、残念ながら準決勝にコマを進めることができませんでした。ちなみにミニロボットには「踊り」ができる隠れ機能がありましたが、試合で披露する機会がなかったそうです。
旭川高専のLazuRite。エリアBに橋を渡した後、その上に乗った回収ロボットを、エリアAで待つロボットに引き渡す仕組み
こちらも最初に呉高専と同じ様に着地に成功。あたかも彗星のごとく中空で放物線を描きながらピタリと飛行ロボットが100点スポットに着地する姿は、とても気持ちが良かったです。すべてのオブジェクトを素早く回収した後に、竿を伸ばしてロボットの帰還を試みましたが、少しタイムロスしました。しかし最後には、うまく受け渡しができてコンプリートを達成。見事に350点の高得点をゲットしたLazuRiteに軍配があがりました。
香川高専(詫間)のKKO(写真奥)と富山高専(射水)のプトレマイオス(写真手前)の戦い
富山射水のプトレマイオスの全景。射出ロボットは、強力な定荷重バネ(5.7kgf×4基=22.8kgf)を搭載し、100点スポットに決め打ちで正確に飛ばせる。
プトレマイオスは、今回も着地で100点を取り、連続で3回とも成功し、非常に高い精度を見せつけました。着地後にロボットが分離するのですが、それが段差に引っ掛かり、少し手間取りました。あとから、もう一台の回収ロボットも射出し、それでオブェクトの回収を試みましたが、残念ながらタイムアウトで帰還できませんでした。
香川高専 詫間のKKO。射出された円筒ロボットがボールやボックスを回収し、橋の上を転がって帰還する様子
詫間のKKOは着地でバックしましたが、100点スポットには戻れずに、最終的に40点スポットに落ち着きました。円筒ロボットのハンド部でオブジェクトを巧みに持ち上げて回収し、ボール一個残したところで橋渡しロボット経由でロボットの帰還に成功。260点の高得点を取って、逆転勝利になりました。
熊本高専(八代)のMilkyHighway(写真奥)と大阪公大高専の銀火(写真手前)の戦い
ワイルドカードで復活した大阪公大高専と熊本高専 八代キャンパスの戦いは、昨年のデジャブーのようで、事実上の決勝戦の様相を呈していました。どちらもミッションコンプリートを1分以内で達成できる実力派のチームで、観衆の応援にも熱がこもりました。
熊本高専(八代)のMilkyHighwayが先にミッションコンプリートしたと誰もが思ったが、ロボットが完全には入っていなかったという結末に。本当に残念! 無念!
大阪公大の銀火の戦い。ほしかご2を飛ばし、そのあとにあらしがハンドで持ち上げて、着実にオブジェクトの回収に成功した瞬間
銀火もMilkyHighwayに負けじと、着地で100点を取りました。着地後に、大阪公大は高速で次々とオブジェクトを回収していきました。ここでMilkyHighwayとの回収時間の競い合いになりましたが、若干劣勢に立たされました。ところが前出のように、MilkyHighwayがミッションコンプリートに手こずっているうちに、あとから銀火がゴールを決めてしまいました。銀火はエリアAにロボット2を戻す際に直接ロボット1へ飛ばしてキャッチするという「奥義」がありましたが、それが試合では上手くいかなかったので、急遽作戦を変更して、ロボット2を飛ばして着地させてからアームで上げる安全策に変えたことが功を奏したようです。
4チームに絞られた準決勝。いずれも強豪ばかりで、どのチームも素晴らしく、全チームに優勝してもらいたいと思う気持ちの観衆も多かった
熊本高専(熊本)の星射必宙(写真奥)と旭川高専のLazuRite(写真手前)の戦い
熊本高専 熊本も旭川高専もソツなく着地して100点を取り、まずは好スタートを切りました。あとは両者の実力からいえば、いかにミッションコンプリートを早く達成できるかという点に注目が集まりました。熊本の星射必宙は、ポンポンと吸盤でオブジェクトを吸い上げながら小気味良く回収していきました。
旭川のLazuRiteは、一足先に340点をゲット。ボール1個を弾いてしまったのが大変残念だった
一方、熊本高専 熊本の星射必宙は出遅れたものの、慎重かつ着実にオブジェクトをすべて回収していきました。橋を渡って、ゴールで待ち受けていたロボットに向かい、チーム初となるミッションコンプリートを達成。非常に僅差、ボール1個の勝負となり、決勝に進出しました。負けた旭川高専も素晴らしい戦いを見せてくれましたが、ここで勝利の女神は熊本高専(熊本)に微笑んだようでした。
熊本高専(熊本)は、ミッションコンプリートの達成に集中。まだ時間は半分ぐらい残っていたので、ボールの取りこぼしがないように注意して慎重に操作していた。
香川高専(詫間)のKKO(写真奥)と大阪公大高専の銀火(写真手前)の戦い
こちらの試合も大接戦でした。最初に大阪公大高専の銀火が着地に成功して100点をゲット。その後に香川高専(詫間)のKKOもバック回転で「起き上がりこぼし」のように、100点スポットに上手く乗り上げました。あとは回収の素早さが勝負。先にすべてのオブジェクトを回収した銀火がゴールを目指しました。回収ロボットをダイレクトに飛ばして、エリアAで待ち受けているロボットにキャッチさせようとしましたが、あえなく落下してキャッチに失敗。2回のリトライとなりました。その間隙を縫って、KKOはオブジェクトを一気に回収して追い上げました。
円筒の籠型ロボットでオブジェクトを回収し、怒涛のごとく追い上げをかける香川高専(詫間)のKKOの雄姿
しかし、このタイミングで銀火がダイレクトチャッチの作戦を変更して、エリアAに着地させて、待ち受けていたあらしがアームで把持して見事にゴールに成功。一足先にミッションコンプリートを達成して勝利をつかみました。銀火は処理スピードが速いため、リカバリーを2回ほど試みることができましたが、最終的にダイレクトキャッチの作戦を止めた機転が勝利を導きました。
とにかくスピードにこだわって機体を設計した大阪公大高専の銀火。当初は写真のようにダイレクトキャッチをしようとしたが、2回ほど失敗したため、最終的に作戦を変更して決勝に進んだ
ついに頂上決戦に。熊本高専(熊本)の星射必宙(写真奥)と大阪公大高専の銀火(写真手前)の一騎打ち!
まずは大阪公大高専の銀火が着地で100点スポットに素早く着地し、続く熊本高専 熊本の星射必宙は着地でバウンドして40点となり、水をあけられてしまいました。銀火はいつものようにオブジェクトを迅速に回収し、35秒前後ですべてのボールとボックスを取ってしまいました。あとはロボットの帰還だけ。回収ロボットをエリアAに飛ばし、前回と同様に、それを待ち受けていたロボットが持ち上げて、あっという間にミッションコンプリートを果たしました。まったくミスもなく、今回40秒という最速タイムで勝敗がつき、大阪公大高専が二連覇を達成しました。本当に強かったという印象でした。
大阪公大の優勝の瞬間。エリアCでオブジェクトを回収したロボットがエリアAに帰還し、それを待ち受けていたロボットがアームで把持してミッションをコンプリート
大阪公大高専の銀火が優勝、ワイルドカードで復活し、見事に二連覇を達成した。喜びを爆発させるメンバー。おめでとうございます!
最終的な試合の結果と各賞は次のようになりました。気になるロボコン大賞は香川高専(詫間)が選出されました。
大阪公大高専は「すべてのメンバーが信頼しあいながら、個々人にタスクを任せて責任を持って頑張ったことが勝利に結びつきました」と喜びの弁
準優勝 熊本高専(熊本)
熊本高専熊本キャンパスは「優勝はつかめませんでしたが、決勝まで進める強さと面白さを兼ね備えたロボットは唯一無二なので、とても誇りを持っています」とコメント
ロボコン大賞 香川高専(詫間)
香川高専(詫間)は「これまでの努力が報われました。ロボコン大賞を取れたのは、参加メンバーだけでなく、部員や応援して下さった皆さん全員のおかげです。本当にありがとうございました!」と大喜びだった
ここまで全国から勝ち上がってきた高専生の言葉には、素晴らしい経験を積んできたという自負と重みが感じられました。単に勝負の結果だけでなく、戦いのプロセスの中で得られた仲間とのチームワークや絆(きずな)は、今後のエンジニア人生において、なにものにも代えがたく、一生の宝物になるのではないでしょうか。全国の高専のロボコニストに何度も繰り返しエールを送りたいと思いました。
執筆者:ゴルゴ31(サーティワン)

ロボットの着地で機体が崩壊! ロボコン史上もっとも難しいルールと言われる理由
毎年ユニークかつ難解なミッションで、高専生のチャレンジ精神を湧き立たせる高専ロボコン。今年は例年になく、かなり難しいという前評判でした。そのテーマである「ロボたちの帰還」~まずはルールから簡単にご説明しましょう。
今回は、ロボットをロケットに、着地の標的を小惑星に見立て、ロボットを飛ばしてフィールドに着地したあとに、ボールやボックスのオブジェクトを回収し、それらを持って無事に帰還するという複合的なミッションが与えられました。最初の難関はロボットの射出と着地です。スタートラインのある「エリアA」から、接触が不可の「エリアB」を飛び越えて、オブジェクトがある「エリアC」に向かって、ロボット1がロボット2を射出します。ロボット2が標的のサークル中心に着地すると100点、その外周であれば40点、10点となり、サークル外の場合は1点が与えられます。最初にサークル中心に着地させると100点が取れるため、相手チームにプレッシャーを与えられます。そこで、まずはいかに中心を狙うかということが勝敗のポイントになりそうです。以下の競技フィールドの平面図を示します。


今回のミッションが難しいと言われる理由の1つは、最初に着地するロボット2が大きな衝撃を受けてしまうからです。なかには機体が10㎏近くあるロボットもあり、それを2400mm以上も飛ばして着地することになるため、機体に相当なダメージを受けることになります。各チームは強い衝撃力を想定しながら、頑強に設計していました。逆に衝撃を抑えるために軽い機体にしたり、段ボールの緩衝材を入れたり、ソフトランディングさせるためにサスペンションを備えたりと、工夫を凝らしているロボットもありました。それでも事前のテストランでは、ロボットのフレームが曲がってしまったり、搭載した部品が壊れてしまったりするトラブルが続出しました。

機体の前方(写真右下と右上)にバネの一部が見えている
テストランでさえ、このような大変な状態なので、本番のトーナメントで何回も勝ち進んでいくと、ロボットは満身創痍になってしまいます。まるで有名なル・マンの24時間耐久レースのようですね。ただし、さすが高専生です。最初から壊れることを前提に取換用のパーツをいくつも用意しているチームが多かったようです。やはり地区大会を勝ち抜いてきたチームだからこそ、着地時にどこが壊れやすいのか経験的にわかることなのでしょう。
一方で、今回はエリアのメンテナンスも大変でした。ロボットが床に強く当たるため、どうしても床の表面が剥がれてしまうのです。競技が終わると運営スタッフが修繕作業をしている光景もよく見られました。
高専生は、ロボットを設計する際に「いかに軽量化するか?」「頑丈にするために剛性に優れた構造にするか?」という点に苦労していたようです。たとえば、軽量化を狙ってボディを中抜きにしたり、剛性を高めるために部材を3角形にしてつなぐトラス構造にしたりして、頑丈になるような工夫を凝らしていました。また強度を高めるためにハニカム構造のプラダンや、発泡スチロールを緩衝材として採用していたチームもありました。



神戸市立高専の射出ロボットは3基の定荷重バネを採用した発射台があり、それぞれのロボット(スポット着地用、ボール回収用、ボックス回収用)を装着して同時に飛ばせる構造だ
射出機構には、安定した定荷重バネの反力で投石のように機体を飛ばすオーソドックスなカタパルト式が多かったようですが、飛行機のような固定翼ドローンや、矢のような翼の機体を採用するユニークな飛行ロボットもありました。また着地時にサークルの的に入るように同心円の段差を上手く乗り越え、車輪を出し入れできる構造にしたロボットも見られました。



またエリアCでオブジェクトを回収したロボットは、ボールの場合はエリアAに向かって直接ロボットで飛ばしたり、前出のようにコンテナなどの回収ロボットにボックスとボールをまとめてエリアAに同時帰還するという方式が多く見られました。ボックスを回収したロボットをエリアAに帰還させるための方法を以下に示します。



2回戦からシードで登場した北九州高専は、ロボットの帰還方式に橋を採用していたが、一般的な折り畳み展開ではなく、重層的なミルフィーユ状の橋を伸ばすテレスコピック方式を採用


木更津高専は、帰還時に勢いをつけてジャンプ台を駆け上がり、エリアBを飛び越えていくユニークで可愛いペンギンロボットを製作

個性豊かな強豪ロボットの大饗宴! ワイルドカードはどのチームに?
ここからは大会の模様をレポートしましょう。試合は2チームごとに競い合い、勝ったほうが駒を進めるトーナメント方式となりました。全国大会の予選1回目と2回目では本来の調子が出なかったチームも多かったようですが、本来は全国大会に出場できる強豪チームたちですから、ユニークなアイデアを実現しているチームが目立ちました。このあたりの各チームについては後編で詳しく紹介したいと思います。前編では8チームによる準々決勝の試合からお伝えしていきます。



オリーブは3台のモモンガロボットを一度で射出できる機能のほか、飛んできたボールを「のれん状」になった側面からキャッチできる機能を備えていました。一方、オリちゃん&ニコちゃんはボールとボックスの両方を取れるグリップ構造を採用。またシマちゃんは複数のボールを一度にエリアAに向かって飛ばせるだけでなく、スロープの役割も果たし、その上をオリちゃん&ニコちゃんが勢いよく駆け抜けてジャンプして、ロボットごとボックスを帰還させる機能も併せ持っていました。
試合では、最初の射出に少し手間取っていました。射出時にバネのヒモが引っ掛かってしまったことが原因だったとのこと。その後、着地したモモンガロボットは1点を獲得し、ボックスを1個取って、大ジャンプして帰還しようとしました。これが成功すれば逆転勝利の大チャンス。しかし時間ギリギリで焦ってしまったのでしょうか、残念ながらコースから外れて得点できませんでした。搭載していた機能をすべて披露できなかったのは惜しかったのですが、帰還時にジャンプするロボットの雄姿を見た観客らはチームメンバーに惜しみない拍手を送っていました。
一方の熊本高専熊本キャンパスの「星射必宙」(セイシャヒッチュウ)は、名前のごとく正確な着地と回収が大きな特長のロボットでした。射出ロボットと、回収ロボット、Bエリアの橋渡しを行うロボットで構成されていました。回収ロボットには真空ポンプと吸盤が搭載されており、オブジェクトをアームで強力に吸い上げて、背後の網に入れていく方式を採用。ボールとボックスをスムーズに最大10個まで回収できる構造になっていました。橋渡し用のロボットは、架橋する前は平たく折り畳まれており、安定した姿勢でエリアCに送り込めました。



旭川高専のLazuRiteは、自作エアシリンダを搭載した射出ロボットと、安定した着地が可能な星形の翼を持つユニークなロボット、ゴムチューブの回転で効率的にオブジェクトを回収して、取りこぼしを防止する逆止弁とロック機構が付いた回収ロボットで構成していました。ロボットの帰還には、エリアBに竿を渡してロボットを戻す工夫が凝らされていました。

呉高専は実力がありながらも、残念ながら今回は負けてしまいましたが、勝敗に関わらずチームメンバーの一人ひとりが輝いていました。旭川高専も、これまで経験したノウハウを取り込んで、その機能をすべて出し切れたとのことで、大満足のようでした。

念願の全国大会に出場した富山高専射水のプトレマイオスは、2回戦まで100点を取っており、正確な着地ができる点が大きな特長でした。この飛行ロボットは1.5㎏の軽量設計で、ロボットがもう一台組み込まれていました。ボールなどのオブジェクトを回収するロボットも同じように射出します。

対する香川高専 詫間のKKOは、射出されるロボットがユニークな大きな円筒状であることが大きな特長です。塩ビ製パイプで作成した円筒で着地の衝撃を吸収します。その一方で着地後に転がってしまいますが、逆にバック回転もできるので、得点エリアに戻ることができます。この円筒ロボットは、オブジェクトがどのような配置に置かれても回収できる機構になっていました。もう1つのロボットはエリアCからエリアAに橋をかけ、円筒ロボットを帰還させます。また射出ロボット自体は強力な定荷重バネ(101N=10.3kgf)でロボットを飛ばせます。


天の川をイメージした熊本高専八代のMilkyHighwayには、2基の射出口を備えた「トラ—ス」が100点スポットを狙い、かつ回収も可能なアームと車輪を備えたユニークな着地ロボットの「ふぁすたぁ」と、前方ローラでブルドーザーのように、すべてのオブジェクトを高速回収できる「骨皮くん」、エリアCに圧縮空気で橋を架ける「天の川」で構成されていました。
MilkyHighwayは、ロボットの着地で堅実に100点をゲットして、コンプリートを狙いに行きました。順調にオブジェクトを回収し、40秒ほどで天の川をわたり、勝利をつかんだ……かのようにみえましたが、ゴールで待ち受けていたロボットに完全には入っておらず、そこで時間をロスしてしまいました。その間隙を縫って大阪公大高専の銀火がミッションをコンプリートしてしまったのです。誰もが予想しなかった展開に、勝負の行方は「一寸先は闇」という言葉と教訓を感じさせた試合となりました。


再び悪夢が!ワンミスが命取りになる勝負の恐ろしさ! 実力伯仲、善戦また善戦の準決勝
準決勝になると試合数も少なくなり、各チームの戦いまでの間隔が短くなるため、各チームは次の戦いの準備が万全にできない状況になります。さらに戦いのダメージも機体にボディブローのように蓄積されてくるため、ここからは本当の意味での耐久戦になってきます。いずれのチームも強豪ぞろいで、どのチームが勝ってもおかしくない状況になりました。


一方の旭川高専のLazuRiteはリトライで少し出遅れたものの、細長いゴムの回転で一気にオブジェクトを掻き込んでいきました。ところが……。ここで、また運命のいたずらが起きてしまいました。LazuRiteがオブジェクトを回収しているときに、1つだけボールが場外に弾かれてしまったのです。大阪公大高専が2回戦で敗退したときの記憶が脳裏を過りました。これでコンプリートの可能性が消えてしまったのです。同校は1分30秒ほどでゴールに向かい、ボール1個ぶん足りない340点で試合を終えました。





いよいよ決勝の火ぶたが切られる! 勝利の祝杯を上げたチームは?
ついに決勝戦になりました。全国の高専ロボコンの頂上決戦は、熊本高専(熊本)でしょうか? それとも大阪公大高専でしょうか? お互いにプレッシャーがかかる中での戦いとなりました。



表彰式
優勝 大阪公大高専



その他の賞は次のとおりです。受賞された皆様、おめでとうございました!
アイデア賞 呉高専
技術賞 熊本高専(八代)
デザイン賞 木更津高専
アイデア倒れ賞 大島商船高専
特別賞(本田技研)大分高専
特別賞(マブチモーター)函館高専
特別賞(安川電機)北九州高専
特別賞(東京エレクトロン)産技高専荒川
特別賞(田中貴金属グループ)奈良高専
特別賞(ローム)旭川高専
特別賞(セメダイン)香川高専(高松)
特別賞(デンソー)石川高専
ここで紹介しきれなかった各チームのユニークなロボットは、ピックアップして後編で詳しく解説したいと思います。お楽しみに!
執筆者:ゴルゴ31(サーティワン)
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