ものづくり 2024年08月26日

「ものづくりは“気づき”や“癒し”をくれる」おもちゃ作家・佐藤蕗さんが、子どもと工作を楽しむ理由

 Instagramやワークショップでさまざまな工作を発表し、企業コラボなどでも活躍するおもちゃ作家の佐藤蕗さん。彼女はものづくりのどこに魅力を感じ、子どもとつくる工作をどう楽しんでいるのでしょうか。お話のなかには、思わず子どもとつくってみたくなる工作のアイディアもたくさん登場します。ぜひ親子の時間に試してみてください。
(取材・文・人物写真 菅原さくら/工作写真提供 佐藤蕗)

ものづくりはいつも「気づき」と「癒し」を与えてくれる

 「両親が、ほしいものやなかなか手に入らないものがあったとき、なんでもつくってしまうような人たちだったんです。子どものときには、端材でシルバニアファミリー用のハウスまでつくってもらいました。だから、私にとってもおもちゃ作りや工作は、当たり前のこと。家にたくさんあった画用紙やわら半紙の裏紙で、私自身もいろんなものをつくっていました」と、佐藤さんは微笑む。
 
いまもよく覚えているのは、画用紙を切り抜いた建物をいくつも並べてつくった、自分だけの街だ。赤いちゃぶ台の上に所狭しと建物を並べ、青いタオルを川に見立てて、想像をふくらませるのがとても楽しかった。

 「家カード」:当時のイメージを活かして、大人になってからリバイバルした作品。「街の景色やそこで起こる人形たちの物語を、いまならスマホで撮影するのも楽しいはず」と、佐藤さん。
 運動よりも工作が好き。絵を描くよりも立体をつくるのが好き。そんなふうに「好き」を追いかけていった結果、佐藤さんは美大を出て、店舗や個人住宅を設計する建築の道に進んだ。「建築は、いわゆる“機能美”の世界。使う理由や建物に求める要素があって、それを満たすために設計されていくところが、すごく面白いと感じていました」。
 
仕事でものづくりをするようになってからも、佐藤さんはつねに手を動かし続けた。かわいい布で袋を縫ってみたり、飴の包み紙を家の壁に貼り付けて、モチーフづくりに没頭したり。体調を崩して元気がないときにも、そういう作業を通して自分を回復させていたのだという。
 
「目の前の手仕事に集中することや丁寧にものをつくっていくことが、自分を癒してくれるんです。たぶん『いまここにある材料から別の完成品ができあがる』ということがすごく好きなんですね。だから、食べたスイカの種を植えて夏の終わりに収穫したり、トマトをミキサーで潰してケチャップをつくったり、みたいなことも楽しい。カカオ豆からチョコレートをつくったときもとっても面白かったです。『この豆からこんなふうにチョコが生まれるということを、いまこの世界で自分だけが体感している……!』みたいな感覚や、新しい気づきを得るのが快感なんだと思います」

自分のなかの「?」や子どもとのやりとりで、アイディアが生まれる

 2011年に長男を生んでから、子どものためにおもちゃや工作をつくるようになったのも、ごく自然の流れだった。「子ども」というフィルターを得て、いままでと違うアイディアが湧き出てくるのが、またとても面白かった。子どものためのおもちゃが生まれるきっかけは、主にふたつ。ひとつめは、子どもの行動や視線の先にあるものをじっと観察して、その気づきをおもちゃにつなげていくことだ。
 
「たとえば2歳の子どもが熱心に、椅子の隙間にモノを差し込んでいたとします。食べ物や大事なメモなんかを差し込まれると困っちゃうけれど、同じ動きができるようなスリット付きの箱のおもちゃをつくれば、子どもは差し込む動きを思う存分“遊び”として楽しめる。このものづくりの手法は、仕事として建築やデザインをやるときの考え方によく似ていますね。クライアントである子どもの関心事を汲み取って、相手が満足するものの仕組みを考える、という」
 
もうひとつは、佐藤さん自身が日ごろ不思議に感じていることがヒントになるパターン。そのひらめきを逃さないよう、佐藤さんは「!」「?」と思ったことをすべてメモする習慣があるという。
 
「雨の日に保育園のお迎えに行く途中、木から落ちたもみじの葉っぱが、水たまりにたくさん落ちていたんです。何枚も何枚もあるのに、そのどれもが同じように茎を立てた向きで浮かんでいて……その景色を、すごく不思議に感じたんですね。だからその場で写真を撮っておいて、どうしてほとんどすべての葉っぱが同じ向きで落ちていくのかを、家に帰って検証しました。もみじの形に切り抜いたはっぱを、何枚も落とす実験をしたんです。すると、どうやら形と重みのバランスでそうなることがわかってきた。その仕組みを応用したのが、落とすと雪だるまが立つおもちゃです」

 「立つ雪だるま」:二つ折りにした紙を、片方は大きめ、片方は小さめのデザインに切り抜く。高いところから落とすと、着地するときにはかならず雪だるまのほうが立ち上がる。
さらに最近増えたのは、子どもとのやりとりでさらなるアイディアが浮かんでくる場面だ。佐藤さんがワークショップでもよく紹介している「かおボトル」は、オリジナルの顔をつけたペットボトルに水を入れたおもちゃ。蓋を閉めていれば逆さまにしても水は出ないが、蓋を緩めると、たちまち水が飛び出てくる。
 
「あるときワークショップに来てくれた子どもが、蓋を閉めたボトルをぎゅっと握って、無理やり水をあふれさせたんです。ボトルを握るとじゃっと水が出て、手を放すとぴたっと止まる。もともと説明したやり方ではなかったため、保護者の方は『その遊び方は違うでしょ』なんておっしゃっていたのですが、それはそれですごく面白いですよね。だから『すごい発見だよ! そのアイディアちょうだい』と伝え、穴を開ける場所を工夫して、かおボトルのラインナップに仲間入りさせました。こちらが思いもしない遊び方やアレンジを加えてくれるから、子どもとものづくりするのって面白いんです」
「かおボトルとなかまたち」: 飾りつけをしたペットボトルの底に細かい穴を開けて完成! 穴の位置を変えると、ぎゅっと握って涙のように水が出る「なみだくん」や、勢いよくおしっこをする「タチ・ショーン」も。
 長くアナログのものづくりを専門としてきた佐藤さんが、近年プログラミングトイづくりに挑戦しているのも、小3からプログラミングを始めた長男の影響だ。
 
プログラミング教育が注目されるようになって久しいが、体験教室などでは簡単なゲームをつくって満足してしまいがちなのが、どうにももったいない。「なにかつくりたいものをつくるための手段として、アナログの工作を考えるときと同じようにプログラミングの素材を取り入れられるようになったら、もっと面白いことができる気がして」と、あるおもちゃを取り出した。
 周りの音を感知して、にぎやかなときには『ウルサイ!』と言って起き上がる「ねぼすけ」くん。起き上がるという一見簡単に見える動作だが、つくるのはすごく難しかったという。
 「何でもない箱や紙、棒などを組み合わせていくアナログのおもちゃは、何かが動く仕組みができれば、それだけで面白いんです。でも、モーターを使うプログラミングトイは動いて当たり前だから、何をどう動かせば面白いかを考えるのに、まずすごくセンスが要る。だからこそ、伸びしろがあって楽しいんですよね。
 
ものすごく難解なプログラムを書けるような子どもも増えているけれど、私みたいにアナログと掛け合わせた例を見せていくことで、こういうのが苦手な子どもたちのハードルを下げられたらいいなと思います。論理的に物事を整理して考えていくプログラミング的な思考能力って、どんな子どもにとっても役に立つと思うから」

子どもと工作を楽しむ時間が、くれるもの

 子どもが工作やおもちゃの手作りを体験することの意義を、佐藤さんに尋ねてみた。
 
「自分でつくれるということは、自分で楽しめる。何かがなくなっても、自分で幸せを創りだせるということです。それって、とっても便利だと思います。楽しく生きられるだけでなく、大人になってからの仕事においても、何かをつくりだすときの発想力につながるはず。子どもが『いまここにあるティッシュの箱と折り紙とテープで、なにをつくろうかな?』って工作を考えることと、大人が『この条件とこの条件を満たしつつ、こういう悩みを解決する商品って、何があるかな?』って企画を考えることは、すごく似ていると思うんです」
 
そして、そんな体験を親子で共有することにも、大きなメリットを感じている。
 
「ものづくりをしているときってあんまり上下関係がないし、親子が対等に楽しめるんですよね。もちろん日々の生活や仕事ですごく忙しいから、頻繁にそんな機会は取れないんだけど……それでもなんとか時間をやりくりしてそういうひとときをつくると、本当に楽しい。月に一回だけでも、そういう時間が取れるといいですよね」
 
いま13歳になる長男は、もともと細かい手作業が好きだった。「あのビルの高さは何メートルで、市営バスの長さは何メートルで……」といった話をよくしていたから、小さいころは長さに関わる遊びもたくさんしたという。でも、いま5歳の次男はやんちゃで、お絵かきや工作にはあまり興味がないタイプ。同じ「つくる」にしても、ただ単に絵の具を塗りまくったり、色紙を切り刻んだりといった、ダイナミックな作業を好んでいる。
 
「私自身が手を動かすのが好きだから、そんな次男をちょっとさみしく思ったりもしたんですけど……それを長男にこぼしたとき『じゃあ、次男がなにかをつくろうとしたとき、お母さんがもっと手伝ってあげたらいいよ。僕も小さいころに手伝ってもらって、思い通りのものができたときすごくうれしくて、自信になったから』と言われたんです。私は、大人の手を入れて完成度を高めるより、技術がなくても子どもがチャレンジしたり、やりたいようにやってみたりする経験のほうが大事だと思っていたので、そのアドバイスは目からうろこでした。適切なサポートを入れたら、次男ももっとものづくりの楽しさに目覚めるのかもしれませんね。とはいえ、本人の興味や個性に応じて好きなことをやるのが一番だから、無理強いはしたくないと思っています」

 「くっつけおえかき」:色画用紙に顔をつくり、髪の毛やひげなどの部分に薄めた木工用接着剤を塗る。細かくちぎった色紙やチラシを乗せて押さえつけ、最後に要らない部分を振り落とせばできあがり。つくる工程がとにかく楽しい!

ものづくりはまた、次のステージへ

 我が子が少しずつ大きくなってきて、佐藤さん自身の興味もまた、変わってきた。もともと何かをつくること自体が好きだったのであって、子どもとの工作だけが好きだったわけでもない。「子どものおもちゃにはだいぶ満足できたので、また次のものづくりを広げていきたい」と、楽しそうに言う。
 
最近ハマっているのは、葉っぱを使った作品づくりだ。道で拾った葉っぱの輪郭をなぞって描きうつし、好きな色を塗ってオリジナルの標本をつくる。

 各地のワークショップでさまざまな子どもたちがつくった作品を、うれしそうに見せてくれた佐藤さん。
「じっくり見てみると、葉っぱってすごくきれいなんですよ。線画のときにはそこまで思わないのに、いざ輪郭に沿って切り取ってみると、とたんに『葉っぱ』らしくなるのも面白い。東京と台北でワークショップをやってみたら、採集の場所によって葉っぱの種類や色が変わり、作品もがらりと変わったのが興味深かったです。今度はシンガポールでもやってみたいなと思って、いま準備を進めています」
 
現地の子どもたちに作品をつくってもらうと、彼ら彼女らは大人が思いもしないような色に葉っぱを染める。あるときには、真っ青な葉っぱを生み出した子もいた。
 
「おもちゃ作家として仕事を始めたからこそ、そういう斬新な感覚の作品を間近で見られたんですよね。自分の予想を超えるようなセンスとの出会いや、そこから生まれるものづくりを、これからも楽しんでいきたいです」
 佐藤蕗さんInstagram
 
▶記事中で紹介した工作のもっと詳しいレシピは、こちらの書籍に掲載されています。
「ふきさんのアイデアおもちゃ大百科」(偕成社)
・家カード
・かおボトルとなかまたち
・くっつけおえかき
 
「ふきさんのクイックおもちゃ大百科」(偕成社)
・立つ雪だるま
 
ライター:菅原さくら
フリーランスのライター/編集者/雑誌「走るひと」チーフなど。1987年の早生まれ。北海道出身の滋賀県育ち。早稲田大学教育学部国語国文学科卒。
インタビューが得意で、生き方・パートナーシップ・表現・ジェンダーなどに興味があります。メディア、広告、採用などお仕事のジャンルはさまざま。
6歳3歳の兄弟育児中。高校生のときからずっと聴いているのはBUMP OF CHICKENです。

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